2021年2月2日火曜日

B.1.351変異株に対するmRNA-1273接種者血清の中和能

ワクチンの変異株への影響が検証されています。とてもインパクトがあるデータです。


BioRxiv. Preprint Posted January 25, 2021.

doi: 10.1101/2021.01.25.427948

https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.01.25.427948v1


  • mRNA-1273(モデルナワクチン)臨床試験参加者の血清のウィルス中和アッセイを検証
  • D614Gに対するGMTは1/1852
  • K417N-E484K-N501Y-D614Gに対するGMTは2.7倍低下した(1/686?)
  • B.1.351変異株に対するGMTは1/290(6.4倍低下)であったが、すべての血清で完全に中和可能だった
  • mRNA-1273ワクチン接種後のB.1.351変異株に対する中和は減少したものの、依然として有意だった





懸念通りワクチンの中和能は南アフリカ変異株(B.1.351系統)で明らかに低下しますが、臨床的効果や集団免疫に大きな影響を及ぼすかというと、そこまでではないのかもしれません。

またこちらも予想通り、英国株(B.1.1.7系統)のワクチン効果への影響は極めて軽微であり、E484KがGMTに大きく影響していそうに見えることから、ブラジル変異株(B.1.1.28.1系統)も南アフリカ変異株と同様であると予想できそうです。


なお既に南アフリカ変異株に最適化されたmRNA-1273.351が治験段階に入っており、mRNA-1273の3回目のブースターとして接種することがRCTで検証予定のようです。

BMJ. 2021 Jan 26;372:n232.

https://www.bmj.com/content/372/bmj.n232


想像を超えたスピードで開発が進んでいきますね。日本の科学競争力が悲しい・・・


2021年2月1日月曜日

外来における軽症COVID-19に対するコルヒチンの効果

コルヒチンのRCTがプレプリントで出ていました。想像以上に良い成績で驚きます。


medRxiv. Preprint Posted January 27, 2021.

doi: 10.1101/2021.01.26.21250494

https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.01.26.21250494v1


  • Design: Double blind RCT
  • P: 40才以上で1つ以上の重症化リスク因子がある外来COVID-19 (PCRまたは臨床基準で診断)
  • I: コルヒチン30日間(0.5 mg 1日2回3日間、その後1日1回)
  • C: プラセボ30日間
  • O: 30日後の死亡または入院
  • 重症化リスク因子:70才以上、BMI>30、sBP>150、DM、呼吸器・心・冠動脈疾患既往、BT>38.4、呼吸困難感、2系統以上の血球減少、好中球上昇+リンパ球減少
  • 統計:ITT解析、ロジスティック回帰モデル、25%のリスク軽減を想定したサンプルサイズを各群N=3000と試算


結果

  • 4488名が登録され、コルヒチン群に2235名、プラセボ群に2253名が割り付けられた
  • 発症から登録までの期間は中央値で5日、治療期間の中央値は26日
  • 30日後の死亡または入院はコルヒチン群4.7% (104/2235)、プラセボ群5.8% (131/2253) だった (OR 0.79, 95%CI: 0.61-1.03, p=0.08)
  • 30日死亡率はコルヒチン群0.2% (5/2235)、プラセボ群0.4% (9/2253) だった (OR 0.56, 95%CI: 0.19-1.67, p=0.08)
  • 事前に設定されたPCR確定4159例のサブ解析では、コルヒチン群4.6% (96/2075)、プラセボ群6.0% (126/2084)で有意な減少を認めた (OR 0.75, 95%CI: 0.57-0.99, p=0.04)
  • AEとしてはコルヒチン群に下痢が多かったが (13.7% vs. 7.3%)、他はプラセボと概ね同様で、SAEについては両群で差はなかった(4.9% vs. 6.3%)


考察

頑強なデザインの二重盲検RCTで、サンプルサイズに見合った相対リスク軽減率が得られています。惜しくも主要エンドポイントでは有意差が出ていないのですが、PCR確定例では有意差がついています。

全患者におけるNNTは91、PCR確定例に絞った場合は71と、個人的には臨床的インパクトが十分に大きいEffect sizeだと感じます。

機序としては抗ウィルスではなく、抗炎症による重症化抑制なのでしょう。

有害事象も軽微ですし、外来で入院適応外の症例へお祈り程度に処方するのは、アビガンやシクレソニドよりはコルヒチンの方がよっぽどアリだと思います。デカドロンはRECOVERY試験の軽症例サブ解析で、死亡率が(有意差はないものの)上昇していたので、今後は入院はいらないけど重症化しそうで心配、という方の良い選択肢になりそうです。


2021年1月23日土曜日

英国変異株B.1.1.7へのワクチン効果

議論している間にどんどんデータが出てきますね。ひとまず良いニュースで安心しますが、問題の南アフリカ変異株はまだみたいです。


BioRxiv. Posted January 19, 2021.

https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.01.18.426984v1


  • 武漢株、及び英国変異株 B.1.1.7 由来スパイク蛋白を含むPseudo-SARS-CoV-2を、BNT162b2 (ファイザーワクチン)接種者の血清を用いて中和できるか検討した
  • ワクチン免疫血清は両バリアントに対して同等の中和力価を有していた
  • B.1.1.7 変異株がBNT162b2による免疫を逃避する可能性は非常に低いと考えられる


2021年1月21日木曜日

SARS-CoV-2 501Y.V2変異株は回復期血漿の中和を逃避する

話題になっている「南アフリカ変異株が回復期血漿の中和を逃避する」の元になったと思われるPreprint論文をBioRxivで発見しました。


BioRxiv. Posted January 19, 2021.

https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.01.18.427166v1


  • 回復期血漿のSARS-CoV-2 D614G系統(非変異株)と 501Y.V2変異株に対する力価を評価した
  • D614G系統(非変異株)に対する力価は、高力価 (ID50 >400) が50%、低力価 (ID50が25~400)が50%
  • 3つのRBD変異(K417N、E484K、N501Y)のみを含むキメラウイルス構築物に対する力価は、高力価23%、低力価50%、活性なし27%
  • 501Y.V2変異株に対する力価は、高力価7%、低力価45%、活性なし48%



つまり中和抗体の活性にはN末端ドメイン(NTD)の変異が、より重要なようですが、RBDの変異のみでもかなりの影響があることが示唆されます。

イギリス変異株(B1.1.7系統)よりも南アフリカ変異株(B1.351系統)やブラジル変異株(B1.1.248系統)の方が、ワクチン逃避の観点からは危険な可能性が高いと推定できそうです。


B1.351(501Y.V2)は南アフリカだけではなく、イギリスでも結構検出されてるみたいです。

https://cov-lineages.org/global_report_B.1.351.html

2021年1月10日日曜日

SARS-CoV-2変異株B.1.1.7

変異株について現時点の情報をまとめました。

すっかり勘違いしていたのですが、先日話題にしたD614Gは2020年2月頃から出現し、4月頃には欧州や米国での主流となっていた株のようです(Cell. 2020 Aug 20;182(4):812-827.e19.


今まさに話題になっている、いわゆる「変異株」はB.1.1.7であり、別名はVOC-202012/01、もしくは20B/501Y.V1です。

WHO: https://www.who.int/csr/don/21-december-2020-sars-cov2-variant-united-kingdom/en/

CDC: https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/more/science-and-research/scientific-brief-emerging-variants.html


B.1.1.7は2020年9月頃にイギリスで出現し、12月ころから急速に増加、12月28日時点で英国内の株の28%を占めるに至り、その後カナダや米国などでも確認されています(JAMA. January 06, 2021. doi:10.1001/jama.2020.27124)


B.1.1.7は、多数の突然変異によって定義される系統群を指しているようです。12月15日時点でB.1.1.7系統のゲノムは1623種同定されているとのこと。

ARTIC networkに詳しい解説記事がありました。

https://virological.org/t/preliminary-genomic-characterisation-of-an-emergent-sars-cov-2-lineage-in-the-uk-defined-by-a-novel-set-of-spike-mutations/563


B.1.1.7は17箇所の遺伝子変異を持ち(Table1)、特にスパイク蛋白に多くの変異を有している。変異のうち特に以下の3つは、以前から報告のある潜在的な生物学的影響から重要である。

  • N501Y: RBDの6つの重要な接触部位の1つで、ACE2への結合親和性を増加させる
  • del 69-70: 免疫応答回避に関連する可能性がある
  • P681H: 生物学的に重要なFurin切断部位に隣接している

補足:

スパイク蛋白はFurinによりS1とS2に切断される。

その後S1が受容体であるACE2受容体に結合する。

S2はTMPRSS2で切断され、その結果膜融合が進行する。

Cell. 2020 Apr 16; 181(2): 271–280.e8.


なお、B.1.1.7と南アフリカの変異株B.1.351(別名:20C/501Y.V2)は別物のようです。

B.1.351はB.1.1.7と同じN501Yを持つので大変ミスリーディングですが、del 69-70がないなど、起源が全く別の系統樹のようです(たまたま両者ともN501Y変異を獲得したと考えられている)。12月ころから南アフリカやボツワナの主流株になっているようです。


B.1.1.7にしてもB.1.351にしても最近出現した株なので、D614Gとは違ってウィルス増殖、感染力、ワクチンへの影響など基礎的なデータも含めてまだなさそうです。B.1.1.7が何の影響もない変異株で、たまたまスーパースプレッダーが持っていた可能性や流行の時期とたまたま重なって優位になった、という可能性もあるのでしょうが、英国内はイングランド南東部でのみ急激に感染者数が爆発的に増加し、その大半がB.1.1.7であるということでした。

地理的な広がりや疫学的データは、変異株そのものによる変化を考慮すべきレベルにはなってきているようです。回復期血漿やレムデシビルの投与による影響を挙げている論文もありました。


最後に、現在の変異株発生状況を把握するには、SARS-CoV-2 lineagesが非常に便利です。

サイトトップ: https://cov-lineages.org/index.html

B.1.1.7: https://cov-lineages.org/global_report_B.1.1.7.html

B.1.351: https://cov-lineages.org/global_report_B.1.351.html


2021年1月5日火曜日

SARS-CoV2変異株D614G

SARS-CoV2変異株はテレビではめちゃくちゃ話題になっていますが、実際のところはあまりデータが出てきてないですね。とりあえずNEJMのまとめがわかりやすかったので共有します。


Emergence of a Highly Fit SARS-CoV-2 Variant.

December 31, 2020

N Engl J Med 2020; 383:2684-2686


  • スパイク蛋白の受容体結合ドメイン(RBD)の変異株であるD614Gが、世界的に有病率が高い株になっている
  • D614Gは野生株と立体構造が異なる可能性があり、ACE2への結合能力が向上する可能性が示唆されている
  • 不死化培養細胞、ヒト初代気道上皮細胞、ハムスターの鼻腔内において、D614G変異株は野生型よりも効率的に複製された
  • D614G変異株に感染したハムスターの重症度は野生株と同じだった
  • D614G変異株は野生株感染ハムスター由来の血清により中和された
  • 現在臨床試験で評価されているCOVID-19ワクチンは野生株のRBD配列に基づくが、これらの知見により変異株に対するワクチン有効性に対する不安は和らいだと考えられる

2021年1月4日月曜日

MCNSに対するタクロリムスの有用性

カルシニューリン阻害薬のRCTは殆ど出てこないので貴重ですね。


Comparison of the Efficacy and Safety of Tacrolimus and Low-Dose Corticosteroid with High-Dose Corticosteroid for Minimal Change Nephrotic Syndrome in Adults

JASN January 2021, 32 (1) 199-210.

DOI: 10.1681/ASN.2019050546

  • Design: 多施設Open-label RCT、並行群間、非劣勢試験(韓国)
  • P: 16-79才の腎生検で診断されたMCNS、尿蛋白>3.0g/gCr、eGFR>30
  • I: PSL 0.5mg/kg+TAC 0.05mg/kg 1日2回(濃度は5-10ng/ml)
  • C: PSL 1.0mg/kg (Max 80mg)
  • O: 
    • 主要エンドポイントは8週における完全寛解率(尿蛋白<0.2g/gCr)、非劣勢マージン20%
    • 二次エンドポイントは完全寛解達成までの期間、再発率(尿蛋白>3.0g/gCr)、再発までの期間


結果

  • 144名がランダム化され、TAC群に69名(解析対象67名)、PSL群に75名(解析対象69名)が割付られた
  • 8週間時点の完全寛解は、TAC群53人(79.1%)、PSL群53人(76.8%)で、ITT(11.6%)、PPS(17.0%) いずれの解析でも非劣性が示された
  • 寛解までの期間の中央値はTAC群で15日(95%CI: 14-27)、PSL群で25日(95%CI: 14-28)で有意差はなかった
  • 24週における再発率はTAC群で有意に少なかった (5.7% vs. 22.6%, p=0.01)


感想

TACの併用でPSL投与量を減らせて、寛解も少し早くて、再発は明らかに減少する。感覚的にも臨床の印象と合致しますし、おそらく糸球体腎炎の寛解導入に高用量PSLは必要ないのだろうと強い確信が持てるデータです。

PSL群に同意撤回による脱落が若干目立ちますが、解釈に影響を与えるほどではなさそうです。Open-labelではありますが、エンドポイントは主に客観指標の尿蛋白なので、情報バイアスが入る余地は少なく、盲検とほぼ同義に解釈できそうです。