2020年12月13日日曜日

COVID-19に対するバリシチニブのRCT

待ちに待ったバリシチニブのRCT結果がNEJMに掲載されました。

RECOVERY試験ほどのインパクトはありませんが、酸素が始まったタイミング、あるいは5L以上になるような場合に良い適応なのではないかと思われます。選択肢が増えるのは良いことですが、デカドロンとの使い分けや併用すべきなのかなど、実際に使う場合には色々と課題が残ります。


Baricitinib plus Remdesivir for Hospitalized Adults with Covid-19

N Engl J Med. Dec 11, 2020. 

DOI: 10.1056/NEJMoa2031994


  • Design: 国際共同多施設 double-blind RCT
  • P: 入院が必要な成人COVID-19
  • I: バリシチニブ(4mg/day, 14日間, eGFR<60は2mg/day)+レムデシビル(10日間or退院まで)
  • C: プラセボ+レムデシビル 1:1割付
    • 両群ともステロイドの併用はしていない
  • O: 主要エンドポイントは回復(カテゴリー3以下)までの日数(層別Log-rank test)

※ 重症度カテゴリーはACTT-1と同じ(下記参考)

 1=活動制限なし

 2=活動制限があるが入院不要

 3=酸素や医療ケアは不要だが入院が必要(感染管理のための入院)

 4=酸素は不要だがCOVID-19に関連した活動制限による医療ケアが必要

 5=酸素が必要

 6=NIPPVや高流量の酸素が必要

 7=機械的換気やECMOが必要

 8=死亡


結果

  • 1067人を登録、515人がバリシチニブ群、518人がプラセボ群に割り付けられた
  • 発症から登録までの日数の中央値は8日だった
  • バリシチニブ群、プラセボ群のベースライン重症度は、各々カテゴリ4が13.6%, 13.9%、カテゴリ5が55.9%, 53.3%、カテゴリ6が20.0%, 21.8%、カテゴリ7が10.5%, 11.0%
  • バリシチニブ群の回復までの日数は中央値7日で、プラセボ群の8日と比較して有意に短かった (RR 1.16, 95%CI: 1.01-1.32; P<0.03)
  • カテゴリ6 (N=216) における回復率比が1.51 (95%CI: 1.10-2.08) と最も大きく、改善までの日数を中央値で8日間短縮した
  • カテゴリ5 (N=564) における回復率比は1.17 (95%CI: 0.98-1.39) だった
  • カテゴリ7 (N=111) における回復率比は1.08 (95%CI: 0.59-1.97) だった
  • バリシチニブ群の28日死亡率はプラセボ群と比較して低い傾向だった(5.1% vs 7.8%, HR 0.65, 95%CI: 0.39-1.09)
  • 機械換気・ECMOへの移行はバリシチニブ群で有意に少なかった(10.0% vs 15.2%; リスク差 −5.2%; 95%CI: −9.5 ~ −0.9)
  • 重篤な有害事象はバリシチニブ群で40.7%、プラセボ群で46.8%、内訳は貧血、AKI、腎機能障害、高血糖などだが、両群における発生率に大きな差はない



感想

気になる点はEffect sizeが期待よりもかなり小さいことですが、比較的重症化したカテゴリ6(高流量酸素)の状態で最も効果が大きいにも関わらずACTT-1よりも軽症者が多く登録されてしまった影響が大きいように見えます。

軽症者が多いことや、ベースでレムデシビルが入っているせいなのか、死亡率も軒並み低いので、死亡率の評価も惜しい感じにとどまっているようです。死亡率や挿管率の低減効果も含めて、重症度を上げた適切な組入基準での追試が必要でしょうね。

サンプルサイズも、軽症者が多いため最重要であるカテゴリ6で100 vs 100であり、他の虹エンドポイントもUnder estimateされている可能性が十分残されています。挿管率では有意差が出ているので、死亡率もNを増やすことで有意差が出るかもしれないと期待させてくれるポテンシャルを感じます。

色々問題点を残しているとはいえ、臨床的有効性はあまり疑いようがなさそうに見えますので、今後レムデシビル+デカドロンで病勢が止まらなそうな症例には使っていきたいですね。


2020年10月29日木曜日

重症COVID-19におけるautoreactivity

medRxivのPre-printに驚くべき論文が掲載されています。目から鱗が落ちるような内容だったので、僕なりの考察と共に共有します。


Broadly-targeted autoreactivity is common in severe SARS-CoV-2 Infection

medRxiv. Preprint. 2020 Oct 23.

https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.10.21.20216192v1.full.pdf

  • 自己免疫の既往歴がない重症COVID-19の31人から後方視的に自己抗体を測定した
  • 44%がANA80倍以上で、陽性者の81%が160倍以上の力価を示した
  • 自己反応性の存在はCRP上昇と相関し、CRP高値群ではANA(35% vs. 56%)とRF(0% vs. 38%)、両方の産生が増加していた



考察

重症COVID-19の免疫学的環境が、様々な自己抗原に対するde novo autoreactivityをDriveする可能性が示唆されています。著者らはSARS-CoV2 ssRNAによるTLR7活性化を介したものではないかと考察しています。

  • TLR-7依存性の濾胞外(EF)B cellは、T-betとCD11cを高発現し、マウスモデルのウイルスクリアランスに重要な役割を果たす。この経路は高度炎症、自己免疫モデルマウスで病原性である (J Clin Invest. 2017 Apr 3;127(4):1392-1404.)
  • 同様の経路の、加齢性の自己反応性B cellの出現は、IRF5の調節不全を介している (Nat Immunol. 2018 Apr;19(4):407-419.)
  • CXCR5とCD21を欠くDouble negative B cell (DN2-B cell)は、活動性SLEで疾患活動性と相関して増加し、TLR7依存的にIFN-γ–IL-21を介して誘導される (Immunity. 2018 Oct 16;49(4):725-739.e6.)
  • 重症COVID-19ではSLEと同様のEF-B cell応答、すなわちDN2-B cellの増加を示し、これはクラススイッチ抗体産生細胞の増加、高力価SARS-CoV-2中和抗体、臨床転帰不良と強く相関した (Nat Immunol. 2020 Oct 7. doi: 10.1038/s41590-020-00814-z.)


胚中心を介さない抗体産生では免疫寛容が破綻し、高力価の抗体産生と同時に自己抗体の産生を許してしまうと理解できます。

この経路は通常TLR-7やIRF5によって制御されているはずですが、実際にTLR-7の機能喪失型変異はI型IFN反応の抑制を介してCOVID-19を重症化させるという報告があります(JAMA. 2020 Jul 24;324(7):1–11.)。COVID-19のGWASでリスクアリルとして抽出された3番染色体のCCR9もTLRを介した自己免疫反応に関連が深いようです(Nature. 2020 Sep 30. doi: 10.1038/s41586-020-2818-3.)


COVID-19の自己免疫反応の本態にかなり迫ってきた感がありますね。

そして何となくこれはSARS-CoV-2に特異的な現象ではなく、他のウィルス感染でも普遍的に起きていることなのだろうと感じています。自己免疫性疾患の季節性や、感染後の原因不明の間質性肺炎など、今になると思い当たることがたくさんあります。


2020年10月28日水曜日

COVID-19に対するトシリズマブのRCT

NEJMに載った話題のトシリズマブRCTの結果です。


Efficacy of Tocilizumab in Patients Hospitalized with Covid-19.

NEJM October 21, 2020

DOI: 10.1056/NEJMoa2028836


  • Design: double-blind RCT
  • P: 38度以上、肺浸潤影、酸素投与のうち2つ以上、かつCRP>5、Ferritin>500、D-dimer>1のうち1つ以上を満たすCOVID-19
  • I: トシリズマブ8mg/kg (Max 800mg) 単回投与+標準治療
  • C: プラセボ(2:1)+標準治療
  • O: 挿管もしくは死亡までの時間
  • ※標準治療はレムデシビルを一部含むが、デキサメサゾンを投与された患者はいなかった
  • ※標準治療によるイベント発生を30%と想定し、トシリズマブによるリスク軽減が15%の仮定で、検出力80%におけるサンプル数は243と試算された


結果

  • 243人の患者が登録され、161人がトシリズマブ群、81人がプラセボ群に割り付けられた
  • プラセボと比較したトシリズマブ群の挿管・死亡までのHRは0.83 (95%CI 0.38-1.81)で有意差なし


  • 年齢、性別、人種、糖尿病の状態、ベースラインIL-6で調整したHRは0.66 (95%CI 0.28-1.52)で有意差なし。調整前及び調整後HRの差異は、主に年齢の違いに起因していた
  • プラセボ群ではGrade3以上の感染症が有意に多く、トシリズマブ群ではGrade3以上の好中球減少が多かった


感想

かなり頑強なデザインのRCTでサンプル数が十分であったにも関わらず、主要エンドポイントだけでなく代替エンドポイントもことごとく有意差がなく、トシリズマブの有効性はかなり否定的になってしまったと考えざるを得ません。サンプル計算の想定よりもイベント数がかなり少ないので検出力不足の可能性は残るものの、あまりに厳しい差なのでNを増やしても結果が変わるとは思い難いです。

JAMA姉妹誌のEditorialにトシリズマブRCTの素晴らしい比較が出ていました。観察研究では高い有効性の報告が多いが、RCTでは結果が出せていないと考察されています。いずれのRCTもハードエンドポイントでの有効性が示せていないか、もしくはEffect sizeがかなり小さくなっており、なかなか厳しい展開に感じます。

JAMA Intern Med. October 20, 2020. doi:10.1001/jamainternmed.2020.6557


重症COVID-19の濾胞外B cellのprofileがSLEと類似しており、Long haul COVID-19における自己免疫現象と、SLEを関連付けている報告が話題になっているようです。  

Nat Immunol (2020). doi.org/10.1038/s41590-020-00814-z

なんとなくJAK阻害薬の方が効きそうな気がしてきます。ルキソリチニブのRCTが近いうちに結果が出ると思いますので楽しみですね。


2020年10月21日水曜日

ウパダシチニブvsアバタセプト(SELECT-CHOICE試験)

 RAに対するウパダシチニブとアバタセプトのHead to Head試験が、NEJMに掲載されました。色々問題を含みながらも価値のあるデータだと思います。



Trial of Upadacitinib or Abatacept in Rheumatoid Arthritis.

N Engl J Med 2020; 383:1511-1521

  • Design: Double blind RCT, global, 非劣性試験
  • P: TJC6以上、SJC6以上、CRP0.3以上のRAで、1つ以上のbDMARDが無効or忍容性がない
    • 除外基準:アバタセプトやJAK阻害薬の投与歴がある
  • I: ウパダシチニブ15mg 1日1回
  • C: アバタセプト静注(日本の添付文書と同じ用量)
  • O: 12週の⊿DAS28-CRP(非劣性マージンは+0.6、検出力90%)


結果

  • 613名がランダム化、303名がウパダシチニブ群、309名がアバタセプト群に割り付けられた
  • 両群およそ90%が24週までのプロトコルを完遂した
  • ⊿DAS28-CRPはウパダシチニブ群-2.52、アバタセプト群-2.00で、ウパダシチニブの優越性が証明された(差-0.52, 95%CI: -0.69~-0.35)
  • SJCの推移、CDAIについては両群で有意な差がなかった
  • ウパダシチニブ群は、全てのAE、SAE、AEによる治療中止が多い傾向で、肝障害は有意に多かった(ウパダシチニブ群7.6%, 95%CI 4.8-11.4、アバタセプト群1.6%, 95%CI 0.6-3.8)


感想

ADACTA試験から伝統の「CRPマジック」が活用された非常にコマーシャルなデザインで、正直見るに堪えないFigureも多いです。敢えてTNFを選ばず、最も立ち上がりが遅そうなアバタセプトを対照群にしているのも恣意的ですね。

ただ立ち上がりが早いことは真実のような気がするので、副作用に耐えられそうで、Rapid ragiological progressionが予想されるようなAgressiveなRAではJAKを選択するのが良いかもしれないと感じさせてくれるデータです。そういった意味では1年後、2年後の骨破壊を含めたデータに期待したいです。


あとTJCで差が出る理由は立ち上がりだけで説明できない気がするのですが、実臨床でも腫れが引かないのに痛みだけなぜか良くなって継続している人を経験しているので、なかなか面白い特徴だなと思いました。(もしCRPがブラインドされていなかったら、プラセボ効果かもしれないですが)



2020年10月3日土曜日

ループス腎炎に対するベリムマブの併用(BLISS-LN study)

ALMS study以来のループス腎炎のプラクティスが変わりえる論文がNEJMに掲載されました。


Two-Year, Randomized, Controlled Trial of Belimumab in Lupus Nephritis

N Engl J Med 2020; 383:1117-1128

DOI: 10.1056/NEJMoa2001180


  • Design:Double blind RCT
  • P: ANA80倍以上or抗ds-DNA抗体陽性のSLE (尿蛋白>1g/gCr、ISN/RPS III or IV or V)
    • 除外基準:1年以内の透析歴、eGFR<30、CY及びMMF両剤での寛解導入失敗歴、1年以内のB細胞標的治療
  • I: 標準治療+ベリムマブ(10mg/kg静注day1,15,29, 以後4w毎100週まで)
    • 標準治療:IVCY 500mg/body/2w 6回 or MMF3g/day+PSL0.5-1mg/kg/day(±パルス)+HCQ+ARB/ACE-I
    • CYではAZA2mg/kg/dayで維持、MMFでは1-3g/dayで維持
  • C: プラセボ(1:1)
  • O: 主要評価項目は104週の腎反応率(尿蛋白≦0.7g/gCr、かつeGFRがBaselineより20%以上悪化しない、かつ追加治療を要しない)
    • 副次評価項目は104週の完全腎反応率(尿蛋白≦0.5g/gCr、かつeGFRがBaselineより10%以上悪化しない、かつ追加治療を要しない)


結果

  • 104週の腎反応率はベリムマブ群43%、対照群32% (絶対差+11%, OR 1.6, 95%CI 1.0-2.3)
  • 104週の完全腎反応率はベリムマブ群30%、対照群20% (絶対差+10%, OR 1.7, 95%CI 1.1-2.7)
  • 両群の有害事象に大きな差はなかった
  • サブ解析で、ベリムマブの併用はMMF使用者でのみ有意に腎反応率を改善した。ベリムマブ群46.3%、対照群34.1% (絶対差+12.20%, OR 1.58(95%CI: 1.00-2.51)





感想

ベリムマブを併用することによる2年後の寛解導入・維持上乗せ効果のNNTは9と相当なインパクトがあり、MMFでの寛解導入、維持療法にベリムマブを足したほうが良さそうなのは間違いないですが、CYにもベリムマブを併用すべきか、CY単独とMMF+ベリムマブのどちらが優れているか、CNIの併用の位置づけをどうすべきか、等、また新たな疑問が生まれてきますね。

本試験でMMFとCYのいずれを使用するかは主治医に委ねられていたので、重症例にはCYが入っていしまっているのではないか、という考察がEditorialでも触れられていました。

色々と選択肢が出てきたことで、相対的にエビデンスレベルが低くなってしまったCNIの出番は、今後やや少なくなっていくような気がします。

個人的には、軽症・中等症にはMMF+ベリムマブ、重症例はCY(+ベリムマブ)、妊娠希望者の維持療法にはCNI(+AZA)、という使い分けができそうでしょうか。


2020年9月26日土曜日

BCGワクチン投与による高齢者の感染症に対する影響

半年ほど前から主に後期研修医の先生を対象に、Journal clubを始めています。論文の読み方を教えながら、僕も論文をたくさん読むことができるというWin-Winな企画です。
今回の論文は後期研修医の高崎先生がサマライズしてくれた、CellのBCG論文です。


Activate: Randomized Clinical Trial of BCG Vaccination against Infection in the Elderly.
Cell. 2020 Sep 1
doi: 10.1016/j.cell.2020.08.051 [Epub ahead of print]
  • Design: Phase III,  double-blind RCT
  • P: 患者背景は、80歳の高齢者で7割に高血圧症があり、約3割に糖尿病、慢性心不全、AFがある。
  • 除外項目
    • 5年以内に固形悪性腫瘍やリンパ腫と診断された患者
    • 直近の3ヶ月より前から10mgのPSLを毎日投与されている患者
    • HIV-1感染や500/mm3以下の好中球減少や臓器・骨髄移植後、化学療法中、先天性免疫不全、リンパ球数が400/mm3以下、サイトカインを抑制する治療を受けているなどの免疫抑制患者
    • IGRAが陽性の患者
  • I: 退院前にBCGワクチンを投与(N=72)
  • C: プラセボ群(N=78)
  • O: Primary endpoint 退院後12ヶ月間での新規感染症の発症を評価した。

結果

  • 新規感染までの期間はプラセボ群が11週であったのに対して、BCGワクチン投与群では16週であった。
  • 新規感染の発症率はプラセボ群が33人と42.3%(95%信頼区間:31.9-53.4%)であったのに対して、BCG投与群では18人と25.0%(95%信頼区間:16.4-36.16%)であった(p値 0.039)。
  • 最も予防効果があったのは、恐らくウイルス感染によると思われる呼吸器感染症であり、プラセボ群が14人と17.9%であったのに対して、BCG投与群では3人と4.2%であった(ハザード比 0.21, p値 0.013)。
  • 呼吸器感染症全体ではプラセボ群が24人と30.1%であるのに対して、BCG投与群が6人と8.3%であった(p値 0.002)。
  • 100人年での感染症全体ではプラセボ群で45人と57.7%であるのに対して、BCG投与群では24人と33.3%である(p値 0.003)。
  • 有害事象に関しては差異は認められなかった。

解釈

  • IGRA陰性の高齢者にBCGワクチンを投与することでウイルス性呼吸器感染症の発症を低下させることができる可能性がある。
  • BCGワクチンが定期接種となっている地域でCOVID-19感染症の蔓延が抑えられていることと関係があるかはこの研究だけでは分からず、COVID-19感染症蔓延地域で同様の研究を行い、COVID-19感染症の発症率が低下するかどうかを調べる必要がある。

感想&補足コメント

このRCTには少なくとも2つ大きな問題点があります。
1つはイベント数に比してサンプルサイズが小さすぎること、もう1つは解析対象の時点で2割以上の脱落が生じていることです。99人のプラセボ群は78人、103人のBCG群は72人しか解析対象になっていません。
もともとサンプルサイズが小さいにも関わらず、脱落がイベント数と同じくらい起きているので、Main figureの信頼性に致命的な疑いが生じていると言わざるを得ません。

この試験での適切なサンプルサイズを試しに計算してみると、各群N=300くらい必要のようです(1:1割付、プラセボ群のイベント30%、BCG群のイベント20%、検出力80%、有意水準5%)。

ということで内的妥当性に致命的な欠陥があるように見える試験なので、当然ながら外的妥当性は吟味するまでもありません。言い換えれば現時点で高齢者にBCGを打つようなことは、たとえ患者の強い希望でもしないでしょう

では、なぜこの論文が基礎系のトップジャーナルであるCellに載ったのか、それは後半のBCG接種者の単球系プロファイルに価値がある、と理解できます。
BCGを接種すると3ヶ月後の単球系は、エピゲノム修飾を受けてIL-6、TNFα、IFN signatureが活性化し、ウィルス免疫や自然免疫の誘導が起きている、という事実そのものに大きな意味があるのでしょう。

考えてみればワクチンのように単一の病原体ではなく、広範囲のウィルス性呼吸器感染症をターゲットとした一次予防アプローチというのは予防医学の全く新しい概念であり、ワクチンや抗菌薬に次ぐ医学史上の大発見の可能性がありそうです。
今後BCGに限らず別の抗原や薬剤での検証で、同様もしくはこれ以上に効果が得られる方法を探索していくための第一歩となる論文、その将来性と発展性が、この論文がCellに掲載された理由なのだろうと思います。

2020年9月20日日曜日

リウマチ性疾患におけるCOVID-19罹患率

 コロナ第二波に追われてしばらく論文のまとめをサボっていましたが、少し余裕が出てきたので再開します。

リウマチ性疾患におけるCOVID-19リスクが、少し高いかもしれないという報告です。

年齢に大分引っ張られていそうなデータですが、Bio/JAKのリスク上昇はそれだけでは説明がつかない気がします。


Prevalence of hospital PCR-confirmed COVID-19 cases in patients with chronic inflammatory and autoimmune rheumatic diseases

Ann Rheum Dis. 2020 Sep;79(9):1170-1173.


  • デザイン:後ろ向き観察研究
  • スペインの7施設のデータベースからPCR診断されたCOVID-19を登録
  • 参加施設における患者数290万人中のCOVID-19罹患率は0.58%で、リウマチ疾患26131人の罹患率は0.76% (OR 1.3, 95%CI 1.15-1.52)と有意に高かった
  • PCR陰性の年齢情報欠損のため年齢調整率は算出できなかったが、COVID-19基準集団の代表サンプル(n=3800)はリウマチ疾患症例と比較して年齢が低かった (中央値55 vs 65歳, p<0.0001)
  • 年齢補正できていないデータながら、SLEは有意なリスクではなく(OR 1.07, 95%CI 0.63-1.80)、SpA(OR 1.54, 95%CI 1.11-2.13)、Bio/tsDMARD使用者(OR 1.60, 95%CI 1.23-2.10)は有意なリスクだった