medRxivのPre-printに驚くべき論文が掲載されています。目から鱗が落ちるような内容だったので、僕なりの考察と共に共有します。
Broadly-targeted autoreactivity is common in severe SARS-CoV-2 Infection
medRxiv. Preprint. 2020 Oct 23.
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.10.21.20216192v1.full.pdf
- 自己免疫の既往歴がない重症COVID-19の31人から後方視的に自己抗体を測定した
- 44%がANA80倍以上で、陽性者の81%が160倍以上の力価を示した
- 自己反応性の存在はCRP上昇と相関し、CRP高値群ではANA(35% vs. 56%)とRF(0% vs. 38%)、両方の産生が増加していた
考察
重症COVID-19の免疫学的環境が、様々な自己抗原に対するde novo autoreactivityをDriveする可能性が示唆されています。著者らはSARS-CoV2 ssRNAによるTLR7活性化を介したものではないかと考察しています。
- TLR-7依存性の濾胞外(EF)B cellは、T-betとCD11cを高発現し、マウスモデルのウイルスクリアランスに重要な役割を果たす。この経路は高度炎症、自己免疫モデルマウスで病原性である (J Clin Invest. 2017 Apr 3;127(4):1392-1404.)
- 同様の経路の、加齢性の自己反応性B cellの出現は、IRF5の調節不全を介している (Nat Immunol. 2018 Apr;19(4):407-419.)
- CXCR5とCD21を欠くDouble negative B cell (DN2-B cell)は、活動性SLEで疾患活動性と相関して増加し、TLR7依存的にIFN-γ–IL-21を介して誘導される (Immunity. 2018 Oct 16;49(4):725-739.e6.)
- 重症COVID-19ではSLEと同様のEF-B cell応答、すなわちDN2-B cellの増加を示し、これはクラススイッチ抗体産生細胞の増加、高力価SARS-CoV-2中和抗体、臨床転帰不良と強く相関した (Nat Immunol. 2020 Oct 7. doi: 10.1038/s41590-020-00814-z.)
胚中心を介さない抗体産生では免疫寛容が破綻し、高力価の抗体産生と同時に自己抗体の産生を許してしまうと理解できます。
この経路は通常TLR-7やIRF5によって制御されているはずですが、実際にTLR-7の機能喪失型変異はI型IFN反応の抑制を介してCOVID-19を重症化させるという報告があります(JAMA. 2020 Jul 24;324(7):1–11.)。COVID-19のGWASでリスクアリルとして抽出された3番染色体のCCR9もTLRを介した自己免疫反応に関連が深いようです(Nature. 2020 Sep 30. doi: 10.1038/s41586-020-2818-3.)
COVID-19の自己免疫反応の本態にかなり迫ってきた感がありますね。
そして何となくこれはSARS-CoV-2に特異的な現象ではなく、他のウィルス感染でも普遍的に起きていることなのだろうと感じています。自己免疫性疾患の季節性や、感染後の原因不明の間質性肺炎など、今になると思い当たることがたくさんあります。