2020年10月29日木曜日

重症COVID-19におけるautoreactivity

medRxivのPre-printに驚くべき論文が掲載されています。目から鱗が落ちるような内容だったので、僕なりの考察と共に共有します。


Broadly-targeted autoreactivity is common in severe SARS-CoV-2 Infection

medRxiv. Preprint. 2020 Oct 23.

https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.10.21.20216192v1.full.pdf

  • 自己免疫の既往歴がない重症COVID-19の31人から後方視的に自己抗体を測定した
  • 44%がANA80倍以上で、陽性者の81%が160倍以上の力価を示した
  • 自己反応性の存在はCRP上昇と相関し、CRP高値群ではANA(35% vs. 56%)とRF(0% vs. 38%)、両方の産生が増加していた



考察

重症COVID-19の免疫学的環境が、様々な自己抗原に対するde novo autoreactivityをDriveする可能性が示唆されています。著者らはSARS-CoV2 ssRNAによるTLR7活性化を介したものではないかと考察しています。

  • TLR-7依存性の濾胞外(EF)B cellは、T-betとCD11cを高発現し、マウスモデルのウイルスクリアランスに重要な役割を果たす。この経路は高度炎症、自己免疫モデルマウスで病原性である (J Clin Invest. 2017 Apr 3;127(4):1392-1404.)
  • 同様の経路の、加齢性の自己反応性B cellの出現は、IRF5の調節不全を介している (Nat Immunol. 2018 Apr;19(4):407-419.)
  • CXCR5とCD21を欠くDouble negative B cell (DN2-B cell)は、活動性SLEで疾患活動性と相関して増加し、TLR7依存的にIFN-γ–IL-21を介して誘導される (Immunity. 2018 Oct 16;49(4):725-739.e6.)
  • 重症COVID-19ではSLEと同様のEF-B cell応答、すなわちDN2-B cellの増加を示し、これはクラススイッチ抗体産生細胞の増加、高力価SARS-CoV-2中和抗体、臨床転帰不良と強く相関した (Nat Immunol. 2020 Oct 7. doi: 10.1038/s41590-020-00814-z.)


胚中心を介さない抗体産生では免疫寛容が破綻し、高力価の抗体産生と同時に自己抗体の産生を許してしまうと理解できます。

この経路は通常TLR-7やIRF5によって制御されているはずですが、実際にTLR-7の機能喪失型変異はI型IFN反応の抑制を介してCOVID-19を重症化させるという報告があります(JAMA. 2020 Jul 24;324(7):1–11.)。COVID-19のGWASでリスクアリルとして抽出された3番染色体のCCR9もTLRを介した自己免疫反応に関連が深いようです(Nature. 2020 Sep 30. doi: 10.1038/s41586-020-2818-3.)


COVID-19の自己免疫反応の本態にかなり迫ってきた感がありますね。

そして何となくこれはSARS-CoV-2に特異的な現象ではなく、他のウィルス感染でも普遍的に起きていることなのだろうと感じています。自己免疫性疾患の季節性や、感染後の原因不明の間質性肺炎など、今になると思い当たることがたくさんあります。


2020年10月28日水曜日

COVID-19に対するトシリズマブのRCT

NEJMに載った話題のトシリズマブRCTの結果です。


Efficacy of Tocilizumab in Patients Hospitalized with Covid-19.

NEJM October 21, 2020

DOI: 10.1056/NEJMoa2028836


  • Design: double-blind RCT
  • P: 38度以上、肺浸潤影、酸素投与のうち2つ以上、かつCRP>5、Ferritin>500、D-dimer>1のうち1つ以上を満たすCOVID-19
  • I: トシリズマブ8mg/kg (Max 800mg) 単回投与+標準治療
  • C: プラセボ(2:1)+標準治療
  • O: 挿管もしくは死亡までの時間
  • ※標準治療はレムデシビルを一部含むが、デキサメサゾンを投与された患者はいなかった
  • ※標準治療によるイベント発生を30%と想定し、トシリズマブによるリスク軽減が15%の仮定で、検出力80%におけるサンプル数は243と試算された


結果

  • 243人の患者が登録され、161人がトシリズマブ群、81人がプラセボ群に割り付けられた
  • プラセボと比較したトシリズマブ群の挿管・死亡までのHRは0.83 (95%CI 0.38-1.81)で有意差なし


  • 年齢、性別、人種、糖尿病の状態、ベースラインIL-6で調整したHRは0.66 (95%CI 0.28-1.52)で有意差なし。調整前及び調整後HRの差異は、主に年齢の違いに起因していた
  • プラセボ群ではGrade3以上の感染症が有意に多く、トシリズマブ群ではGrade3以上の好中球減少が多かった


感想

かなり頑強なデザインのRCTでサンプル数が十分であったにも関わらず、主要エンドポイントだけでなく代替エンドポイントもことごとく有意差がなく、トシリズマブの有効性はかなり否定的になってしまったと考えざるを得ません。サンプル計算の想定よりもイベント数がかなり少ないので検出力不足の可能性は残るものの、あまりに厳しい差なのでNを増やしても結果が変わるとは思い難いです。

JAMA姉妹誌のEditorialにトシリズマブRCTの素晴らしい比較が出ていました。観察研究では高い有効性の報告が多いが、RCTでは結果が出せていないと考察されています。いずれのRCTもハードエンドポイントでの有効性が示せていないか、もしくはEffect sizeがかなり小さくなっており、なかなか厳しい展開に感じます。

JAMA Intern Med. October 20, 2020. doi:10.1001/jamainternmed.2020.6557


重症COVID-19の濾胞外B cellのprofileがSLEと類似しており、Long haul COVID-19における自己免疫現象と、SLEを関連付けている報告が話題になっているようです。  

Nat Immunol (2020). doi.org/10.1038/s41590-020-00814-z

なんとなくJAK阻害薬の方が効きそうな気がしてきます。ルキソリチニブのRCTが近いうちに結果が出ると思いますので楽しみですね。


2020年10月21日水曜日

ウパダシチニブvsアバタセプト(SELECT-CHOICE試験)

 RAに対するウパダシチニブとアバタセプトのHead to Head試験が、NEJMに掲載されました。色々問題を含みながらも価値のあるデータだと思います。



Trial of Upadacitinib or Abatacept in Rheumatoid Arthritis.

N Engl J Med 2020; 383:1511-1521

  • Design: Double blind RCT, global, 非劣性試験
  • P: TJC6以上、SJC6以上、CRP0.3以上のRAで、1つ以上のbDMARDが無効or忍容性がない
    • 除外基準:アバタセプトやJAK阻害薬の投与歴がある
  • I: ウパダシチニブ15mg 1日1回
  • C: アバタセプト静注(日本の添付文書と同じ用量)
  • O: 12週の⊿DAS28-CRP(非劣性マージンは+0.6、検出力90%)


結果

  • 613名がランダム化、303名がウパダシチニブ群、309名がアバタセプト群に割り付けられた
  • 両群およそ90%が24週までのプロトコルを完遂した
  • ⊿DAS28-CRPはウパダシチニブ群-2.52、アバタセプト群-2.00で、ウパダシチニブの優越性が証明された(差-0.52, 95%CI: -0.69~-0.35)
  • SJCの推移、CDAIについては両群で有意な差がなかった
  • ウパダシチニブ群は、全てのAE、SAE、AEによる治療中止が多い傾向で、肝障害は有意に多かった(ウパダシチニブ群7.6%, 95%CI 4.8-11.4、アバタセプト群1.6%, 95%CI 0.6-3.8)


感想

ADACTA試験から伝統の「CRPマジック」が活用された非常にコマーシャルなデザインで、正直見るに堪えないFigureも多いです。敢えてTNFを選ばず、最も立ち上がりが遅そうなアバタセプトを対照群にしているのも恣意的ですね。

ただ立ち上がりが早いことは真実のような気がするので、副作用に耐えられそうで、Rapid ragiological progressionが予想されるようなAgressiveなRAではJAKを選択するのが良いかもしれないと感じさせてくれるデータです。そういった意味では1年後、2年後の骨破壊を含めたデータに期待したいです。


あとTJCで差が出る理由は立ち上がりだけで説明できない気がするのですが、実臨床でも腫れが引かないのに痛みだけなぜか良くなって継続している人を経験しているので、なかなか面白い特徴だなと思いました。(もしCRPがブラインドされていなかったら、プラセボ効果かもしれないですが)



2020年10月3日土曜日

ループス腎炎に対するベリムマブの併用(BLISS-LN study)

ALMS study以来のループス腎炎のプラクティスが変わりえる論文がNEJMに掲載されました。


Two-Year, Randomized, Controlled Trial of Belimumab in Lupus Nephritis

N Engl J Med 2020; 383:1117-1128

DOI: 10.1056/NEJMoa2001180


  • Design:Double blind RCT
  • P: ANA80倍以上or抗ds-DNA抗体陽性のSLE (尿蛋白>1g/gCr、ISN/RPS III or IV or V)
    • 除外基準:1年以内の透析歴、eGFR<30、CY及びMMF両剤での寛解導入失敗歴、1年以内のB細胞標的治療
  • I: 標準治療+ベリムマブ(10mg/kg静注day1,15,29, 以後4w毎100週まで)
    • 標準治療:IVCY 500mg/body/2w 6回 or MMF3g/day+PSL0.5-1mg/kg/day(±パルス)+HCQ+ARB/ACE-I
    • CYではAZA2mg/kg/dayで維持、MMFでは1-3g/dayで維持
  • C: プラセボ(1:1)
  • O: 主要評価項目は104週の腎反応率(尿蛋白≦0.7g/gCr、かつeGFRがBaselineより20%以上悪化しない、かつ追加治療を要しない)
    • 副次評価項目は104週の完全腎反応率(尿蛋白≦0.5g/gCr、かつeGFRがBaselineより10%以上悪化しない、かつ追加治療を要しない)


結果

  • 104週の腎反応率はベリムマブ群43%、対照群32% (絶対差+11%, OR 1.6, 95%CI 1.0-2.3)
  • 104週の完全腎反応率はベリムマブ群30%、対照群20% (絶対差+10%, OR 1.7, 95%CI 1.1-2.7)
  • 両群の有害事象に大きな差はなかった
  • サブ解析で、ベリムマブの併用はMMF使用者でのみ有意に腎反応率を改善した。ベリムマブ群46.3%、対照群34.1% (絶対差+12.20%, OR 1.58(95%CI: 1.00-2.51)





感想

ベリムマブを併用することによる2年後の寛解導入・維持上乗せ効果のNNTは9と相当なインパクトがあり、MMFでの寛解導入、維持療法にベリムマブを足したほうが良さそうなのは間違いないですが、CYにもベリムマブを併用すべきか、CY単独とMMF+ベリムマブのどちらが優れているか、CNIの併用の位置づけをどうすべきか、等、また新たな疑問が生まれてきますね。

本試験でMMFとCYのいずれを使用するかは主治医に委ねられていたので、重症例にはCYが入っていしまっているのではないか、という考察がEditorialでも触れられていました。

色々と選択肢が出てきたことで、相対的にエビデンスレベルが低くなってしまったCNIの出番は、今後やや少なくなっていくような気がします。

個人的には、軽症・中等症にはMMF+ベリムマブ、重症例はCY(+ベリムマブ)、妊娠希望者の維持療法にはCNI(+AZA)、という使い分けができそうでしょうか。