胸部大動脈置換後の人工血管周囲感染の方で、膿汁培養が発育せず起因菌が同定できなかったため、16s Nested PCRでシークエンスを行ったところ、Escherichia vulneris と同定された、という事例がありました。
E. coli以外のEscherichiaを見たのは初めてだったので調べてみると、なかなか面白い特徴があり、非常にReasonableな症例だとわかりました。
Escherichia vulneris の特徴について調べたことをまとめます。
先に全体をサマライズすると、
- 環境菌、常在菌として分離されることもある腸内細菌目GNR
- 創傷やデバイス関連感染症として多く報告されている
- 薬剤感受性は良好で、βラクタムを含め大体何でも感受性あり
特徴
- Escherichia vulnerisは、腸内細菌科の特徴を持つ運動性のグラム陰性桿菌
- 生化学的特徴:オキシダーゼ陰性、インドール陰性、ブドウ糖発酵性
- 呼吸器系、女性生殖器、尿路、便に定着している環境菌
- 名前の由来は傷口に定着することから、"vulneris"(ラテン語で「傷」)
分類
Uniprotより( https://www.uniprot.org/taxonomy/566 )
› cellular organisms
› Bacteria
› Proteobacteria
› Gammaproteobacteria
› Enterobacterales
› Enterobacteriaceae
› Pseudescherichia
歴史
- 当初、Staphylococcus aureusなどの他の細菌と関連して感染創傷から分離された
- その後、便・喀痰・尿・膣・咽頭などから分離され、常在菌と考えられていた
- E vulnerisはマウスの病原性試験で軟部組織感染や致死を誘導できなかったため、臨床的意義が疑われていた
- しかし、その後UTI、骨髄炎、CRBSI、創傷感染、髄膜炎、透析関連腹膜炎、CLLの菌血症で唯一の病原体となりえることが報告された
感染臓器
- 歴史や名前の由来からもわかるように、人工物や異物に関連した感染が多い
- CA-UTI
- 腹膜カテーテル感染
- 木製異物による創部感染
- PICC関連血流感染など
- 髄膜炎やエントリー不明の菌血症、リンパ節炎などの報告もある
感受性
- かなり古い論文の引用ですが、感受性はE.coliと同じくなんでも行けそう
- 稀にアンピシリンや第1・2世代セファロスポリン、クロラムフェニコール、テトラサイクリンの耐性が報告されている、とのこと
参考文献
- BMJ Case Rep. 2022 Mar 2;15(3):e248736.
- J Clin Microbiol. 2006;44(11):4283-4284.
- New Microbes New Infect. 2016 Jul 9;13:83-6.
- J Clin Microbiol. 1982 Jun;15(6):1133-40.
- J Clin Microbiol. 1985;22:283–285.
- Neurol India. 2005;53:122–123.
- J Diarrh Dis Res. 1999;17:85–87.