2020年2月29日土曜日

COVID-19のARDSと死亡例の解析

ARDS 53例の検討と、死亡例82例の検討がmedRxivに投稿されています。
大変有用な内容ですが、いずれも査読前のreprintですのでご注意ください。


Clinical features and progression of acute respiratory distress syndrome in coronavirus disease 2019
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.02.17.20024166v3

  • 2020年1月2日~2月1日に武漢中央病院に入院したCOVID-19患者109人を後方視的に解析
  • 53人(48.6%)がARDSに進展
  • ARDS群ではnon-ARDS郡と比較し、高齢(61歳 vs 49歳)、糖尿病(20.8% vs 1.8%)、脳血管疾患(11.3% vs 0%)、CKD(15.1% vs 3.6%)が有意に多かった
  • リバビリン、ウミフェノビル、オセルタミビル、ステロイド、IVIGの有無は生存率に寄与しなかった

補足:単変量ですが治療はKaplan-Meier曲線があるので、ぜひ原文Figureを御覧ください


Clinical characteristics of 82 death cases with COVID-19
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.02.26.20028191v1

  • 中国人民大学病院の単施設におけるCOVID-19の死亡者82例を解析
  • 全例武漢の住民で、入院時にほとんどが重症だった
  • 男性65.9%で、60歳以上が80.5%、年齢中央値は72.5歳
  • 合併症は高血圧56.1%、心疾患20.7%、糖尿病18.3%、脳血管疾患12.2%、癌7.3%
  • 死因は呼吸不全69.5%、敗血症/多臓器不全20.8%、心不全14.6%、
  • 入院時の所見として、リンパ球減少89.2%、好中球増多74.3%、血小板減少24.3%、好中球/リンパ球比率が5以上 94.5%、CRP上昇100%、LDH上昇93.2%、D-ダイマー上昇97.1%、IL-6上昇(>10pg/ml) 100% であった
  • 症状出現から死亡までの期間の中央値は15日(IQR 11-20日)だった
  • 症状出現から死亡までの期間と有意な関連があった項目は、AST・ALTだった


2020年2月24日月曜日

COVID-19に対するロピナビル/リトナビルとアビドールの有効性について

中国の医学雑誌にカレトラのレトロスペクティブの検証結果が出たようですのでご紹介します。
残念ながら思ったほど効果が出ていないようです。

中华传染病杂志, 2020,38(00) : E008-E008.
洛匹那韦利托那韦和阿比多尔用于治疗新型冠状病毒肺炎的有效性研究
http://rs.yiigle.com/yufabiao/1182592.htm

方法

  • 2020/1/20~2/6に上海Public Health Clinical Centerで治療を受けた134人の臨床データを後方視的に収集し解析した
  • 全ての患者はIFN-α2b吸入と対症療法を受けた
  • 52例がロピナビル/リトナビル、34例がアビドール、48例が抗ウイルス薬なし
  • 7日目の有効性を、Kruskal -Wallis検定またはカイ2乗検定で比較

結果

  • 134人の患者を解析し、男性69人、女性65人、年齢平均は48歳(35~62歳)
  • アビドールまたはロピナビル/リトナビル群の解熱までの期間の中央値は入院後6日で、対照群は4日と有意差は認めなかった(χ2= 2.37、P=0.31)
  • 呼吸器検体PCR陰性化までの時間の中央値は3群全て入院7日後で、ロピナビル/リトナビル、アビドール、対照群の入院7日後のPCR陰性率は、各々71.8% (28/39)、82.6% (19/23)、77.1% (27/35)で有意差なし(χ2= 0.46、P=0.79)
  • 7日目におけるX線悪化は3群に同等の割合で観察され、各々42.3% (n=22)、35.3% (n=12)、52.1% (n=25)(χ2= 2.38、P=0.30)
  • 有害事象発生率は3群で各々17.3% (n=9)、8.8% (n=3)、8.3% (n=4)(χ2= 2.33、P=0.33)

結論

この研究においてロピナビル/リトナビル及びアビドールは、症状緩和やウイルス除去促進に効果を示さなかった。


2020年2月21日金曜日

中国のCOVID-19大規模コホート

中国CDCによるCOVID-19の大規模なレポートが出ています。
N=72314と、これまでのレポートとは桁違いの大規模コホートです。
Main figureはTable1ですので、時間のない方はそこだけどうぞ。


Vital Surveillances: The Epidemiological Characteristics of an Outbreak of 2019 Novel Coronavirus Diseases (COVID-19) — China, 2020
China CDC Weekly

方法

  • 2020年2月11日までにCOVID-19と診断された中国の全症例を解析
  • 重症度は以下の定義
    • 軽症:肺炎がないか軽度
    • 重症:呼吸困難、呼吸数≥30回/分、SpO2≤93%、P/F比<300、24-48時間以内に>50%の肺浸潤影
    • 重篤:呼吸不全、敗血症性ショック、多臓器機能不全

結果

  • 72314患者が登録され、44672名(61.8%)の確定症例、16186名(22.4%)の疑い症例、10567名(14.6%)の臨床診断(湖北省のみ)、889件の無症状病原体保有者(1.2%)が含まれた
  • 確定症例の殆どは30~79歳(86.6%)で、軽症が80.9%、死亡率は2.3%
  • 流行曲線は1月23~26日頃にピークに達し、その後2月11日まで減少した
  • 1716人の医療従事者が感染し、5人が死亡した(0.3%)


補足:

60代以降で致死率が跳ね上がることと、検査が確立していくにつれて軽症例も診断されるようになったため、最終的な死亡率は1%を切っているということろがポイントかと思います。

それにしても中国CDCの実力は恐ろしく、混乱のさなかにこれだけのレポートを上げて、論文も大量に出して、複数のRCTまで走らせており、日本も見習わなければならないと思います。

2020年2月16日日曜日

COVID19の診断と治療

COVID19の臨床像と対処法がわかりやすくまとめられた、中国のガイドラインがとても参考になったので紹介します。
CT画像がたくさん掲載されているので、時間がない方はリンク先の写真だけでも見ると参考になるかと思います。


Mil Med Res. 2020 Feb 6;7(1):4.
https://mmrjournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/s40779-020-0233-6

疫学

  • ヒトーヒト感染するウィルスで、主な伝播経路は飛沫による呼吸器感染
  • 潜伏期間は3〜7日で最大14日、SARSと異なり潜伏期間中にも感染性を有する
  • ほとんどは予後良好で少数が重篤化するが、小児の症状は比較的軽度
  • 死亡例は高齢や慢性疾患(糖尿病、高血圧、心疾患)を有する者で多く認められる

症状・診断

  • 主な症状は発熱、疲労、乾性咳嗽、呼吸困難で、鼻汁・鼻閉等の上気道症状が見られることもある
  • 典型的なCT画像は、両肺の 区域性・亜区域性分布する多発性・斑状すりガラス陰影
  • 白血球数はやや減少、リンパ球数が減少、単球はやや増加することが多い
  • ほとんどの重症患者でD-dimerが著増し、凝固障害と末梢血管の微小血栓形成を伴っていた

治療

  • 薬物治療でエビデンスのあるものはない
  • IFN-α吸入(500万単位 1日2回)は弱い推奨
  • SARS/MERSで重症化抑制効果のあったロピナビル+リトナビルはRCTで検証中
  • ステロイドはcontroversial


2020年2月15日土曜日

HAV/HBVワクチンの互換性


Clinical question:海外でAvaxim、Engerixを打った方の続きの接種をどのように行うべきか


タイでHAVワクチンを1回、HBVワクチンを2回接種した方が、HAVの2回目とHBVの3回目を打ちたいと小生の外来を受診されました。
HAVはAvaxim、HBVはEngerixを使用していましたが、いずれも当院で扱っていないのでワクチン間の互換性について調べてみました。

Engerixとヘプタバックス(海外名:Recombivax HB)は互換性あり、とPinkbookにも記載されておりますので、ヘプタバックスに切り替えて良いと思うのですが、Avaximは米国で承認されていないため、Pinkbookには記載がないようです。
なお国産のエイムゲンは勿論、互換性の検証はされていません。

英国のGreenbookに、AvaximとHavrixとVaqtaは互換性があるという記載を見つけました。
http://media.dh.gov.uk/network/211/files/2012/07/chap-17.pdf
"Four monovalent vaccines are currently available, ...These vaccines can be used interchangeably."

この記載の根拠論文は以下の2つのようでした。
Vaccine. 2000 Nov 22;19(7-8):743-50.
Vaccine. 2001 Aug 14;19(31):4429-33.

上がHavrixとVaqtaのRCTで、下がAvaximとVaqtaのRCTです。
いずれのStudyも2回目でそれぞれ別の製剤に切り替える群と比較していますが、上は4週後、下は26週後にどの群も抗体獲得率が100%になっています。
HavrixとVaqtaはinterchangable、AvaximとVaqtaはinterchangableということになりますが、HavrixとAvaximを互換性ありと判断してよいのでしょうか? 少し疑問です。

interchangableの interchangableは 厳密にはinterchangableではないと思いますが、恐らく interchangableであろうという推測はできるので、事実上はinterchangableとみなして記載されているのだと思われます(ゲシュタルト崩壊)。


最後におまけの考察です。
ご存知のようにHavrixとTwinrixとEngerixはいずれもGSKが販売元で、含まれている抗原は同じであり、A型の抗原量だけが異なるとのことでした。
(Havrix Adult 1440EI.U、Engerix 20μg、Twinrix = Havrix 720EI.U+Engerix 20μg)

この患者さんの最後の接種としてTwinrixは普通は使わないと思いますが、一応興味で互換性があるのか調べてみたところ、以下のRCTを見つけました。

Vaccine. 2000 Aug 15;19(1):16-22.
1(1+2)回目をHavrix+Engerixで接種し、2(3)回目をTwinrixに切り替えても、7ヶ月後のHAV/HBVの抗体獲得率はいずれも100%だったとのことです。
2回目はBoostなので抗原量が少なくてもあまり問題ないということでしょうか。


Answer:ヘプタバックスとHavrixで続きの接種を行って良い(エイムゲンはダメ)。


2020年2月3日月曜日

チクングニア関節炎のメカニズム

先日、チクングニア熱の症例を経験しました。
後輩にチクングニア関節炎のメカニズムについて質問を受けましたが、あまり深く考えたことはなく、いい機会なので調べてみました。


ウィルスによる関節炎は広義の反応性関節炎と理解できます。
関節炎のメカニズムは、主に3つあるとのこと(UpToDate:"Viruses that cause arthritis"

  1.  ウィルスの直接侵入による炎症
  2.  ウィルス関連抗原との免疫複合体形成
  3.  ウィルスの持続感染による炎症(動物モデルのレンチウィルス感染のみのようです)

1はパルボウイルス、エンテロウイルス、アルファウイルス、
2はHBV、HCV、アルファウィルス、パルボウィルス、とのことです。
チクングニアはアルファウィルス属なので両方あり得るようです。

実際、チクングニア慢性関節炎患者の滑膜マクロファージから、チクングニアウィルスのRNAや蛋白発現が確認できるそうです。
・J Immunol. 2010 May 15;184(10):5914-27.
・PLoS ONE. 2007;2:e527.


チクングニア関節炎のメカニズムに関する論文をいくつか読んでみました。以下、ショートサマリーです。

Sci Transl Med. 2017;9(375)
チクングニア関節炎はCD4+T細胞を介して関節炎を起こすことを示した論文

  • ウィルス抗原の提示を受けるためのT細胞受容体(TCR)を欠損したTCRノックアウトマウスは、チクングニアウィルスに感染しても関節炎は起こさない
  • チクングニアに感染した野生型マウスのCD4+T細胞を輸注することで、TCRノックアウトマウスにも関節炎が起きる


J Virol. 2015;89(1):581. Epub 2014 Oct 22.
チクングニア関節炎の骨破壊の病態を患者サイトカインレベルと動物モデルで検証した論文

  • チクングニア患者の血清では破骨細胞活性のマーカーとなるRANKL/OPG比が増加している
  • チクングニア感染マウスではMCPの発現が高度に上昇し、骨量減少と相関した
  • さらにこの骨破壊はMCP阻害剤であるbindaritにより有意に減少した


Diseases. 2018;6(4) Epub 2018 Oct 20.
慢性関節炎に至ったチクングニアと早期に回復した患者を比較した症例対照研究

  • 慢性化例(n=121)と20か月以内に回復した症例(n=121)で年齢、性別を一致させて比較した
  • 急性感染時のサイトカイン応答の強度が慢性関節痛の発生率の低下と相関した
  • 急性感染時のTNFα、IL-13、IL-2、IL-4の低値は慢性関節痛の予測因子であった
  • 強力なサイトカイン応答がウイルス除去に必要であり、また免疫寛容に関連するサイトカインは、慢性関節炎への進展に抑制的に働く可能性が示唆された




2020年2月2日日曜日

腎代替療法下の抗菌薬投与量

腎代替療法下の薬物投与量は文献によって記載がバラバラなことが多く、いつもどれを採用してよいか悩みます(特にCHDFのバンコマイシン)。色々文献を読んでみた結果、血液浄化の設定から薬物クリアランスを推定する方法が参考になったので紹介します。


日本における血液浄化療法の設定について

よく使われる間欠血液透析(IHD)と持続血液濾過透析(CHDF)の、日本における一般的な設定は以下です。

  • IHD: Qb 200mL/min, Qd 500mL/min
  • CHDF:  Qb 100mL/min, Qd 7-10mL/min, Qf 5-8mL/min

CHDFの設定が見慣れない数値だと思いますが、実際の機械に表示されるQd, Qfの単位はmL/hになっている点に注意です。

話は少し横道にそれますが、よく急性期血液浄化のstudyで見かける"High volume"、"Low volume"などの浄化量の単位はmL/kg/hourのようですので、勘違いしないように注意です。体重60kgなら数値は同じになるので勘違いしやすいです。私も勘違いしていました。


腎代替療法のクリアランスの基本的な考え方

  • IHDの場合、QdがQbより大きいため、クリアランスはQbに依存する
  • CHDFの場合、 Qd, QfがQbと比較して極めて小さいため、クリアランスはQd, Qfに依存する
  • IHDでは少分子量であるほど除去されやすい
  • CHF(CHDFを含む)では中分子量物質(MW 500-20000)も除去されやすくなる
  • アルブミン(MW 60000)と結合している物質は血液浄化での除去は期待できない


IHDにおけるクリアランス推定

IHDの場合、QdがQbより大きいため、クリアランスはほぼQbに依存します。

MW110で蛋白結合率0%であるクレアチニンのIHDにおけるクリアランスは、Qb 200mL/minで150mL/min程度になるようです。
IHDが1回4時間、週3回なので、Ccr 10.7mL/min相当と計算されます。
バンコマイシンはMW 1449、蛋白結合率34%ですので、5-10mL/min程度のクリアランスになると推定できます。


CHDFにおけるクリアランス推定

CHDFの場合、 Qd, QfがQbと比較して極めて小さいため、クリアランスはQd, Qfに依存します。

CHDFの場合は透析と限外濾過で除去される量からクリアランスが推定でき、流量が少ないためほぼQd+Qf(=浄化量)に等しい値と考えて良いようです。
したがって一般的な設定だと、Ccrは12-14mL/min相当になります。


クリアランス推定と投与量設計のまとめ

上記のクリアランス推定を基本として、

  • 自尿(残腎機能)があるとクリアランスは尿量分上がる。
  • CHDFではIHDと比べて低効率長時間のため分布容積が大きくても除去されやすい。

などの要素を加えて、推定クリアランスを修正して投与設計すれば良いと思われます。
細かいことを述べましたが、結局ほとんどどの場合はクリアランス5-10ml/min相当になるので、めんどくさい人はそれで覚えても大体のケースでは大丈夫だと思います。



参考文献
1) 日本内科学会雑誌 第103巻 第 5 号
2) Jpn J Nephro1 Pharmacother 2014; 3(1): 3-19.
3) 白鷺病院ホームページ
http://www.shirasagi-hp.or.jp/goda/fmly/gate.html

2020年2月1日土曜日

納豆の骨折予防効果

閉経後女性は納豆を毎日食べると脆弱性骨折が減少する、とのことです。
ネタみたいな論文で申し訳ありませんが、面白かったのでご紹介します。

J Nutr. 2019 Dec 11.[Epub ahead of print] (PMID: 31825069)

  • Design: 骨粗鬆症レジストリを用いた多施設前向きコホート研究。食事摂取調査票を用いて調査
  • P: 45才以上の閉経後女性(N=1417)
  • E&C:  納豆週1パック未満を基準として、週1~6パック群、週7パック以上群を比較
  • O: Primary outcomeは脆弱性骨折。COX比例ハザードモデルを用いて解析


結果

  • 17699人年の追跡調査期間(中央値15.2年)で、172の臨床骨折が発生
  • 年齢とHip-BMDで調整したHRは、1~6パック群で0.72 (95%CI 0.52-0.98)、7パック以上群で0.51 (95%CI: 0.30-0.87) であった
  • BMI、脆弱性骨折の既往、心筋梗塞・脳卒中の既往、糖尿病、現在の喫煙、アルコール摂取、豆腐や他の大豆製品の摂取頻度、カルシウム摂取で更に調整した場合のHRSは、 1~6パック群で 0.79 (95%CI: 0.56-1.10)、7パック以上群で 0.56(95%CI: 0.32-0.99) であった
  • 豆腐や他の大豆製品の摂取頻度は脆弱性骨折リスクと関連しなかった