2021年2月14日日曜日

トシリズマブとステロイドの併用は、重症COVID-19の死亡率を改善する

話題のトシリズマブRECOVERY試験のPre-printです。トシリズマブは散々の紆余曲折となりましたが、何となくこれで結論が出たのだろうという気がします。

それにしても、イギリスの発信力は凄まじいものがありますね。


medRxiv. Pre-print Posted February 11, 2021.

https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.02.11.21249258v1


  • Design: Open-label RCT
  • P: SpO2<92%、CRP≥7.5mg/dLを満たすCOVID-19
  • I: トシリズマブ 
    • BW>90kg: 800mg, 90≥BW>65: 600mg, 65≥BW>40: 400mg, 40kg≥BW: 8mg/kg
    • ※改善が不十分な場合、12~24時間後に2回目の投与を行うことができる
  • C: 標準治療 1:1割付
  • O: 28日死亡率、ITT解析
  • 標準治療群の28日死亡率が25%の場合に、有意水準1%、検出力90%で、TCZ群の死亡率減少効果が20%と想定したサンプルサイズは各群2000と試算された


結果:

  • TCZ群に2022名、標準治療群に2094名が割り付けられた
  • データ収集が終了したのはTCZ群1602名、標準治療群で1664名で、それらのうちTCZ群では17%にTCZが投与されず、標準治療群の2.6%にTCZが投与された
  • 評価対象となった4116例の重症度は、機械換気562例(14%)、NIPPV 1686例(41%)、酸素投与1868例(45%)であった
  • CRP中央値は14.3 [IQR 10.7-20.4] mg/dLで、3385人(82%)が組入時にステロイドを投与されていた
  • 28日死亡率は、TCZ群29% (596/2022)と、通常治療群33% (694/2094)と比較して有意に低かった (RR 0.86, 95%CI: 0.77-0.96, p=0.007)
  • 死亡率の改善効果はステロイド使用者でより顕著だった(RR 0.80, 95%CI: 0.70−0.90, Fig3)
  • 機械換気を受けていない患者における、機械換気移行率+死亡率はTCZ群で有意に低かった(33% vs. 38%, RR 0.85, 95%CI 0.78-0-93, p=0.0005)



考察:

対象は70才以下の患者が主に組み入れられており、86%が未挿管の酸素投与患者と、最も視聴率が高い集団です。これまでの主要な複数のRCTで示されなかった死亡率の改善が、NNT25という十分なEffect sizeで示されています。

なぜこれまでのRCTと結果が異なるのか、というのが最大の問題ですが、CRPが高い患者を組み入れたこと、デキサメサゾン使用率が80%を超えており、高炎症状態でのステロイドとの併用効果が主な要因として考察されています。

これ以上ないほどに頑強なデザインのRCTなので、Figure4のメタ解析も含めて考えるとTCZは有効であるという結論が有力と考えて良さそうです。しかしこれまでと全く真逆の結果が出ていることは、まだ何となく釈然としない部分もありますね。

サブ解析ではWhiteしか有意差がついておらず、Asianに全ての場面で適応できるか、個人的には慎重に考えたいですが、今後は挿管になりそうな場面では積極的に使っていってよさそうな気がします。


2021年2月10日水曜日

中枢神経感染症とNPSLEの鑑別

NPSLEと中枢神経(CNS)感染の区別は時に難解です。

髄液多核球が90%にも関わらず、NPSLEとしか考えにくい症例があったのですが、その考察過程で読んだ文献が面白かったので共有します。ちなみにその症例のスコアは4/8点でした(CSFの4項目)


Arthritis Res Ther. 2019; 21: 189.

doi: 10.1186/s13075-019-1971-2


  • Design: 後ろ向き観察研究
  • 方法:
    • 8491人の入院SLE症例をスクリーニングし、95名のCNS感染症を抽出した
    • 年齢・性別を一致させる計算アルゴリズムを用いて対象となるNPSLEを登録した
    • NPSLEからCNS感染症を区別するのに有用な要因を、多変量ロジスティック回帰分析を用いてスコア化する
    • 得られたスコアは別コホートを用いてValidationを行った

  • 多変量ロジスティックの結果
    • 罹病期間が長い (21.0 [3.0–50.0] vs.1.0 [0–22.0] months, OR = 5.2, 95%CI 1.1–24.5, P < 0.05)
    • 発熱 (96.8% vs. 23.2%, OR = 34.3, 95%CI 5.2–226.7, P < 0.001)
    • CSF多核球割合 (45.6% vs. 0.5%, OR = 1.09, 95%CI 1.00–1.19, P < 0.05)
    • CSF糖 (2.0 ± 1.3 vs. 3.3 ± 0.9 mmol/L, OR = 13.7, 95%CI 2.1–85.8, P < 0.01)
    • 低補体血症 (44.6% vs. 77.4%, OR = 0.08, 95%CI 0.02–0.41, P < 0.01)
    • 注釈:糖の単位換算: (mmol/L) *18 = (mg/dL)


  • 得られたスコア(SSS-8)
    • ValidationコホートでのAUC 0.93 (95%CI 0.80–1.00)
    • 4点以上でのCNS感染症を診断する感度85.7%、特異度93.3%



2021年2月2日火曜日

B.1.351変異株に対するmRNA-1273接種者血清の中和能

ワクチンの変異株への影響が検証されています。とてもインパクトがあるデータです。


BioRxiv. Preprint Posted January 25, 2021.

doi: 10.1101/2021.01.25.427948

https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.01.25.427948v1


  • mRNA-1273(モデルナワクチン)臨床試験参加者の血清のウィルス中和アッセイを検証
  • D614Gに対するGMTは1/1852
  • K417N-E484K-N501Y-D614Gに対するGMTは2.7倍低下した(1/686?)
  • B.1.351変異株に対するGMTは1/290(6.4倍低下)であったが、すべての血清で完全に中和可能だった
  • mRNA-1273ワクチン接種後のB.1.351変異株に対する中和は減少したものの、依然として有意だった





懸念通りワクチンの中和能は南アフリカ変異株(B.1.351系統)で明らかに低下しますが、臨床的効果や集団免疫に大きな影響を及ぼすかというと、そこまでではないのかもしれません。

またこちらも予想通り、英国株(B.1.1.7系統)のワクチン効果への影響は極めて軽微であり、E484KがGMTに大きく影響していそうに見えることから、ブラジル変異株(B.1.1.28.1系統)も南アフリカ変異株と同様であると予想できそうです。


なお既に南アフリカ変異株に最適化されたmRNA-1273.351が治験段階に入っており、mRNA-1273の3回目のブースターとして接種することがRCTで検証予定のようです。

BMJ. 2021 Jan 26;372:n232.

https://www.bmj.com/content/372/bmj.n232


想像を超えたスピードで開発が進んでいきますね。日本の科学競争力が悲しい・・・


2021年2月1日月曜日

外来における軽症COVID-19に対するコルヒチンの効果

コルヒチンのRCTがプレプリントで出ていました。想像以上に良い成績で驚きます。


medRxiv. Preprint Posted January 27, 2021.

doi: 10.1101/2021.01.26.21250494

https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.01.26.21250494v1


  • Design: Double blind RCT
  • P: 40才以上で1つ以上の重症化リスク因子がある外来COVID-19 (PCRまたは臨床基準で診断)
  • I: コルヒチン30日間(0.5 mg 1日2回3日間、その後1日1回)
  • C: プラセボ30日間
  • O: 30日後の死亡または入院
  • 重症化リスク因子:70才以上、BMI>30、sBP>150、DM、呼吸器・心・冠動脈疾患既往、BT>38.4、呼吸困難感、2系統以上の血球減少、好中球上昇+リンパ球減少
  • 統計:ITT解析、ロジスティック回帰モデル、25%のリスク軽減を想定したサンプルサイズを各群N=3000と試算


結果

  • 4488名が登録され、コルヒチン群に2235名、プラセボ群に2253名が割り付けられた
  • 発症から登録までの期間は中央値で5日、治療期間の中央値は26日
  • 30日後の死亡または入院はコルヒチン群4.7% (104/2235)、プラセボ群5.8% (131/2253) だった (OR 0.79, 95%CI: 0.61-1.03, p=0.08)
  • 30日死亡率はコルヒチン群0.2% (5/2235)、プラセボ群0.4% (9/2253) だった (OR 0.56, 95%CI: 0.19-1.67, p=0.08)
  • 事前に設定されたPCR確定4159例のサブ解析では、コルヒチン群4.6% (96/2075)、プラセボ群6.0% (126/2084)で有意な減少を認めた (OR 0.75, 95%CI: 0.57-0.99, p=0.04)
  • AEとしてはコルヒチン群に下痢が多かったが (13.7% vs. 7.3%)、他はプラセボと概ね同様で、SAEについては両群で差はなかった(4.9% vs. 6.3%)


考察

頑強なデザインの二重盲検RCTで、サンプルサイズに見合った相対リスク軽減率が得られています。惜しくも主要エンドポイントでは有意差が出ていないのですが、PCR確定例では有意差がついています。

全患者におけるNNTは91、PCR確定例に絞った場合は71と、個人的には臨床的インパクトが十分に大きいEffect sizeだと感じます。

機序としては抗ウィルスではなく、抗炎症による重症化抑制なのでしょう。

有害事象も軽微ですし、外来で入院適応外の症例へお祈り程度に処方するのは、アビガンやシクレソニドよりはコルヒチンの方がよっぽどアリだと思います。デカドロンはRECOVERY試験の軽症例サブ解析で、死亡率が(有意差はないものの)上昇していたので、今後は入院はいらないけど重症化しそうで心配、という方の良い選択肢になりそうです。