ラベル ワクチン の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル ワクチン の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2021年5月29日土曜日

BNT162b2 mRNAワクチン(Pfizer COVID-19ワクチン)に対するMTX投与の影響

 in vitroですが、MTX投与者のCOVID-19ワクチンの抗体反応、およびCD8+ T細胞応答はやや減弱するというデータが、ARDに出ています。

これが実際の個人の免疫や集団免疫にどの程度影響するかというと、あまり問題にならないのではないか、というのが個人的な推測(感想)です。



Methotrexate hampers immunogenicity to BNT162b2 mRNA COVID-19 vaccine in immune-mediated inflammatory disease.

Ann Rheum Dis. 2021 May 25:annrheumdis-2021-220597.

  • 免疫介在性炎症疾患(IMID)における、BNT162b2(Pfizerワクチン)の抗体価及びT細胞応答を、MTX投与者とそれ以外の治療に分けて調査
  • 健常コントロール26例、non-MTX 26例、MTX 25例を検討
  • 平均年齢は健常群49.2歳、non-MTX群49.1歳、MTX群63.2歳
  • non-MTXの治療は、TNF阻害薬11例(42.3%)、他のサイトカイン・JAK阻害薬が9例(34.6%)、その他7例
  • MTXの投与量は15.7±5 mg/w
  • 十分な抗体反応(>5000U)が得られた割合は、健常人96.1%、non-MTX群92.3%、MTX群72.0%だった
  • スパイク特異的B cell、cTfh(CD4+ICOS+CD38+)、活性化CD4+ T cell、HLADR+ CD8+ T cellの割合は全てのグループで有意に増加した
  • 活性化CD8+ T cell(Ki67+ CD38、GZMB+)は、MTX投与群では誘導されなかった


補足:

MTX群の平均年齢は10才以上高く、COVID-19既往も半分以下ですので、これがかなり大きなバイアスになっている可能性があります。

Pfizerワクチンの治験データでも高齢者の抗体反応は若干低下していました。

N Engl J Med 2020; 383:2439-2450


この検討では抗体価5000Uをカットオフにしていますが、NEJMのFigureを見る限り、健常高齢者の5000以上の抗体反応率は90%を切っていそうであり、回復期血漿の抗体価が平均600くらいみたいなので、MTX群の抗体反応の低下が実際にはどのくらいsevereな問題なのかはよくわかりませんね。


あとインフルエンザワクチンのRCTと同じく、MTX投与量が多いことが影響している可能性があります。


Ann Rheum Dis. 2018 Jun;77(6):898-904.

  • インフルエンザワクチン前のMTX2週間休薬は非休薬と比較して抗体反応率を有意に上げる
  • サブ解析でMTX7.5mg以下の抗体反応率は有意差なし(用量依存性)
  • ただし休薬群のRA flareは2倍になった


ACRはあまり根拠なく接種前のMTX1週間休薬を推奨していますが、JCR推奨は基本的に休薬せずに接種する、という記載になっています。

本検討ではMTX投与量も日本と比べるとかなり多いので、日本で多いMTX8mg/w前後の方への影響は軽微かもしれないとも思えます。

個人的には少なくとも全員一律にMTXを休薬する必要はなく、よほど落ち着いている人では検討すればいいのではないかと考えています。


2021年2月2日火曜日

B.1.351変異株に対するmRNA-1273接種者血清の中和能

ワクチンの変異株への影響が検証されています。とてもインパクトがあるデータです。


BioRxiv. Preprint Posted January 25, 2021.

doi: 10.1101/2021.01.25.427948

https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.01.25.427948v1


  • mRNA-1273(モデルナワクチン)臨床試験参加者の血清のウィルス中和アッセイを検証
  • D614Gに対するGMTは1/1852
  • K417N-E484K-N501Y-D614Gに対するGMTは2.7倍低下した(1/686?)
  • B.1.351変異株に対するGMTは1/290(6.4倍低下)であったが、すべての血清で完全に中和可能だった
  • mRNA-1273ワクチン接種後のB.1.351変異株に対する中和は減少したものの、依然として有意だった





懸念通りワクチンの中和能は南アフリカ変異株(B.1.351系統)で明らかに低下しますが、臨床的効果や集団免疫に大きな影響を及ぼすかというと、そこまでではないのかもしれません。

またこちらも予想通り、英国株(B.1.1.7系統)のワクチン効果への影響は極めて軽微であり、E484KがGMTに大きく影響していそうに見えることから、ブラジル変異株(B.1.1.28.1系統)も南アフリカ変異株と同様であると予想できそうです。


なお既に南アフリカ変異株に最適化されたmRNA-1273.351が治験段階に入っており、mRNA-1273の3回目のブースターとして接種することがRCTで検証予定のようです。

BMJ. 2021 Jan 26;372:n232.

https://www.bmj.com/content/372/bmj.n232


想像を超えたスピードで開発が進んでいきますね。日本の科学競争力が悲しい・・・


2021年1月23日土曜日

英国変異株B.1.1.7へのワクチン効果

議論している間にどんどんデータが出てきますね。ひとまず良いニュースで安心しますが、問題の南アフリカ変異株はまだみたいです。


BioRxiv. Posted January 19, 2021.

https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.01.18.426984v1


  • 武漢株、及び英国変異株 B.1.1.7 由来スパイク蛋白を含むPseudo-SARS-CoV-2を、BNT162b2 (ファイザーワクチン)接種者の血清を用いて中和できるか検討した
  • ワクチン免疫血清は両バリアントに対して同等の中和力価を有していた
  • B.1.1.7 変異株がBNT162b2による免疫を逃避する可能性は非常に低いと考えられる


2020年9月26日土曜日

BCGワクチン投与による高齢者の感染症に対する影響

半年ほど前から主に後期研修医の先生を対象に、Journal clubを始めています。論文の読み方を教えながら、僕も論文をたくさん読むことができるというWin-Winな企画です。
今回の論文は後期研修医の高崎先生がサマライズしてくれた、CellのBCG論文です。


Activate: Randomized Clinical Trial of BCG Vaccination against Infection in the Elderly.
Cell. 2020 Sep 1
doi: 10.1016/j.cell.2020.08.051 [Epub ahead of print]
  • Design: Phase III,  double-blind RCT
  • P: 患者背景は、80歳の高齢者で7割に高血圧症があり、約3割に糖尿病、慢性心不全、AFがある。
  • 除外項目
    • 5年以内に固形悪性腫瘍やリンパ腫と診断された患者
    • 直近の3ヶ月より前から10mgのPSLを毎日投与されている患者
    • HIV-1感染や500/mm3以下の好中球減少や臓器・骨髄移植後、化学療法中、先天性免疫不全、リンパ球数が400/mm3以下、サイトカインを抑制する治療を受けているなどの免疫抑制患者
    • IGRAが陽性の患者
  • I: 退院前にBCGワクチンを投与(N=72)
  • C: プラセボ群(N=78)
  • O: Primary endpoint 退院後12ヶ月間での新規感染症の発症を評価した。

結果

  • 新規感染までの期間はプラセボ群が11週であったのに対して、BCGワクチン投与群では16週であった。
  • 新規感染の発症率はプラセボ群が33人と42.3%(95%信頼区間:31.9-53.4%)であったのに対して、BCG投与群では18人と25.0%(95%信頼区間:16.4-36.16%)であった(p値 0.039)。
  • 最も予防効果があったのは、恐らくウイルス感染によると思われる呼吸器感染症であり、プラセボ群が14人と17.9%であったのに対して、BCG投与群では3人と4.2%であった(ハザード比 0.21, p値 0.013)。
  • 呼吸器感染症全体ではプラセボ群が24人と30.1%であるのに対して、BCG投与群が6人と8.3%であった(p値 0.002)。
  • 100人年での感染症全体ではプラセボ群で45人と57.7%であるのに対して、BCG投与群では24人と33.3%である(p値 0.003)。
  • 有害事象に関しては差異は認められなかった。

解釈

  • IGRA陰性の高齢者にBCGワクチンを投与することでウイルス性呼吸器感染症の発症を低下させることができる可能性がある。
  • BCGワクチンが定期接種となっている地域でCOVID-19感染症の蔓延が抑えられていることと関係があるかはこの研究だけでは分からず、COVID-19感染症蔓延地域で同様の研究を行い、COVID-19感染症の発症率が低下するかどうかを調べる必要がある。

感想&補足コメント

このRCTには少なくとも2つ大きな問題点があります。
1つはイベント数に比してサンプルサイズが小さすぎること、もう1つは解析対象の時点で2割以上の脱落が生じていることです。99人のプラセボ群は78人、103人のBCG群は72人しか解析対象になっていません。
もともとサンプルサイズが小さいにも関わらず、脱落がイベント数と同じくらい起きているので、Main figureの信頼性に致命的な疑いが生じていると言わざるを得ません。

この試験での適切なサンプルサイズを試しに計算してみると、各群N=300くらい必要のようです(1:1割付、プラセボ群のイベント30%、BCG群のイベント20%、検出力80%、有意水準5%)。

ということで内的妥当性に致命的な欠陥があるように見える試験なので、当然ながら外的妥当性は吟味するまでもありません。言い換えれば現時点で高齢者にBCGを打つようなことは、たとえ患者の強い希望でもしないでしょう

では、なぜこの論文が基礎系のトップジャーナルであるCellに載ったのか、それは後半のBCG接種者の単球系プロファイルに価値がある、と理解できます。
BCGを接種すると3ヶ月後の単球系は、エピゲノム修飾を受けてIL-6、TNFα、IFN signatureが活性化し、ウィルス免疫や自然免疫の誘導が起きている、という事実そのものに大きな意味があるのでしょう。

考えてみればワクチンのように単一の病原体ではなく、広範囲のウィルス性呼吸器感染症をターゲットとした一次予防アプローチというのは予防医学の全く新しい概念であり、ワクチンや抗菌薬に次ぐ医学史上の大発見の可能性がありそうです。
今後BCGに限らず別の抗原や薬剤での検証で、同様もしくはこれ以上に効果が得られる方法を探索していくための第一歩となる論文、その将来性と発展性が、この論文がCellに掲載された理由なのだろうと思います。

2020年7月16日木曜日

免疫正常者のIPDで、二次予防としてPCVを打つべきか

肺炎球菌による髄膜炎を発症した免疫正常な方の二次予防について、ワクチンをどう打てば良いか疑問を持ちました。個人的に勉強したことを共有させていただきます。

ACIPの記載

MMWR, September 3, 2010, Vol 59, #34
免疫正常の19-64才でPPSV23を打つ適応があるのは、
慢性心不全(高血圧を含む)、肺疾患(COPD、肺気腫、喘息)、喫煙、糖尿病、髄液漏、人工内耳、アルコール多飲、慢性肝疾患(肝硬変)
となっており、IPDの既往は含まれません。なおPCV13については記載がありません。

UpToDate

"Pneumococcal vaccination in adults" の Initial vaccination の項にある
History of invasive pneumococcal disease に以下の記載があります。

"We vaccinate individuals who have a history of invasive pneumococcal disease (eg, meningitis, bacteremia) with both PCV13 and PPSV23 because they have proven to be susceptible to pneumococcal infection and because infection with one serotype does not provide protection against other serotypes. However, the ACIP has not issued a statement on vaccination for this population."
ACIP推奨はないが著者のエキスパートオピニオンでPCV13とPPSV23を打つのが良い。
しかしこれを支持するエビデンスやガイドラインはないようです。


IPD二次予防としてのPCVのRCT

ACIPでHIV患者にPCV13とPPSV23を推奨する記載(MMWR, October 12, 2012, Vol 61, #40)の根拠論文の一つを読んでみたところ、IPDになった健常人のデータが、以下のように少しだけ含まれていました。

J Infect Dis. 2010 Oct 1;202(7):1114-25.
Design:
Double blind RCT
P: 2003~2007年にマラウイのQueen Elizabeth Central HospitalでIPDを生き延びた患者
I: PCV7接種
C: プラセボ(1:1割付)
O: ワクチン血清型または血清型6AによるIPD発生率

結果:
  • 496名(うち88%がHIV陽性)を登録
  • 798人年の観察期間中、52人の患者に67のIPDイベントが発生
  • IPDイベントの全てがHIV患者に発生した
  • IPDイベントのうち19がワクチン血清型、5が血清型6Aだった
  • この24イベントの各群の内訳はPCV7群5件、プラセボ群19件で、
  • ワクチン有効性は74% (95%CI 30〜90) と評価された

ということで、HIVでもNNTは60程度です。基礎疾患なしでIPDになった人は、HIVのように再罹患率が高いわけではないので、PCVで得られるメリットは相当少ないと予想されます。

結論

免疫正常者のPCVによるIPD二次予防は、得られるメリットが相当限定的であるため、少なくとも積極的な推奨はされない。PPSVもデータはないが同様と考えるのが自然ではある。


2020年7月12日日曜日

狂犬病ワクチンスケジュールの厳密性

狂犬病ワクチンのスケジュールは厳密に運用されていることが多いと思います。
しかしRAの生物学的製剤であれば、患者さんの都合で治験のAllowance程度のアレンジした投与は個人的には許容しています。
そこで狂犬病ワクチンではどうなのか調べてみました。

Vaccine. 2000 Dec 8;19(9-10):1055-60.
少し古い論文ですがRabipurの曝露前予防の臨床試験です。Methodを細かく見ていくと、
"Each subject received three doses of vaccine, one on day 0, one on day 7 (+-1), and one on day 28 (+-2)."
ということで、Allowanceが設定されていました。

Rabipurの曝露後予防、Zagreb、タイ赤十字方式などを検証した論文のMethodをいくつか見てみましたが、明確にAllowanceが記載されたものを見つけることはできませんでした。
J Commun Dis. 1995 Mar;27(1):36-43.
Vaccine. 2006 May 8;24(19):4116-21.
Int J Infect Dis. 2002 Sep;6(3):210-4.
Vaccine. 2009 Dec 10;28(1):148-51.

ところで自分が担当していたRAの国内治験の論文を見てみると、実際の現場ではAllowanceが設定されていたにもかかわらず、論文にはAllowanceが記載されていないことに気づきました。詳しい倫理規定についてはよくわからないのですが、論文化する際にAllowanceの詳細まで書く必要はないということだと思われます。
実際のところ狂犬病の臨床試験でもAllowanceが設定されていた可能性はあるかもしれません。ないかもしれませんが。


UpToDateでは、以下のように2,3日のズレに関しては許容する記載があります。
Deviations of a few days from the immunization schedule do not require complete reinitiation of vaccination [51]
この根拠論文[51]を読んでみます。


N Engl J Med. 2004 Dec 16;351(25):2626-35.
"Deviations of a few days are unimportant, but the effect of lapses lasting weeks or months is unknown.
Most deviations will not require complete reinitiation of vaccination."
2,3日の接種のずれは重要ではないが、週単位以上でずれると影響はわからない。
この箇所の根拠として更にACIPの推奨が引用されていましたので読んでみます。


MMWR Recomm Rep. 2002 Feb 8;51(RR-2):1-35.
この論文の Spacing of Multiple Doses of the Same Antigen という章に以下の記載がありました。
"ACIP recommends that vaccine doses administered <4 days before the minimum interval or age be counted as valid. However, because of its unique schedule, this recommendation does not apply to rabies vaccine."
複数回打つワクチンは3日以内で前後してもよいが、狂犬病ではそれを適用しないで下さい、とのこと。
この箇所も更に過去のACIPの引用が根拠になっていますので読んでみます。


MMWR Recomm Rep. 1999 Jan 8;48(RR-1):1-21.
"... failures have occurred abroad when some deviation was made from the recommended postexposure treatment protocol
 or when less than the currently recommended amount of antirabies sera was administered."
米国では狂犬病曝露後予防での失敗例はないが、他の国では決められたプロトコルから逸脱があった例で、曝露後予防の失敗例が報告されている(のでプロトコルから逸脱しないようにしましょう)。
ここでは治療失敗例の症例報告が3例引用されていましたので、更に読んでみます。


N Engl J Med. 1987 May 14;316(20):1257-8.
  • 使用ワクチン:ヒト二倍体細胞狂犬病ワクチン(恐らくRabivac)
  • 創部洗浄あり。咬傷18時間後から処置開始
  • day0,3,7,14に接種したが臀部筋注の逸脱があった。
  • RIGはプロトコル通り20IU/kg創部浸潤+筋注
  • day21に狂犬病発症
  • Discussionできちんと三角筋に打ちましょうと提唱されている。


Vaccine. 1989 Feb;7(1):49-52.
  • Case1:
    • 使用ワクチン:精製ニワトリ胚細胞ワクチン(恐らくRabipur)
    • 噛まれた飼い犬が死んだので、咬傷2日後から処置開始
    • RIGは創部浸潤せず両腕に筋注するという逸脱があった
    • day0, 3, 7, 14に接種したが臀部に筋注の逸脱があった
    • day19に狂犬病発症

  • Case2:
    • 使用ワクチン:精製ベロ細胞由来ワクチン(恐らくVerorab)
    • 創部洗浄あり。噛まれた飼い犬が死んだので、咬傷5日後から処置開始
    • RIGは創部浸潤せず両腕に筋注するという逸脱があった
    • day0, 3, 10, 13と逸脱した日程で接種した(注射部位は不明)
    • day14に狂犬病発症

米国イリノイ州の曝露後予防で、臀部にワクチンを打っていた患者の狂犬病中和抗体価が低かったという後ろ向き観察研究も、上記のACIP推奨内で引用されていました。
N Engl J Med. 1988 Jan 14;318(2):124-5.

上記の症例報告を見るに、暴露後予防の失敗は接種日逸脱の問題ではないような気がしますが、少しでも逸脱があると失敗したときに途轍もなく後悔しそうですし、エビデンスはなくとも、きちんとやったほうがいいのでしょう。


結論:

狂犬病ワクチンのスケジュールは2,3日のズレは許容されているが、目的が死亡リスクの回避であり、根拠のあるアレンジは存在しないので、可能な限り厳密に運用する。

2020年6月14日日曜日

ステロイド治療中の帯状疱疹二次予防としてのシングリックス接種について

下記のような症例を経験し、シングリックスについて調べました。

CQ.
2ヶ月前からPSL50mg+TACで治療開始した間質性肺炎合併皮膚筋炎の80歳女性が、PSL20mgに減量した段階で汎発性帯状疱疹を発症した。
この患者に組み換え型帯状疱疹サブユニットワクチン(RZV)を接種すべきか?
また、接種する場合はどのタイミングが適切か?

僕は帯状疱疹が治ったらすぐ接種したらいいのではと、あまり根拠なく思ったのですが、
科内では帯状疱疹発症でVZVの免疫誘導が起きたことを考慮すると、
当分は(2,3年は)接種の必要はないのではないかという意見も出ていました。
以下、僕なりの考察です。


RZVによる二次予防の妥当性


RZVの治験を振り返ると、対象者は免疫抑制状態ではない50歳以上、70歳以上であり、水痘ワクチン未接種者の「一次予防」としてデザインされています。
免疫抑制状態ではない定義として、PSL<20mg/dayのステロイドは許容されていますが、実際ステロイド投与者がどれだけ治験に組み込まれたかは、supplementにも記載がありません。
N Engl J Med. 2015 May 28;372(22):2087-96. (ZOE-50)
N Engl J Med. 2016 Sep 15;375(11):1019-32. (ZOE-70)

ACIP推奨では帯状疱疹既往者に対するRZV(二次予防)は、急性期は避けるようにという文言はあるものの、接種を検討して良いとの記載です。適切な時期や推奨の根拠となる文献は示されていません。
PSL20mg以上や、その他の免疫抑制剤を使用中のRZVについてはデータがないため、今後議論されるべき事項とされています。
MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2018 Jan 26; 67(3): 103–108.

ちなみに帯状疱疹生ワクチンでは、二次予防目的でのACIP推奨は以下の記載です。
・帯状疱疹既往者のワクチン有効性・安全性は未検証
・既往者の発症リスクは未既往者と同レベルと見積もられるため、接種を推奨
MMWR Recomm Rep. 2008 Jun 6;57(RR-5):1-30

CDCのWeb siteには、「帯状疱疹生ワクチンの二次予防としての接種時期を急性期からどの程度空けたらよいかについては不明だが、接種する前に発疹が消えていることを確認する」と記載されています。

健常高齢者以外のRZVについても、HSCT、固形腫瘍化学療法、腎移植、いずれも主要RCTのアウトカムはすべて一次予防となっており、厳密な意味では未検証と考えて良さそうです。
 HSCT:Lancet. 2018 May 26;391(10135):2116-2127.
 HSCT:Lancet Infect Dis. 2019 Sep;19(9):988-1000.
 固形腫瘍:Cancer. 2019 Apr 15;125(8):1301-1312.
 腎移植:Clin Infect Dis. 2020 Jan 2;70(2):181-190.


Opne label One-armですが、RZVの二次予防を検証した論文を一つだけ見つけました。

Hum Vaccin Immunother. 2017 May 4;13(5):1051-1058.
表2を見ると、4年以内の帯状疱疹歴ではそれ以降の帯状疱疹歴と比較すると、ベースラインの中和抗体価は2倍程度ですが、ワクチン接種後は両群とも15倍以上に上昇しており、抗体価としては横並びになっています。
T細胞応答は不明ですが、帯状疱疹発症によって得られる中和抗体価よりも、RZVによって得られる免疫応答が極めて高いことが示唆される貴重なデータです

なお96名中6名(6.3%)に、接種後中央値178日で、9回の再発疑い例が発生しており、発症頻度がやや高く、ワクチン効果があまり得られていないように見えますが、帯状疱疹の診断はプロトコル上は主治医や患者の申告で良かったため(3例は自己申告)、Discussionではワクチン過小評価の可能性について触れられていました。


比較的強い免疫抑制治療下にRZVで免疫原性が得られるか


自己免疫疾患におけるRZV免疫原性の検証は、検索した範囲でめぼしい論文はありませんでしたが、腎移植後4~18ヶ月の安定して免疫抑制療法を受けている患者におけるRZVの免疫原性を評価したRCTがありました。中和抗体価、CD4-T細胞応答のいずれも十分なレベルに達しています。
殆どの患者にステロイド+カルシニューリン阻害薬+MMFが投与されていますが、ステロイド投与量については記載がありませんでした(恐らくPSL<10mgでしょう)。
除外基準に、1年以内の水痘・帯状疱疹の既往歴が含まれています。自己免疫疾患による腎移植者も除外されていました。
Clin Infect Dis. 2020 Jan 15; 70(2): 181–190.


帯状疱疹の再発率


帯状疱疹の再発率ICD-10コードを用いた韓国のデータベース研究で、登録された39441名の最初の帯状疱疹のうち、中央値4.4年の観察で12.0人/1000人年の再発エピソードが観察されており、割と再発率は高いようです。
自己免疫疾患ではHR 1.466 (95%CI: 1.252–1.715, p<0.001) とのことです。
J Korean Med Sci. 2019 Jan 14; 34(2): e1.

この研究では帯状疱疹の再発の定義を、発症から半年以降に限定しています。データベース研究は、投薬内容から治療が続いているのか再発かを判断するのが難しいため、6ヶ月以降で再発を判断するというデザインだったようです。
他の類似研究でも同様に半年以降に限定して再発率を見ているようでした。
J Infect Dis. 2012 Jul 15;206(2):190-6.


RZVの免疫期間(おまけ)


RZVの臨床試験初期段階でワクチン接種を受けた70名の解析で、9年目でも十分な免疫応答が維持されていたようで、数理モデルでは15年以上は維持されると予想されています。
Hum Vaccin Immunother. 2018;14(6):1370.


考察のまとめ

  • 低用量の免疫抑制剤投与者の一次予防としてはRZV接種を推奨
  • 中等量以上の免疫抑制剤投与者や、二次予防でのデータはない
  • 腎移植RCTからは、免疫抑制剤投与下でも健常者と同レベルで効果が期待できそうに見える
  • 4年以内に帯状疱疹歴があっても中和抗体価はRZV接種者ほど高くない
  • 免疫抑制者では帯状疱疹の再発率はより高いが、半年以内の再発を検証したデータはない

結論

  • 状況的には再発率が高いため、RZV接種はエビデンスがないものの積極的に検討すべきと考えます。
  • 免疫原性は他疾患のデータから判断するに、高い蓋然性で担保されそうです。
  • 中和抗体価は4年以内にRZV接種者以下のレベルに低下するため、4年以内には打ったほうが良さそうです。
  • 半年以内まで早めて接種すべきかは、再発率上昇や中和抗体価のデータが不明瞭なので議論が分かれると思います。
  • 個人的には免疫抑制剤が減量されて免疫原性が強まることも見越して、発症後半年の時点で打つのが良いのではないかと思いました。

2020年2月15日土曜日

HAV/HBVワクチンの互換性


Clinical question:海外でAvaxim、Engerixを打った方の続きの接種をどのように行うべきか


タイでHAVワクチンを1回、HBVワクチンを2回接種した方が、HAVの2回目とHBVの3回目を打ちたいと小生の外来を受診されました。
HAVはAvaxim、HBVはEngerixを使用していましたが、いずれも当院で扱っていないのでワクチン間の互換性について調べてみました。

Engerixとヘプタバックス(海外名:Recombivax HB)は互換性あり、とPinkbookにも記載されておりますので、ヘプタバックスに切り替えて良いと思うのですが、Avaximは米国で承認されていないため、Pinkbookには記載がないようです。
なお国産のエイムゲンは勿論、互換性の検証はされていません。

英国のGreenbookに、AvaximとHavrixとVaqtaは互換性があるという記載を見つけました。
http://media.dh.gov.uk/network/211/files/2012/07/chap-17.pdf
"Four monovalent vaccines are currently available, ...These vaccines can be used interchangeably."

この記載の根拠論文は以下の2つのようでした。
Vaccine. 2000 Nov 22;19(7-8):743-50.
Vaccine. 2001 Aug 14;19(31):4429-33.

上がHavrixとVaqtaのRCTで、下がAvaximとVaqtaのRCTです。
いずれのStudyも2回目でそれぞれ別の製剤に切り替える群と比較していますが、上は4週後、下は26週後にどの群も抗体獲得率が100%になっています。
HavrixとVaqtaはinterchangable、AvaximとVaqtaはinterchangableということになりますが、HavrixとAvaximを互換性ありと判断してよいのでしょうか? 少し疑問です。

interchangableの interchangableは 厳密にはinterchangableではないと思いますが、恐らく interchangableであろうという推測はできるので、事実上はinterchangableとみなして記載されているのだと思われます(ゲシュタルト崩壊)。


最後におまけの考察です。
ご存知のようにHavrixとTwinrixとEngerixはいずれもGSKが販売元で、含まれている抗原は同じであり、A型の抗原量だけが異なるとのことでした。
(Havrix Adult 1440EI.U、Engerix 20μg、Twinrix = Havrix 720EI.U+Engerix 20μg)

この患者さんの最後の接種としてTwinrixは普通は使わないと思いますが、一応興味で互換性があるのか調べてみたところ、以下のRCTを見つけました。

Vaccine. 2000 Aug 15;19(1):16-22.
1(1+2)回目をHavrix+Engerixで接種し、2(3)回目をTwinrixに切り替えても、7ヶ月後のHAV/HBVの抗体獲得率はいずれも100%だったとのことです。
2回目はBoostなので抗原量が少なくてもあまり問題ないということでしょうか。


Answer:ヘプタバックスとHavrixで続きの接種を行って良い(エイムゲンはダメ)。