抗ウィルス療法という本質から外れるため治療効果に期待できるとも思えず、あまり積極的に情報収集していなかった抗凝固療法ですが、思った以上に様々な検証がされていることを最近知りました。
RNAウィルスはワクチン開発の難易度が高いようで(HCVもHIVもRSVもいまだにワクチンがありません)恐らく少なくとも数年は抗ウィルス療法に期待せねばなりませんが、レムデシビルやアビガンの現状を見る限り、HIV・HCVレベルの劇的な抗ウィルス療法が確立するのはまだまだ先と思われます。
今手元にある武器で戦うという意味で、抗凝固療法・免疫制御による(僅かでも期待する)時間稼ぎ治療というのは、奇想天外な発想に見えて、実は非常に現実的な選択肢のように思えてきます。
雑多ですが重要と思われた、いくつかの凝固線溶系の論文を共有します。
COVID-19における肺局所の血栓傾向は、Pulmonary intravascular coagulopathy (PIC)という概念が提唱されているようです。
J Thromb Haemost. 2020 Apr 19.
・COVID-19院内死亡率を予測するD-dimerの最適Cut-offは2.0µg/mlで、感度92.3%、特異度83.3%だった。
・入院時D-dimer >2.0µg/mlの患者は死亡率が高かった(12/67 vs. 1/267, HR 51.5, 95%CI 12.9-206.7)
Radiology. 2020 Apr 23:201561.
・後方視的に肺動脈相を含む胸部CTを行っていたCOVID-19の患者を解析。
・撮像理由は67/106(63%)が肺塞栓症の疑い、39/106(37%)はその他の理由。
・32/106(30%)に急性肺塞栓が認められた。
J Thrombin Haemostasis. 22 April 2020.
・フランスICUの後方視的観察研究
・ICU入室したCOVID-19患者26名中18名にVTEが見つかった
・予防的抗凝固が行われていた患者では、治療的抗凝固が行われていた患者よりVTEが多かった(100% vs. 56%, p=0.03)
medRxiv. Posted April 10, 2020. [pre-print]
Pulmonary and Cardiac Pathology in Covid-19: The First Autopsy Series from New Orleans
・ニューオーリンズの4剖検例
・全例でびまん性肺胞障害に一致して微小血管のフィブリン血栓、周囲の著しいCD4+の単核球浸潤が認められた
・肺に限局した血栓性微小血管症や、異常NETs形成が疑われる剖検例も含まれた
・すべての症例で二次感染の所見はなかった。
J Thromb Haemost. 2020 May;18(5):1094-1099.
(個人的に最重要な論文です。D-dimer>6でヘパリンが予後改善させる可能性を示しています)
・COVID-19患者449名のヘパリン使用者(N=99)と非使用者(N=350)を比較した
・両群全体で28日死亡率の差は認められなかったが(30.3% vs. 29.7%, p=0.910)、SIC高スコア群(40.0% vs. 64.2%, p=0.029)や、D-dimer高値群(32.8% vs. 52.4%, p=0.017)では死亡率改善が認められた
Br J Thromb Haematol. published:24 April 2020.
・COVID-19の重症度はD-dimer上昇、PT延長など凝固障害と関連しているが、全身性のDICは伴わない
・しかし肺局所ではフィブリン血栓が多発しており、両肺の炎症に伴う肺局所の血栓傾向は、pulmonary intravascular coagulopathy (PIC)と表現すべきDICとは異なる肺特異的血管障害であることが示唆される
bioRxiv. Posted April 23, 2020. [pre-print]
The anticoagulant nafamostat potently inhibits SARS-CoV-2 infection in vitro: an existing drug with multiple possible therapeutic effects.
・セリンプロテアーゼであるTMPRSS2によるSARS-CoV2ウィルス蛋白スパイクの開裂はACE2を介した細胞内侵入に関与する
・このウィルス細胞内侵入はメシル酸ナファモスタットによりin vitroで抑制された
・この効果はメシル酸カモスタットの約10倍で、他の抗血栓薬には認められなかった(エドキサバン、アピキサバン、リバロキサバン、ダビガトラン、アルガトロバン、ダレキサバン)
J Exp Med. 2020 Jun 1;217(6):e20200652
・ARDS患者のBALFや血漿中でNETs(好中球細胞外トラップ)形成が亢進しており、重症度や死亡率と相関する。
・高レベルのNETsは微小血栓を引き起こし、過度の血栓症とも相関する。敗血症モデルマウスでは血管内NETが微小血栓を形成し、肺、肝、等に血栓形成による臓器障害を引き起こした。
・NETとIL-1βの互いに増強するループ形成により、COVID-19の呼吸不全、微小血栓形成、異常免疫反応が加速する可能性がある
・IL-1βがIL-6を誘導することからIL-6 axis Blockadeが有望な治療ターゲットとして注目される
・NETs阻害アプローチとしては好中球エラスターゼ, PAD4,、gasdermin Dの阻害やDNase Iが候補となる
0 件のコメント:
コメントを投稿