2021年1月5日火曜日

SARS-CoV2変異株D614G

SARS-CoV2変異株はテレビではめちゃくちゃ話題になっていますが、実際のところはあまりデータが出てきてないですね。とりあえずNEJMのまとめがわかりやすかったので共有します。


Emergence of a Highly Fit SARS-CoV-2 Variant.

December 31, 2020

N Engl J Med 2020; 383:2684-2686


  • スパイク蛋白の受容体結合ドメイン(RBD)の変異株であるD614Gが、世界的に有病率が高い株になっている
  • D614Gは野生株と立体構造が異なる可能性があり、ACE2への結合能力が向上する可能性が示唆されている
  • 不死化培養細胞、ヒト初代気道上皮細胞、ハムスターの鼻腔内において、D614G変異株は野生型よりも効率的に複製された
  • D614G変異株に感染したハムスターの重症度は野生株と同じだった
  • D614G変異株は野生株感染ハムスター由来の血清により中和された
  • 現在臨床試験で評価されているCOVID-19ワクチンは野生株のRBD配列に基づくが、これらの知見により変異株に対するワクチン有効性に対する不安は和らいだと考えられる

2021年1月4日月曜日

MCNSに対するタクロリムスの有用性

カルシニューリン阻害薬のRCTは殆ど出てこないので貴重ですね。


Comparison of the Efficacy and Safety of Tacrolimus and Low-Dose Corticosteroid with High-Dose Corticosteroid for Minimal Change Nephrotic Syndrome in Adults

JASN January 2021, 32 (1) 199-210.

DOI: 10.1681/ASN.2019050546

  • Design: 多施設Open-label RCT、並行群間、非劣勢試験(韓国)
  • P: 16-79才の腎生検で診断されたMCNS、尿蛋白>3.0g/gCr、eGFR>30
  • I: PSL 0.5mg/kg+TAC 0.05mg/kg 1日2回(濃度は5-10ng/ml)
  • C: PSL 1.0mg/kg (Max 80mg)
  • O: 
    • 主要エンドポイントは8週における完全寛解率(尿蛋白<0.2g/gCr)、非劣勢マージン20%
    • 二次エンドポイントは完全寛解達成までの期間、再発率(尿蛋白>3.0g/gCr)、再発までの期間


結果

  • 144名がランダム化され、TAC群に69名(解析対象67名)、PSL群に75名(解析対象69名)が割付られた
  • 8週間時点の完全寛解は、TAC群53人(79.1%)、PSL群53人(76.8%)で、ITT(11.6%)、PPS(17.0%) いずれの解析でも非劣性が示された
  • 寛解までの期間の中央値はTAC群で15日(95%CI: 14-27)、PSL群で25日(95%CI: 14-28)で有意差はなかった
  • 24週における再発率はTAC群で有意に少なかった (5.7% vs. 22.6%, p=0.01)


感想

TACの併用でPSL投与量を減らせて、寛解も少し早くて、再発は明らかに減少する。感覚的にも臨床の印象と合致しますし、おそらく糸球体腎炎の寛解導入に高用量PSLは必要ないのだろうと強い確信が持てるデータです。

PSL群に同意撤回による脱落が若干目立ちますが、解釈に影響を与えるほどではなさそうです。Open-labelではありますが、エンドポイントは主に客観指標の尿蛋白なので、情報バイアスが入る余地は少なく、盲検とほぼ同義に解釈できそうです。


2020年12月13日日曜日

COVID-19に対するバリシチニブのRCT

待ちに待ったバリシチニブのRCT結果がNEJMに掲載されました。

RECOVERY試験ほどのインパクトはありませんが、酸素が始まったタイミング、あるいは5L以上になるような場合に良い適応なのではないかと思われます。選択肢が増えるのは良いことですが、デカドロンとの使い分けや併用すべきなのかなど、実際に使う場合には色々と課題が残ります。


Baricitinib plus Remdesivir for Hospitalized Adults with Covid-19

N Engl J Med. Dec 11, 2020. 

DOI: 10.1056/NEJMoa2031994


  • Design: 国際共同多施設 double-blind RCT
  • P: 入院が必要な成人COVID-19
  • I: バリシチニブ(4mg/day, 14日間, eGFR<60は2mg/day)+レムデシビル(10日間or退院まで)
  • C: プラセボ+レムデシビル 1:1割付
    • 両群ともステロイドの併用はしていない
  • O: 主要エンドポイントは回復(カテゴリー3以下)までの日数(層別Log-rank test)

※ 重症度カテゴリーはACTT-1と同じ(下記参考)

 1=活動制限なし

 2=活動制限があるが入院不要

 3=酸素や医療ケアは不要だが入院が必要(感染管理のための入院)

 4=酸素は不要だがCOVID-19に関連した活動制限による医療ケアが必要

 5=酸素が必要

 6=NIPPVや高流量の酸素が必要

 7=機械的換気やECMOが必要

 8=死亡


結果

  • 1067人を登録、515人がバリシチニブ群、518人がプラセボ群に割り付けられた
  • 発症から登録までの日数の中央値は8日だった
  • バリシチニブ群、プラセボ群のベースライン重症度は、各々カテゴリ4が13.6%, 13.9%、カテゴリ5が55.9%, 53.3%、カテゴリ6が20.0%, 21.8%、カテゴリ7が10.5%, 11.0%
  • バリシチニブ群の回復までの日数は中央値7日で、プラセボ群の8日と比較して有意に短かった (RR 1.16, 95%CI: 1.01-1.32; P<0.03)
  • カテゴリ6 (N=216) における回復率比が1.51 (95%CI: 1.10-2.08) と最も大きく、改善までの日数を中央値で8日間短縮した
  • カテゴリ5 (N=564) における回復率比は1.17 (95%CI: 0.98-1.39) だった
  • カテゴリ7 (N=111) における回復率比は1.08 (95%CI: 0.59-1.97) だった
  • バリシチニブ群の28日死亡率はプラセボ群と比較して低い傾向だった(5.1% vs 7.8%, HR 0.65, 95%CI: 0.39-1.09)
  • 機械換気・ECMOへの移行はバリシチニブ群で有意に少なかった(10.0% vs 15.2%; リスク差 −5.2%; 95%CI: −9.5 ~ −0.9)
  • 重篤な有害事象はバリシチニブ群で40.7%、プラセボ群で46.8%、内訳は貧血、AKI、腎機能障害、高血糖などだが、両群における発生率に大きな差はない



感想

気になる点はEffect sizeが期待よりもかなり小さいことですが、比較的重症化したカテゴリ6(高流量酸素)の状態で最も効果が大きいにも関わらずACTT-1よりも軽症者が多く登録されてしまった影響が大きいように見えます。

軽症者が多いことや、ベースでレムデシビルが入っているせいなのか、死亡率も軒並み低いので、死亡率の評価も惜しい感じにとどまっているようです。死亡率や挿管率の低減効果も含めて、重症度を上げた適切な組入基準での追試が必要でしょうね。

サンプルサイズも、軽症者が多いため最重要であるカテゴリ6で100 vs 100であり、他の虹エンドポイントもUnder estimateされている可能性が十分残されています。挿管率では有意差が出ているので、死亡率もNを増やすことで有意差が出るかもしれないと期待させてくれるポテンシャルを感じます。

色々問題点を残しているとはいえ、臨床的有効性はあまり疑いようがなさそうに見えますので、今後レムデシビル+デカドロンで病勢が止まらなそうな症例には使っていきたいですね。


2020年10月29日木曜日

重症COVID-19におけるautoreactivity

medRxivのPre-printに驚くべき論文が掲載されています。目から鱗が落ちるような内容だったので、僕なりの考察と共に共有します。


Broadly-targeted autoreactivity is common in severe SARS-CoV-2 Infection

medRxiv. Preprint. 2020 Oct 23.

https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.10.21.20216192v1.full.pdf

  • 自己免疫の既往歴がない重症COVID-19の31人から後方視的に自己抗体を測定した
  • 44%がANA80倍以上で、陽性者の81%が160倍以上の力価を示した
  • 自己反応性の存在はCRP上昇と相関し、CRP高値群ではANA(35% vs. 56%)とRF(0% vs. 38%)、両方の産生が増加していた



考察

重症COVID-19の免疫学的環境が、様々な自己抗原に対するde novo autoreactivityをDriveする可能性が示唆されています。著者らはSARS-CoV2 ssRNAによるTLR7活性化を介したものではないかと考察しています。

  • TLR-7依存性の濾胞外(EF)B cellは、T-betとCD11cを高発現し、マウスモデルのウイルスクリアランスに重要な役割を果たす。この経路は高度炎症、自己免疫モデルマウスで病原性である (J Clin Invest. 2017 Apr 3;127(4):1392-1404.)
  • 同様の経路の、加齢性の自己反応性B cellの出現は、IRF5の調節不全を介している (Nat Immunol. 2018 Apr;19(4):407-419.)
  • CXCR5とCD21を欠くDouble negative B cell (DN2-B cell)は、活動性SLEで疾患活動性と相関して増加し、TLR7依存的にIFN-γ–IL-21を介して誘導される (Immunity. 2018 Oct 16;49(4):725-739.e6.)
  • 重症COVID-19ではSLEと同様のEF-B cell応答、すなわちDN2-B cellの増加を示し、これはクラススイッチ抗体産生細胞の増加、高力価SARS-CoV-2中和抗体、臨床転帰不良と強く相関した (Nat Immunol. 2020 Oct 7. doi: 10.1038/s41590-020-00814-z.)


胚中心を介さない抗体産生では免疫寛容が破綻し、高力価の抗体産生と同時に自己抗体の産生を許してしまうと理解できます。

この経路は通常TLR-7やIRF5によって制御されているはずですが、実際にTLR-7の機能喪失型変異はI型IFN反応の抑制を介してCOVID-19を重症化させるという報告があります(JAMA. 2020 Jul 24;324(7):1–11.)。COVID-19のGWASでリスクアリルとして抽出された3番染色体のCCR9もTLRを介した自己免疫反応に関連が深いようです(Nature. 2020 Sep 30. doi: 10.1038/s41586-020-2818-3.)


COVID-19の自己免疫反応の本態にかなり迫ってきた感がありますね。

そして何となくこれはSARS-CoV-2に特異的な現象ではなく、他のウィルス感染でも普遍的に起きていることなのだろうと感じています。自己免疫性疾患の季節性や、感染後の原因不明の間質性肺炎など、今になると思い当たることがたくさんあります。


2020年10月28日水曜日

COVID-19に対するトシリズマブのRCT

NEJMに載った話題のトシリズマブRCTの結果です。


Efficacy of Tocilizumab in Patients Hospitalized with Covid-19.

NEJM October 21, 2020

DOI: 10.1056/NEJMoa2028836


  • Design: double-blind RCT
  • P: 38度以上、肺浸潤影、酸素投与のうち2つ以上、かつCRP>5、Ferritin>500、D-dimer>1のうち1つ以上を満たすCOVID-19
  • I: トシリズマブ8mg/kg (Max 800mg) 単回投与+標準治療
  • C: プラセボ(2:1)+標準治療
  • O: 挿管もしくは死亡までの時間
  • ※標準治療はレムデシビルを一部含むが、デキサメサゾンを投与された患者はいなかった
  • ※標準治療によるイベント発生を30%と想定し、トシリズマブによるリスク軽減が15%の仮定で、検出力80%におけるサンプル数は243と試算された


結果

  • 243人の患者が登録され、161人がトシリズマブ群、81人がプラセボ群に割り付けられた
  • プラセボと比較したトシリズマブ群の挿管・死亡までのHRは0.83 (95%CI 0.38-1.81)で有意差なし


  • 年齢、性別、人種、糖尿病の状態、ベースラインIL-6で調整したHRは0.66 (95%CI 0.28-1.52)で有意差なし。調整前及び調整後HRの差異は、主に年齢の違いに起因していた
  • プラセボ群ではGrade3以上の感染症が有意に多く、トシリズマブ群ではGrade3以上の好中球減少が多かった


感想

かなり頑強なデザインのRCTでサンプル数が十分であったにも関わらず、主要エンドポイントだけでなく代替エンドポイントもことごとく有意差がなく、トシリズマブの有効性はかなり否定的になってしまったと考えざるを得ません。サンプル計算の想定よりもイベント数がかなり少ないので検出力不足の可能性は残るものの、あまりに厳しい差なのでNを増やしても結果が変わるとは思い難いです。

JAMA姉妹誌のEditorialにトシリズマブRCTの素晴らしい比較が出ていました。観察研究では高い有効性の報告が多いが、RCTでは結果が出せていないと考察されています。いずれのRCTもハードエンドポイントでの有効性が示せていないか、もしくはEffect sizeがかなり小さくなっており、なかなか厳しい展開に感じます。

JAMA Intern Med. October 20, 2020. doi:10.1001/jamainternmed.2020.6557


重症COVID-19の濾胞外B cellのprofileがSLEと類似しており、Long haul COVID-19における自己免疫現象と、SLEを関連付けている報告が話題になっているようです。  

Nat Immunol (2020). doi.org/10.1038/s41590-020-00814-z

なんとなくJAK阻害薬の方が効きそうな気がしてきます。ルキソリチニブのRCTが近いうちに結果が出ると思いますので楽しみですね。


2020年10月21日水曜日

ウパダシチニブvsアバタセプト(SELECT-CHOICE試験)

 RAに対するウパダシチニブとアバタセプトのHead to Head試験が、NEJMに掲載されました。色々問題を含みながらも価値のあるデータだと思います。



Trial of Upadacitinib or Abatacept in Rheumatoid Arthritis.

N Engl J Med 2020; 383:1511-1521

  • Design: Double blind RCT, global, 非劣性試験
  • P: TJC6以上、SJC6以上、CRP0.3以上のRAで、1つ以上のbDMARDが無効or忍容性がない
    • 除外基準:アバタセプトやJAK阻害薬の投与歴がある
  • I: ウパダシチニブ15mg 1日1回
  • C: アバタセプト静注(日本の添付文書と同じ用量)
  • O: 12週の⊿DAS28-CRP(非劣性マージンは+0.6、検出力90%)


結果

  • 613名がランダム化、303名がウパダシチニブ群、309名がアバタセプト群に割り付けられた
  • 両群およそ90%が24週までのプロトコルを完遂した
  • ⊿DAS28-CRPはウパダシチニブ群-2.52、アバタセプト群-2.00で、ウパダシチニブの優越性が証明された(差-0.52, 95%CI: -0.69~-0.35)
  • SJCの推移、CDAIについては両群で有意な差がなかった
  • ウパダシチニブ群は、全てのAE、SAE、AEによる治療中止が多い傾向で、肝障害は有意に多かった(ウパダシチニブ群7.6%, 95%CI 4.8-11.4、アバタセプト群1.6%, 95%CI 0.6-3.8)


感想

ADACTA試験から伝統の「CRPマジック」が活用された非常にコマーシャルなデザインで、正直見るに堪えないFigureも多いです。敢えてTNFを選ばず、最も立ち上がりが遅そうなアバタセプトを対照群にしているのも恣意的ですね。

ただ立ち上がりが早いことは真実のような気がするので、副作用に耐えられそうで、Rapid ragiological progressionが予想されるようなAgressiveなRAではJAKを選択するのが良いかもしれないと感じさせてくれるデータです。そういった意味では1年後、2年後の骨破壊を含めたデータに期待したいです。


あとTJCで差が出る理由は立ち上がりだけで説明できない気がするのですが、実臨床でも腫れが引かないのに痛みだけなぜか良くなって継続している人を経験しているので、なかなか面白い特徴だなと思いました。(もしCRPがブラインドされていなかったら、プラセボ効果かもしれないですが)



2020年10月3日土曜日

ループス腎炎に対するベリムマブの併用(BLISS-LN study)

ALMS study以来のループス腎炎のプラクティスが変わりえる論文がNEJMに掲載されました。


Two-Year, Randomized, Controlled Trial of Belimumab in Lupus Nephritis

N Engl J Med 2020; 383:1117-1128

DOI: 10.1056/NEJMoa2001180


  • Design:Double blind RCT
  • P: ANA80倍以上or抗ds-DNA抗体陽性のSLE (尿蛋白>1g/gCr、ISN/RPS III or IV or V)
    • 除外基準:1年以内の透析歴、eGFR<30、CY及びMMF両剤での寛解導入失敗歴、1年以内のB細胞標的治療
  • I: 標準治療+ベリムマブ(10mg/kg静注day1,15,29, 以後4w毎100週まで)
    • 標準治療:IVCY 500mg/body/2w 6回 or MMF3g/day+PSL0.5-1mg/kg/day(±パルス)+HCQ+ARB/ACE-I
    • CYではAZA2mg/kg/dayで維持、MMFでは1-3g/dayで維持
  • C: プラセボ(1:1)
  • O: 主要評価項目は104週の腎反応率(尿蛋白≦0.7g/gCr、かつeGFRがBaselineより20%以上悪化しない、かつ追加治療を要しない)
    • 副次評価項目は104週の完全腎反応率(尿蛋白≦0.5g/gCr、かつeGFRがBaselineより10%以上悪化しない、かつ追加治療を要しない)


結果

  • 104週の腎反応率はベリムマブ群43%、対照群32% (絶対差+11%, OR 1.6, 95%CI 1.0-2.3)
  • 104週の完全腎反応率はベリムマブ群30%、対照群20% (絶対差+10%, OR 1.7, 95%CI 1.1-2.7)
  • 両群の有害事象に大きな差はなかった
  • サブ解析で、ベリムマブの併用はMMF使用者でのみ有意に腎反応率を改善した。ベリムマブ群46.3%、対照群34.1% (絶対差+12.20%, OR 1.58(95%CI: 1.00-2.51)





感想

ベリムマブを併用することによる2年後の寛解導入・維持上乗せ効果のNNTは9と相当なインパクトがあり、MMFでの寛解導入、維持療法にベリムマブを足したほうが良さそうなのは間違いないですが、CYにもベリムマブを併用すべきか、CY単独とMMF+ベリムマブのどちらが優れているか、CNIの併用の位置づけをどうすべきか、等、また新たな疑問が生まれてきますね。

本試験でMMFとCYのいずれを使用するかは主治医に委ねられていたので、重症例にはCYが入っていしまっているのではないか、という考察がEditorialでも触れられていました。

色々と選択肢が出てきたことで、相対的にエビデンスレベルが低くなってしまったCNIの出番は、今後やや少なくなっていくような気がします。

個人的には、軽症・中等症にはMMF+ベリムマブ、重症例はCY(+ベリムマブ)、妊娠希望者の維持療法にはCNI(+AZA)、という使い分けができそうでしょうか。