2022年5月24日火曜日

アトバコン予防ブレイクスルーPCPの治療

アトバコン予防中にPCPになった症例を経験しました。

Ccr30程度と、かなり厳しい腎機能で、ST合剤はなかなか使用が難しそうだと思ったので、ペンタミジン点滴を使用しました。本人から聞き取った範囲では、アトバコンの内服コンプライアンスは問題なかったようなので、ブレイクスルー感染だとすると治療にも多分使えないのだろうなと感覚的に思い、アトバコンでの治療は避けたのですが、はっきり根拠がわからなかったので調べてみました。


結果、やっぱりダメみたいです。すごく勉強になりました。


Pneumocystis Cytochrome b Mutants Associated With Atovaquone Prophylaxis Failure as the Cause of Pneumocystis Infection Outbreak Among Heart Transplant Recipients.

Clin Infect Dis. 2018 Aug 31;67(6):913-919.

  • 対象:アトバコン予防を受けていた心臓移植患者に発生したPCP(N=9)
  • コントロール:アトバコン予防を受けていなかった他の免疫不全患者(HIV 2例、肝移植2例、癌3例、ステロイド治療4例)のPCP(N=11)
  • 方法:アトバコン耐性に関連するチトクロムB(CYB)変異A144Vの有無を検討する

結果

  • アトバコン予防群の9/9、非予防群の2/11でCYB変異A144Vが認められた (p<0.001)
  • 血清アトバコン濃度は、心臓移植患者の6/7人で報告されている有効定常濃度15μg/mLよりも低値だった
  • 1名は有効なアトバコン濃度 (30.5 μg/mL)にも関わらずPCPを発症していた。


論文内の考察

  • アトバコンは、ミトコンドリアのチトクロームbc1(cyt bc1)複合体のキノール酸化部位に結合するユビキノンのアナログである
  • CYB-A144V変異はP. jirovecii ミトコンドリアのcyt b複合体のアトバコン結合ポケットの容積を減少させ、変異型P. jiroveciiに対するアトバコンの薬理効果を低下させると考えられる
  • P. jiroveciiのCYBを介したアトバコン耐性変異は、主にヘリックスcd1に集まる傾向があり、A144V以外にもcyt bのヘリックスcd1に4つの変異(I147V、T148I、L150F、S152A)が報告されている


感想

アトバコン投与群の全員にCYB変異があるからといって、アトバコンが絶対効かないという証明には当然ならないですが、多分効かないんだろうなー、とは思えるデータです。

とりあえずアトバコンブレイクスルーで二次予防するときには、他の薬剤を使わないと厳しいだろうなとい感じはします。


もしペンタミジンが有害事象などで使えなくなった場合の選択肢ですが、ST合剤の減量レジメンの有効性がつい先日のCIDに出ていました。これは選択肢ですね。


Clin Infect Dis. 2022 May 20:ciac386. doi: 10.1093/cid/ciac386.

投与量は7.5-15mg TMP/kg/dayです。

後ろ向き研究なので、バイアスがバリバリなのは仕方ないですね。

今後はすべての患者に対して減量するということにはならないのは当然ですが、バイアスがあるにしても減量レジメンで死亡率は10%くらいまで抑えられており、少ない選択肢の中で「減量しても何となるかも」という根拠ができたのは心強いです。


この方は腎機能が結構厳しいので、減量レジメンとは言えかなり躊躇します。

ということで次点はクリンダマイシン+プリマキンでしょうか。使ったことがないので感触が全く分かりませんが・・・


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