変異株について現時点の情報をまとめました。
すっかり勘違いしていたのですが、先日話題にしたD614Gは2020年2月頃から出現し、4月頃には欧州や米国での主流となっていた株のようです(Cell. 2020 Aug 20;182(4):812-827.e19.)
今まさに話題になっている、いわゆる「変異株」はB.1.1.7であり、別名はVOC-202012/01、もしくは20B/501Y.V1です。
WHO: https://www.who.int/csr/don/21-december-2020-sars-cov2-variant-united-kingdom/en/
B.1.1.7は2020年9月頃にイギリスで出現し、12月ころから急速に増加、12月28日時点で英国内の株の28%を占めるに至り、その後カナダや米国などでも確認されています(JAMA. January 06, 2021. doi:10.1001/jama.2020.27124)
B.1.1.7は、多数の突然変異によって定義される系統群を指しているようです。12月15日時点でB.1.1.7系統のゲノムは1623種同定されているとのこと。
ARTIC networkに詳しい解説記事がありました。
B.1.1.7は17箇所の遺伝子変異を持ち(Table1)、特にスパイク蛋白に多くの変異を有している。変異のうち特に以下の3つは、以前から報告のある潜在的な生物学的影響から重要である。
- N501Y: RBDの6つの重要な接触部位の1つで、ACE2への結合親和性を増加させる
- del 69-70: 免疫応答回避に関連する可能性がある
- P681H: 生物学的に重要なFurin切断部位に隣接している
補足:
スパイク蛋白はFurinによりS1とS2に切断される。
その後S1が受容体であるACE2受容体に結合する。
S2はTMPRSS2で切断され、その結果膜融合が進行する。
(Cell. 2020 Apr 16; 181(2): 271–280.e8.)
なお、B.1.1.7と南アフリカの変異株B.1.351(別名:20C/501Y.V2)は別物のようです。
B.1.351はB.1.1.7と同じN501Yを持つので大変ミスリーディングですが、del 69-70がないなど、起源が全く別の系統樹のようです(たまたま両者ともN501Y変異を獲得したと考えられている)。12月ころから南アフリカやボツワナの主流株になっているようです。
B.1.1.7にしてもB.1.351にしても最近出現した株なので、D614Gとは違ってウィルス増殖、感染力、ワクチンへの影響など基礎的なデータも含めてまだなさそうです。B.1.1.7が何の影響もない変異株で、たまたまスーパースプレッダーが持っていた可能性や流行の時期とたまたま重なって優位になった、という可能性もあるのでしょうが、英国内はイングランド南東部でのみ急激に感染者数が爆発的に増加し、その大半がB.1.1.7であるということでした。
地理的な広がりや疫学的データは、変異株そのものによる変化を考慮すべきレベルにはなってきているようです。回復期血漿やレムデシビルの投与による影響を挙げている論文もありました。
最後に、現在の変異株発生状況を把握するには、SARS-CoV-2 lineagesが非常に便利です。
サイトトップ: https://cov-lineages.org/index.html
B.1.1.7: https://cov-lineages.org/global_report_B.1.1.7.html
B.1.351: https://cov-lineages.org/global_report_B.1.351.html
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