先日プレスリリースされていた、COV-BARRIER試験のプレプリントを読みました。
対象はほぼ酸素投与者に限られています(挿管とECMOも除外されている)。二次エンドポイントではあるものの、死亡率が有意に改善している点が最も重要な点だと思います。
バリシチニブはデキサメサゾン併用での上乗せ効果が不明、という点で敬遠していた部分が大きいですが、これをもってデキサメサゾンと併用するエビデンスは十分得られた気がしています。
Baricitinib plus Standard of Care for Hospitalized Adults with COVID-19
medRxiv [pre-print] Posted May 03, 2021.
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.04.30.21255934v1
- Design: 国際共同 Double-blind RCT
- P: CRP、D-dimer、LDH、フェリチンの最低1つが上昇し、NIAID-OSが4-6のCOVID-19
- ※NIAID-OSはいつもの重症度カテゴリ
- 1=活動制限なし
- 2=活動制限があるが入院不要
- 3=酸素や医療ケアは不要だが入院が必要(感染管理のための入院)
- 4=酸素は不要だがCOVID-19に関連した活動制限による医療ケアが必要
- 5=酸素が必要
- 6=NIPPVや高流量の酸素が必要
- 7=機械的換気やECMOが必要
- 8=死亡
- I: バリシチニブ4mg/day 14日間+標準治療
- C: プラセボ+標準治療
- ※ 標準治療は副腎皮質ステロイドが79%に使用された(うち90%はデキサメサゾン)
- O: Day28の複合エンドポイント(高流量酸素、NIV、機械換気、死亡、いずれかへの移行)
結果:
- 764名がバリシチニブ群、761名がプラセボに割り付けられ、83.1%が28日の治療を完遂した(治療中断の62.6%が死亡によるもの)
- 平均年齢は57.6±14.1歳、83.3%が発症から7日以上経過していた
- 重症度の内訳は4が12.3%、5が63.4%、6が24.4%だった
- 標準治療として79.3%でステロイド、18.9%でレムデシビルが併用された
- Day28における複合エンドポイントは、バリシチニブ群27.8%、プラセボ群30.5%と有意差を認めなかった (OR 0.85, 95%CI 0.67-1.08, p=0.18)
- 28日の全死亡率は、バリシチニブ群が8.1%と、プラセボ群13.1%と比較して有意に少なかった (HR 0.57, 95%CI 0.41-0.78, p=0.002) →NNTは20
- 死亡率の低下はどの重症度サブグループでも有意に認められ、高流量酸素/NIVの患者群で最も顕著だった (17.5% vs 29.4%; HR 0.52, 95%CI 0.33-0.80; p=0.007) →NNTは9
- MACE、VTE、感染症を含む有害事象は両群で大きな差はなく、むしろプラセボ群に死亡に繋がる有害事象が多かった (4.1% vs. 1.6%)
解釈:
複合エンドポイントで有意差が出ないのに、死亡率では有意差が出るという解釈が難解なStudyです。
Table2の二次エンドポイントを1個ずつ見ていく限り、有意差がついていない部分に関しては惜しいところも多いですし、この死亡率の差が偶然なのかというと、少なくとも僕には本当に差がありそうに見えます。
複合エンドポイントで差が出ない理由として、サンプルサイズがあるかもしれません。デキサメサゾン+レムデシビルをベースで使っているからなのか、複合エンドポイントへの効果はHR 0.8と小さめで、死亡率への効果のほうがHR 0.6と大きいです(=上乗せ効果の恩恵は最重症例が最も大きいと解釈できる)。
そもそもサンプルサイズが適切なのか、Methodに書いていないのですが、結果からざっと逆算すると、複合エンドポイントのNは1200、死亡率のNは600くらい必要ですので、これは当然の結果なのかもしれません。
また、バリシチニブはRAへの使用でも数日で効果が出るような薬剤ではないので、Day28、ましてやDay14で差を出そうとすると、なかなか難しかったのではないかと個人的には思います。
ということで、即座というより少し緩徐なスピードでデキサメサゾンへの上乗せ効果があり、特に高流量酸素投与者(OS=5~6)における死亡率の改善という観点で、十分選択肢になるのではないかと感じます。
以下は完全に私見ですが、NNTがトシリズマブより小さいのでバリシチニブを優先して使い、バリシチニブで間に合わないような進行の早い(CRPも高いような)症例にはトシリズマブ、という使い分けがいい気がするのですが、どうでしょうか。
バリシチニブは28日後を見据えて悪くなりそうなOS=5~6の症例に「早めに」入れておく必要がある気がしています。
非リウマチ医がバリシチニブを使う際の注意点などはありますか?
返信削除Study通り14日間の投与であれば短期間ですので、それほど副作用を気にする必要はないと思います。添付文書通り、結核やB型肝炎のスクリーニングは一応していますが、IGRA陽性だったとしても個人的にはLTBIを治療する閾値は超えない気がします。
返信削除BARは内分泌副作用がないので施設例など病院外での投与にこそ最適と考えます。Dexでは施設死亡の改善はできません。COV-BARRIERの結果からRDV縛りが早々に外れるとよいのですが。あと投与期間は14日は不要ですが、Dex同様CRS終了前に切るとひどいことになります。17日を目途にした継続が必要です。入院継続は当然不要です。
返信削除免疫抑制剤の投与期間は非常に難しい問題ですね。臨床試験のプロトコルはある程度のガイドになりますが、デキサメサゾン10日、バリシチニブ14日のレジメンでは明らかに不足する症例があることは共通認識かと思います。
返信削除どういった人に延長投与するのかという命題はまだ"職人芸"の域を超えませんが、リウマチ膠原病診療と同じ感覚であまり失敗していない気がするので、ここはリウマチ医の力の見せ所なんだろうと思っています。