2020年5月25日月曜日

COVID-19に対するレムデシビルのRCT(ACCT-1試験)

待ちに待った米国主導のレムデシビルRCTの結果です。
回復までの期間を4日縮めるという効果をどう解釈するのかがポイントでしょうね(回復率の改善は、回復が早まった効果による短期的なアウトカム改善に見える)。
このデータからは、酸素が始まったときが最も適切な開始時期で、それ以降は効果が期待しにくいという理解になりそうです。


N Engl J Med. May 22, 2020
Remdesivir for the Treatment of Covid-19 — Preliminary Report.
  • Design: 国際共同多施設 double-blind RCT
  • P: 入院が必要な成人COVID-19
  • I: レムデシビル(day1: 200mg iv、day2-10: 100mg iv)
  • C: プラセボ10日間 1:1割付
  • O: 主要エンドポイントは回復(カテゴリー3以下)までの日数(層別Log-rank test)
※ カテゴリー
  •  1=活動制限なし
  •  2=活動制限があるが入院不要
  •  3=酸素や医療ケアは不要だが入院が必要(感染管理のための入院)
  •  4=酸素は不要だがCOVID-19に関連した活動制限による医療ケアが必要
  •  5=酸素が必要
  •  6=NIPPVや高流量の酸素が必要
  •  7=機械的換気やECMOが必要
  •  8=死亡

結果

  • 1107人を登録、541人がレムデシビル群、522人がプラセボ群に割り付けられた
  • 発症から登録までの日数の中央値は9日だった
  • レムデシビル群、プラセボ群のベースライン重症度は、各々カテゴリ4が12.5%, 11.4%、カテゴリ5が41.0%, 38.1%、カテゴリ6が18.1%, 19.0%、カテゴリ7が23.1%, 28.2%
  • レムデシビル群の回復までの日数は中央値11日で、プラセボ群の15日と比較して有意に短かった (RR 1.32, 95%CI: 1.12-1.55; P<0.001)
  • カテゴリ5 (N=421) における回復率が1.47 (95%CI: 1.17-1.84) と最も大きかった
  • カテゴリ7 (N=272) におけるの回復率は0.95 (95%CI: 0.64-1.42) だった
  • レムデシビル群の14日時点の死亡率は7.1%で、プラセボ群の11.9%と比較して低い傾向 (HR 0.70, 95%CI: 0.47-1.04)
  • 重篤な有害事象はレムデシビル群で28.8%、プラセボ群で33.0%、内訳は貧血、AKI、腎機能障害、高血糖、LFT上昇などだが、両群における発生率に大きな差はない


感想

COVID-19のエビデンスのある初の治療薬として確立したことは、疾患の認知からわずか半年という点も含め、素晴らしい成果を上げた歴史的臨床試験だと思います。

主にLimitationについて考察します。
まず解釈するに当たり極めて重要なCOIですが、資金提供がNIAID、NIHからあるようです。ギリアドからは薬剤提供のみとのことですが、社員がプロトコル開発と毎週のチームコールに参画しています。米国の威信をかけたプロジェクトであり、結果が発表されたタイミングも含めて、biasに少なからず注意して解釈する必要がありそうです。

αエラー5%、検出率80%として10%程度の改善率の検出に必要な症例数は、多めに見積もって両群350ずつくらいではないかと試算します。ごく小さな差を多めの症例数によって有意に検出した可能性はあるかもしれません。

死亡率は14日で比較されており、ほぼ肺を限局的に障害するCOVID-19の場合は、少し長めの日数で評価する必要があったと思います(Under estimateしたかもしれません)。
最も注目すべきアウトカムの一つである、機械的換気への移行率が抑えられたか、このデータからは読み取れないのは残念な点でした(Supplement S1を見ると一見差がありそうなんですが・・・)。

また1ヶ月程度の短期的な回復率を見ているだけなので(重傷者が回復する時期ではない)、線維化によるダメージなどに変化があるのか、3ヶ月後くらいの予後も気になりますね。


2020年5月19日火曜日

ACR痛風ガイドライン2020

ACRの痛風ガイドラインが改定されています。
以前ほど生活習慣の影響は強くないと考えて良さそうで、プリン体摂取もそれほどアウトカムに影響しないようです。体重と飲酒は弱くフレアと関連がありそうですが、基本は薬物療法であると解釈できそうです。

フェブキソスタットがアロプリノールと比較して、心血管死がわずかに増加するかもしれないという話題や、
N Engl J Med. 2018 Mar 29;378(13):1200-1210. 
Circulation. 2018 Sep 11;138(11):1116-1126.
ロサルタンの尿酸減少効果については知らなかったので、非常に勉強になりました。
Hypertension. 2011 Jul;58(1):2-7.


Arthritis Care Res (Hoboken). 2020 May 11.
2020 American College of Rheumatology Guideline for the Management of Gout.

尿酸降下治療の適応

  • 1個以上の皮下痛風結節、痛風性X線変化、年2回以上の痛風発作では尿酸降下治療を強く推奨する
  • 低頻度(年2回未満)の繰り返す痛風発作に対する尿酸降下治療を弱く推奨する
  • 初回痛風発作では尿酸降下治療を一般に推奨しないが、CKD stage3以上、尿酸>9mg/dL、尿路結石を合併する場合は検討して良い
  • 無症候性高尿酸血症に対する尿酸降下治療は推奨しない

尿酸降下治療の薬剤選択

  • CKD stage3以上も含めて、1st line治療にはアロプリノールを強く推奨する
  • CKD stage3以上ではプロベネシドよりアロプリノールかフェブキソスタットを強く推奨する
  • Pegloticase(尿酸オキシダーゼ)は1st line治療として使用しないことを強く推奨する
  • アロプリノールとフェブキソスタットは低用量から漸増することを強く推奨する
  • プロベネシドは低用量から漸増することを弱く推奨する 
  • 抗炎症薬(コルヒチン、NSAID、ステロイド)の予防的併用を強く推奨する(最低3~6ヶ月)

尿酸降下治療の開始時期

  • 痛風発作中ではなく発作が軽快した後に尿酸降下治療を開始することを強く推奨する
  • 尿酸値をガイドにして目標尿酸値を目指す "Treat to target” 戦略を強く推奨する
  • 尿酸6mg/dL以下に維持することを強く推奨する
  • T2T strategy最適化のため、患者教育やshared decision‐makingを含む非医師による尿酸降下治療の拡張プロトコルの提供を強く推奨する

尿酸降下治療の期間

  • 無期限に継続することを弱く推奨する

アロプリノールに関する推奨

  • 東南アジア民族(漢民族、韓国、タイ等)及びアフリカ系アメリカ人では、開始前にHLA–B*5801 alleleを検査することを弱く推奨する(HLA–B*5801はアロプリノール過敏症のリスク)
  • 上記以外の民族にHLA–B*5801を検査しないことを弱く推奨する
  • アロプリノールは100mg/day以下(CKDでは更に低用量)から開始することを強く推奨する
  • アロプリノール脱感作は他の尿酸降下治療で代用できない場合に弱く推奨する

フェブキソスタットに関する推奨

  • 心血管の新規イベントまたは既往患者では、他の推奨に反しない限り、可能な場合は他の尿酸降下治療への切り替えを弱く推奨する

尿酸排泄促進薬に関する推奨

  • 投与前及び投与中に尿中尿酸の測定を行わないことを弱く推奨する(食事の影響を受けるため)
  • 尿酸排泄促進薬投与中の尿のアルカリ化は行わないことを弱く推奨する(有用性の証拠なし)

いつ尿酸降下治療の変更を検討すべきか

  • 最初のキサンチンオキシダーゼ阻害薬(XOI)を最大容量で投与しているにも関わらず、尿酸>6mg/dLが持続し、かつ皮下痛風結節や年2回以上の痛風発作が軽快しない場合には、尿酸排泄促進薬の追加ではなく別のXOIに切り替えることを弱く推奨する
  • XOI、尿酸排泄促進薬、他の治療介入によっても目標の尿酸値に到達せず、かつ皮下痛風結節や年2回以上の痛風発作が改善しない場合に、Pegloticaseの使用を強く推奨する
  • 皮下痛風結節がなく、年2回未満の痛風発作の場合は、尿酸値が目標に達しなくともPegloticaseは使用しないことを強く推奨する

痛風発作の管理

  • IL-1阻害薬やACTHよりも、コルヒチン、NSAID、ステロイド(経口、関注、筋注)を1st line治療とすることを強く推奨する
  • コルヒチンは有効性が同等で低リスクであることから、低用量での使用を強く推奨する
  • 局所冷却を補助療法として弱く推奨する
  • 上記の抗炎症治療が全て無効か忍容性がないか禁忌の場合、IL-1阻害薬の使用を弱く推奨する
  • 内服不能の場合はIL-1阻害薬やACTHではなく、ステロイド静注・筋注・関注で治療することを強く推奨する

生活習慣の管理

  • 疾患活動性に関わらず、アルコール、プリン体、高果糖コーンシロップを制限することを弱く推奨する
  • 疾患活動性に関わらず、過体重の患者では減量プログラムを弱く推奨する
  • ビタミンCサプリメントは推奨しない(有効性の証拠なし)

併用薬の管理

  • ヒドロクロロチアジドを別の降圧薬に切り替えることを弱く推奨する
  • 降圧薬としてロサルタンを優先的に選択することを弱く推奨する(尿酸の減少効果がある)
  • 適切な適応で低用量アスピリンを内服している場合、(尿酸降下を期待しての)アスピリン中止を行わないことを弱く推奨する
  • コレステロール降下薬を(尿酸降下を期待して)フェノフィブラートに変更または併用することは行わないことを弱く推奨する

2020年5月17日日曜日

COVID-19曝露日・発症日からのPCR偽陰性率の推移

偽陰性をなるべく低下させる観点からは、発症3日目にPCRを行うのが良いようです。

Ann Intern Med. May 13, 2020.
Variation in False-Negative Rate of Reverse Transcriptase Polymerase Chain Reaction–Based SARS-CoV-2 Tests by Time Since Exposure.

Design

  • Pubmed、BioRxiv、MedRxivの文献レビューによる臨床試験のプール解析

対象:

  • 鼻咽頭または咽頭スワブでSARS-CoV2-PCR検査された患者
  • 発症及び曝露からの日数が不明な患者は除外した

方法:

  • ベイジアン階層ロジスティック回帰モデルを用いて、曝露日からの偽陽性率・偽陰性率を推定した
  • 曝露から発症までは5日間、RT-PCRの特異性は100%を仮定した

結果:

  • 7つの臨床試験から1330のPCRサンプルを解析対象とした
  • 発症4日前(すなわち曝露直後~約1日目)の偽陰性率は100% (95%CI: 100-100%)
  • 発症日の偽陰性率は38% (95%CI: 18-65%)
  • 偽陰性率は発症3日目に20% (95%CI: 12-30%) と最低となる
  • 発症16日目の偽陰性率は66% (95%CI: 54-77%)
  • 潜伏期間を短く設定すると、偽陰性率の低下はより早期に起きたが、推定曲線の形状は類似していた

2020年5月10日日曜日

COVID-19の新規治療(可溶性ACE2とモノクローナル中和抗体)

可溶性ACE2と、モノクローナル中和抗体(VHH-72)の臨床応用が注目されているようで、少し古い基礎論文ですが紹介します。
ACE2は早くも治験が始まるようです。

 
Cell. 2020 Apr 17;S0092-8674(20)30399-8.
Inhibition of SARS-CoV-2 Infections in Engineered Human Tissues Using Clinical-Grade Soluble Human ACE2.
  • ヒト-リコンビナント可溶性ACE2 (hrsACE2) は用量依存的にSARS-CoV-2のVero-E6細胞への感染を阻害した
  • hrsACE2はiPS細胞から作られたヒト毛細血管及び腎オルガノイドへの感染も阻害した


Cell. 2020 Apr 29;S0092-8674(20)30494-3.
Structural Basis for Potent Neutralization of Betacoronaviruses by Single-Domain Camelid Antibodies.
  • SARS-CoVとMERS-CoVで免疫されたラマから得られた抗体からファージディスプレイ法で獲得した中和抗体 VHH-72は、SARS-CoV2と交差反応を示した
  • VHH-72はSARS-CoV2のS蛋白上のRBDドメイン(ACE2との結合部位)に親和性を示す
  • 2つのVHH-72を結合した2価VHHにIgG1-Fcドメインを結合した融合蛋白であるVHH-72-Fcは、SARS-CoV2の中和活性が見いだされた
  • VHH-72-FcはExpiCHO細胞による大量精製が可能で、ルシフェラーゼアッセイによる中和能力はIC50値で0.2μg/mLだった

2020年5月9日土曜日

COVID-19に対するアナキンラの治療成績

Lancet Rheumatologyにアナキンラのパイロット的なデータが掲載されました。
アナキンラ群のほうが重症例が多いにも関わらず、治療成績が良いです。死亡率が改善するにも関わらず挿管率が有意に改善していないので、好意的に見ればもう少し早期に使うべき薬剤ということを意味するかもしれません(アナキンラ群は挿管までで済んだ)。
とはいえ後ろ向きなので色々なバイアスがありそうで、RCTでひっくり返る可能性は十分ありそうです。


Lancet Rheumatology. May 07, 2020.
Interleukin-1 blockade with high-dose anakinra in patients with COVID-19, acute respiratory distress syndrome, and hyperinflammation: a retrospective cohort study.

Design

  • 後ろ向き観察研究

対象

  • 中等症~重症のARDSで、高炎症を伴うCOVID-19
  • 重症の定義:P/F<200、かつPEEP>5
  • 高炎症の定義:CRP>10mg/dL and/or Ferritin>600ng/mL
  • ステロイド投与者は除外

方法

  • 後ろ向きに収集したデータからアナキンラの臨床効果を評価
  • 全患者に標準治療としてHCQ (200mg1日2回)とカレトラ(LPV/r 400/100mg 1日2回)が投与された
  • アナキンラ低用量は100mg1日2回 sc、高用量は5mg/kg 1日2回 ivが、標準治療に加えて、臨床的改善が得られるまで投与された
  • 改善の定義:CRP 75%減少、P/F>200が2日間維持できる

結果

  • 29名が高用量アナキンラ、16名が標準治療、7名が低用量アナキンラを投与された(全例NIV)
  • 低用量プロトコルはCRPの低下や臨床的改善と関連しなかったため7人目以降中止された
  • 21日生存率は、高用量アナキンラ群で90%、標準治療群で56%だった(HR 0.20, 95%CI: 0.04-0.63, p=0.009)
  • 機械換気に移行しなかった率は、高用量アナキンラ群72%、標準治療群50%だった(HR 0.5, 95%CI:0.16-1.30, p=0.15)

  • 菌血症が高用量アナキンラ群の4/29(14%)、標準治療群で2/16(13%)で発生した
  • 高用量アナキンラ群の死因は、肺血栓塞栓症(n=1)、呼吸不全(n=1)、多臓器不全(n=1)
  • 標準治療群の死因は、呼吸不全(n=3)、多臓器不全(n=3)、肺血栓塞栓症(n=1)


2020年5月8日金曜日

COVID-19と抗リン脂質抗体

COVID-19における抗リン脂質抗体の続報が出ています。
思ったよりも高頻度で認められるようで、病的意義があるかはまだ明らかではないですが、凝固カスケードと関連している可能性はありそうなので、個人的には非常に興味深いです。

N Engl J Med. May 5, 2020
Lupus Anticoagulant and Abnormal Coagulation Tests in Patients with Covid-19.
  • SARS-CoV2-PCR陽性の216名の患者で凝固アッセイをスクリーニングした
  • 44名(20%)にAPTT延長が認められ、うち34名(91%)がLAC陽性だった(dRVVT単独7名、LA-aPTT単独6名、両方18名)
  • LAC陽性のうち28検体はヘパリンが含まれる血漿だったが、dRVVT Assayではheparinaseが添加されていた
  • 第8・第9因子欠損症は含まれていなかった
  • 第12因子低下(50IU/dL以下)が16名に認められた

2020年5月4日月曜日

運動負荷心エコーは強皮症におけるPH進展を予測する

手間がかかりそうな検査ですが、症例を選べば役に立つかもしれません。


J Rheumatol. 2020 May 1;47(5):708-713.
Exercise Echocardiography Predicts Future Development of Pulmonary Hypertension in a High-risk Cohort of Patients With Systemic Sclerosis.

Design

  • 前向き観察研究

対象

  • 強皮症でPHではないがPHハイリスクの患者
  • PHハイリスクの定義:労作時呼吸苦、DLCO<60%, FVC%<60%, FVC%/DLCO% >1.6, 安静時RVSP>30mmHgかつ<50mmHg
  • 除外基準:冠動脈疾患、LVEF<50%、Grade2以上の拡張障害、トレッドミル施行不能者、安静時RVSP>50mmHg

方法

  • 全例に運動負荷心エコー(EE)を行い、RVSP≥ +20mmHgを陽性とした
  • 陽性者は全例右心カテーテルでの評価を行った
  •  EEの評価は、トレッドミルでBruceプロトコルを実施し、予測最大心拍数の85%を達成後、1分以内にRVSPを測定した

結果

  • 85名が登録され、罹病期間は平均7.7±6.6年で、うち13名が中央値3.5年(IQR 1.5~5年)でPHを発症した
  • PH発症はEE陽性群10/43(23%)、EE陰性群3/42(7%)で、有意にEE陽性群に多かった (p=0.04)
  • EE陽性群のPHを発症しなかった残り33人のうち22人(67%)が、平均5年間の追跡期間で持続的陽性を示した

結論

  • EE陽性はPHへの進展を予測し、EE陰性はPH低リスクを予測するかもしれない
  • EE陽性の大部分はPHに進展しないものの、持続陽性を示す

感想

手動で計算してみるとEEの感度76.9%、特異度54.2%、PPV 30.3%、陽性尤度比1.68、となりますので、陽性の場合のPHリスクは1.7倍程度と見積もられ、凄くリスクが高いわけではないが警戒度は少し上がる、と解釈しました。
偽陽性が問題になるので実臨床での運用としては、右心カテをするか迷う場合の最後のひと押しの評価といったくらいの位置づけになるでしょうか。

2020年5月3日日曜日

早期強皮症に対するリオシグアトのRCT

早期強皮症に対するリオシグアトのRCT結果がARDに掲載されています。
レイノーや指尖部潰瘍にはある程度効きそうですが、残念ながら皮膚硬化には極めて微弱な効果に留まるようですね。


Ann Rheum Dis. 2020 May;79(5):618-625.
Riociguat in Patients With Early Diffuse Cutaneous Systemic Sclerosis (RISE-SSc): Randomised, Double-Blind, Placebo-Controlled Multicentre Trial.

  • Design: Phase IIb, double-blind RCT
  • P: 発症18ヶ月未満のmRSS 10-22のdiffuse SSc
  • I: リオシグアト0.5 mg〜2.5 mg 1日3回経口投与
  • C: Placebo 1:1割付
  • O: 主要評価項目は0-52週の⊿mRSS

結果

  • リオシグアトに群60名、プラセボ群に61名が登録された
  • 0-52週の⊿mRSSの両群の差は–2.34 (95%CI –4.99~0.30; p=0.08)で有意差はなかった

  • post-hoc解析で、ILD患者におけるFVC%の変化はリオシグアト群で-2.7%(N=12)、 プラセボ群で-7.6%(N=13)であった
  • 新規の指尖部潰瘍はリオシグアト群とプラセボ群で各々、14週では4個vs.26個、52週では12個vs.72個であった
  • 50%以上のRaynaud condition scoreの改善率はリオシグアト群で19/46 (41.3%)、 プラセボ群で13/50 (26.0%)だった
  • SAEはリオシグアト群で9例(15.0%)、プラセボ群で15例(24.6%)で、両群に大きな差は認められなかった


2020年5月1日金曜日

COVID-19におけるPulmonary intravascular coagulopathyと抗凝固療法

抗ウィルス療法という本質から外れるため治療効果に期待できるとも思えず、あまり積極的に情報収集していなかった抗凝固療法ですが、思った以上に様々な検証がされていることを最近知りました。

RNAウィルスはワクチン開発の難易度が高いようで(HCVもHIVもRSVもいまだにワクチンがありません)恐らく少なくとも数年は抗ウィルス療法に期待せねばなりませんが、レムデシビルやアビガンの現状を見る限り、HIV・HCVレベルの劇的な抗ウィルス療法が確立するのはまだまだ先と思われます。

今手元にある武器で戦うという意味で、抗凝固療法・免疫制御による(僅かでも期待する)時間稼ぎ治療というのは、奇想天外な発想に見えて、実は非常に現実的な選択肢のように思えてきます。
雑多ですが重要と思われた、いくつかの凝固線溶系の論文を共有します。
COVID-19における肺局所の血栓傾向は、Pulmonary intravascular coagulopathy (PIC)という概念が提唱されているようです。


J Thromb Haemost. 2020 Apr 19.
・COVID-19院内死亡率を予測するD-dimerの最適Cut-offは2.0µg/mlで、感度92.3%、特異度83.3%だった。
・入院時D-dimer >2.0µg/mlの患者は死亡率が高かった(12/67 vs. 1/267, HR 51.5, 95%CI 12.9-206.7)


Radiology. 2020 Apr 23:201561.
・後方視的に肺動脈相を含む胸部CTを行っていたCOVID-19の患者を解析。
・撮像理由は67/106(63%)が肺塞栓症の疑い、39/106(37%)はその他の理由。
・32/106(30%)に急性肺塞栓が認められた。


J Thrombin Haemostasis. 22 April 2020.
・フランスICUの後方視的観察研究
・ICU入室したCOVID-19患者26名中18名にVTEが見つかった
・予防的抗凝固が行われていた患者では、治療的抗凝固が行われていた患者よりVTEが多かった(100% vs. 56%, p=0.03)


medRxiv. Posted April 10, 2020. [pre-print]
Pulmonary and Cardiac Pathology in Covid-19: The First Autopsy Series from New Orleans
・ニューオーリンズの4剖検例
・全例でびまん性肺胞障害に一致して微小血管のフィブリン血栓、周囲の著しいCD4+の単核球浸潤が認められた
・肺に限局した血栓性微小血管症や、異常NETs形成が疑われる剖検例も含まれた
・すべての症例で二次感染の所見はなかった。


J Thromb Haemost. 2020 May;18(5):1094-1099.
(個人的に最重要な論文です。D-dimer>6でヘパリンが予後改善させる可能性を示しています)
・COVID-19患者449名のヘパリン使用者(N=99)と非使用者(N=350)を比較した
・両群全体で28日死亡率の差は認められなかったが(30.3% vs. 29.7%, p=0.910)、SIC高スコア群(40.0% vs. 64.2%, p=0.029)や、D-dimer高値群(32.8% vs. 52.4%, p=0.017)では死亡率改善が認められた



Br J Thromb Haematol. published:24 April 2020.
・COVID-19の重症度はD-dimer上昇、PT延長など凝固障害と関連しているが、全身性のDICは伴わない
・しかし肺局所ではフィブリン血栓が多発しており、両肺の炎症に伴う肺局所の血栓傾向は、pulmonary intravascular coagulopathy (PIC)と表現すべきDICとは異なる肺特異的血管障害であることが示唆される


bioRxiv. Posted April 23, 2020. [pre-print]
The anticoagulant nafamostat potently inhibits SARS-CoV-2 infection in vitro: an existing drug with multiple possible therapeutic effects.
・セリンプロテアーゼであるTMPRSS2によるSARS-CoV2ウィルス蛋白スパイクの開裂はACE2を介した細胞内侵入に関与する
・このウィルス細胞内侵入はメシル酸ナファモスタットによりin vitroで抑制された
・この効果はメシル酸カモスタットの約10倍で、他の抗血栓薬には認められなかった(エドキサバン、アピキサバン、リバロキサバン、ダビガトラン、アルガトロバン、ダレキサバン)


J Exp Med. 2020 Jun 1;217(6):e20200652
・ARDS患者のBALFや血漿中でNETs(好中球細胞外トラップ)形成が亢進しており、重症度や死亡率と相関する。
・高レベルのNETsは微小血栓を引き起こし、過度の血栓症とも相関する。敗血症モデルマウスでは血管内NETが微小血栓を形成し、肺、肝、等に血栓形成による臓器障害を引き起こした。
・NETとIL-1βの互いに増強するループ形成により、COVID-19の呼吸不全、微小血栓形成、異常免疫反応が加速する可能性がある
・IL-1βがIL-6を誘導することからIL-6 axis Blockadeが有望な治療ターゲットとして注目される
・NETs阻害アプローチとしては好中球エラスターゼ, PAD4,、gasdermin Dの阻害やDNase Iが候補となる