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2023年7月28日金曜日

チゲサイクリンの嘔気の対処法

今回はめちゃくちゃマニアックな記事ですね。興味ない方はすみません。読み飛ばしてください。刺さる人には刺さる(はず)


ある症例:

東南アジアに居住歴があるM. abscessusによる蜂窩織炎の50代女性。薬剤感受性はクラリスロマイシンは誘導体性がなくSであったが、イミペネムがI、ドキシサイクリン、モキシフロキサシン、ST合剤のいずれもRであった。

クラリスロマイシン+アミカシン+イミペネム+チゲサイクリンで治療を開始したところ、翌日から嘔気・嘔吐が出現した。

チゲサイクリンによる嘔気と思われる経過だが、薬剤変更の選択肢が乏しい中でチゲサイクリンを中止せざるを得ないのだろうか?



本題:

この症例は、代替薬はリネゾリドやクロファジミンなど、あるにはありますが、選択肢が少ない中で大事に使いたい薬剤なので、チゲサイクリンの嘔気への対処法について少し調べてみました。


チゲサイクリンの論文は古いものしか出てこないのですが、嘔気の対処について書かれたよさげなレビューと忍容性試験を見つけました。


Clin Infect Dis. 2006 Aug 15;43(4):518-24.

  • チゲサイクリンの最も高頻度である副作用は嘔気、嘔吐
  • 嘔気、嘔吐は用量依存性であり、薬物注入速度を遅くしても軽減されない
  • 制吐薬の投与でチゲサイクリンの忍容性は改善する
  • 嘔気は通常、最初の 1~2日間で発生し、ほとんどの患者では一過性である
  • チゲサイクリンの中止率は5%で、嘔気 (1.3%) と嘔吐 (1.0%) に関連したものが最多


Antimicrob Agents Chemother. 2005 Jan;49(1):220-9.

  • 単回投与でプラセボと比較した健常人の忍容性試験
  • 投与時間はむしろ60分より30分の方が嘔気が少ない
  • 食後に投与すると嘔気が軽減する
  • チゲサイクリンが胆汁から排泄され、消化管を刺激する機序が推定されている


ということで、対処法をまとめると以下。

  • 投与時間は30分の方が良い(消化管の通過時間の問題?)
  • 投与前に何か食べ物を摂取していただく
  • 制吐剤はもちろん使ってもらう
  • 一過性の症状である可能性も高いので、もう少しだけ我慢してもらうよう励ます


2023年7月14日金曜日

Corynebacteriumに対するダプトマイシン曝露により、高度耐性株が選択される現象

感受性の分からないコリネバクテリウムにダプトマイシンは使いにくい、という話。


ダプトマイシンのMICがやや高いCorynebacteriumはしばしば目にしますが、そこまでよくあることでもないので、実際どのくらいなのか気になって調べてみました。


以下のようにダプトマイシン耐性株の症例報告はちょこちょこ引っかかります。

NVE:Antimicrob Agents Chemother. 2012 Jun;56(6):3461-4.

HSCT後の菌血症:J Clin Microbiol. 2009 Jul;47(7):2328-31. 

PJI:BMC Infect Dis. 2022 Mar 26;22(1):290.


Antimicrob Agents Chemother. 2003 Jan;47(1):337-41.

これは米国のサンプルサイズのやや大きい研究ですが、29/31 (94%) がダプトマイシンに感受性あり、ということでした。


Rev Inst Med Trop Sao Paulo. 2021 Jun 18;63:e49.

ブラジルの報告、1/10 (90%) が感受性あり。


Clin Microbiol Rev. 2013 Oct;26(4):759-80. 

CMRのレビュー。コリネのダプトマイシンの耐性について、「めったに観察されないことだが、高レベルのダプトマイシン耐性は、ダプトマイシン療法の副次的効果の可能性がある」と書かれています。


Antimicrob Agents Chemother. 2017 Oct 24;61(11):e01111-17.

J Infect Chemother. 2019 Nov;25(11):906-908.

ダプトマイシンの投与歴がある症例で高度耐性株が誘導された、という報告が複数あります(JICは阪大からの報告)。

上のAACでは感受性のある株にダプトマイシンを24時間曝露すると、全て耐性株となったというin vitroのデータが示されています。

バンコマイシン、テイコプラニンではこういうことはないようです。



ということで、まとめると、

  • 何の曝露もない状態だと、Corynebacteriumのダプトマイシン感受性率は90%以上
  • ダプトマイシンの曝露後に、急速に高度耐性株が選択されることがある



ダプトマイシン投与中や投与歴のある場合は、MICの動向に注意が必要なようです。

どうしても長期投与が必要になる骨髄炎、IE、PJIなどでは気をつけたいですね。


2023年7月7日金曜日

抗菌薬による薬剤性腎障害は、類似薬に交差性があるか?


ある症例:

腹腔内膿瘍に対してセフェピム+メトロニダゾールで治療していた患者さんが、治療開始12日目にCrが0.8から1.3に上昇、14日目の再検で1.9とさらに上昇しました。

セフェピムによる腎障害を疑い、セフェピムは中止。

代替薬を選択するにあたり、もちろんキノロンやST合剤は選択肢に上がりますが、他のβラクタム薬は選択肢に入れて良いのでしょうか?(類似薬は交差するのでしょうか?)



本題:


Int J Mol Sci.2021 Jun; 22(11): 6109.

まず、薬剤性腎障害のメカニズムですが、主に以下の3通りになります。


  1. 急性尿細管壊死 (ATN):アミノグリコシド、アムホテリシンB、テノホビル、シドフォビル、シスプラチン
  2. 尿細管分泌による閉塞:メトトレキサート、アシクロビル、スルファジアジン、シプロフロキサシン
  3. 急性尿細管間質性腎炎 (ATIN):PPI、NSAID、免疫チェックポイント阻害剤、βラクタム、ST合剤


ATNは細胞内蓄積によるので用量依存性、原則として緩徐進行です。

対策は補液。


尿細管分泌は薬剤の尿細管タンパクとの反応で結晶化や円柱による尿細管閉塞性の障害が起きます。

対策は結晶化を抑制する尿pH管理です(適正値は薬剤による)


ATINはハプテンや遅延型IV型アレルギーが関与する免疫原性であり、抗原提示されて免疫反応が起きる過程なので10日以内の急性に起こります。

予防はありませんが、早期にはステロイド治療が有効です。


余談になりますが、バンコマイシンは3つのメカニズム全てが関与していて複雑のようです。補液をしても予防できず、テイコプラニンと交差したりしなかったりするのはこのせいですね。納得。


閑話休題。


ということで交差するかどうかを考えなければならない薬剤性腎障害はATINのみなのですが、先にβラクタム薬の側鎖推定の考え方についておさらいしておきます。


Lancet. 2019 Jan 12;393(10167):183-198

こちらは薬剤アレルギー全般の考え方が述べられている総説です。

βラクタムの薬剤アレルギーが交差するかどうかは、主にペニシリン、セファロスポリンの側鎖(R1)が関係しています。

各クラス間の交差率は以下の図の通りで、R1側鎖で大きく5つのグループに分かれます。

  • ペニシリンと第一世代セファロスポリンの一部
  • 第一世代と第二世代セファロスポリン
  • 第三世代と第四世代セファロスポリン
  • カルバペネム系
  • モノバクタム系


メカニズムを考えれば皮膚で起きていることが腎臓で起きているだけなので、薬疹と同じ考え方(側鎖推定)をしても問題ないと理解して良さそうですが、そもそもATINが交差性の薬剤で反応するのかデータ不足なのと、理論上の死亡リスクがあることからリスクベネフィットバランスが取れていないのではないかという意見でした。

この総説ではATIN(論文中ではAINと表記されている)は臓器障害なので重篤な病変と考え、側鎖のみの交差性では選ばず、βラクタム全般を避ける安全マージンを取った意見になっています(下図)。


側鎖推定をする場合は専門家に相談してね、と書いてあるので絶対に使ってはダメということではないです。もちろん既往有害事象の程度の問題もあるでしょう。



Adv Chronic Kidney Dis. 2017 Mar;24(2):64-71.

もう1個総説を読んでみます。薬剤性間質性腎炎の総説で、ATINを交差性で考えてよいかについて書かれた部分が少しだけありました。


以下、該当部分を和訳抜粋。

モノバクタム系を除くすべてのβ-ラクタム系抗菌薬は、5員環または6員環で構成されている。モノバクタム系にペニシリン系との交差反応性が報告されておらず、ATINの原因として報告されていないのは、このためである。

ペニシリンアレルギーの患者におけるセファロスポリンとの交差反応は12%と推定されているが、この注意は主にI型反応に対してであり、ATINのようなIV型反応に対しては推測に過ぎない。



冒頭の症例の結論:

今回の腎障害がセフェピムによるATINと考えると、安全マージンを取れば、βラクタムで使ってよいのはアズトレオナム(モノバクタム系)のみ。

ペニシリン系、1,2世代セファロスポリン、カルバペネムは2%未満のごく低確率での交差性は推定されるので、必要性が高い場合は専門家に相談の上で使用を考慮する。


2022年5月26日木曜日

PCPに対するクリンダマイシン+プリマキンの効果

連日PCPネタばかりで申し訳ないですが、興味のある時に調べておくに限ります。

クリンダマイシン+プリマキンについて臨床効果を調べてみると、結構有用な論文がたくさん出てきたので、主なものを3つ紹介します。

一次治療、二次治療、毒性での変更、いずれでもSTと遜色ない生存率の報告が多く、普通に使える治療という印象を持ちました。

有害事象で特記すべきものはメトヘモグロビン血症(下記文献だと頻度3%)くらいでしょうか。メトヘモグロビンが著しく増えると自覚症状は乏しいがSpO2 が85%付近に収束し、BGAを確認するとPaO2は問題なくMet-Hbが増えていることで診断できます。


先にサマライズすると、

  • STとクリンダマイシン・プリマキンは、一次治療も二次治療もほぼ同等の成績(生存率)で、ペンタミジン静注はやや治療成績が低いように見える
  • 有害事象で問題になるのは血液毒性(好中球・血小板減少、メトヘモグロビン血症)



A meta-analysis of salvage therapy for Pneumocystis carinii pneumonia.

Arch Intern Med. 2001 Jun 25;161(12):1529-33.

  • デザイン:メタ解析
  • 対象試験:一次治療※が失敗したPCPに対して、代替薬が使用された臨床試験・症例シリーズ・症例報告
  • 対象患者:生検、BALF、喀痰塗抹によりPCPが微生物学的に確認された症例
  • ※ 一次治療失敗の定義:治療開始後4~5日目に臨床的悪化が起こるか、7日以上治療しても患者の状態が改善しないこと

結果:

  • 27文献から497患者を抽出(HIV 456名)
  • 失敗した一次治療は、ST 160例、静注ペンタミジン63例、吸入ペンタミジン6例、アトバコン3例、ダプソン3例、TMP+ダプソン配合剤2例、STに続いてCLDM+プリマキンを併用(2例)など
  • 失敗した一次治療の期間は、3日以上33人、4日以上20人、6日25人、5〜7日以上358人、記載なし61人
  • サルベージ治療は、トリメトレキサート159例、ペンタミジン164例、塩酸エフルニチン70例、クリンダマイシン+プリマキン48例、ST 51例、アトバコン5例が含まれた
  • 一次治療無効のPCPのサルベージ治療の中で、クリンダマイシン・プリマキン併用療法が最も有効だった

コメント:

  • PCPに対するSTとペンタミジンの大規模な前向き比較試験において
    • 治療不応のために薬剤変更を必要とする人の生存率は、ST群46%、ペンタミジン群56%
    • 毒性により治療法を変更した場合の生存率は、それぞれ97%と94%と報告されている。

(AIDS. 1992;6301- 305)



Comparison of three regimens for treatment of mild to moderate Pneumocystis carinii pneumonia in patients with AIDS. A double-blind, randomized, trial of oral trimethoprim-sulfamethoxazole, dapsone-trimethoprim, and clindamycin-primaquine. ACTG 108 Study Group.

Ann Intern Med. 1996 May 1;124(9):792-802.

  • デザイン:RCT、二重盲検
  • P: HIV患者でP.jirovecii が形態学的に確認され、AaDO2≤45mmHg以下のPCP
  • I&C: ST、ダプソン+トリメトプリム、クリンダマイシン+プリマキンに割り付け
    • PAO2-PaO2が35~45mmHgの患者にはプレドニゾンも投与した
  • O: 21日目の治療失敗(PAO2-PaO2が20mmHg以上増加したこと、ベースラインの徴候や症状が寛解しなかったこと、毒性、挿管、死亡以外の理由で抗ニューモシスチス療法を変更したことのいずれか)

結果:

  • 181例を登録、ST群64例、ダプソン+トリメトプリム59例、クリンダマイシン+プリマキン58例を割り付け
  • 投与量制限毒性、治療失敗、治療完了を示した患者の割合に治療群間の統計的有意差はなかった
  • 治療期間中およびその後2カ月間の生存率は3群間で差がなかった。


  • ALTがベースライン値の5倍以上に上昇したのはST群で多かった(P=0.003)
  • 重篤な血液毒性(好中球減少、貧血、血小板減少、メトヘモグロビン血症)はクリンダマシン・プリマキン群で多く発生した(P=0.01)



Clinical efficacy of first- and second-line treatments for HIV-associated Pneumocystis jirovecii pneumonia: a tri-centre cohort study.

J Antimicrob Chemother. 2009 Dec;64(6):1282-90.

方法:

  • コペンハーゲン、ロンドン、ミラノの3つの観察コホートで行われたHIV関連PCP患者1122人、1188エピソードの症例レビュー

結果:

  • 初回治療はST(962例、81%)、静注ペンタミジン(87例、7%)、クリンダマイシン+プリマキン(72例、6%)、その他(67例、6%:アトバコン、ダプソン+ピリメタミン、トリメトレキサート、ペンタミジン吸入)
  • 治療法を変更しなかった割合は、ST 79%、クリンダマイシン+プリマキン65%、ペンタミジン60%だった (P<0.001))
  • 一次治療は82エピソード(7%)で失敗のため、198エピソード(17%)で毒性のため変更された
  • 3ヵ月生存率はST 85%、クリンダマイシン+プリマキン81%,静注ペンタミジン76%だった (p=0.09)
  • 二次治療の生存率は、ST 85%、クリンダマイシン+プリマキン87%と比較し。静注ペンタミジンが60%で優位に低かった (p=0.01)
  • ペンタミジンは 3 ヵ月死亡リスクが有意に高く (HR 2.0, 95%CI 1.2- 3.4)、多変量分析でも同様だった (HR 3.3, 95%CI 2.2-5.0)
  • クリンダマイシン+プリマキンはSTと比較して死亡リスクに差はなかった。

2022年5月14日土曜日

染色体性AmpCを持つ腸内細菌目の感染症に対してセフトリアキソン・ピペラシリンを使ってよいか

緑膿菌が血培から生えたVAPで、痰培養からは緑膿菌とSerattia marscesensが同定された、という事例がありました。

このVAPをピペラシリン(もしくはピペラシリン・タゾバクタム)で治療することは可能なのでしょうか?


CLSI-M100 28th

PIPCは内因性耐性とは書かれていないです(左から4列目)。もちろんABPC、ABPC/SBTは内因性耐性
なおEUCASTにPIPCの記載はありません





Kucers' The Use of Antibiotics 7th edition

Section2:10 メスロシロン・アズロシリン・アパルキリン・ピペラシリン より抜粋
ピペラシリンは腸内細菌科細菌に対して良好な活性を示すが、1997年以降、腸内細菌科細菌の耐性は著しく増加し、2004年には50%に達する地域も報告されている。
腸内細菌科細菌の耐性の主なメカニズムは、β-ラクタマーゼによる不活性化である
このため、ピペラシリンは腸内細菌科細菌に対してアンピシリンやチカルシリン単独よりも高い活性を示すが、チカルシリン-クラブラン酸、アンピシリン-スルバクタム、ピペラシリン-タゾバクタムよりも一般に低い活性を示す。
メスロシリン、アズロシリン、アパルキリン、ピペラシリンは、TEMβ-ラクタマーゼなどグラム陰性菌が生産する多くのβラクタマーゼで分解されることが確認されている。したがって,アンピシリンやカルベニシリンに後天的に耐性を獲得したグラム陰性菌の多くは、このグループの抗菌薬にも耐性を示すことになるしかし、TEM-1β-ラクタマーゼを産生する一部の大腸菌は、アンピシリンには耐性を示すが、メズロシリンやピペラシリンには比較的感受性を保っている。

つまりAmbler分類Aのβラクタマーゼ産生腸内細菌化細菌は、感受性があればピペラシリンを使ってもよさそうだ、と理解できます。
(注:AmpCの話ではないです。AmpCはAmbler class C。下図参照:日本臨床微生物学雑誌 Vol. 24 No. 3 2014)




少し横道にそれますが、Kucerによると、
S. pneumoniaeやViridans groupのペニシリン耐性は、PBPの変異によって媒介される。したがって連鎖球菌属の耐性はtazobactamやsulbactamのようなβ-lactam阻害剤では克服されない。
ピペラシリン活性に対するPBP変異の影響は、ペニシリンGおよびアンピシリン活性に対する影響よりも大きく、ペニシリンに対して中程度の耐性を有する連鎖球菌は、ピペラシリンに対して耐性を有する可能性がある。

つまり、連鎖球菌はPCGが中等度耐性以上(>0.12でしょうか?)であればPIPCも耐性のことが多い(とはいえ感受性をそのまま信じてよいのは同様)


さて、Serattia marscesensなどの染色体性にAmpCを持っている菌でも、PIPCの感受性をそのまま読んでいいのかというのが今回の疑問でした。
下記レビューを読んで結構頭が整理できたので紹介します。


AmpC β-lactamase-producing Enterobacterales: what a clinician should know.
Infection. 2019 Jun;47(3):363-375.

染色体性にAmpCをコードしている(cAmpC)臨床的に重要なグラム陰性菌で、特に重要なのはESCPMグループと呼ばれる腸内細菌目細菌
  • Enterobacter (Enterobacter cloacae complex, Enterobacter aerogenes)
  • Serratia marcescens
  • Citrobacter freundii
  • Providencia stuartii
  • Morganella morganii

cAmpCの主な特徴は、種によってAmpC遺伝子の発現レベルが異なることで、一部の抗菌薬によって発現が誘導され、抗菌薬へ耐性化を示す。
抗菌薬のcAmpC発現を誘導する性質と、誘導されたAmpCによって加水分解される性質から、以下の4つに区別できる。

1. 誘導性/不安定型β-ラクタム

例:アミノペニシリン系、第一世代セファロスポリン、セフォキシチン、セフォテタン
AmpCの発現を強く誘導し、抗菌薬自体は誘導されたAmpCで分解される性質をもつ。したがって通常これらの薬剤に耐性を示す。

2. 誘導性/安定型β-ラクタム

例:カルバペネム
AmpCの発現を強く誘導するが、抗菌薬自体は分解されない。外膜透過性を低下させるポリン改変がない限り、感性のまま。

3. 弱い誘導性/不安定型β-ラクタム

例:ウレイドペニシリン(例:ピペラシリン)、第3世代セファロスポリン、アズトレオナム
AmpC誘導能は弱いため、当初これらの抗菌薬に対して感受性を示すが、抗菌薬選択圧によりAmpC産生が誘導された株が選択された後に臨床的耐性となる。
したがって、このグループの抗菌薬はcAmpCの腸内細菌目に対してin vitro感受性があっても、使用は慎重に検討する。
ピペラシリン・タゾバクタムを例にすれば、ピペラシリンもタゾバクタムもAmpC誘導は弱いのでin vitro感受性は保持される場合がある。
AmpCはピペラシリンを加水分解し、タゾバクタムによっても阻害されないため、感受性の有無にかかわらず使用は慎重に検討すべきである。

4. 弱い誘導性/安定型β-ラクタム

例:セフピロム、セフェピム(第4世代セファロスポリン)
誘導能は弱く、かつAmpCが過剰に誘導された場合も、AmpC変種や別の耐性機構が存在しない限り、抗菌薬活性を保持する。


拡張スペクトルペニシリン(チカルシリン、チカルシリン-クラブラン酸、ピペラシリン、メズロシリン)、第3世代セファロスポリンに対する臨床的耐性化は、平均9日(範囲4〜18日)後の第3世代セファロスポリン治療後に発生する
Ann Intern Med. 1991 Oct 15;115(8):585-90.

ちなみにプラスミドAmpCはほぼ常に構成的に発現し、抑制されていないcAmpC(過剰産生型)と同様の耐性パターンと考えて良いようです。
例外として、BlaDHA-1遺伝子のようないくつかのプラスミドAmpC遺伝子は、cAmpC遺伝子と同様に発現が制御され、β-ラクタム薬によって誘導可能とのことでした。
Clin Microbiol Rev. 2009;22:161–82.


cAmpCの治療で、RCTなどの臨床的なデータは多くないのですが、有名なMERINO-2 trialは一応参考になります。
ピペラシリン・タゾバクタムは血流感染だと少し失敗率が高いかもしれない、とも読み取れますがNが少なすぎますね。
今後の追試が必要です。


Open Forum Infect Dis. 2021 Aug 2;8(8):ofab387.
  • Design: 多施設RCT、Open-label
  • P: Enterobacter spp、Klebsiella aerogenes、Serratia marcescens、Providencia spp、Morganella morganii、Citrobacter freundiiの血流感染。かつ、第3世代セファロスポリン、ピペラシリン・タゾバクタム、メロペネムに感受性あり
  • I: ピペラシリン・タゾバクタム4.5g q6h
  • C: メロペネム1g q8h
  • O: 30日死亡率、臨床的失敗(5日目での体温or白血球増加)、微生物学的失敗(3~5日目での指標菌検出)、30日時点での微生物学的再発、の複合エンドポイント

結果:

  • ピペラシリン・タゾバクタム群40名、メロペネム群39名が割り付けられた
  • 主要評価項目達成は、ピペラシリン・タゾバクタム群では38例中11例(29%)、メロペネム群は34例中7例(21%)、リスク差8%(95%CI -12%~28%)
  • 微生物学的失敗は、ピペラシリン・タゾバクタム群では38例中5例(13%)、メロペネム群では34例中0例(0%)だった。リスク差13%(95%CI、2%~24%)
  • 微生物学的再発は、ピペラシリン・タゾバクタム群0%、メロペネム群9%だった
  • 微量液体希釈法による感受性率は、ピペラシリン・タゾバクタムが96.5%、メロペネムが100%であった

結論:

  • AmpC産生菌による血流感染症に対するピペラシリン・タゾバクタムは、微生物学的再発は少なかったが,微生物学的失敗が多くなった


長くなりましたが、まとめると
  • 染色体性AmpCの腸内細菌目(ESCPM)に対しては、セフェピムかカルバペネムが鉄板
  • ピペラシリン、セフトリアキソンも感受性があれば、現場の判断で慎重に使っても良さそう
  • 血流感染はやめておいた方がいいかも(MERINO-2)

2020年2月2日日曜日

腎代替療法下の抗菌薬投与量

腎代替療法下の薬物投与量は文献によって記載がバラバラなことが多く、いつもどれを採用してよいか悩みます(特にCHDFのバンコマイシン)。色々文献を読んでみた結果、血液浄化の設定から薬物クリアランスを推定する方法が参考になったので紹介します。


日本における血液浄化療法の設定について

よく使われる間欠血液透析(IHD)と持続血液濾過透析(CHDF)の、日本における一般的な設定は以下です。

  • IHD: Qb 200mL/min, Qd 500mL/min
  • CHDF:  Qb 100mL/min, Qd 7-10mL/min, Qf 5-8mL/min

CHDFの設定が見慣れない数値だと思いますが、実際の機械に表示されるQd, Qfの単位はmL/hになっている点に注意です。

話は少し横道にそれますが、よく急性期血液浄化のstudyで見かける"High volume"、"Low volume"などの浄化量の単位はmL/kg/hourのようですので、勘違いしないように注意です。体重60kgなら数値は同じになるので勘違いしやすいです。私も勘違いしていました。


腎代替療法のクリアランスの基本的な考え方

  • IHDの場合、QdがQbより大きいため、クリアランスはQbに依存する
  • CHDFの場合、 Qd, QfがQbと比較して極めて小さいため、クリアランスはQd, Qfに依存する
  • IHDでは少分子量であるほど除去されやすい
  • CHF(CHDFを含む)では中分子量物質(MW 500-20000)も除去されやすくなる
  • アルブミン(MW 60000)と結合している物質は血液浄化での除去は期待できない


IHDにおけるクリアランス推定

IHDの場合、QdがQbより大きいため、クリアランスはほぼQbに依存します。

MW110で蛋白結合率0%であるクレアチニンのIHDにおけるクリアランスは、Qb 200mL/minで150mL/min程度になるようです。
IHDが1回4時間、週3回なので、Ccr 10.7mL/min相当と計算されます。
バンコマイシンはMW 1449、蛋白結合率34%ですので、5-10mL/min程度のクリアランスになると推定できます。


CHDFにおけるクリアランス推定

CHDFの場合、 Qd, QfがQbと比較して極めて小さいため、クリアランスはQd, Qfに依存します。

CHDFの場合は透析と限外濾過で除去される量からクリアランスが推定でき、流量が少ないためほぼQd+Qf(=浄化量)に等しい値と考えて良いようです。
したがって一般的な設定だと、Ccrは12-14mL/min相当になります。


クリアランス推定と投与量設計のまとめ

上記のクリアランス推定を基本として、

  • 自尿(残腎機能)があるとクリアランスは尿量分上がる。
  • CHDFではIHDと比べて低効率長時間のため分布容積が大きくても除去されやすい。

などの要素を加えて、推定クリアランスを修正して投与設計すれば良いと思われます。
細かいことを述べましたが、結局ほとんどどの場合はクリアランス5-10ml/min相当になるので、めんどくさい人はそれで覚えても大体のケースでは大丈夫だと思います。



参考文献
1) 日本内科学会雑誌 第103巻 第 5 号
2) Jpn J Nephro1 Pharmacother 2014; 3(1): 3-19.
3) 白鷺病院ホームページ
http://www.shirasagi-hp.or.jp/goda/fmly/gate.html