2022年3月9日水曜日

Helicobacter fennelliae菌血症

血液内科の繰り返す蜂窩織炎で、Helicobacter fennelliaeが血培から生えたという事例がありました。

馴染みのない方のために、Helicobacter菌血症の重要な点を述べておくと、

  • 免疫抑制者(特に血液悪性腫瘍の化学療法後の方)の繰り返す蜂窩織炎が特徴
  • 血液培養陽性まで5~7日かかるため、疑った場合は延長培養する
  • 初期治療はセフトリアキソンかセフェピム、同定・感受性結果で狭域化する


Helicobacter fennelliaeは、Helicobacter cinaediと比較すると蜂窩織炎が少ないということみたいですが、そこまで気にするほどの差ではないのかなと思います。いずれのHelicobaterもマクロライド耐性、キノロン耐性が進んでいるところが注意点とみました。


マニアックでごく稀にしか役に立たない知識が多い気もしますが、3論文を紹介します。

まず静岡がんセンターからのまとまったレビュー論文。

Helicobacter fennelliae Bacteremia: Three Case Reports and Literature Review.

Medicine (Baltimore). 2016 May;95(18):e3556.

doi: 10.1097/MD.0000000000003556.


  • H. fennelliae菌血症の包括的な文献レビューにより、1993年から2014年に記録された24症例を発見した
  • 多くは、固形癌(4例)、血液悪性腫瘍(3例)、糖尿病(1例)、肝臓疾患(3例)、腎臓疾患(3例)、自己免疫疾患(3例)、臓器移植(1例)などの免疫抑制背景を持つ患者であった
  • 臨床症状は,腹痛,下痢,悪心,嘔吐などの消化器症状(7例),蜂巣炎(1例),発疹(1例),髄膜炎(1例),細菌性心膜炎(1例),発熱(10例)であった
  • 消化器症状が多かったが,H. fennelliae菌血症ではH. cinaedi菌血症ほど蜂巣炎は多くなかった


H cinaediと形態が類似しているH fennelliaeの診断には硝酸塩還元反応とアルカリホスファターゼ加水分解反応が有用



僕の経験した症例は蜂窩織炎だったので、Helicobacter cinaediの誤同定なのかなと一瞬思ったのですが、結論は違うようでした。というのも、Helicobacterの種はMALDIでは区別できないのだと(勝手に)思っていたのですが、できるということが書いてあった論文が以下です。


Rapid identification and subtyping of Helicobacter cinaedi strains by intact-cell mass spectrometry profiling with the use of matrix-assisted laser desorption ionization-time of flight mass spectrometry.

J Clin Microbiol. 2014 Jan;52(1):95-102.

doi: 10.1128/JCM.01798-13.


Helicobacter cinaediを含む12株すべてが他のHelicobacter属とは独立したクラスタを形成しており、MALDI-TOF MSによるICMSプロファイリングがH. cinaediの同定に適用できることが示された。



Helicobacter cinaedi and Helicobacter fennelliae transmission in a hospital from 2008 to 2012.

J Clin Microbiol. 2013 Jul;51(7):2439-42.

doi: 10.1128/JCM.01035-13.


市立札幌病院からの報告です。この論文の本質はHelicobacterの院内感染の可能性が示唆されている点なのですが、論文中のHelicobacter cinaediとHelicobacter fenneliae、それぞれのMICプロファイリングが役に立ちそうだったので紹介します。



いずれのHelicobaterもマクロライド耐性、キノロン耐性が進んでいることに注意が必要ですね。らせん菌の初期治療は、やはりセフトリアキソンかセフェピムです。ペニシリンはそれなりに感受性があることがで期待できるので、感受性判明後にアモキシシリンないしアンピシリンへ狭域化することを考えればよい、ということになります。



0 件のコメント:

コメントを投稿