RAの既往があるダウン症の方の不明熱について相談を受けました。コミュニケーションが全く取れない方でしたが、診察すると両肘、両手、両膝に関節炎があるようでした。頚椎のレントゲンを見るとADIは9mmとかなり拡大しています。
RAはほぼ治療されていないような方だったので、関節炎再燃とそれに伴う発熱なのかなと思って、ダウン症との関連を調べてみたところ、恥ずかしながらダウン関節症という概念があることを初めて知りました。
ためになった文献のうち数編をサマライズして共有します。
全体サマリー
- ダウン症に伴う筋骨格合併症として、扁平足、炎症性関節炎、側弯症、股関節亜脱臼、頚椎不安定症などがある
- 21番染色体にコードされるVI型コラーゲンの過剰により、靭帯弛緩、筋緊張低下、関節過可動が起きることによると考えられている
- ダウン症に合併する関節炎は主に大関節に分布し、ANA陰性、RF陰性が特徴で、一部の症例は骨びらんも伴う
Musculoskeletal anomalies in children
with Down syndrome: an observational study
Arch Dis Child. 2019 May; 104(5):
482–487.
- デザイン:前向き観察研究
- 対象:0~21歳のダウン症
- 方法:筋骨格、関節の評価を行った
- 扁平足(91%)、炎症性関節炎(7%)、側弯症(4.8%)、股関節脱臼・亜脱臼(1.5%)、頚椎不安定性(1%)、脊椎すべり症(0.5%)、C2脊椎欠損(0.3%)を認めた
- 骨格筋を構成するVI型コラーゲンのα1鎖とα2鎖は、21番染色体にコードされており、ダウン症ではその量が多いために靭帯弛緩と筋緊張低下が起きると考えられている
- これにより頚椎不安定性、股関節不安定性、側弯症、関節障害のリスク上昇につながると考えられる
- 1984年、Yanceyら35名はJIAに類似した関節症を有するダウン症の7名を初めて報告し、「ダウン関節症」(A-DS)と分類した
- A-DSの発症率はJIAの3倍で、手首や手の小関節に好発し、多関節型の病変が最も多く見られる
「Prayer sign(祈りの印)」を示すA-DSの子供。炎症性関節炎に起因する手首の伸展制限、両側のMCP関節とDIP関節の腫脹が特徴的。
Craniovertebral junction abnormalities in Down syndrome.
Neurosurgery. 2010 Mar;66(3 Suppl):32-8.
- 頚椎不安定症はDS患者の8~63%に、環軸椎不安定症はDS患者の10~30%に発生する
- これらの症例の大部分は無症状で、有症状の疾患は1~2%と推定されています。
Arthropathy of Down's syndrome.
Arthritis Rheum. 1984 Aug;27(8):929-34.
- ダウン症は様々な骨格異常や関節過可動性の発生率が高くなり、また多くの免疫学的異常を有し、自己免疫現象の発生率も高いことが知られている
- 7名のDown症候群に伴う関節炎のケースシリーズ
- 発症時4例に多関節炎,3例に小関節炎がみられた
- 1人だけが重大な心疾患を有していた
- 5名のHLAタイピングは特異的な相関を示さなかった
- 平均経過観察期間は3年7カ月であった
- 全例が非ステロイド性抗炎症薬に反応したが,臨床的寛解は1例のみだった
- 2 例が死亡し、死因は1 例が頸椎不安定性,もう 1 例は心不全であった
- ダウン症に伴う関節症はJIAの診断の追加的除外項目であるべきで、この関連をさらに調査することで、関節炎の発症における遺伝的要因と免疫学的要因の関係を明らかにする手がかりが得られると思われる。
Arthritis in Down's syndrome.
Ann Rheum Dis. 1988 Mar;47(3):254-5.
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