2020年7月12日日曜日

狂犬病ワクチンスケジュールの厳密性

狂犬病ワクチンのスケジュールは厳密に運用されていることが多いと思います。
しかしRAの生物学的製剤であれば、患者さんの都合で治験のAllowance程度のアレンジした投与は個人的には許容しています。
そこで狂犬病ワクチンではどうなのか調べてみました。

Vaccine. 2000 Dec 8;19(9-10):1055-60.
少し古い論文ですがRabipurの曝露前予防の臨床試験です。Methodを細かく見ていくと、
"Each subject received three doses of vaccine, one on day 0, one on day 7 (+-1), and one on day 28 (+-2)."
ということで、Allowanceが設定されていました。

Rabipurの曝露後予防、Zagreb、タイ赤十字方式などを検証した論文のMethodをいくつか見てみましたが、明確にAllowanceが記載されたものを見つけることはできませんでした。
J Commun Dis. 1995 Mar;27(1):36-43.
Vaccine. 2006 May 8;24(19):4116-21.
Int J Infect Dis. 2002 Sep;6(3):210-4.
Vaccine. 2009 Dec 10;28(1):148-51.

ところで自分が担当していたRAの国内治験の論文を見てみると、実際の現場ではAllowanceが設定されていたにもかかわらず、論文にはAllowanceが記載されていないことに気づきました。詳しい倫理規定についてはよくわからないのですが、論文化する際にAllowanceの詳細まで書く必要はないということだと思われます。
実際のところ狂犬病の臨床試験でもAllowanceが設定されていた可能性はあるかもしれません。ないかもしれませんが。


UpToDateでは、以下のように2,3日のズレに関しては許容する記載があります。
Deviations of a few days from the immunization schedule do not require complete reinitiation of vaccination [51]
この根拠論文[51]を読んでみます。


N Engl J Med. 2004 Dec 16;351(25):2626-35.
"Deviations of a few days are unimportant, but the effect of lapses lasting weeks or months is unknown.
Most deviations will not require complete reinitiation of vaccination."
2,3日の接種のずれは重要ではないが、週単位以上でずれると影響はわからない。
この箇所の根拠として更にACIPの推奨が引用されていましたので読んでみます。


MMWR Recomm Rep. 2002 Feb 8;51(RR-2):1-35.
この論文の Spacing of Multiple Doses of the Same Antigen という章に以下の記載がありました。
"ACIP recommends that vaccine doses administered <4 days before the minimum interval or age be counted as valid. However, because of its unique schedule, this recommendation does not apply to rabies vaccine."
複数回打つワクチンは3日以内で前後してもよいが、狂犬病ではそれを適用しないで下さい、とのこと。
この箇所も更に過去のACIPの引用が根拠になっていますので読んでみます。


MMWR Recomm Rep. 1999 Jan 8;48(RR-1):1-21.
"... failures have occurred abroad when some deviation was made from the recommended postexposure treatment protocol
 or when less than the currently recommended amount of antirabies sera was administered."
米国では狂犬病曝露後予防での失敗例はないが、他の国では決められたプロトコルから逸脱があった例で、曝露後予防の失敗例が報告されている(のでプロトコルから逸脱しないようにしましょう)。
ここでは治療失敗例の症例報告が3例引用されていましたので、更に読んでみます。


N Engl J Med. 1987 May 14;316(20):1257-8.
  • 使用ワクチン:ヒト二倍体細胞狂犬病ワクチン(恐らくRabivac)
  • 創部洗浄あり。咬傷18時間後から処置開始
  • day0,3,7,14に接種したが臀部筋注の逸脱があった。
  • RIGはプロトコル通り20IU/kg創部浸潤+筋注
  • day21に狂犬病発症
  • Discussionできちんと三角筋に打ちましょうと提唱されている。


Vaccine. 1989 Feb;7(1):49-52.
  • Case1:
    • 使用ワクチン:精製ニワトリ胚細胞ワクチン(恐らくRabipur)
    • 噛まれた飼い犬が死んだので、咬傷2日後から処置開始
    • RIGは創部浸潤せず両腕に筋注するという逸脱があった
    • day0, 3, 7, 14に接種したが臀部に筋注の逸脱があった
    • day19に狂犬病発症

  • Case2:
    • 使用ワクチン:精製ベロ細胞由来ワクチン(恐らくVerorab)
    • 創部洗浄あり。噛まれた飼い犬が死んだので、咬傷5日後から処置開始
    • RIGは創部浸潤せず両腕に筋注するという逸脱があった
    • day0, 3, 10, 13と逸脱した日程で接種した(注射部位は不明)
    • day14に狂犬病発症

米国イリノイ州の曝露後予防で、臀部にワクチンを打っていた患者の狂犬病中和抗体価が低かったという後ろ向き観察研究も、上記のACIP推奨内で引用されていました。
N Engl J Med. 1988 Jan 14;318(2):124-5.

上記の症例報告を見るに、暴露後予防の失敗は接種日逸脱の問題ではないような気がしますが、少しでも逸脱があると失敗したときに途轍もなく後悔しそうですし、エビデンスはなくとも、きちんとやったほうがいいのでしょう。


結論:

狂犬病ワクチンのスケジュールは2,3日のズレは許容されているが、目的が死亡リスクの回避であり、根拠のあるアレンジは存在しないので、可能な限り厳密に運用する。

0 件のコメント:

コメントを投稿