2023年6月30日金曜日

βDグルカンの診断能と偽陽性の原因について


今回の記事は研修医、レジデント向けです。


ある事例:

カンジダ血症の治療後に測ったβDGが更に上昇していたので、ミカファンギンを開始され、コンサルトになった膠原病患者さん。

血培は陰性、発熱も症状も一切なくお元気そうで、バイタルも安定しています。

「どう見ても菌血症や侵襲性真菌症とは思えないが・・・」

では原因は何なのでしょう?



本題:

βDグルカンは、そもそも陰性的中率が高く、陽性的中率は低めという特性があるので、診断ではなく除外に使うべきというのが一般的な理解です。


Open Forum Infect Dis. 2020 Feb 12;7(3):ofaa048.

  • 糸状菌予防投与を受けている血液内科患者の侵襲性真菌症(IFI)をレトロスペクティブに検討した
  • 造血幹細胞移植101例 (49.8%)、寛解導入化学療法89例 (43.8%)、GVHD13例 (6.4%)を解析
  • 評価可能な141例のうち、probable/proven IFIは8例 (5.7%)
  • βDGは真の陽性4 (2.8%)、真の陰性112 (79.4%)、偽陽性21 (14.9%)、偽陰性4 (2.8%)
  • 診断とサーベイランスの場面での陽性適中率はそれぞれ26.7%、0%だった
  • 結論:βDグルカンは、診断のためではなく除外のために使用すべきである


Open Med (Wars). 2018 Sep 8;13:329-337.

  •  メタ解析を行い、β-Dグルカンの侵襲性真菌感染症バイオマーカーとしての診断能を評価した
  • 37の関連する研究が包括基準を満たした
  • 感度0.83 (95%CI 0.38-0.61)、特異度0.81 (95%CI 0.80-0.82)、陽性尤度比5.13 (95%CI 3.98-6.62)、陰性尤度比0.23 (95%CI 0.18-0.30) であった



では、どのような場面で偽陽性になるのかというと、こんなレビューがあります。


J Fungi (Basel). 2020 Dec 29;7(1):14.

  • βDグルカンのレビュー。偽陽性の原因について解説されている
  • IVIgや血清アルブミンなどの血液分画製剤が、セルロース系のデプスフィルターで濾過する際に、植物性βDGが溶出し、偽陽性を起こしうる
  • このような製剤混入によるβDG上昇は、比較的速やかに低下する


  • 他の偽陽性の原因として、スポンジ・ガーゼなどの手術材料の使用、抗菌薬へのβDG混入、抗腫瘍薬のアジュバントへのβDG混入、
  • 腸管細胞障害・粘膜炎(その原因や結果となりうる広範囲熱傷、透析時低血圧、腸球菌血症を含む)、キノコなど菌糸体を多く含む食品の摂取、等がある
  • 腸球菌以外にも、ノカルジア、緑膿菌、肺炎球菌の菌血症で高値となる報告がある
  • 再生セルロースの透析膜による偽陽性は、最近ではβDGを溶出しない合成膜に置き換えられているため、可能性は低くなっている


βDG偽陽性が疑われる場合の検討すべき事項

  1. 医療品関連の偽陽性
    1. IVIg の点滴を受けたことがあるか。
    2. ヒト血清アルブミンの輸液を受けたことがあるか?
    3. TPNを受けたことがあるか?
    4. 過去4日以内に侵襲的な手術を受けたことがあるか?
    5. ガーゼや手術用スポンジを留置しているか?
    6. その他の侵襲的なセルロース製医療機器を使用しているか?
  2. 病状に関連した誤検出
    1. 重度の粘膜炎または腸炎を示す証拠があるか?
    2. 血液透析を受けているか?
    3. 侵襲性ノカルジア症があるか?
    4. 腸管虚血や低酸素症が疑われないか?
    5. ニューモシスチスは除外されているか?


βDGは非特異的マーカーなので、真菌感染症でも診断の基本は培養・病理であり、EORTC/MSG基準がゴールドスタンダードです。


EORTC/MSG基準

Clin Infect Dis. 2020 Sep 12;71(6):1367-1376.


マーカーだけで診断せざるを得ない場面はありますが、微生物同定の試みを一切しないのは問題です。


1,3-βDGは真菌の細胞壁の成分なので、これがあまり含まれない病原体は上がりにくいようです。

カンジダ、アスペルギルス、ニューモシスチスでは上がる

クリプトコッカス、ムーコルでは上がらないというのが有名(もちろん例外はある)

クリプトコッカスの細胞壁成分は主に1,6-βDGだそうです。


ノカルジアでβDGが高くなる報告が散見されており、治療が全く違う病原体なので要注意です。

BMC Infect Dis. 2017 Apr 13;17(1):272.

Int J Infect Dis. 2017 Jan;54:15-17.

Diagn Microbiol Infect Dis. 2015 Feb;81(2):94-5


非特異的マーカーであることを理解してないと、不適切にβDGを使いがちです。半分くらいは不適切なオーダーだという研究があります。


Open Forum Infect Dis. 2018 Aug 9;5(9):ofy195.

  • 334名の入院患者が少なくとも1回のBDG検査を受け、49% (165/334) の患者で不適切検査と判定された
  • 真の陽性:合計27例(Candidemia 6例、IPA 14例、ムーコル症 2例、クリプトコッカス症 2例、ブラストマイセス 1例,PCP 4例)
  • 血清学的、微生物学的、病理学的に真菌感染を支持するデータが得られなかった陽性患者は39例で,このほとんど(n=34)で偽陽性の原因が同定された
  • 5名が真菌感染の証拠がないBDG陽性に対して,39日間の不必要な抗真菌療法が行われた
  • ほとんどの参加者(40/47)は,BDG が偽陽性であった原因を特定することができなかった



さて、冒頭の症例は、あまりこの偽陽性の項目のなかに該当するものはなさそうです。カンジダ血症後にどのくらいβDG高値が続くのでしょうか。


Clin Vaccine Immunol. 2011 Mar;18(3):518-9.

  • 血液培養によるカンジダ陽性、その後に血液培養陰性化が得られた造血幹細胞移植患者6名における、βDグルカンの経時的測定の報告
  • βDG陽性は血培陰性化後も長期間持続した(中央値48日、範囲は17~102日)

 


ということで、この症例は「カンジダ血症後の高値持続」の可能性が最も高いのではないかと考えられます。

βDGは用法用量を守って正しく使いましょう!


0 件のコメント:

コメントを投稿