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2023年8月25日金曜日

副鼻腔内石灰化の画像パターンによる真菌性と非真菌性の鑑別

ある症例:

62歳男性が、2日前から急性発症の右目の視力低下で来院した。右目の全方向の眼球運動障害があり、眼底には特記すべき所見がなく、眼窩先端症候群が疑われた。

頭部CT/MRIが実施され、石灰化を伴う蝶形骨洞炎が指摘された。真菌性副鼻腔炎を鑑別に挙げて抗真菌薬でエンピリック治療を行うことは妥当だろうか?



本題:

結論として上記症例は、真菌性副鼻腔炎の臨床像ではなく治療適応はないと判断したのですが、そもそも石灰化で真菌性の鑑別ができるということを聞いたことがなかったので、副鼻腔炎の画像診断の総説をいくつかを読んでみたところ、かなり勉強になったので備忘録的にサマライズしておきます。

眼科先端症候群は膠原病内科でも良く出会う疾患なので、真菌性副鼻腔炎の典型的な画像パターンを知っておくと、何かの役に立ちそうです(たぶんね)。


先に結論を書くと、

  • アスペルギルス副鼻腔炎は石灰化が高頻度だが、非真菌性も低頻度で石灰化は見られる
  • 真菌性の石灰化パターンは中心型、細粒状
  • 非真菌性の石灰化パターンは周辺型、円形・卵殻状
  • 結節状、線状の石灰化はどちらにも見られる



AJNR Am J Neuroradiol. 1999 Apr;20(4):571-4.

方法

  • 510名の副鼻腔手術を受けた慢性上顎洞炎の後ろ向きコホート
  • そのうち副鼻腔内石灰化を認めた36名のCT画像と病理を解析した
  • 原因微生物は手術的に採取された検体により診断された
  • 石灰化は、細粒状、線状、結節状、円形・卵殻状の4カテゴリーに分類
  • さらに上顎洞内の位置で、周辺型、中心型、混合型に分類

結果

  • 510名中、39名が真菌性、471名が非真菌性
  • 石灰化は、真菌性で20名 (51%)、非真菌性で16名 (3%) に認められた
  • 石灰化を認めた真菌性副鼻腔炎の全ての原因微生物はアスペルギルスだった
  • 真菌性の石灰化部位は95%が中心型、非真菌性では81%が周辺型だった



アスペルギルス副鼻腔炎における結節状(太矢印)と細粒状石灰化(細矢印)


アスペルギルス副鼻腔炎における線状石灰化(細矢印)


非真菌性副鼻腔炎の円形・卵殻状石灰化


病理との対比で、真菌性の石灰化は、菌糸の壊死領域内のリン酸カルシウムの沈着と考えられているようです。そのため壊死した中心部に位置し、初期には細粒状となるが、カルシウム沈着が進行すると密になった石灰化が線状あるいは結節状に見えるということのようです。


非真菌性の石灰化は、慢性炎症によって生じた萎縮性石灰化と考えられており(動脈硬化的な?)、このプロセスは副鼻腔の肥厚した粘膜層付近で起きることから、粘膜に該当する周辺部に位置し、それが密になると線状あるいは結節状に見えるということみたいです。


円形・卵殻状の石灰化は石灰沈着ではなく、病理学的には骨化のようで、やはりこれも慢性炎症に伴うものと考えて良いようです。


ちなみに石灰化はカルシウム塩の沈着骨化はハイドロキシアパタイトの沈着、とのことです(知らなかった)。


今回の症例の石灰化はキレイな卵殻状だったので、この点も非真菌性を示唆する所見とわかりました。


2023年8月18日金曜日

溶連菌感染後反応性関節炎(PSRA)の臨床的特徴

ある症例:

5日前からの発熱、4日前からの左下腿の発赤・腫脹・疼痛で来院。初診時に血圧80代とプレショック、全身の淡い紅斑が認められ、入院時の血液培養からG群溶連菌が発育した。ペニシリンG+クリンダマイシンで治療を行い、徐々に全身状態や下腿の蜂窩織炎は改善傾向となった。

入院4日目より右肘関節、両股関節、両膝関節、両足関節に関節痛を訴えるようになった。急性リウマチ熱(ARF:Acute rheumatic fever)を疑い、心エコーを行ったものの特記すべき所見は認められなかった。この患者の関節痛にどのように対処したら良いだろうか?



本題:

この症例は最終的にPSRAと診断しました。

PSRAの診断や治療については色々議論があるようですが、PSRAとARFの関係は、関節リウマチと回帰性リウマチ、未分化関節炎のような関係性と捉えれば理解しやすいかなと思いました。


まとめるとこんな感じですね。

  • Jones基準を満たさないARF様関節炎をPSRAと分類している
  • PSRAはペニシリンによる二次予防が不要か、1~2年程度でよいという意見がある
  • いずれにしても1~2年ごとに心エコーをフォローする



さて、PSRAについて知るにはARFの臨床像を知ることが不可欠ですので、まずARFについておさらいしておきます。

BMJの総説がよくまとまっているので、軽くサマライズして紹介します。


Acute rheumatic fever. BMJ. 2015 Jul 14;351:h3443.

  • A群溶連菌の咽頭炎は、宿主に異常な免疫・炎症反応を引き起こしうる。この反応の詳細は未解明ながら、連鎖球菌抗原の交差反応が関与していると考えられている。
    • 心筋炎では、活性化したモノクローナル自己抗体が弁内皮に T 細胞の浸潤を引き起こす
  • 急性リウマチ熱のほとんどが 5~15 歳の小児だが、若年成人に発症することもある。
  • 世界的に最も発症率が高いと報告されているのはオセアニア地域(ニュージーランド、オーストラリア)
  • A 群溶連菌に継続的にさらされている集団でも、急性リウマチを発症するのは最大で 6%にすぎない。
  • 診断は改定Jones基準(AHA 2015)に基づく(後述)
  • 臨床症状としては心筋炎(50~65%)、関節炎、舞踏病(15%)が重要
  • 関節炎の特徴は、大関節主体で、多くは多関節炎で移動性(流行地では単関節炎も稀ではない)、NSAIDが有効である
  • 急性期の治療はペニシリンG、再発の二次予防として10年程度のペニシリン長期投与を行う
  • 心筋炎に対するアスピリン、ステロイドは、少なくとも1年以内の予後を改善しない(SRで否定されている)


ということで、改定Jones基準を抑えておけば、ARFについてはほぼ理解できたと考えて良いですね。



改定Johnes基準:Circulation. 2015 May 19;131(20):1806-18.

  • 必須:A群溶連菌感染の証拠がある(培養での検出、ASOの上昇、溶連菌迅速抗原)
  • 初発ARF:大基準2つ or 大基準1つ+小基準2つ
  • 再発ARF:大基準2つ or 大基準1つ+小基準2つ or 小基準3つ
  • 大基準:心筋炎、多関節炎、舞踏病、有縁性紅斑、皮下結節
  • 小基準:他関節痛、心電図のPR間隔延長、炎症反応上昇、38.5度以上の発熱
    • 炎症反応は、ESR(1h) ≥60mm または CRP ≥3.0mg/dL


実はこれは低リスク集団の基準になっていて、流行地では以下のように、もっと緩い基準が適応されます。

Jones criteriaニュージーランドのガイドラインオーストラリアのガイドライン
低リスク中~高リスク
臨床的心筋炎MajorMajorMajorMajor
無症候性心筋炎(エコー)MajorMajorMajorMajor
多関節炎MajorMajorMajorMajor
単関節炎(無菌性)MajorMajorMajor
多関節痛MinorMajorMinorMajor
単関節痛MinorMinor
舞踏病MajorMajorMajorMajor
有縁性紅斑MajorMajorMajorMajor
皮下結節MajorMajorMajorMajor
PR間隔延長MinorMinorMinorMinor
炎症反応上昇MinorMinorMinorMinor
発熱MinorMinorMinorMinor

低リスク集団は、ARF発生率が学齢児童100,000人あたり2人以下、または全年齢のリウマチ性心疾患のある患者率が年間人口1,000人あたり1人以下、と定義されているようです。

日本のARF発生率は年間10~20例で、リウマチ性心疾患も1000人あたり1人以下みたいなので、低リスク集団と考えて良いみたいです(下図:Nat Rev Dis Primers. 2016 Jan 14;2:15084.)。



では前置きが長かったですが、PSRAはどういう疾患なのかについて。

PSRAはどのような経緯で生まれてきた疾患概念かというと、成人の溶連菌感染後の症状は、関節炎が心筋炎と比べて圧倒的に多いことから、これらはARFとは別の疾患として分類すべきではないか、という考え方のようです。


PSRAの臨床像:UpToDate

  • 溶連菌感染後の関節炎の中には、ARFではないものもあると推測する意見があり、この疾患はPSRAと呼ばれている。
  • PSRAが別の疾患であるという考え方の裏付けとして、以下の観察結果がある
    • 先行する溶連菌感染から遊走性関節炎の発症までの期間は1~2週間程度で、通常の古典的ARFで見られる2~3週間よりも短い
    • アスピリンなどのNSAIDの反応が、典型的なARFで見られる劇的な反応に比べて乏しい
    • 心筋炎は認められず、関節炎の重症度は極めて高い
    • 腱鞘炎や腎障害などの関節外症状をしばしば認める
    • ESR/CRPはARFに比べて低い傾向
  • 非典型的な臨床経過はARFの除外には不十分なので、Jones基準の大基準ではない関節炎でも、2つの小基準がある場合、特に小児ではARFと考えなければならない
  • PSRAを、二次予防を必要とするARFの前駆症状とみなす意見もあるが、予防を必要としない良性の疾患であると主張する研究者もいる



PSRAの臨床像については、Rheumatologyにめちゃくちゃ良い論文があります。


Rheumatology (Oxford). 2004 Aug;43(8):949-54.

  • 188件のPSRAの後方視的記述研究
  • PSRAはA群が多いが(83%)、C/G群も結構ある(14%)
  • (成人の)関節炎の分布特徴は、非移動性(81%)、対称性(51%)、腫脹関節数はOligo~Poly(それぞれ35%, 46%)
  • 部位は下肢の大関節に多い(下図)

  • 頻度としては稀だが(数%)、内転筋付着部炎、左足背腱鞘炎、手掌屈筋腱炎、腓骨腱炎、アキレス腱炎などの報告もある
  • 関節炎の発症時期は咽頭炎の7~10日後で、関節炎は数週間持続し軽快する
  • PSRAの年齢分布は8~14才と21~37才の二峰性であり、急性リウマチ熱(12才前後の単峰性)や反応性関節炎(27~34才の単峰性)とは対象的である


今回の症例も、下肢の大関節で、発症時期・年齢もバッチリですね!



Curr Rheumatol Rep. 2021 Feb 10;23(3):19.

  • 提案された分類基準がいくつか比較されているが、溶連菌感染からの発症が10日以内である点が重要視されている
  • 反応性関節炎ではHLA-B27の頻度が高いが、PSRAでは高くない
  • NSAIDやサリチル酸が聞きにくいのも(ARFとの比較で)特徴と捉えられており、スルファサラジンのように免疫修飾的なDMARD使用の報告もちらほらある

古典的な反応性関節炎とは違う病態と考えられるようです。
治療についてはNSAIDが効きにくく、免疫原性の関節炎なので、むしろRAに準じた治療の方が効果があると理解して良いのかもしれません。


Perm J. 2019;23:18.304.

・PSRAは、ARF関節炎と臨床的な区別が困難な場合があるが、予後や治療に違いがあるため注意深く診断する必要がある

・PSRAは原則として心臓合併症を認めない

・ARFの心筋炎は50~70%で、1年以降に発症すること極めて稀である

・PSRAにおける心臓弁膜症(MR/AR/左室拡大)の症例報告では、ペニシリンによる二次予防を再開し、12か月後の心エコーで所見がほぼ消失していた

・心筋炎が遅れて発症することを考慮して、少なくとも1年間は心エコーでの追跡を行い、ペニシリンの二次予防を1年間は継続することを推奨する



PSRAをARFと別疾患と定義することは、二次予防が必要かどうか(もしくは治療期間)の違いが最も重要な点と考えて良いと思います。

なお、AHAとAAP(米国小児科学会)の推奨では、PSRAで二次予防を1年間することについては懐疑的な記載になっています。


Circulation. 2009 Mar 24;119(11):1541-51.

  • PSRAが疑われる低リスクグループ患者に、一部の専門家は最長1年間の予防を受けることを推奨していますが、その有効性は十分に確立されていません
  • PSRAの患者では1年間は心筋炎の兆候がないか注意深く経過観察し、1年後に弁膜症が認められた場合は、ペニシリンによる二次予防を継続する必要があり、関節炎はARFであったと推定できるかもしれない
  • 1年後に弁膜症の所見がなければ、二次予防を中止できる


1年間の予防は推奨していないが、1年後の中止するプロトコルについては記載しているので、実際にはやっている臨床医も多いということだと思います。


冒頭の症例に戻って、その後の経過をお示しするとこんな感じです。

多関節痛は徐々に関節炎の所見が明瞭となった。NSAIDで対処していたが症状は2週間以上持続したため、PSRAと診断し、ペニシリンの予防内服を行う方針とした。NSAIDである程度コントロールは可能となったが、今後はサラゾピリンなどのcsDMARDの使用も考慮に入れつつ、外来で心臓合併症のフォローを行う方針とした。



2023年7月28日金曜日

チゲサイクリンの嘔気の対処法

今回はめちゃくちゃマニアックな記事ですね。興味ない方はすみません。読み飛ばしてください。刺さる人には刺さる(はず)


ある症例:

東南アジアに居住歴があるM. abscessusによる蜂窩織炎の50代女性。薬剤感受性はクラリスロマイシンは誘導体性がなくSであったが、イミペネムがI、ドキシサイクリン、モキシフロキサシン、ST合剤のいずれもRであった。

クラリスロマイシン+アミカシン+イミペネム+チゲサイクリンで治療を開始したところ、翌日から嘔気・嘔吐が出現した。

チゲサイクリンによる嘔気と思われる経過だが、薬剤変更の選択肢が乏しい中でチゲサイクリンを中止せざるを得ないのだろうか?



本題:

この症例は、代替薬はリネゾリドやクロファジミンなど、あるにはありますが、選択肢が少ない中で大事に使いたい薬剤なので、チゲサイクリンの嘔気への対処法について少し調べてみました。


チゲサイクリンの論文は古いものしか出てこないのですが、嘔気の対処について書かれたよさげなレビューと忍容性試験を見つけました。


Clin Infect Dis. 2006 Aug 15;43(4):518-24.

  • チゲサイクリンの最も高頻度である副作用は嘔気、嘔吐
  • 嘔気、嘔吐は用量依存性であり、薬物注入速度を遅くしても軽減されない
  • 制吐薬の投与でチゲサイクリンの忍容性は改善する
  • 嘔気は通常、最初の 1~2日間で発生し、ほとんどの患者では一過性である
  • チゲサイクリンの中止率は5%で、嘔気 (1.3%) と嘔吐 (1.0%) に関連したものが最多


Antimicrob Agents Chemother. 2005 Jan;49(1):220-9.

  • 単回投与でプラセボと比較した健常人の忍容性試験
  • 投与時間はむしろ60分より30分の方が嘔気が少ない
  • 食後に投与すると嘔気が軽減する
  • チゲサイクリンが胆汁から排泄され、消化管を刺激する機序が推定されている


ということで、対処法をまとめると以下。

  • 投与時間は30分の方が良い(消化管の通過時間の問題?)
  • 投与前に何か食べ物を摂取していただく
  • 制吐剤はもちろん使ってもらう
  • 一過性の症状である可能性も高いので、もう少しだけ我慢してもらうよう励ます


2023年7月21日金曜日

化膿性仙腸関節炎

ある事例:

16歳の男子高校生、2か月前から続く左腰部~臀部の痛みで来院した。MRIでは左の仙腸関節炎が認められ、精査目的に入院となった。入院してみると微熱があり、入院時の血液培養1/2セットからMSSAが発育した。


本題:

我々リウマチ医にとって仙腸関節炎といえば、もっぱら強直性脊椎炎や乾癬性関節炎などの脊椎関節炎なわけですが、感染症内科的には黄色ブドウ球菌の関節炎がCommon presentationです。

リウマチ医にも相談が来る(かもしれない)黄色ブドウ球菌の仙腸関節炎の特徴について基本的なレビューを元に概要をまとめてみました。


先に重要な点をまとめると、

  • 化膿性仙腸関節炎は小児を含む若年者、男性、左側に多い
  • 起因菌は半分以上がMSSA
  • 画像検査では、XP/CTの感度が低く、MRIで診断する
  • 外科デブリされている症例はあまり多くない



Pediatrics (1980) 66 (3): 375–379.

  • 小児のコホートでは、Septic arthritisの1~2%が仙腸関節炎
  • 男児に多く、3分の2が亜急性に発症する
  • 殆どの場合、X線所見は永続的に残るが、適切に管理した場合の生命予後は良好である


Rheumatology (Oxford). 2007 Nov;46(11):1684-7.

  • 仙腸関節炎の小児11例と成人22例のケースシリーズ
  • 小児では免疫不全を背景に発症する例は少ない(9.1% vs 31.8%)
  • CTの陽性率は36.4%、MRIは84.6%、骨シンチは93.3%
  • 治療は静注2~6週後に、2~3週の経口抗菌薬が実施されていた
  • 外科的デブリは9.1%で行われていた
  • 後遺症として5名の慢性股関節痛、4名の歩行異常、1名の下肢衰弱、1名の神経根障害があり、小児と成人での発症率の差はなかった


BMC Infect Dis. 2012 Nov 15;12:305.

  • 39名の感染性仙腸関節炎のコホート
  • 微生物は16例が関節穿刺、14例が血液培養、2例が尿の細菌学的検査、1例が腰筋穿刺で同定された
  • MSSAが16/33で最多、CNSが5/33、連鎖球菌が5/33、緑膿菌が3/33であった
  • 平均年齢は39.7歳、全例が片側性で左が優位だった(59%)
  • 臨床症状は、腰痛92%、発熱44%、乾癬5%、股関節痛3%
  • 仙腸関節X線は39.4%が正常、CTは48%で仙腸関節炎を同定、29.6%で腰筋膿瘍を同定、22.2%が正常。MRIの陽性率は92.5%だった



原則血流感染によって起きる疾患ですが、鍼治療による直達性の症例報告もあります。

化膿性関節炎が10万人に2~5人ということなので、その1~2%が仙腸関節炎ということだと、少なくともすごく多い疾患ではないですね。

とはいえ、これだと100万人に1人もいない?となって若干少なすぎる気もしますが・・・


治療期間は報告によってバラバラですが、4週間くらいが妥当というところでしょうか。

小児の急性化膿性骨髄炎の治療期間が短いために、報告もばらついているのだと思われます。


なお、仙腸関節症の検出に最も良い身体診察は、パトリックテストと大腿スラスト試験の組み合わせということです("化膿性"仙腸関節炎に限らない)

J Chiropr Med. 2021 Jun;20(2):95.

Adv Orthop.2022 Dec 28;2022:3283296.


大腿スラスト試験(Thigh thrust test):https://rehabilitation01.com/216/

パトリックテスト(Faber test):https://rehabilitation01.com/225/


2023年7月14日金曜日

Corynebacteriumに対するダプトマイシン曝露により、高度耐性株が選択される現象

感受性の分からないコリネバクテリウムにダプトマイシンは使いにくい、という話。


ダプトマイシンのMICがやや高いCorynebacteriumはしばしば目にしますが、そこまでよくあることでもないので、実際どのくらいなのか気になって調べてみました。


以下のようにダプトマイシン耐性株の症例報告はちょこちょこ引っかかります。

NVE:Antimicrob Agents Chemother. 2012 Jun;56(6):3461-4.

HSCT後の菌血症:J Clin Microbiol. 2009 Jul;47(7):2328-31. 

PJI:BMC Infect Dis. 2022 Mar 26;22(1):290.


Antimicrob Agents Chemother. 2003 Jan;47(1):337-41.

これは米国のサンプルサイズのやや大きい研究ですが、29/31 (94%) がダプトマイシンに感受性あり、ということでした。


Rev Inst Med Trop Sao Paulo. 2021 Jun 18;63:e49.

ブラジルの報告、1/10 (90%) が感受性あり。


Clin Microbiol Rev. 2013 Oct;26(4):759-80. 

CMRのレビュー。コリネのダプトマイシンの耐性について、「めったに観察されないことだが、高レベルのダプトマイシン耐性は、ダプトマイシン療法の副次的効果の可能性がある」と書かれています。


Antimicrob Agents Chemother. 2017 Oct 24;61(11):e01111-17.

J Infect Chemother. 2019 Nov;25(11):906-908.

ダプトマイシンの投与歴がある症例で高度耐性株が誘導された、という報告が複数あります(JICは阪大からの報告)。

上のAACでは感受性のある株にダプトマイシンを24時間曝露すると、全て耐性株となったというin vitroのデータが示されています。

バンコマイシン、テイコプラニンではこういうことはないようです。



ということで、まとめると、

  • 何の曝露もない状態だと、Corynebacteriumのダプトマイシン感受性率は90%以上
  • ダプトマイシンの曝露後に、急速に高度耐性株が選択されることがある



ダプトマイシン投与中や投与歴のある場合は、MICの動向に注意が必要なようです。

どうしても長期投与が必要になる骨髄炎、IE、PJIなどでは気をつけたいですね。


2023年6月30日金曜日

βDグルカンの診断能と偽陽性の原因について


今回の記事は研修医、レジデント向けです。


ある事例:

カンジダ血症の治療後に測ったβDGが更に上昇していたので、ミカファンギンを開始され、コンサルトになった膠原病患者さん。

血培は陰性、発熱も症状も一切なくお元気そうで、バイタルも安定しています。

「どう見ても菌血症や侵襲性真菌症とは思えないが・・・」

では原因は何なのでしょう?



本題:

βDグルカンは、そもそも陰性的中率が高く、陽性的中率は低めという特性があるので、診断ではなく除外に使うべきというのが一般的な理解です。


Open Forum Infect Dis. 2020 Feb 12;7(3):ofaa048.

  • 糸状菌予防投与を受けている血液内科患者の侵襲性真菌症(IFI)をレトロスペクティブに検討した
  • 造血幹細胞移植101例 (49.8%)、寛解導入化学療法89例 (43.8%)、GVHD13例 (6.4%)を解析
  • 評価可能な141例のうち、probable/proven IFIは8例 (5.7%)
  • βDGは真の陽性4 (2.8%)、真の陰性112 (79.4%)、偽陽性21 (14.9%)、偽陰性4 (2.8%)
  • 診断とサーベイランスの場面での陽性適中率はそれぞれ26.7%、0%だった
  • 結論:βDグルカンは、診断のためではなく除外のために使用すべきである


Open Med (Wars). 2018 Sep 8;13:329-337.

  •  メタ解析を行い、β-Dグルカンの侵襲性真菌感染症バイオマーカーとしての診断能を評価した
  • 37の関連する研究が包括基準を満たした
  • 感度0.83 (95%CI 0.38-0.61)、特異度0.81 (95%CI 0.80-0.82)、陽性尤度比5.13 (95%CI 3.98-6.62)、陰性尤度比0.23 (95%CI 0.18-0.30) であった



では、どのような場面で偽陽性になるのかというと、こんなレビューがあります。


J Fungi (Basel). 2020 Dec 29;7(1):14.

  • βDグルカンのレビュー。偽陽性の原因について解説されている
  • IVIgや血清アルブミンなどの血液分画製剤が、セルロース系のデプスフィルターで濾過する際に、植物性βDGが溶出し、偽陽性を起こしうる
  • このような製剤混入によるβDG上昇は、比較的速やかに低下する


  • 他の偽陽性の原因として、スポンジ・ガーゼなどの手術材料の使用、抗菌薬へのβDG混入、抗腫瘍薬のアジュバントへのβDG混入、
  • 腸管細胞障害・粘膜炎(その原因や結果となりうる広範囲熱傷、透析時低血圧、腸球菌血症を含む)、キノコなど菌糸体を多く含む食品の摂取、等がある
  • 腸球菌以外にも、ノカルジア、緑膿菌、肺炎球菌の菌血症で高値となる報告がある
  • 再生セルロースの透析膜による偽陽性は、最近ではβDGを溶出しない合成膜に置き換えられているため、可能性は低くなっている


βDG偽陽性が疑われる場合の検討すべき事項

  1. 医療品関連の偽陽性
    1. IVIg の点滴を受けたことがあるか。
    2. ヒト血清アルブミンの輸液を受けたことがあるか?
    3. TPNを受けたことがあるか?
    4. 過去4日以内に侵襲的な手術を受けたことがあるか?
    5. ガーゼや手術用スポンジを留置しているか?
    6. その他の侵襲的なセルロース製医療機器を使用しているか?
  2. 病状に関連した誤検出
    1. 重度の粘膜炎または腸炎を示す証拠があるか?
    2. 血液透析を受けているか?
    3. 侵襲性ノカルジア症があるか?
    4. 腸管虚血や低酸素症が疑われないか?
    5. ニューモシスチスは除外されているか?


βDGは非特異的マーカーなので、真菌感染症でも診断の基本は培養・病理であり、EORTC/MSG基準がゴールドスタンダードです。


EORTC/MSG基準

Clin Infect Dis. 2020 Sep 12;71(6):1367-1376.


マーカーだけで診断せざるを得ない場面はありますが、微生物同定の試みを一切しないのは問題です。


1,3-βDGは真菌の細胞壁の成分なので、これがあまり含まれない病原体は上がりにくいようです。

カンジダ、アスペルギルス、ニューモシスチスでは上がる

クリプトコッカス、ムーコルでは上がらないというのが有名(もちろん例外はある)

クリプトコッカスの細胞壁成分は主に1,6-βDGだそうです。


ノカルジアでβDGが高くなる報告が散見されており、治療が全く違う病原体なので要注意です。

BMC Infect Dis. 2017 Apr 13;17(1):272.

Int J Infect Dis. 2017 Jan;54:15-17.

Diagn Microbiol Infect Dis. 2015 Feb;81(2):94-5


非特異的マーカーであることを理解してないと、不適切にβDGを使いがちです。半分くらいは不適切なオーダーだという研究があります。


Open Forum Infect Dis. 2018 Aug 9;5(9):ofy195.

  • 334名の入院患者が少なくとも1回のBDG検査を受け、49% (165/334) の患者で不適切検査と判定された
  • 真の陽性:合計27例(Candidemia 6例、IPA 14例、ムーコル症 2例、クリプトコッカス症 2例、ブラストマイセス 1例,PCP 4例)
  • 血清学的、微生物学的、病理学的に真菌感染を支持するデータが得られなかった陽性患者は39例で,このほとんど(n=34)で偽陽性の原因が同定された
  • 5名が真菌感染の証拠がないBDG陽性に対して,39日間の不必要な抗真菌療法が行われた
  • ほとんどの参加者(40/47)は,BDG が偽陽性であった原因を特定することができなかった



さて、冒頭の症例は、あまりこの偽陽性の項目のなかに該当するものはなさそうです。カンジダ血症後にどのくらいβDG高値が続くのでしょうか。


Clin Vaccine Immunol. 2011 Mar;18(3):518-9.

  • 血液培養によるカンジダ陽性、その後に血液培養陰性化が得られた造血幹細胞移植患者6名における、βDグルカンの経時的測定の報告
  • βDG陽性は血培陰性化後も長期間持続した(中央値48日、範囲は17~102日)

 


ということで、この症例は「カンジダ血症後の高値持続」の可能性が最も高いのではないかと考えられます。

βDGは用法用量を守って正しく使いましょう!


2022年11月10日木曜日

EULAR推奨2022:自己免疫疾患における日和見感染スクリーニングと予防

 欧州リウマチ学会(EULAR)から自己免疫疾患の日和見感染予防とスクリーニングの推奨が出ました。日本の論文がたくさん引用されており、何だか嬉しいですね。


内容的には日本の生物学的製剤のガイドラインに準じた内容なので、あまり大きくプラクティスが変わることは書いてないのですが、個人的に驚いたところは、

  • なぜかHIVスクリーニングを推奨している
  • ハイリスク例のLTBIの定期スクリーニング(なるほど・・・!)
  • RAのPCP予防についてたくさん引用している割に推奨していない(残念)



2022 EULAR recommendations for screening and prophylaxis of chronic and opportunistic infections in adults with autoimmune inflammatory rheumatic diseases.

Ann Rheum Dis 2022 [Epub 03 November]

doi: 10.1136/ard-2022-223335


包括的原則

  • (A) csDMARDs、tsDMARDs、bDMARDs、免疫抑制剤、ステロイドによる治療の前に、すべてのAIIRD患者と検討・協議し、慢性及び日和見感染リスクを定期的に評価すべきである。
  • (B) リウマチ専門医と感染症専門医、消化器専門医、肝臓専門医、呼吸器専門医など、他の専門医との連携は重要である。
  • (C) 慢性及び日和見感染のスクリーニングと予防を決める際は、個々の危険因子を考慮し、定期的に再評価すべきである。
  • (D) 流行性感染症に関する国・地域レベルの要因のうち、国内ガイドライン・勧告を考慮すべきである。


推奨事項

  • (1) bDMARDs、tsDMARDsの開始前は、LTBIスクリーニングを推奨する(*1)。csDMARDs、免疫抑制剤、ステロイド(用量・期間による)の開始前も、LTBIリスクが高い患者(*2)ではスクリーニングを検討する。
  • (2) LTBIスクリーニングは、胸部XPとIGRA(ツ反ではなく)を含めるべきである。
  • (3) LTBI治療薬の選択と導入時期は、国内and/or国際ガイドラインに従うべきである。AIIRDの治療薬との相互作用に特別な注意を払う必要がある(*3)。
  • (4) csDMARDs、bDMARDs、tsDMARDs、免疫抑制剤、ステロイド(用量・期間による)の開始前は、全ての患者にHBVスクリーニングを行うべきである(*4)。
  • (5) csDMARDs、bDMARDs、tsDMARDs、免疫抑制剤、ステロイド(用量・期間による)の開始前は、HCVスクリーニングを考慮する(*5)。ALT高値や既知の危険因子がある場合(例:薬物の静脈内使用)は、HCVスクリーニングを推奨する。
  • (6) bDMARDs開始前にHIVのスクリーニングを推奨する(*6)。csDMARDs、tsDMARDs、免疫抑制剤、ステロイド(用量と期間による)治療前にも考慮する。
  • (7) csDMARDs、bDMARDs、tsDMARDs、免疫抑制剤、ステロイド(用量と期間による)開始前に、VZV免疫がない患者には曝露後予防について説明すべきである。
  • (8) 高用量ステロイド(特に免疫抑制剤併用)使用者では(*7)、リスク・ベネフィットに応じてPCP予防(*8)を考慮する。


気になったところの補足

  • *1: Bio治療中のIGRA陽性化が報告されているので、高リスク者では定期的な再スクリーニングを推奨している
  • *2: おそらく重度飲酒、喫煙者、流行国居住歴、医療従事者等を想定している
  • *3: 相互作用で重要なものは、RFPによるステロイド・JAK-Iの代謝促進(CYP3A4)、INHとMTX・LEF併用による肝障害
  • *4: HBV再活性化予防は、抗リウマチ治療中止後少なくとも 6-12 ヶ月継続を推奨(リツキシマブはさらに延長)
  • *5: HCV再活性化は稀だが、TNF阻害薬では一応報告があるので推奨された模様
  • *6: HIVスクリーニングはちゃんとした引用がなく根拠不明ですが、もし未治療のHIVがあった場合に、潜在する日和見感染を増悪させることを懸念しているのかもしれません(完全に想像)
  • *7: PSL15-30mg、2~4週間以上を有益と考察している
  • *8: ST 0.5T/day相当レジメンの有用性についても触れられてます

2022年5月26日木曜日

PCPに対するクリンダマイシン+プリマキンの効果

連日PCPネタばかりで申し訳ないですが、興味のある時に調べておくに限ります。

クリンダマイシン+プリマキンについて臨床効果を調べてみると、結構有用な論文がたくさん出てきたので、主なものを3つ紹介します。

一次治療、二次治療、毒性での変更、いずれでもSTと遜色ない生存率の報告が多く、普通に使える治療という印象を持ちました。

有害事象で特記すべきものはメトヘモグロビン血症(下記文献だと頻度3%)くらいでしょうか。メトヘモグロビンが著しく増えると自覚症状は乏しいがSpO2 が85%付近に収束し、BGAを確認するとPaO2は問題なくMet-Hbが増えていることで診断できます。


先にサマライズすると、

  • STとクリンダマイシン・プリマキンは、一次治療も二次治療もほぼ同等の成績(生存率)で、ペンタミジン静注はやや治療成績が低いように見える
  • 有害事象で問題になるのは血液毒性(好中球・血小板減少、メトヘモグロビン血症)



A meta-analysis of salvage therapy for Pneumocystis carinii pneumonia.

Arch Intern Med. 2001 Jun 25;161(12):1529-33.

  • デザイン:メタ解析
  • 対象試験:一次治療※が失敗したPCPに対して、代替薬が使用された臨床試験・症例シリーズ・症例報告
  • 対象患者:生検、BALF、喀痰塗抹によりPCPが微生物学的に確認された症例
  • ※ 一次治療失敗の定義:治療開始後4~5日目に臨床的悪化が起こるか、7日以上治療しても患者の状態が改善しないこと

結果:

  • 27文献から497患者を抽出(HIV 456名)
  • 失敗した一次治療は、ST 160例、静注ペンタミジン63例、吸入ペンタミジン6例、アトバコン3例、ダプソン3例、TMP+ダプソン配合剤2例、STに続いてCLDM+プリマキンを併用(2例)など
  • 失敗した一次治療の期間は、3日以上33人、4日以上20人、6日25人、5〜7日以上358人、記載なし61人
  • サルベージ治療は、トリメトレキサート159例、ペンタミジン164例、塩酸エフルニチン70例、クリンダマイシン+プリマキン48例、ST 51例、アトバコン5例が含まれた
  • 一次治療無効のPCPのサルベージ治療の中で、クリンダマイシン・プリマキン併用療法が最も有効だった

コメント:

  • PCPに対するSTとペンタミジンの大規模な前向き比較試験において
    • 治療不応のために薬剤変更を必要とする人の生存率は、ST群46%、ペンタミジン群56%
    • 毒性により治療法を変更した場合の生存率は、それぞれ97%と94%と報告されている。

(AIDS. 1992;6301- 305)



Comparison of three regimens for treatment of mild to moderate Pneumocystis carinii pneumonia in patients with AIDS. A double-blind, randomized, trial of oral trimethoprim-sulfamethoxazole, dapsone-trimethoprim, and clindamycin-primaquine. ACTG 108 Study Group.

Ann Intern Med. 1996 May 1;124(9):792-802.

  • デザイン:RCT、二重盲検
  • P: HIV患者でP.jirovecii が形態学的に確認され、AaDO2≤45mmHg以下のPCP
  • I&C: ST、ダプソン+トリメトプリム、クリンダマイシン+プリマキンに割り付け
    • PAO2-PaO2が35~45mmHgの患者にはプレドニゾンも投与した
  • O: 21日目の治療失敗(PAO2-PaO2が20mmHg以上増加したこと、ベースラインの徴候や症状が寛解しなかったこと、毒性、挿管、死亡以外の理由で抗ニューモシスチス療法を変更したことのいずれか)

結果:

  • 181例を登録、ST群64例、ダプソン+トリメトプリム59例、クリンダマイシン+プリマキン58例を割り付け
  • 投与量制限毒性、治療失敗、治療完了を示した患者の割合に治療群間の統計的有意差はなかった
  • 治療期間中およびその後2カ月間の生存率は3群間で差がなかった。


  • ALTがベースライン値の5倍以上に上昇したのはST群で多かった(P=0.003)
  • 重篤な血液毒性(好中球減少、貧血、血小板減少、メトヘモグロビン血症)はクリンダマシン・プリマキン群で多く発生した(P=0.01)



Clinical efficacy of first- and second-line treatments for HIV-associated Pneumocystis jirovecii pneumonia: a tri-centre cohort study.

J Antimicrob Chemother. 2009 Dec;64(6):1282-90.

方法:

  • コペンハーゲン、ロンドン、ミラノの3つの観察コホートで行われたHIV関連PCP患者1122人、1188エピソードの症例レビュー

結果:

  • 初回治療はST(962例、81%)、静注ペンタミジン(87例、7%)、クリンダマイシン+プリマキン(72例、6%)、その他(67例、6%:アトバコン、ダプソン+ピリメタミン、トリメトレキサート、ペンタミジン吸入)
  • 治療法を変更しなかった割合は、ST 79%、クリンダマイシン+プリマキン65%、ペンタミジン60%だった (P<0.001))
  • 一次治療は82エピソード(7%)で失敗のため、198エピソード(17%)で毒性のため変更された
  • 3ヵ月生存率はST 85%、クリンダマイシン+プリマキン81%,静注ペンタミジン76%だった (p=0.09)
  • 二次治療の生存率は、ST 85%、クリンダマイシン+プリマキン87%と比較し。静注ペンタミジンが60%で優位に低かった (p=0.01)
  • ペンタミジンは 3 ヵ月死亡リスクが有意に高く (HR 2.0, 95%CI 1.2- 3.4)、多変量分析でも同様だった (HR 3.3, 95%CI 2.2-5.0)
  • クリンダマイシン+プリマキンはSTと比較して死亡リスクに差はなかった。

2022年5月24日火曜日

アトバコン予防ブレイクスルーPCPの治療

アトバコン予防中にPCPになった症例を経験しました。

Ccr30程度と、かなり厳しい腎機能で、ST合剤はなかなか使用が難しそうだと思ったので、ペンタミジン点滴を使用しました。本人から聞き取った範囲では、アトバコンの内服コンプライアンスは問題なかったようなので、ブレイクスルー感染だとすると治療にも多分使えないのだろうなと感覚的に思い、アトバコンでの治療は避けたのですが、はっきり根拠がわからなかったので調べてみました。


結果、やっぱりダメみたいです。すごく勉強になりました。


Pneumocystis Cytochrome b Mutants Associated With Atovaquone Prophylaxis Failure as the Cause of Pneumocystis Infection Outbreak Among Heart Transplant Recipients.

Clin Infect Dis. 2018 Aug 31;67(6):913-919.

  • 対象:アトバコン予防を受けていた心臓移植患者に発生したPCP(N=9)
  • コントロール:アトバコン予防を受けていなかった他の免疫不全患者(HIV 2例、肝移植2例、癌3例、ステロイド治療4例)のPCP(N=11)
  • 方法:アトバコン耐性に関連するチトクロムB(CYB)変異A144Vの有無を検討する

結果

  • アトバコン予防群の9/9、非予防群の2/11でCYB変異A144Vが認められた (p<0.001)
  • 血清アトバコン濃度は、心臓移植患者の6/7人で報告されている有効定常濃度15μg/mLよりも低値だった
  • 1名は有効なアトバコン濃度 (30.5 μg/mL)にも関わらずPCPを発症していた。


論文内の考察

  • アトバコンは、ミトコンドリアのチトクロームbc1(cyt bc1)複合体のキノール酸化部位に結合するユビキノンのアナログである
  • CYB-A144V変異はP. jirovecii ミトコンドリアのcyt b複合体のアトバコン結合ポケットの容積を減少させ、変異型P. jiroveciiに対するアトバコンの薬理効果を低下させると考えられる
  • P. jiroveciiのCYBを介したアトバコン耐性変異は、主にヘリックスcd1に集まる傾向があり、A144V以外にもcyt bのヘリックスcd1に4つの変異(I147V、T148I、L150F、S152A)が報告されている


感想

アトバコン投与群の全員にCYB変異があるからといって、アトバコンが絶対効かないという証明には当然ならないですが、多分効かないんだろうなー、とは思えるデータです。

とりあえずアトバコンブレイクスルーで二次予防するときには、他の薬剤を使わないと厳しいだろうなとい感じはします。


もしペンタミジンが有害事象などで使えなくなった場合の選択肢ですが、ST合剤の減量レジメンの有効性がつい先日のCIDに出ていました。これは選択肢ですね。


Clin Infect Dis. 2022 May 20:ciac386. doi: 10.1093/cid/ciac386.

投与量は7.5-15mg TMP/kg/dayです。

後ろ向き研究なので、バイアスがバリバリなのは仕方ないですね。

今後はすべての患者に対して減量するということにはならないのは当然ですが、バイアスがあるにしても減量レジメンで死亡率は10%くらいまで抑えられており、少ない選択肢の中で「減量しても何となるかも」という根拠ができたのは心強いです。


この方は腎機能が結構厳しいので、減量レジメンとは言えかなり躊躇します。

ということで次点はクリンダマイシン+プリマキンでしょうか。使ったことがないので感触が全く分かりませんが・・・


2022年5月18日水曜日

白内障の術前抗菌薬

白内障の術前抗菌薬の相談を受けたのですが、恥ずかしながら全く知らなかったので調べてみました。


眼科領域の術式別のSSIの発生率

引用:佐々木香る 眼科抗菌薬適正使用マニュアル

  • 白内障手術:0.02%
  • 硝子体手術:0.03‐0.05%
  • 硝子体内注射:0.03-0.04%
  • 緑内障手術:2%(濾過胞炎含む)
  • 角膜移植:0.2%
  • 屈折矯正手術:0.02%
  • 結膜手術、斜視手術、眼瞼・眼窩手術:極めて稀



白内障手術の起因菌

J Cataract Refract Surg. 2013 Sep;39(9):1421-31.


  • 白内障手術のSSIの起因菌は、大半がブドウ球菌と連鎖球菌
  • 結膜嚢および外眼部常在菌層に由来するようです。



Ophthalmology. 2002 Jan;109(1):13-24.

周術期SSI予防の方法として、全身投与の抗菌薬は有効性が否定されています。

2002年のSRで既に、抗菌薬洗浄、抗菌薬点眼、結膜下抗菌薬投与などの有効性は否定され、術前のポピドンヨード消毒のみが有効性があると報告されていたようです。



セフロキシムの前房内投与

2007年にESCRS(欧州白内障屈折矯正手術学会)からセフロキシムの前房内投与の有効性を示すRCTが出ました。以降の欧州各国はセフロキシム前房内投与が主流で、導入後の術後眼内炎の減少が報告されているようです。

なおこのRCTで同時にフルオロキノロン点眼の有効性がないことも示されており、欧州では以降使用しない流れになっているようです。


Prophylaxis of postoperative endophthalmitis following cataract surgery: results of the ESCRS multicenter study and identification of risk factors.

J Cataract Refract Surg. 2007 Jun;33(6):978-88.

  • Design: 多施設RCT、部分盲検
  • P: 糖尿病を含む白内障手術を受ける患者
  • I&C: 2×2グループの比較
    • 術後セフロキシム1mg前房内投与の有無
    • 術前レボフロキサシン0.5%点眼(手術1時間前に1滴、30分前に2滴、術直後5分間隔で3滴)
  • O: 術後感染性眼内炎

結果:

  • 29例が眼内炎を呈し,そのうち20例が感染性眼内炎と診断
  • セフロキシム前房内投与を行わない場合、眼内炎のOR 4.92 (95%CI 1.87~12.9
  • 強膜トンネルと比較した角膜切開の使用は、OR 5.88 (95%CI 1.34-25.9)
  • アクリルと比較したシリコーン眼内レンズ(IOL)光学材料の使用 OR 3.13 (95%CI 1.47-6.67)



日本のガイドライン

日本感染症学会・抗菌化学療法学会から出されて、日本眼感染症学会、日本眼科学会も監修しているようです。

術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン(2020年5月追補版)

http://www.chemotherapy.or.jp/guideline/jyutsugo_shiyou_tuiho.html

  • 白内障手術は、リスク因子がなければ全身投与での予防は不要、と明記されてます
  • 術前点眼は術前3日から投与されることになっている


ちょっと世界の潮流からは遅れている感じがする記載ではありますね。

日本では術後4週間程度フルオロキノロン点眼を継続している施設が多いようですが、米国では1週間が主流とのことです(ASCRS:米国白内障屈折矯正手術学会の調査)。

J Cataract Refract Surg. 2015 Jun;41(6):1300-5.


2022年5月14日土曜日

染色体性AmpCを持つ腸内細菌目の感染症に対してセフトリアキソン・ピペラシリンを使ってよいか

緑膿菌が血培から生えたVAPで、痰培養からは緑膿菌とSerattia marscesensが同定された、という事例がありました。

このVAPをピペラシリン(もしくはピペラシリン・タゾバクタム)で治療することは可能なのでしょうか?


CLSI-M100 28th

PIPCは内因性耐性とは書かれていないです(左から4列目)。もちろんABPC、ABPC/SBTは内因性耐性
なおEUCASTにPIPCの記載はありません





Kucers' The Use of Antibiotics 7th edition

Section2:10 メスロシロン・アズロシリン・アパルキリン・ピペラシリン より抜粋
ピペラシリンは腸内細菌科細菌に対して良好な活性を示すが、1997年以降、腸内細菌科細菌の耐性は著しく増加し、2004年には50%に達する地域も報告されている。
腸内細菌科細菌の耐性の主なメカニズムは、β-ラクタマーゼによる不活性化である
このため、ピペラシリンは腸内細菌科細菌に対してアンピシリンやチカルシリン単独よりも高い活性を示すが、チカルシリン-クラブラン酸、アンピシリン-スルバクタム、ピペラシリン-タゾバクタムよりも一般に低い活性を示す。
メスロシリン、アズロシリン、アパルキリン、ピペラシリンは、TEMβ-ラクタマーゼなどグラム陰性菌が生産する多くのβラクタマーゼで分解されることが確認されている。したがって,アンピシリンやカルベニシリンに後天的に耐性を獲得したグラム陰性菌の多くは、このグループの抗菌薬にも耐性を示すことになるしかし、TEM-1β-ラクタマーゼを産生する一部の大腸菌は、アンピシリンには耐性を示すが、メズロシリンやピペラシリンには比較的感受性を保っている。

つまりAmbler分類Aのβラクタマーゼ産生腸内細菌化細菌は、感受性があればピペラシリンを使ってもよさそうだ、と理解できます。
(注:AmpCの話ではないです。AmpCはAmbler class C。下図参照:日本臨床微生物学雑誌 Vol. 24 No. 3 2014)




少し横道にそれますが、Kucerによると、
S. pneumoniaeやViridans groupのペニシリン耐性は、PBPの変異によって媒介される。したがって連鎖球菌属の耐性はtazobactamやsulbactamのようなβ-lactam阻害剤では克服されない。
ピペラシリン活性に対するPBP変異の影響は、ペニシリンGおよびアンピシリン活性に対する影響よりも大きく、ペニシリンに対して中程度の耐性を有する連鎖球菌は、ピペラシリンに対して耐性を有する可能性がある。

つまり、連鎖球菌はPCGが中等度耐性以上(>0.12でしょうか?)であればPIPCも耐性のことが多い(とはいえ感受性をそのまま信じてよいのは同様)


さて、Serattia marscesensなどの染色体性にAmpCを持っている菌でも、PIPCの感受性をそのまま読んでいいのかというのが今回の疑問でした。
下記レビューを読んで結構頭が整理できたので紹介します。


AmpC β-lactamase-producing Enterobacterales: what a clinician should know.
Infection. 2019 Jun;47(3):363-375.

染色体性にAmpCをコードしている(cAmpC)臨床的に重要なグラム陰性菌で、特に重要なのはESCPMグループと呼ばれる腸内細菌目細菌
  • Enterobacter (Enterobacter cloacae complex, Enterobacter aerogenes)
  • Serratia marcescens
  • Citrobacter freundii
  • Providencia stuartii
  • Morganella morganii

cAmpCの主な特徴は、種によってAmpC遺伝子の発現レベルが異なることで、一部の抗菌薬によって発現が誘導され、抗菌薬へ耐性化を示す。
抗菌薬のcAmpC発現を誘導する性質と、誘導されたAmpCによって加水分解される性質から、以下の4つに区別できる。

1. 誘導性/不安定型β-ラクタム

例:アミノペニシリン系、第一世代セファロスポリン、セフォキシチン、セフォテタン
AmpCの発現を強く誘導し、抗菌薬自体は誘導されたAmpCで分解される性質をもつ。したがって通常これらの薬剤に耐性を示す。

2. 誘導性/安定型β-ラクタム

例:カルバペネム
AmpCの発現を強く誘導するが、抗菌薬自体は分解されない。外膜透過性を低下させるポリン改変がない限り、感性のまま。

3. 弱い誘導性/不安定型β-ラクタム

例:ウレイドペニシリン(例:ピペラシリン)、第3世代セファロスポリン、アズトレオナム
AmpC誘導能は弱いため、当初これらの抗菌薬に対して感受性を示すが、抗菌薬選択圧によりAmpC産生が誘導された株が選択された後に臨床的耐性となる。
したがって、このグループの抗菌薬はcAmpCの腸内細菌目に対してin vitro感受性があっても、使用は慎重に検討する。
ピペラシリン・タゾバクタムを例にすれば、ピペラシリンもタゾバクタムもAmpC誘導は弱いのでin vitro感受性は保持される場合がある。
AmpCはピペラシリンを加水分解し、タゾバクタムによっても阻害されないため、感受性の有無にかかわらず使用は慎重に検討すべきである。

4. 弱い誘導性/安定型β-ラクタム

例:セフピロム、セフェピム(第4世代セファロスポリン)
誘導能は弱く、かつAmpCが過剰に誘導された場合も、AmpC変種や別の耐性機構が存在しない限り、抗菌薬活性を保持する。


拡張スペクトルペニシリン(チカルシリン、チカルシリン-クラブラン酸、ピペラシリン、メズロシリン)、第3世代セファロスポリンに対する臨床的耐性化は、平均9日(範囲4〜18日)後の第3世代セファロスポリン治療後に発生する
Ann Intern Med. 1991 Oct 15;115(8):585-90.

ちなみにプラスミドAmpCはほぼ常に構成的に発現し、抑制されていないcAmpC(過剰産生型)と同様の耐性パターンと考えて良いようです。
例外として、BlaDHA-1遺伝子のようないくつかのプラスミドAmpC遺伝子は、cAmpC遺伝子と同様に発現が制御され、β-ラクタム薬によって誘導可能とのことでした。
Clin Microbiol Rev. 2009;22:161–82.


cAmpCの治療で、RCTなどの臨床的なデータは多くないのですが、有名なMERINO-2 trialは一応参考になります。
ピペラシリン・タゾバクタムは血流感染だと少し失敗率が高いかもしれない、とも読み取れますがNが少なすぎますね。
今後の追試が必要です。


Open Forum Infect Dis. 2021 Aug 2;8(8):ofab387.
  • Design: 多施設RCT、Open-label
  • P: Enterobacter spp、Klebsiella aerogenes、Serratia marcescens、Providencia spp、Morganella morganii、Citrobacter freundiiの血流感染。かつ、第3世代セファロスポリン、ピペラシリン・タゾバクタム、メロペネムに感受性あり
  • I: ピペラシリン・タゾバクタム4.5g q6h
  • C: メロペネム1g q8h
  • O: 30日死亡率、臨床的失敗(5日目での体温or白血球増加)、微生物学的失敗(3~5日目での指標菌検出)、30日時点での微生物学的再発、の複合エンドポイント

結果:

  • ピペラシリン・タゾバクタム群40名、メロペネム群39名が割り付けられた
  • 主要評価項目達成は、ピペラシリン・タゾバクタム群では38例中11例(29%)、メロペネム群は34例中7例(21%)、リスク差8%(95%CI -12%~28%)
  • 微生物学的失敗は、ピペラシリン・タゾバクタム群では38例中5例(13%)、メロペネム群では34例中0例(0%)だった。リスク差13%(95%CI、2%~24%)
  • 微生物学的再発は、ピペラシリン・タゾバクタム群0%、メロペネム群9%だった
  • 微量液体希釈法による感受性率は、ピペラシリン・タゾバクタムが96.5%、メロペネムが100%であった

結論:

  • AmpC産生菌による血流感染症に対するピペラシリン・タゾバクタムは、微生物学的再発は少なかったが,微生物学的失敗が多くなった


長くなりましたが、まとめると
  • 染色体性AmpCの腸内細菌目(ESCPM)に対しては、セフェピムかカルバペネムが鉄板
  • ピペラシリン、セフトリアキソンも感受性があれば、現場の判断で慎重に使っても良さそう
  • 血流感染はやめておいた方がいいかも(MERINO-2)

2022年4月14日木曜日

Escherichia vulneris 感染症の特徴

胸部大動脈置換後の人工血管周囲感染の方で、膿汁培養が発育せず起因菌が同定できなかったため、16s Nested PCRでシークエンスを行ったところ、Escherichia vulneris と同定された、という事例がありました。

E. coli以外のEscherichiaを見たのは初めてだったので調べてみると、なかなか面白い特徴があり、非常にReasonableな症例だとわかりました。


Escherichia vulneris の特徴について調べたことをまとめます。

先に全体をサマライズすると、

  • 環境菌、常在菌として分離されることもある腸内細菌目GNR
  • 創傷やデバイス関連感染症として多く報告されている
  • 薬剤感受性は良好で、βラクタムを含め大体何でも感受性あり



特徴

  • Escherichia vulnerisは、腸内細菌科の特徴を持つ運動性のグラム陰性桿菌
  • 生化学的特徴:オキシダーゼ陰性、インドール陰性、ブドウ糖発酵性
  • 呼吸器系、女性生殖器、尿路、便に定着している環境菌
  • 名前の由来は傷口に定着することから、"vulneris"(ラテン語で「傷」)


分類

Uniprotより( https://www.uniprot.org/taxonomy/566

› cellular organisms

   › Bacteria

     › Proteobacteria

       › Gammaproteobacteria

         › Enterobacterales

           › Enterobacteriaceae

             › Pseudescherichia


歴史

  • 当初、Staphylococcus aureusなどの他の細菌と関連して感染創傷から分離された
  • その後、便・喀痰・尿・膣・咽頭などから分離され、常在菌と考えられていた
  • E vulnerisはマウスの病原性試験で軟部組織感染や致死を誘導できなかったため、臨床的意義が疑われていた
  • しかし、その後UTI、骨髄炎、CRBSI、創傷感染、髄膜炎、透析関連腹膜炎、CLLの菌血症で唯一の病原体となりえることが報告された


感染臓器

  • 歴史や名前の由来からもわかるように、人工物や異物に関連した感染が多い
    • CA-UTI
    • 腹膜カテーテル感染
    • 木製異物による創部感染
    • PICC関連血流感染など
  • 髄膜炎やエントリー不明の菌血症、リンパ節炎などの報告もある


感受性

  • かなり古い論文の引用ですが、感受性はE.coliと同じくなんでも行けそう

  • 稀にアンピシリンや第1・2世代セファロスポリン、クロラムフェニコール、テトラサイクリンの耐性が報告されている、とのこと


参考文献

  • BMJ Case Rep. 2022 Mar 2;15(3):e248736.
  • J Clin Microbiol. 2006;44(11):4283-4284.
  • New Microbes New Infect. 2016 Jul 9;13:83-6.
  • J Clin Microbiol. 1982 Jun;15(6):1133-40.
  • J Clin Microbiol. 1985;22:283–285.
  • Neurol India. 2005;53:122–123.
  • J Diarrh Dis Res. 1999;17:85–87.

2022年3月29日火曜日

Pantoea agglomerans菌血症

 血培2/2セットからPantoea agglomeransという耳慣れない菌の発育があり、フォーカスもよくわからなかったため基本的な情報を調べてみました。例によって、もともと自動分析装置では同定が難しかったが、質量分析で同定できるようになった菌、ということのようですね。


サマリー

  • 植物などの環境菌で、通性嫌気性グラム陰性桿菌
  • 感染臓器としては、汚染された点滴やカテーテルによる血流感染、創部から感染した膿瘍・骨関節感染が多い
  • ペニシリン、セファゾリンの感受性は5割程度、BLBLI、第三世代以降のセファロスポリン、カルバペネム、AG、ST、キノロンにはほぼ100%感性


Pantoea agglomerans, a Plant Pathogen Causing Human Disease
J Clin Microbiol. 2007 Jun; 45(6): 1989–1992.
Published online 2007 Apr 18. doi: 10.1128/JCM.00632-07
  • テキサス小児病院で、2000年1月から2006年12月に培養で記録されたすべてのP. agglomerans感染症をレビュー
  • 53の無菌部位、26の喀痰、3つの尿、3つの表面スワブ、および2つの中咽頭源からの88の患者培養で同定された
  • 無菌培養からP. agglomeransが検出された症例のエントリーはCRBSI 21例,膿瘍14例,関節または骨培養10例,UTI4例,非CV関連菌血症2例,腹膜炎1例,胸部外傷1例
  • 患者の43%(23/53)が菌血症を発症し,その91%が中心静脈ラインと関連していた
  • 膿瘍のドレナージ中にP. agglomeransが分離された小児は、すべて多菌性だった
  • 骨髄炎を発症した7例は,棒,植物のとげ,ガラスの破片による貫通外傷の4~6週間後に局所症状を呈した.
  • 無菌室から分離された53株はすべてアミカシン,ゲンタマイシン,メロペネム,STに感性で,広域セファロスポリンおよび合成ペニシリンには92.5%,広域セファロスポリンには62.3%,アンピシリンには47.2%が感性だった
  • P. agglomerans菌血症は一過性で治療中に再発することはなく,10〜14日間の無菌期間の抗生物質投与で治癒した


Bacteremia caused by Pantoea agglomerans at a medical center in Taiwan, 2000–2010
J Microbiol Immunol Infect. 2013 Jun;46(3):187-94.
doi: 10.1016/j.jmii.2012.05.005.
  • Pantoea agglomeransは、以前はErwinia herbicolaまたはEnterobacter agglomeransとして知られていた、植物によく付着する通性嫌気性グラム陰性桿菌
  • 台湾大学病院で過去10年間のP. agglomerans菌血症の患者を調査(N=18名)
  • 感染臓器は、一次性血流感染12例(66.6%)、腹腔内感染3例(16.7%),軟部組織感染2例(11.1%),肺炎1例(5.6%)
  • 10株(56%)アンピシリン感性,11株(61%)がセファゾリン(MIC ≦2 μg/ml)に感性,6株(33%)がホスホマイシン(MIC ≦64 μg/ml)に感性だった


おまけ

経験した症例は腎盂腎炎として治療されていたのですが、診察しに行くと術後間もない胃瘻の創部疼痛・排膿が続いていたエピソードがわかり、そこからのエントリーであろうと推定されました。いつもながら微生物の知識が診断を助けてくれることを再確認する事例でした。