ある事例:
16歳の男子高校生、2か月前から続く左腰部~臀部の痛みで来院した。MRIでは左の仙腸関節炎が認められ、精査目的に入院となった。入院してみると微熱があり、入院時の血液培養1/2セットからMSSAが発育した。
本題:
我々リウマチ医にとって仙腸関節炎といえば、もっぱら強直性脊椎炎や乾癬性関節炎などの脊椎関節炎なわけですが、感染症内科的には黄色ブドウ球菌の関節炎がCommon presentationです。
リウマチ医にも相談が来る(かもしれない)黄色ブドウ球菌の仙腸関節炎の特徴について基本的なレビューを元に概要をまとめてみました。
先に重要な点をまとめると、
- 化膿性仙腸関節炎は小児を含む若年者、男性、左側に多い
- 起因菌は半分以上がMSSA
- 画像検査では、XP/CTの感度が低く、MRIで診断する
- 外科デブリされている症例はあまり多くない
Pediatrics (1980) 66 (3): 375–379.
- 小児のコホートでは、Septic arthritisの1~2%が仙腸関節炎
- 男児に多く、3分の2が亜急性に発症する
- 殆どの場合、X線所見は永続的に残るが、適切に管理した場合の生命予後は良好である
Rheumatology (Oxford). 2007 Nov;46(11):1684-7.
- 仙腸関節炎の小児11例と成人22例のケースシリーズ
- 小児では免疫不全を背景に発症する例は少ない(9.1% vs 31.8%)
- CTの陽性率は36.4%、MRIは84.6%、骨シンチは93.3%
- 治療は静注2~6週後に、2~3週の経口抗菌薬が実施されていた
- 外科的デブリは9.1%で行われていた
- 後遺症として5名の慢性股関節痛、4名の歩行異常、1名の下肢衰弱、1名の神経根障害があり、小児と成人での発症率の差はなかった
BMC Infect Dis. 2012 Nov 15;12:305.
- 39名の感染性仙腸関節炎のコホート
- 微生物は16例が関節穿刺、14例が血液培養、2例が尿の細菌学的検査、1例が腰筋穿刺で同定された
- MSSAが16/33で最多、CNSが5/33、連鎖球菌が5/33、緑膿菌が3/33であった
- 平均年齢は39.7歳、全例が片側性で左が優位だった(59%)
- 臨床症状は、腰痛92%、発熱44%、乾癬5%、股関節痛3%
- 仙腸関節X線は39.4%が正常、CTは48%で仙腸関節炎を同定、29.6%で腰筋膿瘍を同定、22.2%が正常。MRIの陽性率は92.5%だった
原則血流感染によって起きる疾患ですが、鍼治療による直達性の症例報告もあります。
化膿性関節炎が10万人に2~5人ということなので、その1~2%が仙腸関節炎ということだと、少なくともすごく多い疾患ではないですね。
とはいえ、これだと100万人に1人もいない?となって若干少なすぎる気もしますが・・・
治療期間は報告によってバラバラですが、4週間くらいが妥当というところでしょうか。
小児の急性化膿性骨髄炎の治療期間が短いために、報告もばらついているのだと思われます。
なお、仙腸関節症の検出に最も良い身体診察は、パトリックテストと大腿スラスト試験の組み合わせということです("化膿性"仙腸関節炎に限らない)
J Chiropr Med. 2021 Jun;20(2):95.
Adv Orthop.2022 Dec 28;2022:3283296.
大腿スラスト試験(Thigh thrust test):https://rehabilitation01.com/216/
パトリックテスト(Faber test):https://rehabilitation01.com/225/
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