2020年1月31日金曜日

免疫チェックポイント阻害剤投与中の結核

免疫チェックポイント阻害剤(ICB)投与中の肺結核が話題になっています。
抗癌剤やirAEに対して免疫抑制剤を併用している例もありますが、ICBのみで発生することもあるようです。
知らないと鑑別に上げるのが難しいかもしれないので共有します。


J Immunother Cancer. 2019; 7: 239.

  • PD-1 KOマウスは結核感染させるとT cell欠損マウスよりも早く死ぬ
  • PD-1 KOマウスが結核を制御できない理由は、Th1の過剰応答とIFN-γの過剰産生に起因する
  • 活動性結核ではPD-1/PD-L1の発現が健常対照と比較して著しく高く、マクロファージの食作用や細胞内殺傷活性は、in vitroでPD-1/PD-L1を遮断すると有意に増加した
  • ICB投与中の肺結核の過去14例の報告では、ICB投与6ヶ月以内に発症した
  • 14人中2人のみ、irAEの治療でステロイド、インフリキシマブを使用していた


雑感:
癌による免疫抑制→LTBI進行→ICB投与による免疫再構築症候群
というストーリーが考えられているようですが、結核菌自体がPD-1 axisを介して増殖している可能性があるようで大変興味深いです。

恐らく治療開始する前の段階で既にLTBIであることが予想されるため、今後はICB投与前にLTBIスクリーニングが求められるようになると予想されます。
今の所、国内のICBや固形癌ガイドライン、CDC、WHO、NCCNのガイドラインでも、LTBIスクリーニングの記載はないようです。


2020年1月30日木曜日

IDSA市中肺炎ガイドライン2019

少し前ですが、IDSA(米国感染症学会)の市中肺炎ガイドラインが改定されました。
内容を全部解説すると冗長になるので、重要な点だけサマライズしてご紹介します。


Am J Respir Crit Care Med. 2019 Oct 1;200(7):e45-e67.

  • 喀痰グラム染色、血液培養、尿中肺炎球菌・レジオネラ抗原はルーチンで行わない
  • 喀痰グラム染色と血液培養は、重症例、MRSA・緑膿菌が疑われる例で検討する
  • プロカルシトニンを抗菌薬治療の判断に使用しない
  • 軽症肺炎を外来で治療する場合はアモキシシリン単独でも良い
  • 入院が必要な肺炎はβラクタム+マクロライドで治療する
  • 介護関連肺炎はそれほどMRSAや緑膿菌の関与が多くはないことがわかったため、ルーチンにはカバーしないことを推奨
  • 誤嚥性肺炎で嫌気性菌をルーチンにカバーすることは不要
  • 市中肺炎では重症であってもステロイドをルーチンに使用することは不要
  • インフルエンザ陽性の肺炎では抗菌薬と抗ウィルス薬を併用することを推奨
  • 肺炎の抗菌薬は臨床症状が改善するまで、最低5日以上投与する
  • 胸部のフォローアップ画像検査はルーチンには行わない


雑感:
グラム染色不要、改善後のX線画像不要など、いかにもアメリカ的な内容で、日本のプラクティスとしては適用しかねるような記載もありますが、nallow spectrumが意識されている箇所も随所にあり、興味深い内容ではあります。
このガイドラインを利用するに当たって最も重要な点として、軽症肺炎の外来処方例にマクロライド単独レジメンの記載がありますが、日本の肺炎球菌のマクロライド耐性は50%を超えているため、マクロライド単独では肺炎を治療できないことに注意が必要です。

2020年1月29日水曜日

MDA5陽性CADM-IPに対するトファシチニブの臨床効果

MDA5陽性CADM-IPに対するトファシチニブの効果を検証したOne arm studyを読んでみました。短いLetterですが、とても興味深いです。

N Engl J Med. 2019 Jul 18;381(3):291-293.
デザイン:前向き介入 One arm、Histrycal controlと成績を比較
P: MDA5抗体陽性CADM-IP(除外基準:FVC<50%、Overlap、癌、感染症、LFT>2ULN)
E: トファシチニブ5mg 1日2回
C: トファシチニブ未投与Historical control
O: 6ヶ月後の全生存率
結果:
・トファシチニブ群18例、従来治療群32例を解析
・従来治療群でピルフェニドン使用率が高いことを除き、患者背景に大きな差はなかった
・トファシチニブ群は18/18(100%)、従来治療群は25/32(78%)が生存(p=0.04)

感想:
従来治療群の半分程度でシクロスポリンが使われているだけで、IVCYもほとんど併用されていないので、比較対象が京都大学などを始めとした一般的な日本のプラクティス(いわゆるIntensive regimen)とは大分異なっていることに注意が必要です。
LFTやFVCの除外基準により、重症例が組み込まれないデザインになっている点も、不自然に成績が良い理由の一つになっていると思います。

機序的な部分で考察すると、MDA5抗体陽性CADM-IPではType-I IFNが亢進しているようなので(Br J Dermatol. 2019 May;180(5):1090-1098.)、有用な選択肢になっていくのだとは思います。

2020年1月28日火曜日

SSc-ILDに対するニンテダニブ

少し古いですがSSc-ILDに対するニンテタニブ(オフェブ(R))のRCTを読んでみました。
ハードエンドポイントの改善はなく、臨床効果も極めて僅かなので臨床インパクトは弱めですが、全く有効な薬剤がない強皮症の新規薬剤ということを考えると、大きな意味があります。
消化器症状と金銭面が許容できる早期患者では、基本薬として入れておいて良さそうな印象は持ちました。生存期間など今後の長期成績でまた変わるかもしれません。


N Engl J Med. 2019 Jun 27;380(26):2518-2528. (SENSCIS Trial)
デザイン: Double-blind RCT
P: レイノー以外の症状発症から7年以内の強皮症で、HRCTで肺の10%以上に線維化があり、かつ%FVC 40%以上で%DLco 30~89%の患者。PAHは除外された
I: ニンテダニブ150mg 1日2回経口投与
C: プラセボ対照(1:1ランダム化割付)
O: 52週後のFVC減少率。副次エンドポイントで52週後のmRSS、SGRQも評価
解析: ランダム係数回帰モデル

結果:
・576名がエントリー、約半数でMMFが併用されていた
・FVCはニンテタニブ群で-52.4ml、プラセボ群で-93.3ml (p=0.04)
・ΔmRSSはニンテタニブ群で-2.17、プラセボ群で-1.96で有意差なし
・ΔSGRQはニンテタニブ群で+0.81、プラセボ群で-0.88で有意差なし
・下痢がニンテダニブ群で75.7%、プラセボ群で31.6%に認められた

まとめ:
・ニンテタニブはSSc-ILDのFVC低下を有意に抑制する
・臨床症状を改善するほどの劇的な効果はなく、皮膚硬化も改善しない

2020年1月27日月曜日

新型コロナウィルス肺炎 (2019-nCoV) の臨床的特徴

話題になっている論文なのでご紹介します。

殆どが40~50代の健常人に発症している点が特筆すべき点です。
死亡率が高いように見えますが疾患の発見初期のコホートなので、重症例がピックアップされやすいバイアスがあることに注意が必要です。
1/27までの情報から計算すると死亡率は81/2863 (2.83%)であり、SARSの10%、MERSの37%と比較すると重症度は低めと見積もって良いと思われます(参考文献1-4)。


Lancet. 2020 Jan 24. [Epub ahead of print]
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)30185-9/fulltext

デザイン:前向き単施設観察研究

対象:

  • Realtime-PCR・次世代シークエンスにより確認された2019-nCoV感染患者
    (2019-nCoVが疑われるすべての患者は、武漢の指定病院に入院しているとのこと)

結果:

  • 41名の2019-nCoV感染が確定した患者を分析した
  • 男性73%、基礎疾患あり32%(糖尿病20%、高血圧15%、心血管疾患15%)
  • 年齢中央値は49歳 (IQR 41-58)で、華南シーフード市場の曝露歴は66%だった
  • 発熱98%、咳76%、呼吸困難55%、筋痛・疲労44%、痰28%、頭痛8%、喀血5%、下痢3%
  • 発症から呼吸困難出現までの中央値は8.0日(IQR 5-13)
  • リンパ球減少を63%、胸部CTでの肺炎を100%に認めた
  • 29%がARDS発症、32%がICU入室、15%が死亡
  • ICU患者は血漿IL2、IL7、IL10、GSCF、IP10、MCP1、MIP1A、TNFαレベルが高かった

考察

  • 発熱、乾性咳嗽が特徴で、SARS/MERSと異なり下痢はほとんどない(v.s. 20~25%)
  • 2019-CoVでは炎症性のTh1サイトカインのレベルが重症度に関連しているが、抗炎症性Th2サイトカインのIL4、IL10も高く、この点はSARS-CoVと異なっている
  • SARSに有効性が期待されている抗ウィルス療法であるロピナビル+リトナビルの、2019-CoVに対するRCTが既に開始されている



参考文献

  1. Lancet 2020 Jan 24. [Epub ahead of print]
    A novel coronavirus outbreak of global health concern.
    https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)30185-9/fulltext
  2. WHO: Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV). Geneva: World Health Organization.
    http://www.who.int/emergencies/mers-cov/en/
  3. WHO: Summary of probable SARS cases with onset of illness from 1 November 2002 to 31 July 2003. Geneva: World Health Organization.
    http://www.who.int/csr/sars/country/table2004_04_21/en/
  4. Ann Intern Med. 2004; 141: 662-673


2020年1月26日日曜日

IgG4関連疾患 ACR/EULAR分類基準2019

既に2020年ですがIgG4関連疾患2019分類基準が出ました。

IgG4関連疾患分類基準の概要

Arthritis Rheumatol. 2020 Jan;72(1):7-19.
Ann Rheum Dis. 2020 Jan;79(1):77-87.
・以下3つのプロセスを全て満たせばIgG4-RDと分類する
 1. 11の臓器病変のうち最低1つが証明され、
 2. 32の除外基準のいずれにも該当せず、
 3. 8つのドメインからなるスコアリングで20点以上
・Validation cohort 1では、感度85.5%、特異度99.2%だった
・Validation cohort 2では、感度82.0%、特異度97.8%だった
・除外基準を削除すると、感度90.0%、特異度89.2%となる
・生検に関する基準を削除すると、感度48.6%、特異度98.9%となる

感想:
感度よりも特異度を重視してcut-off valueを設定した分類基準です。
EGPAやキャッスルマンなどIgG4RDと区別が難しい症例で真価を発揮すると思われますが、分類基準の例に漏れず、臨床より臨床研究で活用されるべき、という理解になると思います。

臨床で活用するとすれば、生検なしで分類基準を満たすような症例では、敢えての生検は不要(特異度が生検ありと殆ど変わらないので)。
基準を満たさない場合に(感度を上げるため)生検を考慮するといったところでしょうか。従来のプラクティスとあまり大きくは変わらないでしょうが・・・


IgG4関連疾患分類基準の内容

以下、分類基準 (Table4) の和訳です。

Step1: 前提基準
IgG4-RDに典型的臓器の1つに、臨床的・X線学的な臓器病変の所見がある、
または病理学的に証明されたリンパ形質細胞浸潤を伴う原因不明の炎症所見を認める。
典型的臓器:膵、唾液腺、胆管、眼窩、腎、肺、大動脈、後腹膜、肥厚性硬膜炎、甲状腺
臓器病変は臓器腫大または腫瘤様病変を指す。
(胆管狭窄、動脈瘤・動脈壁肥厚、気管支血管速の肥厚を除く)

Step2: 除外基準
発熱
・ステロイドに反応しない(38度以上、PSL40mg/day = 0.6mg/kg/dayを4週以上)
血清学
・説明のつかない白血球減少や血小板減少
・末梢好酸球増加(≥ 3000/μL)
・ANCA陽性
・抗SS-A/B抗体陽性
・抗dsDNA/RNP/Sm抗体陽性
・その他の疾患特異的自己抗体が陽性(抗ARS, Scl70, PLA2抗体を指す)
 ※ RF, ANA, AMA, LKM, aPLなどの特異性の低い抗体は含まない
・クリオグロブリン血症
X線学
・悪性腫瘍または感染症の疑いがある、十分に精査されていない放射線学的所見
・X線学的所見の急速な進行(4~6週単位)
・エルドハイム・チェスター病と一致する長管骨異常
 ※ 一般的には長管骨の両側性の多巣性骨硬化性病変
・脾腫(門脈圧亢進症などで説明がつかない場合で、14cm以上)
病理
・十分に精査されていない、悪性腫瘍を示唆する細胞浸潤
・炎症性筋線維芽細胞腫瘍と一致するマーカー(ALKやROS1)
・著明な好中球性炎症
・壊死性血管炎
・著しい壊死
・原発性の肉芽腫性炎症
・マクロファージ・組織球性障害の病理所見
以下の診断歴
・多中心性キャッスルマン病
・クローン病または潰瘍性大腸炎(膵胆管疾患のみの場合)
・橋本甲状腺炎(甲状腺病変のみの場合)

Step3: 選択基準(各ドメインの最高点のみ加算)
病理組織像
・情報価値のない検体 0点
・高度のリンパ球浸潤 +4点
・高度のリンパ球浸潤+閉塞性静脈炎 +6点
・高度のリンパ球浸潤+花筵状線維化 (storiform fibrosis) +13点
免疫染色
・IgG4/IgG <40% or 不定、かつIgG4+ cells/HPF 0〜9個 0点
・IgG4/IgG ≥41%、かつIgG4+ cells/HPF 0〜9個 or 不定 7点
・IgG4/IgG <40% or 不定、かつIgG4+ cells/HPF ≥10 or 不定  7点
・IgG4/IgG 41〜70%、かつIgG4+ cells/HPF ≥10 14点
・IgG4/IgG ≥71%、かつ IgG4+ cells/HPF 10〜50 14点
・IgG4/IgG ≥71%、かつ IgG4+ cells/HPF ≥51 16点
 ※リンパ節、胃・腸管粘膜、皮膚生検は、免疫染色ドメインのスコアリングに使用できない。
 ※「不定」とは陽性細胞数を明確に定量できないが、細胞数 ≥10/HPFである状況。
血清IgG4濃度
・正常または測定なし 0点
・正常上限~正常上限の2倍 +4点
・正常上限の2〜5倍 +6点
・正常上限の5倍以上 +11点
涙腺、耳下腺、舌下腺、顎下腺(両側で1セット)
・1セット未満 0点
・1セット +6点
・2セット以上 +14点
胸部
・未検査または以下のいずれも存在しない 0点
・気管支血管周囲および(小葉間?)隔壁の肥厚 +4点
・傍胸椎の帯状軟部組織(通常右側、Th8-11に位置) +10点
胆膵
・未検査または以下のいずれも存在しない 0点
・びまん性膵腫大(小葉の喪失) +8点
・びまん性膵腫大および造影効果の低下した被膜様構造 +11点
・膵病変(上記のいずれか)+胆道系病変 +19点

・未検査または以下のいずれも存在しない 0点
・低補体血症 +6点
・腎盂の肥厚・軟部組織 +8点
・両側腎皮質の(造影)低吸収域 +10点
後腹膜
・未検査または以下のいずれも存在しない 0点
・腹部大動脈のびまん性壁肥厚 +4点
・腎動脈下大動脈or腸骨動脈の全周性か前外側の軟部組織 +8点

Step4: 合計点
前提基準が満たされ、除外基準が存在せず、合計20点以上であれば
IgG4-RDの分類基準を満たすと判定する。