2022年3月9日水曜日

Helicobacter fennelliae菌血症

血液内科の繰り返す蜂窩織炎で、Helicobacter fennelliaeが血培から生えたという事例がありました。

馴染みのない方のために、Helicobacter菌血症の重要な点を述べておくと、

  • 免疫抑制者(特に血液悪性腫瘍の化学療法後の方)の繰り返す蜂窩織炎が特徴
  • 血液培養陽性まで5~7日かかるため、疑った場合は延長培養する
  • 初期治療はセフトリアキソンかセフェピム、同定・感受性結果で狭域化する


Helicobacter fennelliaeは、Helicobacter cinaediと比較すると蜂窩織炎が少ないということみたいですが、そこまで気にするほどの差ではないのかなと思います。いずれのHelicobaterもマクロライド耐性、キノロン耐性が進んでいるところが注意点とみました。


マニアックでごく稀にしか役に立たない知識が多い気もしますが、3論文を紹介します。

まず静岡がんセンターからのまとまったレビュー論文。

Helicobacter fennelliae Bacteremia: Three Case Reports and Literature Review.

Medicine (Baltimore). 2016 May;95(18):e3556.

doi: 10.1097/MD.0000000000003556.


  • H. fennelliae菌血症の包括的な文献レビューにより、1993年から2014年に記録された24症例を発見した
  • 多くは、固形癌(4例)、血液悪性腫瘍(3例)、糖尿病(1例)、肝臓疾患(3例)、腎臓疾患(3例)、自己免疫疾患(3例)、臓器移植(1例)などの免疫抑制背景を持つ患者であった
  • 臨床症状は,腹痛,下痢,悪心,嘔吐などの消化器症状(7例),蜂巣炎(1例),発疹(1例),髄膜炎(1例),細菌性心膜炎(1例),発熱(10例)であった
  • 消化器症状が多かったが,H. fennelliae菌血症ではH. cinaedi菌血症ほど蜂巣炎は多くなかった


H cinaediと形態が類似しているH fennelliaeの診断には硝酸塩還元反応とアルカリホスファターゼ加水分解反応が有用



僕の経験した症例は蜂窩織炎だったので、Helicobacter cinaediの誤同定なのかなと一瞬思ったのですが、結論は違うようでした。というのも、Helicobacterの種はMALDIでは区別できないのだと(勝手に)思っていたのですが、できるということが書いてあった論文が以下です。


Rapid identification and subtyping of Helicobacter cinaedi strains by intact-cell mass spectrometry profiling with the use of matrix-assisted laser desorption ionization-time of flight mass spectrometry.

J Clin Microbiol. 2014 Jan;52(1):95-102.

doi: 10.1128/JCM.01798-13.


Helicobacter cinaediを含む12株すべてが他のHelicobacter属とは独立したクラスタを形成しており、MALDI-TOF MSによるICMSプロファイリングがH. cinaediの同定に適用できることが示された。



Helicobacter cinaedi and Helicobacter fennelliae transmission in a hospital from 2008 to 2012.

J Clin Microbiol. 2013 Jul;51(7):2439-42.

doi: 10.1128/JCM.01035-13.


市立札幌病院からの報告です。この論文の本質はHelicobacterの院内感染の可能性が示唆されている点なのですが、論文中のHelicobacter cinaediとHelicobacter fenneliae、それぞれのMICプロファイリングが役に立ちそうだったので紹介します。



いずれのHelicobaterもマクロライド耐性、キノロン耐性が進んでいることに注意が必要ですね。らせん菌の初期治療は、やはりセフトリアキソンかセフェピムです。ペニシリンはそれなりに感受性があることがで期待できるので、感受性判明後にアモキシシリンないしアンピシリンへ狭域化することを考えればよい、ということになります。



2022年3月3日木曜日

感染性心内膜炎の頭部感染性動脈瘤

Streptococcus oralisの感染性心内膜炎で、術前スクリーニングの頭部CTで軽度のくも膜下出血を指摘された症例がありました。
最初はたまたま見つかったものだと思っていたのですが、「感染性心内膜炎の頭部感染性動脈瘤」は意外とメジャーなもののようで、調べてみると知らないことが多く、非常に勉強になりました。

2つの論文を紹介します。先に重要な点をまとめると、以下です。
  • 自然弁の左側IEに発生する頻度の低い合併症
  • 頭部感染性動脈瘤は殆どが、中大脳動脈遠位分岐点に発生する
  • 低毒性病原体(緑色連鎖球菌)が原因になることが多い
  • 10㎜以下のものは抗菌薬治療のみで消失することが多い
  • 破裂の有無で予後が左右される


Medicine (Baltimore).2014 Jan; 93(1): 42-52.
Published online 2014 Jan 2.
doi: 10.1097/MD.0000000000000014

※SPMA:症候性末梢性感染性動脈瘤 Symptomatic peripheral mycotic aneurysms

デザイン

  • 後ろ向き観察研究
  • 1996年から2011年までに収集された922例の確定的IEエピソード中,18例(1.9%)がSPMAを有していた

方法

  • SPMAはすべて左心系IEで発症したため、SPMAを発症しなかった左心系IE719例とSPMAを発症した18例を比較

結果

  • SPMAを発症した患者では,静脈内薬物乱用,自然弁IE,頭蓋内出血,敗血症性塞栓,多重塞栓,IE診断の30日以上の遅延の頻度が高かった.
  • 原因微生物は,グラム陽性球菌(n=10),グラム陰性桿菌(n=2),グラム陽性桿菌(n=3),Bartonella henselae(n=1),Candida albicans(n=1),培養陰性(n=1)であった
  • IE診断の遅れの中央値は,高病原性微生物の場合15日(IQR 13~33日),低~中病原性微生物の場合45日(IQR 30~240日)であった
  • SPMAは頭蓋内が12例,頭蓋外が6例であった
  • 10例(頭蓋内8例,頭蓋外2例)では,SPMAがIEの初発症状であり,残りの症例は非経口的抗生物質治療中または終了後に症状が出現した
  • 抗菌薬単独治療7例(頭蓋内6例,頭蓋外1例)のうち,4例(頭蓋内3例,頭蓋外1例)が死亡した
  • 外科的切除7例(頭蓋内3例,頭蓋外4例),血管内修復4例(頭蓋内3例,頭蓋外1例)に施行し,全員生存した

議論

  • SPMAは左側IEにのみ発症し,特に自然弁に発症するまれな合併症であることが判明した
  • 頭蓋内出血,塞栓症,多発性塞栓症,IEの診断遅延はSPMAを発症した患者でより多くみられた
  • 微生物学的プロファイルは多様であったが,低毒性微生物が優勢であり,高毒性微生物によるものに比べてIE診断の遅れが大きかった
    • 補足:低毒性微生物に多いのは、診断が遅れやすく、菌血症の期間が長い影響ではないかと思われる)
  • SPMAはIEの初発症状であることが多かった
  • SPMAの最も一般的な部位は頭蓋内であった
  • 外科的治療と血管内治療は安全で効果的であった
  • 血管内治療は選択された症例では治療の第一選択となり得る
  • 抗生物質のみで治療した症例では,死亡率が高かった.




Lancet Infect Dis. 2006 Nov;6(11):742-8.
doi: 10.1016/S1473-3099(06)70631-4.

症例報告

  • 南米コロンビア出身の41歳男性
  • くも膜下出血で発症したStreptococcus mitisの感染性心内膜炎
  • 入院22日目に突然動脈瘤が再破裂し、脳死状態となった
  • 剖検では、右MCAに沿った複雑な動脈瘤が確認され、動脈瘤内の小血管が好中球により破壊されていることが判明した

レビューと考察

  • 感染性頭蓋内動脈瘤(IIA)は、依然としてほとんど左側細菌性心内膜炎に起因する。
  • IIAは髄膜炎、海綿状血栓静脈炎、脳外科手術後の感染症などの頭蓋内細菌感染から生じることはあまりない
  • IIAの頻度は低い(心内膜炎患者の2~4%)
  • IIAは臨床的に症状が現れないことがあり、抗菌薬治療で完全に消失する
  • 緑色連鎖球菌と黄色ブドウ球菌がIIAの57-91%を占めている
  • CNS、腸球菌、β溶連菌、HACEK、グラム陰性桿菌、真菌は頭蓋内動脈瘤の原因としてあまり報告されていない
  • 中枢神経系のIIAの部位は、中大脳動脈の遠位分岐点に著しく偏っている。血管造影で証明されたIIAのレビューでは、55/71 (77%) の動脈瘤が遠位中大脳動脈に発生していた

  • IIAの治療は指針となるRCTがないため、議論のあるテーマである。抗菌薬による保存療法のみ、あるいは抗菌薬と外科手術の併用療法について、成功と失敗、いずれの報告も豊富に存在する
  • 破裂のない患者の大半は脳外科手術を必要としない
  • いくつかのケースシリーズでは、直径10mmまでのIIAが薬物療法のみで消失したことが報告されているしたがって、未破裂動脈瘤には抗菌薬治療を行い、連続的に血管造影を行って改善または消失を確認する必要がある
  • 動脈瘤が非常に大きい場合、治癒しない場合、抗菌薬治療にもかかわらず拡大する場合は、手術または血管内治療が必要である
  • あるケースシリーズでは、未破裂動脈瘤の5例のうち、4例は抗菌薬で完全に消失し、1例はサイズが縮小したが最終的には外科的切除が必要であり、破裂した例はなかった。9人の破裂した動脈瘤のうち、抗菌薬で完全に治ったのは1人だけで、1人は手術前に死亡し、残りの7人は持続性動脈瘤のために外科的切除を必要とした。
  • 破裂した動脈瘤は予後が悪い。

2022年3月1日火曜日

リウマチ性疾患のCOVID-19マネージメント EULAR 2021 update

リウマチ性疾患のCOVID-19に対するEULAR推奨がUpdateされています。

概ね当たり前のことが記載されているので流し読み程度で良さそうですが、
  • COVID-19に罹患してもステロイド・免疫抑制剤は「原則」同量で維持
  • リツキシマブは次サイクルの延期を検討
の2点がポイントでしょうか。これも何となくみんなやっていることだと思うので、当然といえば当然かも知れません。


EULAR recommendations for the management and vaccination of people with rheumatic and musculoskeletal diseases in the context of SARS-CoV-2: the November 2021 update
Ann Rheum Dis. 2022 Feb 23
doi: 10.1136/annrheumdis-2021-222006.


包括的原則

  1. 一般にRMD患者でSARS-CoV-2感染リスクや予後が悪いということはない
  2. RMD患者のCOVID-19の診断と治療は、COVID-19の専門家に責任がある
  3. リウマチ専門医は免疫調節療法・免疫抑制療法の維持や中止の判断に関与すべきである
  4. リウマチ専門医は地元病院、地域、国のCOVID-19管理ガイドライン委員会に参加すべきである
  5. COVID-19の治療において、免疫調整剤、免疫抑制剤の適応外使用は控えるべきである

推奨事項

  1. ワクチン接種の前も後も、公衆衛生当局が規定するすべての感染予防・管理措置の遵守を強く勧めるべきである
  2. SARS-CoV-2ワクチン接種を受けるよう勧めるべきである。
  3. ワクチン接種者には治療変更せずに継続するよう助言すべきである。ワクチン未接種者には、特定の治療法が重症COVID-19のリスク上昇と関連していることを考慮し、治療を継続するよう助言する
  4. 長期的にステロイド治療を受けているRMD患者がCOVID-19の疑いまたは確定診断を受けた場合、ステロイド治療は継続する
  5. リツキシマブ治療を受けているRMD患者がSARS-CoV-2に感染した場合、次のサイクルのリツキシマブの延期を検討すべきである
  6. COVID-19の症状悪化では、COVID-19専門家の更なる医療助言を求めるべきである
  7. RMD患者のワクチン接種に関するEULAR勧告に従って、特に肺炎球菌とインフルエンザに重点を置いて、一般的なワクチン接種状況を更新するよう助言する
  8. 免疫調節療法や免疫抑制療法を行っていないRMD患者は、SARS-CoV-2ワクチンの接種を可能であれば治療開始前に行うべきである
  9. リツキシマブまたは他のB細胞枯渇療法を行っているRMD患者のSARS-CoV-2ワクチン接種は、免疫原性を最適化する方法でスケジュールする

配慮すべき点

  1. 特定の免疫抑制剤・免疫調節剤を使用している人は、COVID-19ワクチン接種に対して十分な防御反応を示さない可能性が懸念される。SARS-CoV-2ワクチンの3回目接種の効果の有無を特定するためのデータは現在得られていない。一部の当局は特定のグループに3回目接種を推奨しており、EULARもこのアプローチを支持する
  2. 重症COVID-19に対するワクチンによる防御は、時間経過で徐々に減少することが懸念される。一次接種から4~6か月後にどの程度の防御が期待できるかを知るための十分な時間が経過していない。一部の当局はブースター投与を推奨しており、EULARもこのアプローチを支持する

2021年12月28日火曜日

COVID-19に対する早期レムデシビルの重症化抑制効果(PINETREE試験)

PINTREE試験(レムデシビルOPAT)のRCTをまとめました。

前回モルヌピラビルRCTの記事でNNTを比較しましたが、こちらを読み込んでみたらイベント数が少なすぎて(集団が違いすぎて)、単純比較したのはまずかったかなと思ってしまいました。

それにしてもレムデシビルはRCTをやるたびに結果が変わる不思議な薬ですね。モルヌピラビルとレムデシビルは使い分けに困るので、ぜひRCTで勝負をつけていただきたいところです・・・



Early Remdesivir to Prevent Progression to Severe Covid-19 in Outpatients

N Engl J Med. December 22, 2021

DOI: 10.1056/NEJMoa2116846

  • Design: Double-blind RCT
  • P: 12才以上、発症7日以内で重症化危険因子1つ以上または60才以上の入院していないCOVID-19
    • 危険因子:高血圧、心血管・脳血管疾患、DM、BMI≥30、免疫抑制者、CKD、慢性肝疾患、慢性肺疾患、現在の癌、鎌状赤血球症
    • 除外基準:過去のCOVID-19入院歴・治療歴、ワクチン接種者、Bw<48kgかつCcr<30、授乳婦
  • I: レムデシビル点滴静注 3日間(day1: 200mg, day2, 3: 100mg)
  • C: プラセボ 1:1
  • O: day29におけるCOVID-19による入院、またはあらゆる原因による死亡


結果:

  • 各群に292名ずつ割り付けられ、レムデシビル群の13名、プラセボ群の9名が投与を受けなかった
  • 平均年齢は50才で、危険因子は肥満55.2%、60歳以上30.2%、DM 61.6%が含まれた
  • バリアントは記載ないですが、米国における2020年9月18日~2021年4月8日の試験のため、前半はアルファ株、後半はデルタ株が主流と思われます

  • day29の入院または死亡のハザード比は0.13 (95%CI: 0.03-0.59) 
    • グラフ目視上ARR 5%くらいなので、NNT=20
  • 死亡は両群ともday29までには発生しなかった


  • 両群の鼻咽頭ウイルス量に明らかな差は認められなかった

  • 頻度の高い有害事象は、嘔気(10.8% vs 7.4%)、頭痛(5.7% vs 6.0%) などで、試験レジメンに関連する有害事象はレムデシビル群に多かった(12.2% vs 8.8%)


補足:

  • プラセボ群の入院率や死亡率を見る限り、モルヌピラビルやソトロビマブのRCTよりもかなり低リスク者が集められています
  • ウィルス量に差がないにも関わらず、臨床症状と入院率が下がるという点が不可解で、解釈に困ります
  • 本文中のDiscussionでは、アカゲザルのレムデシビル治療でも上気道ウィルス量と臨床的有効性の乖離があり、下気道ウィルスの減少で説明できるのではないか、とありました
  • COVID-19による入院、といういつもと少し違うエンドポイントが採用されていますが、全ての原因による入院or死亡も一応有意差はあります(HR 0.28, 95%CI: 0.10-0.75)


2021年12月26日日曜日

COVID-19に対するモルヌピラビルの効果(MOVe-OUT試験)

モルヌピラビル(ラゲブリオ)が製造販売承認されました。

発症早期の選択肢が、モノクローナル抗体、モルヌピラビル、レムデシビルOPAT、パクスロビド、など突然増えたので、今後はどのように使い分けるか考えなくてはなりませんね。

ひとまずモルヌピラビルのRCTをまとめました。
禁忌が少ないことやEffect sizeからは抗体療法が僅かに勝っているように感じましたが、
変異株の影響を受けにくいだろうことや(多分)コストの点ではモルヌピラビルが有利になりそうです。


Molnupiravir for Oral Treatment of Covid-19 in Nonhospitalized Patients

N Engl J Med. 2021 Dec 16.

doi: 10.1056/NEJMoa2116044.


  • Design: Double-blind RCT
  • P: 発症5日以内でリスク因子が1つ以上ある、軽症・中等症の入院していないCOVID-19
    • リスク因子:60歳以上、活動性の癌、CKD、COPD、BMI≥30、重篤な心疾患、糖尿病
    • 除外基準:透析、eGFR<30、妊婦、ワクチン2回以上接種者、好中球<500、Plt<10万
  • I: モルヌピラビル800mg 1日2回 5日間
  • C: プラセボ 1:1
  • O: day29における入院or死亡(ITT集団)


結果:

  • 716名がモルヌピラビル群、717名がプラセボ群に割り付けられた
  • 年齢中央値は43才で、危険因子は肥満73.7%、60歳以上17.2%、DM 15.9%が含まれた
  • ベースラインのSARS-CoV-2抗体は19.8%で陽性
  • バリアントはデルタ株32.1%、ミュー株11.3%、ガンマ株5.9%、データなし44.7%

  • day29の入院または死亡は、モルヌピラビル群7.3% (28/385)、プラセボ群14.1% (53/377)、絶対リスク差6.8% (95%CI -11.3 ~ -2.4; P=0.001) →NNT=14.7
  • Time-to-Event解析も同様で、入院または死亡のハザード比は0.69 (95%CI: 0.48-1.01) →グラフ目視上ARR2.5%くらいなので、NNT=40




  • 死亡はモルヌピラビル群1例(29日死亡率0.1%)、プラセボ群9例(29日死亡率1.3%)
  • モルヌピラビル群はday3, 5, 10においてウイルス量の減少がプラセボより大きかった
  • WHO Scaleの評価で、モルヌピラビル群はプラセボ群と比較してday5までに臨床転帰が改善し、day10とday15で最も大きな差が観察された(Supple S5)
  • サブ解析では、女性、発症4日以降、SARS-CoV-2抗体陰性、肥満、白人でのメリットが有意だった(発症3日以内、SARS-CoV-2抗体陽性、DM、60才以上は有意差なし)
  • 試験レジメンに関連する頻度の高い有害事象は、下痢(1.7% vs 2.1%)、吐気(1.4% vs 0.7%)、めまい(1.0% vs 0.7%)などで、両群で明らかな差はなかった


補足:

  • レムデシビルOPATと異なり、重症化率、死亡率、症状の改善はウィルス量とリンクしており、信憑性が高い試験に見えます
  • 妊婦やeGFR<30が対象外であり、この点は抗体療法(と一応禁忌ではないレムデシビル)が有利です
  • レムデシビルより有害事象が少なそうに見えます
  • Time-to-EventのNNTを単純比較すれば、ソトロビマブ(17)>レムデシビルOPAT(20)>モルヌピラビル(40)であり、抗体療法が最も良い成績
  • どの薬剤も現時点ではオミクロン株の臨床データがないので、デルタ株データからの推定



参考文献

  • ソトロビマブ:N Engl J Med 2021; 385:1941-1950.  DOI: 10.1056/NEJMoa2107934
  • レムデシビルOPAT:N Engl J Med Dec 22, 2021 [Epub].  DOI: 10.1056/NEJMoa2116846


2021年11月1日月曜日

Actinotignum schaalii菌血症

血液培養の小型GPRといえばCorynebacteriumが大半であり、ほとんどがコンタミかCRBSIですが、Actinotignum schaalii に年1,2回くらいは出会います(よね?)。

知っていると役立つこともあるので、一番新しいと思われる総説を抜粋してまとめました。

先にサマライズすると、

  • 尿路・生殖器の常在菌でコリネ等と誤認しやすいが、高齢者UTIの原因になる
  • 好気で発育しにくい小型GPRで、検出には5%炭酸培養・嫌気培養が有用
  • βラクタムは何でも効くが、ST・キノロンは耐性が多く、嫌気性菌なのにMNZが無効



Actinobaculum schaalii: review of an emerging uropathogen.

J Infect. 2012 Mar;64(3):260-7.

doi: 10.1016/j.jinf.2011.12.009.


微生物学的特徴

  • 非運動性、非芽胞形成、直線もしくは軽度弯曲したグラム陽性の球桿菌で、一部に枝分かれしているものもある
  • カタラーゼ、オキシダーゼ、ウレアーゼは陰性で、ウレアーゼ陰性であることでA. schaaliiとA. urinaleを区別できる(Table1)
  • 硝酸塩を亜硝酸塩に還元しない
  • 35℃の嫌気環境で48時間培養した5%コロンビアヒツジ血液寒天培地では、直径1mm以下の小さな灰色のコロニーを形成する(Fig2b)
  • 5%CO2の空気中では発育し、大気中ではあまり発育しない
  • 菌株によっては3~5日後に弱いβ溶血を示すものもある


疫学

  • 尿路または生殖器系の常在菌叢の一部と考えられている
  • 分離・同定が難しい微生物であるため、検出頻度は不明で、臨床的意義も過小評価されている可能性がある。
  • PCR法を用いた検討で、41/252(16%)の尿検体でA. schaaliiが検出され、菌数は10^4 CFU/mL以上だった。60歳以上の患者ではさらに高頻度だった(34/155、22%)
  • 無症候性細菌尿が10~20%あるため、Colonizationと感染の区別は難しいが、従来考えられていたよりも  A. schaalii 感染症の頻度は高いと考えられている。


臨床症状

  • 現在までに117例の A. schaalii 感染症が症例報告されていた
  • 約60%が男性、約40%が女性とそれほど性差はない。
  • 泌尿器系疾患のある高齢者においてUTIの原因となることが多い(Table2)
  • UTI以外では脊椎炎、菌血症、心内膜炎などを引き起こすことがある


微生物学的診断

  • 好気環境では他の細菌にovergrownされたり、皮膚・粘膜の常在菌に似ているため見過ごされたり、CorynebacteriumやLactobacillusなどの汚染菌と誤認されたりする
  • 塗抹所見と好気培養の同定結果が一致しない場合や無菌性膿尿ではA. schaaliiを検索する必要があり、尿定性試験の亜硝酸が陰性であることも重要である
  • A. schaalii の検出には5%CO2や嫌気下での血液寒天培地の培養が必要である
  • 自動分析装置での検出には限界があり、MALDI-TOF-MSによる同定が非常に有用である


薬剤感受性

  • ブレイクポイント設定はないが、non-species-related(訳注:EUCASTのPK/PDブレイクポイントを指していると思われる)や他の泌尿器系病原体の基準を用いることができるかもしれない
  • ペニシリン、セファロスポリン、アミノグリコシド、テトラサイクリン,バンコマイシン,リネゾリドには高い感受性がある
  • クリンダマイシンは概ね感受性があるが、一部に高度耐性が見られた
  • シプロフロキサシンの活性は低いが、レボフロキサシン、モキシフロキサシンには感受性を示す
  • STには概ね耐性で、メトロニダゾールとコリスチンは内因性に耐性である


治療

  • アモキシシリン、セフロキシム、セフトリアキソンの単独投与、もしくはアミノグリコシド(ゲンタマイシン)の併用投与が選択される
  • 治療期間は明確に定まっていないが、アモキシシリン1週間での治療失敗例があるため、少なくとも2週間治療すべきである
  • A. schaaliiは嫌気性菌だがメトロニダゾール無効である
  • キノロン系は感受性があっても推奨されない

2021年10月26日火曜日

重症COVID-19に対するデキサメサゾン12mgの効果(COVID STEROID 2 Trial)

重症COVID-19に対するデキサメサゾン12mgのRCTがJAMAに出ていました。

各ガイドラインの記載が変わりそうな重要なStudyです。HFNCになったタイミングでトシリズマブを併用するのか、デキサ12mgに増量するのか、あるいはその両方なのか、というところが今後の課題になりそうです。



Effect of 12 mg vs 6 mg of Dexamethasone on the Number of Days Alive Without Life Support in Adults With COVID-19 and Severe Hypoxemia: The COVID STEROID 2 Randomized Trial

JAMA. 2021 Oct 21. doi: 10.1001/jama.2021.18295.

https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2785529


  • Design: Double-blind RCT
  • P: 10L/min以上の酸素需要、もしくはNIV・機械換気下のCOVID-19
    • 除外基準で重要なものは、5日以上のCOVID-19に対するステロイド投与(4日以内ならOK)
  • I: デキサメサゾン12mg 10日間
  • C: デキサメサゾン6mg 10日間
  • O: 28日目における生命維持装置(呼吸器・循環補助・腎代替療法)なしでの生存日数


結果:

  • 12mg群に491名、6mg群に480名が割付けられた
  • NIV 25%、IMV 21%の患者が含まれ、レムデシビルが63%、IL-6阻害薬が11%、JAK阻害薬が1%に併用された
  • ベースライン背景・重症度は2群間でほぼ同じだったが、6mg群にDMが多かった (27% vs 37%)
  • Primary endpointは、12mgが22.0日 (IQR 6.0-28.0)、6mg群が20.5日 (IQR 4.0-28.0)、リスク差1.3日 (95%CI, 0-2.6, p=0.07) だった


  • 28日目死亡率は、12mg群で133/491 (27.1%)、6mg群で155/480 (32.3%)で、HR 0.86 (99%CI 0.68-1.08)、
  • 90日死亡率は、12mg群で157/490 (32.0%)、6mg群で180/478 (37.7%)で、HR 0.87 (99%CI 0.70-1.07)
  • サブ解析ではIL-6阻害薬を併用していない患者、ステロイド開始して2日以内の患者での利益がより大きい傾向があった
  • 重篤な有害事象は、12mg群で102人 (20.5%)、6mg群で123人(25.4%)であった
    • Supple eTable10に内訳があり、血栓症、敗血症、AKIなどが少しずつ多いようです

感想:

有意差こそついていませんが、増量ステロイドの死亡率改善効果を示す重要なRCTと考えます。あまり目立った有害事象の増加もないようであり、少なくとも大きなデメリットがなさそうに見えます。

有意差がつかなかった主な原因は、介入の効果が想定より弱かったことによるサンプルサイズの不足だと思われます。


Primary endpointは12mg群で42.6%、6mg群で40.2%と、実際の相対リスク軽減は6%しかありませんでした。サンプルサイズは15%の相対リスク軽減を想定していましたので、Nが不足であった感は否めません。


相対リスク軽減が想定よりも低かった原因としては、ランダム化の前に4日間までのステロイド治療が認められていたことで、介入の効果が低下した可能性が考察されています。


ただ事前のステロイド使用を認めるということは、極めて実臨床に即している気がするので(6mgで効かずに重症化したら12mgに増量するというプラクティスになる)、個人的には妥当なデザインではないかと思います。


介入効果に見合ったNであったなら有意差が出たであろうデータに見えるので、今後はデキサメサゾン6mgでうまくいかなければ4日以内に12mgに増量するということが、ある程度エビデンスを持った選択肢になったのだろうと、個人的には考えました。