2021年12月28日火曜日

COVID-19に対する早期レムデシビルの重症化抑制効果(PINETREE試験)

PINTREE試験(レムデシビルOPAT)のRCTをまとめました。

前回モルヌピラビルRCTの記事でNNTを比較しましたが、こちらを読み込んでみたらイベント数が少なすぎて(集団が違いすぎて)、単純比較したのはまずかったかなと思ってしまいました。

それにしてもレムデシビルはRCTをやるたびに結果が変わる不思議な薬ですね。モルヌピラビルとレムデシビルは使い分けに困るので、ぜひRCTで勝負をつけていただきたいところです・・・



Early Remdesivir to Prevent Progression to Severe Covid-19 in Outpatients

N Engl J Med. December 22, 2021

DOI: 10.1056/NEJMoa2116846

  • Design: Double-blind RCT
  • P: 12才以上、発症7日以内で重症化危険因子1つ以上または60才以上の入院していないCOVID-19
    • 危険因子:高血圧、心血管・脳血管疾患、DM、BMI≥30、免疫抑制者、CKD、慢性肝疾患、慢性肺疾患、現在の癌、鎌状赤血球症
    • 除外基準:過去のCOVID-19入院歴・治療歴、ワクチン接種者、Bw<48kgかつCcr<30、授乳婦
  • I: レムデシビル点滴静注 3日間(day1: 200mg, day2, 3: 100mg)
  • C: プラセボ 1:1
  • O: day29におけるCOVID-19による入院、またはあらゆる原因による死亡


結果:

  • 各群に292名ずつ割り付けられ、レムデシビル群の13名、プラセボ群の9名が投与を受けなかった
  • 平均年齢は50才で、危険因子は肥満55.2%、60歳以上30.2%、DM 61.6%が含まれた
  • バリアントは記載ないですが、米国における2020年9月18日~2021年4月8日の試験のため、前半はアルファ株、後半はデルタ株が主流と思われます

  • day29の入院または死亡のハザード比は0.13 (95%CI: 0.03-0.59) 
    • グラフ目視上ARR 5%くらいなので、NNT=20
  • 死亡は両群ともday29までには発生しなかった


  • 両群の鼻咽頭ウイルス量に明らかな差は認められなかった

  • 頻度の高い有害事象は、嘔気(10.8% vs 7.4%)、頭痛(5.7% vs 6.0%) などで、試験レジメンに関連する有害事象はレムデシビル群に多かった(12.2% vs 8.8%)


補足:

  • プラセボ群の入院率や死亡率を見る限り、モルヌピラビルやソトロビマブのRCTよりもかなり低リスク者が集められています
  • ウィルス量に差がないにも関わらず、臨床症状と入院率が下がるという点が不可解で、解釈に困ります
  • 本文中のDiscussionでは、アカゲザルのレムデシビル治療でも上気道ウィルス量と臨床的有効性の乖離があり、下気道ウィルスの減少で説明できるのではないか、とありました
  • COVID-19による入院、といういつもと少し違うエンドポイントが採用されていますが、全ての原因による入院or死亡も一応有意差はあります(HR 0.28, 95%CI: 0.10-0.75)


2021年12月26日日曜日

COVID-19に対するモルヌピラビルの効果(MOVe-OUT試験)

モルヌピラビル(ラゲブリオ)が製造販売承認されました。

発症早期の選択肢が、モノクローナル抗体、モルヌピラビル、レムデシビルOPAT、パクスロビド、など突然増えたので、今後はどのように使い分けるか考えなくてはなりませんね。

ひとまずモルヌピラビルのRCTをまとめました。
禁忌が少ないことやEffect sizeからは抗体療法が僅かに勝っているように感じましたが、
変異株の影響を受けにくいだろうことや(多分)コストの点ではモルヌピラビルが有利になりそうです。


Molnupiravir for Oral Treatment of Covid-19 in Nonhospitalized Patients

N Engl J Med. 2021 Dec 16.

doi: 10.1056/NEJMoa2116044.


  • Design: Double-blind RCT
  • P: 発症5日以内でリスク因子が1つ以上ある、軽症・中等症の入院していないCOVID-19
    • リスク因子:60歳以上、活動性の癌、CKD、COPD、BMI≥30、重篤な心疾患、糖尿病
    • 除外基準:透析、eGFR<30、妊婦、ワクチン2回以上接種者、好中球<500、Plt<10万
  • I: モルヌピラビル800mg 1日2回 5日間
  • C: プラセボ 1:1
  • O: day29における入院or死亡(ITT集団)


結果:

  • 716名がモルヌピラビル群、717名がプラセボ群に割り付けられた
  • 年齢中央値は43才で、危険因子は肥満73.7%、60歳以上17.2%、DM 15.9%が含まれた
  • ベースラインのSARS-CoV-2抗体は19.8%で陽性
  • バリアントはデルタ株32.1%、ミュー株11.3%、ガンマ株5.9%、データなし44.7%

  • day29の入院または死亡は、モルヌピラビル群7.3% (28/385)、プラセボ群14.1% (53/377)、絶対リスク差6.8% (95%CI -11.3 ~ -2.4; P=0.001) →NNT=14.7
  • Time-to-Event解析も同様で、入院または死亡のハザード比は0.69 (95%CI: 0.48-1.01) →グラフ目視上ARR2.5%くらいなので、NNT=40




  • 死亡はモルヌピラビル群1例(29日死亡率0.1%)、プラセボ群9例(29日死亡率1.3%)
  • モルヌピラビル群はday3, 5, 10においてウイルス量の減少がプラセボより大きかった
  • WHO Scaleの評価で、モルヌピラビル群はプラセボ群と比較してday5までに臨床転帰が改善し、day10とday15で最も大きな差が観察された(Supple S5)
  • サブ解析では、女性、発症4日以降、SARS-CoV-2抗体陰性、肥満、白人でのメリットが有意だった(発症3日以内、SARS-CoV-2抗体陽性、DM、60才以上は有意差なし)
  • 試験レジメンに関連する頻度の高い有害事象は、下痢(1.7% vs 2.1%)、吐気(1.4% vs 0.7%)、めまい(1.0% vs 0.7%)などで、両群で明らかな差はなかった


補足:

  • レムデシビルOPATと異なり、重症化率、死亡率、症状の改善はウィルス量とリンクしており、信憑性が高い試験に見えます
  • 妊婦やeGFR<30が対象外であり、この点は抗体療法(と一応禁忌ではないレムデシビル)が有利です
  • レムデシビルより有害事象が少なそうに見えます
  • Time-to-EventのNNTを単純比較すれば、ソトロビマブ(17)>レムデシビルOPAT(20)>モルヌピラビル(40)であり、抗体療法が最も良い成績
  • どの薬剤も現時点ではオミクロン株の臨床データがないので、デルタ株データからの推定



参考文献

  • ソトロビマブ:N Engl J Med 2021; 385:1941-1950.  DOI: 10.1056/NEJMoa2107934
  • レムデシビルOPAT:N Engl J Med Dec 22, 2021 [Epub].  DOI: 10.1056/NEJMoa2116846


2021年11月1日月曜日

Actinotignum schaalii菌血症

血液培養の小型GPRといえばCorynebacteriumが大半であり、ほとんどがコンタミかCRBSIですが、Actinotignum schaalii に年1,2回くらいは出会います(よね?)。

知っていると役立つこともあるので、一番新しいと思われる総説を抜粋してまとめました。

先にサマライズすると、

  • 尿路・生殖器の常在菌でコリネ等と誤認しやすいが、高齢者UTIの原因になる
  • 好気で発育しにくい小型GPRで、検出には5%炭酸培養・嫌気培養が有用
  • βラクタムは何でも効くが、ST・キノロンは耐性が多く、嫌気性菌なのにMNZが無効



Actinobaculum schaalii: review of an emerging uropathogen.

J Infect. 2012 Mar;64(3):260-7.

doi: 10.1016/j.jinf.2011.12.009.


微生物学的特徴

  • 非運動性、非芽胞形成、直線もしくは軽度弯曲したグラム陽性の球桿菌で、一部に枝分かれしているものもある
  • カタラーゼ、オキシダーゼ、ウレアーゼは陰性で、ウレアーゼ陰性であることでA. schaaliiとA. urinaleを区別できる(Table1)
  • 硝酸塩を亜硝酸塩に還元しない
  • 35℃の嫌気環境で48時間培養した5%コロンビアヒツジ血液寒天培地では、直径1mm以下の小さな灰色のコロニーを形成する(Fig2b)
  • 5%CO2の空気中では発育し、大気中ではあまり発育しない
  • 菌株によっては3~5日後に弱いβ溶血を示すものもある


疫学

  • 尿路または生殖器系の常在菌叢の一部と考えられている
  • 分離・同定が難しい微生物であるため、検出頻度は不明で、臨床的意義も過小評価されている可能性がある。
  • PCR法を用いた検討で、41/252(16%)の尿検体でA. schaaliiが検出され、菌数は10^4 CFU/mL以上だった。60歳以上の患者ではさらに高頻度だった(34/155、22%)
  • 無症候性細菌尿が10~20%あるため、Colonizationと感染の区別は難しいが、従来考えられていたよりも  A. schaalii 感染症の頻度は高いと考えられている。


臨床症状

  • 現在までに117例の A. schaalii 感染症が症例報告されていた
  • 約60%が男性、約40%が女性とそれほど性差はない。
  • 泌尿器系疾患のある高齢者においてUTIの原因となることが多い(Table2)
  • UTI以外では脊椎炎、菌血症、心内膜炎などを引き起こすことがある


微生物学的診断

  • 好気環境では他の細菌にovergrownされたり、皮膚・粘膜の常在菌に似ているため見過ごされたり、CorynebacteriumやLactobacillusなどの汚染菌と誤認されたりする
  • 塗抹所見と好気培養の同定結果が一致しない場合や無菌性膿尿ではA. schaaliiを検索する必要があり、尿定性試験の亜硝酸が陰性であることも重要である
  • A. schaalii の検出には5%CO2や嫌気下での血液寒天培地の培養が必要である
  • 自動分析装置での検出には限界があり、MALDI-TOF-MSによる同定が非常に有用である


薬剤感受性

  • ブレイクポイント設定はないが、non-species-related(訳注:EUCASTのPK/PDブレイクポイントを指していると思われる)や他の泌尿器系病原体の基準を用いることができるかもしれない
  • ペニシリン、セファロスポリン、アミノグリコシド、テトラサイクリン,バンコマイシン,リネゾリドには高い感受性がある
  • クリンダマイシンは概ね感受性があるが、一部に高度耐性が見られた
  • シプロフロキサシンの活性は低いが、レボフロキサシン、モキシフロキサシンには感受性を示す
  • STには概ね耐性で、メトロニダゾールとコリスチンは内因性に耐性である


治療

  • アモキシシリン、セフロキシム、セフトリアキソンの単独投与、もしくはアミノグリコシド(ゲンタマイシン)の併用投与が選択される
  • 治療期間は明確に定まっていないが、アモキシシリン1週間での治療失敗例があるため、少なくとも2週間治療すべきである
  • A. schaaliiは嫌気性菌だがメトロニダゾール無効である
  • キノロン系は感受性があっても推奨されない

2021年10月26日火曜日

重症COVID-19に対するデキサメサゾン12mgの効果(COVID STEROID 2 Trial)

重症COVID-19に対するデキサメサゾン12mgのRCTがJAMAに出ていました。

各ガイドラインの記載が変わりそうな重要なStudyです。HFNCになったタイミングでトシリズマブを併用するのか、デキサ12mgに増量するのか、あるいはその両方なのか、というところが今後の課題になりそうです。



Effect of 12 mg vs 6 mg of Dexamethasone on the Number of Days Alive Without Life Support in Adults With COVID-19 and Severe Hypoxemia: The COVID STEROID 2 Randomized Trial

JAMA. 2021 Oct 21. doi: 10.1001/jama.2021.18295.

https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2785529


  • Design: Double-blind RCT
  • P: 10L/min以上の酸素需要、もしくはNIV・機械換気下のCOVID-19
    • 除外基準で重要なものは、5日以上のCOVID-19に対するステロイド投与(4日以内ならOK)
  • I: デキサメサゾン12mg 10日間
  • C: デキサメサゾン6mg 10日間
  • O: 28日目における生命維持装置(呼吸器・循環補助・腎代替療法)なしでの生存日数


結果:

  • 12mg群に491名、6mg群に480名が割付けられた
  • NIV 25%、IMV 21%の患者が含まれ、レムデシビルが63%、IL-6阻害薬が11%、JAK阻害薬が1%に併用された
  • ベースライン背景・重症度は2群間でほぼ同じだったが、6mg群にDMが多かった (27% vs 37%)
  • Primary endpointは、12mgが22.0日 (IQR 6.0-28.0)、6mg群が20.5日 (IQR 4.0-28.0)、リスク差1.3日 (95%CI, 0-2.6, p=0.07) だった


  • 28日目死亡率は、12mg群で133/491 (27.1%)、6mg群で155/480 (32.3%)で、HR 0.86 (99%CI 0.68-1.08)、
  • 90日死亡率は、12mg群で157/490 (32.0%)、6mg群で180/478 (37.7%)で、HR 0.87 (99%CI 0.70-1.07)
  • サブ解析ではIL-6阻害薬を併用していない患者、ステロイド開始して2日以内の患者での利益がより大きい傾向があった
  • 重篤な有害事象は、12mg群で102人 (20.5%)、6mg群で123人(25.4%)であった
    • Supple eTable10に内訳があり、血栓症、敗血症、AKIなどが少しずつ多いようです

感想:

有意差こそついていませんが、増量ステロイドの死亡率改善効果を示す重要なRCTと考えます。あまり目立った有害事象の増加もないようであり、少なくとも大きなデメリットがなさそうに見えます。

有意差がつかなかった主な原因は、介入の効果が想定より弱かったことによるサンプルサイズの不足だと思われます。


Primary endpointは12mg群で42.6%、6mg群で40.2%と、実際の相対リスク軽減は6%しかありませんでした。サンプルサイズは15%の相対リスク軽減を想定していましたので、Nが不足であった感は否めません。


相対リスク軽減が想定よりも低かった原因としては、ランダム化の前に4日間までのステロイド治療が認められていたことで、介入の効果が低下した可能性が考察されています。


ただ事前のステロイド使用を認めるということは、極めて実臨床に即している気がするので(6mgで効かずに重症化したら12mgに増量するというプラクティスになる)、個人的には妥当なデザインではないかと思います。


介入効果に見合ったNであったなら有意差が出たであろうデータに見えるので、今後はデキサメサゾン6mgでうまくいかなければ4日以内に12mgに増量するということが、ある程度エビデンスを持った選択肢になったのだろうと、個人的には考えました。


2021年10月19日火曜日

固形臓器移植におけるCMV抗原血症

自己免疫疾患の治療中に見られるCMV抗原血症をPre-emtiveに治療してしまうということは時々あるのですが、どのくらい妥当なのか改めて調べてみました。


固形臓器レシピエントのCMV再活性化を予測する因子を解析した前向き研究が、参考になりそうでした。

今回読んだ2つの論文では、固形臓器移植のCMV抗原血症の発症率は47~62%、CMV diseaseは3~20%、一方SLE、non-SLE自己免疫疾患のCMV抗原血症は、それぞれ58.6%、11.4%、という前向き観察研究があり(PLoS One. 2019 Aug 28;14(8):e0221793)、CMV diseaseはループス腎炎の後ろ向き観察研究で5.3%程度(Clin Exp Med. 2017 Nov;17(4):467-475.)ということでした。

固形臓器移植では使用している薬剤もPSL、MMF、Cyclosporine、TacrolimusなどSLEと類似しています。これを踏まえると固形臓器移植のCMV diseaseのリスクは、自己免疫疾患より少し高いくらいなのかなと思います。


抗原10程度だとPPVが20~60%くらいなので、Pre-emptiveに全例治療するレベルではない気がしますが、30などもう少し高い値になってくるとPPVが100%に近くなっているので、Pre-emtiveが成立するレベルのリスクなのかなという気がします。



Transplantation. 1999 Nov 15;68(9):1305-11.

  • デザイン:前向き観察研究
  • 対象:97人の連続肝移植レシピエント
  • 方法:毎週の定量的PCRによるウイルス量測定、および抗原血症アッセイ
    • ※抗原定量アッセイはReferenceを読んでみましたが、C10/11法だと思われます(Journal of Medical Virology, 25(2), 179–188.)
  • 結果
    • CMV抗原血症は62.9% (61/97)、CMV diseaseは20.6% (20/97)
    • 抗原定量値は、CMV diseaseでは39.2±22.2、無症候性では2.9±0.6
    • PCRのウィルス量は、CMV diseaseでは33624±10126、無症候性では1902±369
    • CMV disease予測のROC曲線は以下の通りで、適切なカットオフは、PCRは>5000(PPV 64.3%, NPV 95.7%)、抗原では>6(PPV60.7%, NPV 94.2%)



2つ目は固形臓器移植で同様の検討をしている論文です。このStudyではPCRしか見ていませんが、Validationコホートのサンプルサイズは252と大きいです。


J Clin Virol. 2013 Jan;56(1):13-8.

  • デザイン:前向き観察研究
  • 対象:CMV抗体陽性の連続した腎・肝・心移植患者(N=252)
  • 方法:CMV-PCRを移植100日目までは2週毎、101~180日目は4週毎に実施して評価した
  • 結果:
    • CMV抗原血症は47.2% (119/252)、Pre-emptive治療を60例に実施し、CMV diseaseは3.6%(9/252)
    • CMV disease予測の適切なカットオフは>3983(PPV 20.7%、NPV 99.2%)




2021年5月30日日曜日

免疫チェックポイント阻害剤投与者におけるBNT162b2接種後のサイトカイン放出症候群

 免疫チェックポイント阻害剤治療中の方がPfizerワクチン接種後に、サイトカイン放出症候群をきたしたという驚愕の症例報告です。

irAEの既往がある点がポイントなのだろうと思います。

治験では癌患者の接種があまり検証されていないので見落としがちですが、機序的には全く違和感がないので、まもなく始まる一般接種では注意が必要ですね。



Cytokine release syndrome in a patient with colorectal cancer after vaccination with BNT162b2

Nat Med. 2021 May 26. doi: 10.1038/s41591-021-01387-6.

https://www.nature.com/articles/s41591-021-01387-6

  • 58才男性 直腸癌
  • COVID-19の既往はない
  • 2019年2月 Anti-PD-1単独療法
  • 2019年4月 運動失調 →irAE grade1-2の診断。PSL1mg/kgで治療
  • 2019年6月 Anti-PD-1再開
  • 2020年3月 副腎不全 →irAE grade1の診断。PSL3mg補充療法
  • 2020年12月2日 Anti-PD-1最終投与

  • 2020年12月27日 BNT162b2 初回接種
  • 即時の有害事象はなく、接種部位のgrade1の炎症のみ
  • 5日後 38度台発熱、筋痛、下痢。CRP 12.5、LDH 184、Plt 6.8万 →入院
  • 尿培養・血液培養陰性、SARS-CoV-2 PCRの陰性、CTで感染症・血栓なし。広域抗菌薬投与したが無効
  • 入院5日目 状態改善せず。39.8度、CRP 31.7、LDH 849、フェリチン6010であり、サイトカイン放出症候群(CRS)としてPSL1mg/kgで治療開始
  • 入院9日目 症状は改善

  • 2021年2月 Anti-PD-1再開
  • ワクチンの2回目は接種しなかった


CRS急性期の免疫応答解析

  • CRSの特徴であるTh1サイトカイン(MIG、IL-2R、IL-16、IFN-γ、IL-18)の亢進が、入院3日目から見られていた
  • マクロファージの活性化(MCP-1、MIP、IL-8、IL-18、MIGの上昇)も見られた
  • 抑制性サイトカインであるIL-10の上昇が、入院3〜8日目に認められたが、明らかに炎症亢進を抑えることができていない
  • ほとんどのサイトカインはステロイド治療で大幅に減少したが、入院12日目にIL-2R、IL-2、IL-16、IL-18の上昇が持続したことから、T細胞活性化の持続が示唆された


ワクチン応答の解析

  • S1反応性および中和抗体はワクチン接種の7日後から検出され、力価はステロイド投与中も上昇し続けた
  • S特異的CD4 +およびCD8 + T細胞は、ワクチン接種後17日目、40日目には検出できず
    • 注:COVID-19既往がない健常人でも、ワクチン1回のみ接種では同じようにT細胞応答は誘導されないようです(Lancet. 2021 Mar 27;397(10280):1178-1181.
  • エピトープ解析ではCOVID-19ワクチン接種者と類似し、スパイク蛋白シグナルは上昇し、非スパイク蛋白シグナルは検出されなかった


2021年5月29日土曜日

BNT162b2 mRNAワクチン(Pfizer COVID-19ワクチン)に対するMTX投与の影響

 in vitroですが、MTX投与者のCOVID-19ワクチンの抗体反応、およびCD8+ T細胞応答はやや減弱するというデータが、ARDに出ています。

これが実際の個人の免疫や集団免疫にどの程度影響するかというと、あまり問題にならないのではないか、というのが個人的な推測(感想)です。



Methotrexate hampers immunogenicity to BNT162b2 mRNA COVID-19 vaccine in immune-mediated inflammatory disease.

Ann Rheum Dis. 2021 May 25:annrheumdis-2021-220597.

  • 免疫介在性炎症疾患(IMID)における、BNT162b2(Pfizerワクチン)の抗体価及びT細胞応答を、MTX投与者とそれ以外の治療に分けて調査
  • 健常コントロール26例、non-MTX 26例、MTX 25例を検討
  • 平均年齢は健常群49.2歳、non-MTX群49.1歳、MTX群63.2歳
  • non-MTXの治療は、TNF阻害薬11例(42.3%)、他のサイトカイン・JAK阻害薬が9例(34.6%)、その他7例
  • MTXの投与量は15.7±5 mg/w
  • 十分な抗体反応(>5000U)が得られた割合は、健常人96.1%、non-MTX群92.3%、MTX群72.0%だった
  • スパイク特異的B cell、cTfh(CD4+ICOS+CD38+)、活性化CD4+ T cell、HLADR+ CD8+ T cellの割合は全てのグループで有意に増加した
  • 活性化CD8+ T cell(Ki67+ CD38、GZMB+)は、MTX投与群では誘導されなかった


補足:

MTX群の平均年齢は10才以上高く、COVID-19既往も半分以下ですので、これがかなり大きなバイアスになっている可能性があります。

Pfizerワクチンの治験データでも高齢者の抗体反応は若干低下していました。

N Engl J Med 2020; 383:2439-2450


この検討では抗体価5000Uをカットオフにしていますが、NEJMのFigureを見る限り、健常高齢者の5000以上の抗体反応率は90%を切っていそうであり、回復期血漿の抗体価が平均600くらいみたいなので、MTX群の抗体反応の低下が実際にはどのくらいsevereな問題なのかはよくわかりませんね。


あとインフルエンザワクチンのRCTと同じく、MTX投与量が多いことが影響している可能性があります。


Ann Rheum Dis. 2018 Jun;77(6):898-904.

  • インフルエンザワクチン前のMTX2週間休薬は非休薬と比較して抗体反応率を有意に上げる
  • サブ解析でMTX7.5mg以下の抗体反応率は有意差なし(用量依存性)
  • ただし休薬群のRA flareは2倍になった


ACRはあまり根拠なく接種前のMTX1週間休薬を推奨していますが、JCR推奨は基本的に休薬せずに接種する、という記載になっています。

本検討ではMTX投与量も日本と比べるとかなり多いので、日本で多いMTX8mg/w前後の方への影響は軽微かもしれないとも思えます。

個人的には少なくとも全員一律にMTXを休薬する必要はなく、よほど落ち着いている人では検討すればいいのではないかと考えています。