ラベル 腎臓 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 腎臓 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2023年7月7日金曜日

抗菌薬による薬剤性腎障害は、類似薬に交差性があるか?


ある症例:

腹腔内膿瘍に対してセフェピム+メトロニダゾールで治療していた患者さんが、治療開始12日目にCrが0.8から1.3に上昇、14日目の再検で1.9とさらに上昇しました。

セフェピムによる腎障害を疑い、セフェピムは中止。

代替薬を選択するにあたり、もちろんキノロンやST合剤は選択肢に上がりますが、他のβラクタム薬は選択肢に入れて良いのでしょうか?(類似薬は交差するのでしょうか?)



本題:


Int J Mol Sci.2021 Jun; 22(11): 6109.

まず、薬剤性腎障害のメカニズムですが、主に以下の3通りになります。


  1. 急性尿細管壊死 (ATN):アミノグリコシド、アムホテリシンB、テノホビル、シドフォビル、シスプラチン
  2. 尿細管分泌による閉塞:メトトレキサート、アシクロビル、スルファジアジン、シプロフロキサシン
  3. 急性尿細管間質性腎炎 (ATIN):PPI、NSAID、免疫チェックポイント阻害剤、βラクタム、ST合剤


ATNは細胞内蓄積によるので用量依存性、原則として緩徐進行です。

対策は補液。


尿細管分泌は薬剤の尿細管タンパクとの反応で結晶化や円柱による尿細管閉塞性の障害が起きます。

対策は結晶化を抑制する尿pH管理です(適正値は薬剤による)


ATINはハプテンや遅延型IV型アレルギーが関与する免疫原性であり、抗原提示されて免疫反応が起きる過程なので10日以内の急性に起こります。

予防はありませんが、早期にはステロイド治療が有効です。


余談になりますが、バンコマイシンは3つのメカニズム全てが関与していて複雑のようです。補液をしても予防できず、テイコプラニンと交差したりしなかったりするのはこのせいですね。納得。


閑話休題。


ということで交差するかどうかを考えなければならない薬剤性腎障害はATINのみなのですが、先にβラクタム薬の側鎖推定の考え方についておさらいしておきます。


Lancet. 2019 Jan 12;393(10167):183-198

こちらは薬剤アレルギー全般の考え方が述べられている総説です。

βラクタムの薬剤アレルギーが交差するかどうかは、主にペニシリン、セファロスポリンの側鎖(R1)が関係しています。

各クラス間の交差率は以下の図の通りで、R1側鎖で大きく5つのグループに分かれます。

  • ペニシリンと第一世代セファロスポリンの一部
  • 第一世代と第二世代セファロスポリン
  • 第三世代と第四世代セファロスポリン
  • カルバペネム系
  • モノバクタム系


メカニズムを考えれば皮膚で起きていることが腎臓で起きているだけなので、薬疹と同じ考え方(側鎖推定)をしても問題ないと理解して良さそうですが、そもそもATINが交差性の薬剤で反応するのかデータ不足なのと、理論上の死亡リスクがあることからリスクベネフィットバランスが取れていないのではないかという意見でした。

この総説ではATIN(論文中ではAINと表記されている)は臓器障害なので重篤な病変と考え、側鎖のみの交差性では選ばず、βラクタム全般を避ける安全マージンを取った意見になっています(下図)。


側鎖推定をする場合は専門家に相談してね、と書いてあるので絶対に使ってはダメということではないです。もちろん既往有害事象の程度の問題もあるでしょう。



Adv Chronic Kidney Dis. 2017 Mar;24(2):64-71.

もう1個総説を読んでみます。薬剤性間質性腎炎の総説で、ATINを交差性で考えてよいかについて書かれた部分が少しだけありました。


以下、該当部分を和訳抜粋。

モノバクタム系を除くすべてのβ-ラクタム系抗菌薬は、5員環または6員環で構成されている。モノバクタム系にペニシリン系との交差反応性が報告されておらず、ATINの原因として報告されていないのは、このためである。

ペニシリンアレルギーの患者におけるセファロスポリンとの交差反応は12%と推定されているが、この注意は主にI型反応に対してであり、ATINのようなIV型反応に対しては推測に過ぎない。



冒頭の症例の結論:

今回の腎障害がセフェピムによるATINと考えると、安全マージンを取れば、βラクタムで使ってよいのはアズトレオナム(モノバクタム系)のみ。

ペニシリン系、1,2世代セファロスポリン、カルバペネムは2%未満のごく低確率での交差性は推定されるので、必要性が高い場合は専門家に相談の上で使用を考慮する。


2021年1月4日月曜日

MCNSに対するタクロリムスの有用性

カルシニューリン阻害薬のRCTは殆ど出てこないので貴重ですね。


Comparison of the Efficacy and Safety of Tacrolimus and Low-Dose Corticosteroid with High-Dose Corticosteroid for Minimal Change Nephrotic Syndrome in Adults

JASN January 2021, 32 (1) 199-210.

DOI: 10.1681/ASN.2019050546

  • Design: 多施設Open-label RCT、並行群間、非劣勢試験(韓国)
  • P: 16-79才の腎生検で診断されたMCNS、尿蛋白>3.0g/gCr、eGFR>30
  • I: PSL 0.5mg/kg+TAC 0.05mg/kg 1日2回(濃度は5-10ng/ml)
  • C: PSL 1.0mg/kg (Max 80mg)
  • O: 
    • 主要エンドポイントは8週における完全寛解率(尿蛋白<0.2g/gCr)、非劣勢マージン20%
    • 二次エンドポイントは完全寛解達成までの期間、再発率(尿蛋白>3.0g/gCr)、再発までの期間


結果

  • 144名がランダム化され、TAC群に69名(解析対象67名)、PSL群に75名(解析対象69名)が割付られた
  • 8週間時点の完全寛解は、TAC群53人(79.1%)、PSL群53人(76.8%)で、ITT(11.6%)、PPS(17.0%) いずれの解析でも非劣性が示された
  • 寛解までの期間の中央値はTAC群で15日(95%CI: 14-27)、PSL群で25日(95%CI: 14-28)で有意差はなかった
  • 24週における再発率はTAC群で有意に少なかった (5.7% vs. 22.6%, p=0.01)


感想

TACの併用でPSL投与量を減らせて、寛解も少し早くて、再発は明らかに減少する。感覚的にも臨床の印象と合致しますし、おそらく糸球体腎炎の寛解導入に高用量PSLは必要ないのだろうと強い確信が持てるデータです。

PSL群に同意撤回による脱落が若干目立ちますが、解釈に影響を与えるほどではなさそうです。Open-labelではありますが、エンドポイントは主に客観指標の尿蛋白なので、情報バイアスが入る余地は少なく、盲検とほぼ同義に解釈できそうです。


2020年3月28日土曜日

SScに対するACE阻害薬の投与はSRC発症リスクである

個人的にACEiの使用頻度が低いとはいえ、相当驚きの論文です。
RASが著増するいわゆる狭義のSRCだけが含まれているわけではないでしょうし、薬剤そのもの作用とも思えず、因果関係があるようには思えません。恐らく何か交絡因子が複数関与していると思うのですが、よくわかりませんでした。
とはいえ大変重要な知見と思いますので、結果をまとめました。


Arthritis Res Ther. 2020 Mar 24;22(1):59.
ACE inhibitors in SSc patients display a risk factor for scleroderma renal crisis—a EUSTAR analysis

  • Design: EUSTARの前向きコホート
  • Patient: 最低1回の受診歴があり、SRCの既往がないSSc
  • Method: SRC、(動脈性)高血圧、降圧薬、糖質コルチコイド(GC)に関して分析


結果


  • 14524名のSScのうち7648人の患者を解析した
  • 27450人年で102人の患者がSRCを発症し、発症率は3.72/1000人年(95%CI 3.06-4.51)だった
  • SRC初発までの期間の中央値は1.7年(IQR 0.5-4.2)
  • 単変量で有意なSRCリスクは男性(24 vs 14%, p<0.001)、発症初期(3.1 vs 5.2y, p<0.001)、Scl70抗体陽性(46 vs 33%, p=0.001)、びまん型皮膚病変(49 vs 29%, p<0.001)、高血圧(38 vs 20%, p<0.001)、腱摩擦音(17 vs 8%, p<0.001)
  • SRC患者の5年死亡率は18.6%(95%CI: 13.0-26.3%)、non-SRC-SScの5年死亡率は9.5%(95%CI: 8.8-10.3%)
  • ACEiはSRC発症者で有意に多く投与されており(35 vs 18%, p<0.001)、ステロイド、CCB、ARBで有意差は見られなかった
  • このACEiの効果は、Propensity score matching及び確率重み付けを使用して調整したモデルでも同様だった
  • 多変量COX回帰分析で6083人、78人のSRCを解析したところ、有意なリスク因子はびまん性皮膚病変(HR 1.79, 95%CI 1.06-3.02)、高血圧(HR 2.22, 95%CI 1.34-3.66)、ACEi(HR 2.07, 95%CI 1.28-3.36)であった
  •  このACEiのリスクはPropensity score matchingやInverse probability weightingによる調整後も同様だった
  • 2つの最重要リスク要因である高血圧とACEiに相互作用は認められなかった(HR of interaction term 0.83, 95%CI 0.32–2.13, p = 0.69)


結論


  • ACEiはSRC治療の中心的存在だが、発症前の投与は SRC発症の独立した危険因子である
  • ARBはSRC発症リスクの点で、SSc患者の高血圧治療における安全な選択肢かもしれない

2020年2月2日日曜日

腎代替療法下の抗菌薬投与量

腎代替療法下の薬物投与量は文献によって記載がバラバラなことが多く、いつもどれを採用してよいか悩みます(特にCHDFのバンコマイシン)。色々文献を読んでみた結果、血液浄化の設定から薬物クリアランスを推定する方法が参考になったので紹介します。


日本における血液浄化療法の設定について

よく使われる間欠血液透析(IHD)と持続血液濾過透析(CHDF)の、日本における一般的な設定は以下です。

  • IHD: Qb 200mL/min, Qd 500mL/min
  • CHDF:  Qb 100mL/min, Qd 7-10mL/min, Qf 5-8mL/min

CHDFの設定が見慣れない数値だと思いますが、実際の機械に表示されるQd, Qfの単位はmL/hになっている点に注意です。

話は少し横道にそれますが、よく急性期血液浄化のstudyで見かける"High volume"、"Low volume"などの浄化量の単位はmL/kg/hourのようですので、勘違いしないように注意です。体重60kgなら数値は同じになるので勘違いしやすいです。私も勘違いしていました。


腎代替療法のクリアランスの基本的な考え方

  • IHDの場合、QdがQbより大きいため、クリアランスはQbに依存する
  • CHDFの場合、 Qd, QfがQbと比較して極めて小さいため、クリアランスはQd, Qfに依存する
  • IHDでは少分子量であるほど除去されやすい
  • CHF(CHDFを含む)では中分子量物質(MW 500-20000)も除去されやすくなる
  • アルブミン(MW 60000)と結合している物質は血液浄化での除去は期待できない


IHDにおけるクリアランス推定

IHDの場合、QdがQbより大きいため、クリアランスはほぼQbに依存します。

MW110で蛋白結合率0%であるクレアチニンのIHDにおけるクリアランスは、Qb 200mL/minで150mL/min程度になるようです。
IHDが1回4時間、週3回なので、Ccr 10.7mL/min相当と計算されます。
バンコマイシンはMW 1449、蛋白結合率34%ですので、5-10mL/min程度のクリアランスになると推定できます。


CHDFにおけるクリアランス推定

CHDFの場合、 Qd, QfがQbと比較して極めて小さいため、クリアランスはQd, Qfに依存します。

CHDFの場合は透析と限外濾過で除去される量からクリアランスが推定でき、流量が少ないためほぼQd+Qf(=浄化量)に等しい値と考えて良いようです。
したがって一般的な設定だと、Ccrは12-14mL/min相当になります。


クリアランス推定と投与量設計のまとめ

上記のクリアランス推定を基本として、

  • 自尿(残腎機能)があるとクリアランスは尿量分上がる。
  • CHDFではIHDと比べて低効率長時間のため分布容積が大きくても除去されやすい。

などの要素を加えて、推定クリアランスを修正して投与設計すれば良いと思われます。
細かいことを述べましたが、結局ほとんどどの場合はクリアランス5-10ml/min相当になるので、めんどくさい人はそれで覚えても大体のケースでは大丈夫だと思います。



参考文献
1) 日本内科学会雑誌 第103巻 第 5 号
2) Jpn J Nephro1 Pharmacother 2014; 3(1): 3-19.
3) 白鷺病院ホームページ
http://www.shirasagi-hp.or.jp/goda/fmly/gate.html