2020年6月29日月曜日

COVID-19に対するデキサメサゾンのOpen-label RCT

プレスリリースされていた英国のRECOVERY試験のPre-print論文が、medRxivにありました。

medRxiv. Posted June 22, 2020. [pre-print]
Effect of Dexamethasone in Hospitalized Patients with COVID-19: Preliminary Report.

  • Design: Open-label RCT
  • P: COVID-19で入院した患者
  • I: デキサメサゾン6mg/day 最大10日間(退院まで)
  • C: プラセボ 1:2割付(プラセボが2)
  • O: 28日全死亡率

統計

  • COX比例ハザードモデル
  • ITT解析
  • 検出力90%、有意水準は両側1%で、28日死亡率20%に対して4%の絶対リスク軽減(相対20%減少)を想定して、実薬群2000人のエントリーで試験を終了

結果

  • 11320名がエントリーし、デキサメタゾン群に2104人、プラセボ群に4321人が割り付けられた
  • 平均年齢は66.9歳で、56%に1つ以上の基礎疾患があり(DM 24%、心疾患27%、肺疾患27%)、重症度は酸素投与が3884名(61%)、機械換気・ECMOが1007名(16%)だった
  • 28日死亡率は、デキサメタゾン群が454/2104人(21.6%)で、プラセボ群1065/4321(24.6%)と比較し有意に少なかった (RR 0.83, 95%CI: 0.74-0.92, p<0.001)
  • サブ解析では重症度が高いほどリスク減少率が顕著であった (機械換気orECMOではRR 0.65, 95%CI: 0.51-0.82, p<0.001、酸素投与者ではRR 0.80, 95%CI: 0.70-0.92, p=0.002)
  • 酸素投与のない患者群でデキサメサゾンの死亡率改善効果は有意ではなかった(RR 1.22, 95%CI: 0.93-1.61, p=0.14)
  • デキサメタゾン群はプラセボ群より入院期間が短く(中央値12日vs.13日)、28日以内の退院率が高く (RR 1.11, 95%CI: 1.04-1.19, p=0.002)、この効果は機械換気の患者で最も大きかった (p=0.002)
  • ベースライン時に機械換気ではない患者が、機械換気に移行または死亡するリスクはデキサメタゾン群で有意に低く (RR 0.91, 95%CI: 0.82-1.00, p=0.049)、この効果はベースラインで酸素投与を受けている患者で有意に大きかった (p=0.008)
  • デキサメサゾン群に特定の死因(COVID-19を除く感染症死を含む)の増加は観察されなかった

感想

Viral loadや炎症マーカーと相関しているかなど、予備的なデータも色々気になるところではありますが、Open-labelであることを除けば、Nも大きく信頼できるデータだと思います。
今後は酸素投与が必要になった段階で、レムデシビル+デキサメサゾンというのが標準レジメンになりそうな気がします(併用が相殺的な影響を与えないかは不明ですが)


2020年6月26日金曜日

日本におけるCOVID-19のクラスター解析

日本のクラスター対策班の素晴らしい成果が、米国CDCのオープンジャーナルであるEIDに掲載されました。どれも非常に見応えのあるFigureで印象的です。本邦オリジナルのクラスター対策がWorld wideにも評価されることを願っています。

アウトブレイクの初期段階で日本の発信力が問題視されましたが、先日NEJMに載ったダイヤモンド・プリンセスの無症候者の短報など(N Engl J Med. 2020 Jun 12. Natural History of Asymptomatic SARS-CoV-2 Infection)、日本からも次々と素晴らしい論文が出始めていますね。


Emerg Infect Dis. 2020 Jun 10;26(9).
Clusters of Coronavirus Disease in Communities, Japan, January–April 2020.

  • 日本における3184例のCOVID-19の症例から「クラスター」を解析した
  • クラスターの定義は、共通のイベントや会場で一次曝露が報告された、家庭内感染を除く5例以上の症例群
  • 61のクラスターが確認され、その内訳は医療施設18(30%)、介護施設10(16%)、飲食店10(16%)、職場8(13%)、音楽イベント7(11%)、トレーニングジム5(8%)、冠婚葬祭2(3%)、飛行機内1(1%)だった
  • クラスター発端者22名のほとんどが20〜30歳代で、感染伝播時は発症前または無症候性だった

2020年6月24日水曜日

偽痛風の罹患関節とエコー感度

CTで石灰化が見えないのにエコーで診断できた左股関節の偽痛風症例がありました。
股関節の偽痛風はレアだと思っていましたが、調べてみたら意外と多いようです。勉強になる論文だったので共有します。レントゲンとエコーは案外一致しないものなので注意が必要ですね。


Arthritis Care Res (Hoboken). 2019 Dec;71(12):1671-1677.
関節液でCPPD結晶を証明した偽痛風において、エコー、レントゲンの検査特性を比較(N=50)

罹患関節の分布

  • Knee 47 (94.0%)
  • Hip joint 14 (28.0%)
  • Radiocarpal joint 6 (12.0%)
  • Ankle 5 (10.0%)
  • Shoulder 4 (8.0%)
  • Elbow 2 (4.0%)

股関節におけるUSとXPの感度・特異度

  • US 感度90% (95%CI: 78-97%) 特異度85% (95%CI: 70-94%)  
  • XP 感度86% (95%CI: 73-94%) 特異度90% (95%CI: 76-97%)

Disease control (N=40) を含むXPとUSの石灰化検出の一致率

  • US(+) XP(+) 32.8%
  • US(+) XP(-) 12.2%
  • US(-) XP(+) 10.0%
  • US(-) XP(-) 45.0%

2020年6月18日木曜日

ANCAでみるEGPA神経障害の特徴

グローブ&ストッキング分布の痺れを訴えたEGPA疑いの症例を経験しました。
EGPAの末梢神経障害は原則Mononeuritis multiplexであり、Polyneuropathyはないと理解していたのですが、MPO-ANCA陽性例では3.7%、陰性例では12.7%にPolyneuropathyを認めたという、名古屋大学神経内科の論文を発見しました(この論文の主要な論点はそこではないのですが)。


Neurology. 2020 Apr 21;94(16):e1726-e1737.
Differential Clinicopathologic Features of EGPA-associated Neuropathy With and Without ANCA.

Design

  • 後ろ向き観察研究

対象

  • 腓腹神経生検とANCA測定を行われた神経障害を伴うEGPA

方法

  • MPO-ANCA陽性群と陰性群における臨床像、病理像を比較

結果

  • 上肢の神経症状はMPO-ANCA陽性群で有意に多かった (44.4% vs 14.6%, p<0.01)
  • CRPはMPO-ANCA陽性群で有意に高かった (6.5±5.6 vs. 4.1±4.6, p=0.018)
  • CMAPはMPO-ANCA陽性群で有意に低下していたが (4.4±2.9mV vs. 6.4±4.0mV, p=0.031)、これは正中神経の軸索障害によるもので、他の神経については両群同様だった
  • MPO-ANCA陽性群では神経上皮の血管炎が有意に多かったが (p<0.0001)、陰性群では血管内腔の好酸球数(p<0.01)と、これにより閉塞された血管(p<0.05)が有意に高頻度だった

結論

MPO-ANCA陽性EGPAは血管炎による虚血・炎症、MPO-ANCA陰性EGPAは好酸球による組織障害・血管閉塞が特徴と考えられます。

感想

いずれのサブタイプも好酸球を抑制するアプローチが有効だろうことには疑問の余地がないですが、血管炎に至っていないサブタイプであるANCA陰性EGPAでは、病理像からみても純粋に好酸球をdepleteするだけで良くなるのではないか、という気がしてきます。
すなわちメポリズマブ(±数日のステロイド)だけで寛解導入が可能で、Additionalな抗炎症・免疫抑制(ステロイド・IVCY・リツキシマブ)が省略できるのではないかと妄想しました。

2020年6月14日日曜日

ステロイド治療中の帯状疱疹二次予防としてのシングリックス接種について

下記のような症例を経験し、シングリックスについて調べました。

CQ.
2ヶ月前からPSL50mg+TACで治療開始した間質性肺炎合併皮膚筋炎の80歳女性が、PSL20mgに減量した段階で汎発性帯状疱疹を発症した。
この患者に組み換え型帯状疱疹サブユニットワクチン(RZV)を接種すべきか?
また、接種する場合はどのタイミングが適切か?

僕は帯状疱疹が治ったらすぐ接種したらいいのではと、あまり根拠なく思ったのですが、
科内では帯状疱疹発症でVZVの免疫誘導が起きたことを考慮すると、
当分は(2,3年は)接種の必要はないのではないかという意見も出ていました。
以下、僕なりの考察です。


RZVによる二次予防の妥当性


RZVの治験を振り返ると、対象者は免疫抑制状態ではない50歳以上、70歳以上であり、水痘ワクチン未接種者の「一次予防」としてデザインされています。
免疫抑制状態ではない定義として、PSL<20mg/dayのステロイドは許容されていますが、実際ステロイド投与者がどれだけ治験に組み込まれたかは、supplementにも記載がありません。
N Engl J Med. 2015 May 28;372(22):2087-96. (ZOE-50)
N Engl J Med. 2016 Sep 15;375(11):1019-32. (ZOE-70)

ACIP推奨では帯状疱疹既往者に対するRZV(二次予防)は、急性期は避けるようにという文言はあるものの、接種を検討して良いとの記載です。適切な時期や推奨の根拠となる文献は示されていません。
PSL20mg以上や、その他の免疫抑制剤を使用中のRZVについてはデータがないため、今後議論されるべき事項とされています。
MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2018 Jan 26; 67(3): 103–108.

ちなみに帯状疱疹生ワクチンでは、二次予防目的でのACIP推奨は以下の記載です。
・帯状疱疹既往者のワクチン有効性・安全性は未検証
・既往者の発症リスクは未既往者と同レベルと見積もられるため、接種を推奨
MMWR Recomm Rep. 2008 Jun 6;57(RR-5):1-30

CDCのWeb siteには、「帯状疱疹生ワクチンの二次予防としての接種時期を急性期からどの程度空けたらよいかについては不明だが、接種する前に発疹が消えていることを確認する」と記載されています。

健常高齢者以外のRZVについても、HSCT、固形腫瘍化学療法、腎移植、いずれも主要RCTのアウトカムはすべて一次予防となっており、厳密な意味では未検証と考えて良さそうです。
 HSCT:Lancet. 2018 May 26;391(10135):2116-2127.
 HSCT:Lancet Infect Dis. 2019 Sep;19(9):988-1000.
 固形腫瘍:Cancer. 2019 Apr 15;125(8):1301-1312.
 腎移植:Clin Infect Dis. 2020 Jan 2;70(2):181-190.


Opne label One-armですが、RZVの二次予防を検証した論文を一つだけ見つけました。

Hum Vaccin Immunother. 2017 May 4;13(5):1051-1058.
表2を見ると、4年以内の帯状疱疹歴ではそれ以降の帯状疱疹歴と比較すると、ベースラインの中和抗体価は2倍程度ですが、ワクチン接種後は両群とも15倍以上に上昇しており、抗体価としては横並びになっています。
T細胞応答は不明ですが、帯状疱疹発症によって得られる中和抗体価よりも、RZVによって得られる免疫応答が極めて高いことが示唆される貴重なデータです

なお96名中6名(6.3%)に、接種後中央値178日で、9回の再発疑い例が発生しており、発症頻度がやや高く、ワクチン効果があまり得られていないように見えますが、帯状疱疹の診断はプロトコル上は主治医や患者の申告で良かったため(3例は自己申告)、Discussionではワクチン過小評価の可能性について触れられていました。


比較的強い免疫抑制治療下にRZVで免疫原性が得られるか


自己免疫疾患におけるRZV免疫原性の検証は、検索した範囲でめぼしい論文はありませんでしたが、腎移植後4~18ヶ月の安定して免疫抑制療法を受けている患者におけるRZVの免疫原性を評価したRCTがありました。中和抗体価、CD4-T細胞応答のいずれも十分なレベルに達しています。
殆どの患者にステロイド+カルシニューリン阻害薬+MMFが投与されていますが、ステロイド投与量については記載がありませんでした(恐らくPSL<10mgでしょう)。
除外基準に、1年以内の水痘・帯状疱疹の既往歴が含まれています。自己免疫疾患による腎移植者も除外されていました。
Clin Infect Dis. 2020 Jan 15; 70(2): 181–190.


帯状疱疹の再発率


帯状疱疹の再発率ICD-10コードを用いた韓国のデータベース研究で、登録された39441名の最初の帯状疱疹のうち、中央値4.4年の観察で12.0人/1000人年の再発エピソードが観察されており、割と再発率は高いようです。
自己免疫疾患ではHR 1.466 (95%CI: 1.252–1.715, p<0.001) とのことです。
J Korean Med Sci. 2019 Jan 14; 34(2): e1.

この研究では帯状疱疹の再発の定義を、発症から半年以降に限定しています。データベース研究は、投薬内容から治療が続いているのか再発かを判断するのが難しいため、6ヶ月以降で再発を判断するというデザインだったようです。
他の類似研究でも同様に半年以降に限定して再発率を見ているようでした。
J Infect Dis. 2012 Jul 15;206(2):190-6.


RZVの免疫期間(おまけ)


RZVの臨床試験初期段階でワクチン接種を受けた70名の解析で、9年目でも十分な免疫応答が維持されていたようで、数理モデルでは15年以上は維持されると予想されています。
Hum Vaccin Immunother. 2018;14(6):1370.


考察のまとめ

  • 低用量の免疫抑制剤投与者の一次予防としてはRZV接種を推奨
  • 中等量以上の免疫抑制剤投与者や、二次予防でのデータはない
  • 腎移植RCTからは、免疫抑制剤投与下でも健常者と同レベルで効果が期待できそうに見える
  • 4年以内に帯状疱疹歴があっても中和抗体価はRZV接種者ほど高くない
  • 免疫抑制者では帯状疱疹の再発率はより高いが、半年以内の再発を検証したデータはない

結論

  • 状況的には再発率が高いため、RZV接種はエビデンスがないものの積極的に検討すべきと考えます。
  • 免疫原性は他疾患のデータから判断するに、高い蓋然性で担保されそうです。
  • 中和抗体価は4年以内にRZV接種者以下のレベルに低下するため、4年以内には打ったほうが良さそうです。
  • 半年以内まで早めて接種すべきかは、再発率上昇や中和抗体価のデータが不明瞭なので議論が分かれると思います。
  • 個人的には免疫抑制剤が減量されて免疫原性が強まることも見越して、発症後半年の時点で打つのが良いのではないかと思いました。