2020年3月31日火曜日

AAVに対するRTXメンテナンス BSR: Expert consensus guidelines

BSRからAAVに対するRTXメンテナンスのガイドラインが出ました。Expert consensusということですが、割と強固なエビデンスに基づいた記載もあって勉強になりました。


Rheumatology (Oxford). 2020 Apr 1;59(4):e24-e32.
Rituximab for maintenance of remission in ANCA-associated vasculitis: expert consensus guidelines


1. 維持療法としてRTXをいつ使用すべきか

1.1 新規及び再発GPA/MPA

  • RTXで寛解導入したGPA/MPAで、RTXによる維持療法を推奨する (Level 2b, grade B, vote100%)
  • CYで寛解導入したGPA/MPAで、RTXによる維持療法を推奨する (Level 1b, grade A, vote100%)

1.2 EGPA

  • 維持療法のRTXのエビデンスは不足しているが、GPA/MPAと同様のアプローチを勧める (Level 4, grade C, vote83%)
  • EGPAにおけるRTXの治療反応はGPA/MPAとは異なり、ステロイドの離脱は困難かもしれない

2. AAVにどのRTXメンテナンスレジメンを使用するか

2.1 用量と投与間隔

  • 固定間隔投与で、500mg or 1000mg /body /6 months 2年間使用 (Level 1b, grade B, vote100%)
  • RTX終了後も再発リスクは継続するためモニタリングは継続する必要がある。

2.2 RTXメンテナンスで再発する場合

  • 再発時の治療変更は疾患活動性と臓器病変により決定する (Level 4, grade C, vote100%)
  • 再発時は以下を検討せよ
    • 症状はActivity由来かDamage由来か
    • 代替診断、併存症の有無
    • Disease driver(感染、コカイン使用の有無)
    • 不完全なB細胞除去
  • 可能な治療選択肢
    • 寛解導入の反復(薬剤を変更しても良い)
    • RTX投与間隔の短縮
    • 併用療法(AZA、MMF、MTX等)
    • 臨床研究エントリーを考慮

2.3 RTXメンテナンスの延長

  • 2年の維持療法後も再発リスクの高い患者では維持療法の延長も検討する (Level 5, grade D, vote94.4%)
  • 初回維持療法での再発、ANCAの持続的上昇、再発により臓器・生命の危機が予測される場合が該当する。

2.4 RTXメンテナンスにおけるバイオマーカーの役割

  • AAVにおけるRTX維持療法のガイドとなるバイオマーカー(ANCA、B細胞リターン等)の役割はさらなる研究が必要 (Level 2a, grade B, vote100%)

3. 併用療法

3.1 免疫抑制剤、DMARD

  • 維持療法で免疫抑制剤(AZA, MTX, MMF等)を既に使用している患者にRTXを開始する場合、これらの中止を提案する (Level 4, grade C, vote83.3%)

3.2 ステロイド

  • ステロイドの漸減は、RTX開始後6~12ヶ月での中止を目指すべきである (Level 5, grade D, vote94.4%)

4. 予防

4.1 PCP

  • RTXメンテナンスを行う全ての患者でPCP予防を提案する (Level 4, grade C, vote88.9%)

4.2 ワクチン

  • インフルエンザと肺炎球菌ワクチンは全ての患者に推奨する。生ワクチンは避けるべきである
  • ワクチンはRTX 1ヶ月前の接種が理想だが、タイミング設定が接種を妨げるべきではない (Level 5, grade D, vote100%)

5. 有害事象

5.1 低ガンマグロブリン血症

  • (i) RTXメンテナンスにおいて
    • a. 免疫グロブリンはすべての患者でモニタリングすべきである (Level 2a, grade B, vote100%)
    • b. 非定型感染や感染を繰り返す場合、IgG<300mg/dL (小児では年齢補正する)の場合は精査を推奨する (Level 5, grade C, vote100%)
  • (ii) 低ガンマグロブリン血症でRTXが臨床的に有効な患者では、免疫グロブリン補充の併用を考慮する (Level 5, grade C, vote100%)

5.2 遅発性好中球減少症

  • 臨床医と患者は、RTXによる遅発性好中球減少症の可能性に注意する
  • 合併症のない遅発性好中球減少症の既往でRTX使用を断念する必要はない (Level 4, grade C, vote88.9%)

補足

推奨内容は主にMAINRITSAN試験で得られたエビデンスに基づいています。
  • MAINRITSAN試験でRTXによる維持療法はAZAと比較して有意に優れていることが示された。
  • 28ヶ月後の主要再発率 5% vs 29% (HR 6.61, 95%CI:1.56-27.96, p=0.002)
  • RTXによる維持療法の効果はNNT 4
  • この優位性は60ヶ月後のフォローアップでも持続した

2020年3月28日土曜日

SScに対するACE阻害薬の投与はSRC発症リスクである

個人的にACEiの使用頻度が低いとはいえ、相当驚きの論文です。
RASが著増するいわゆる狭義のSRCだけが含まれているわけではないでしょうし、薬剤そのもの作用とも思えず、因果関係があるようには思えません。恐らく何か交絡因子が複数関与していると思うのですが、よくわかりませんでした。
とはいえ大変重要な知見と思いますので、結果をまとめました。


Arthritis Res Ther. 2020 Mar 24;22(1):59.
ACE inhibitors in SSc patients display a risk factor for scleroderma renal crisis—a EUSTAR analysis

  • Design: EUSTARの前向きコホート
  • Patient: 最低1回の受診歴があり、SRCの既往がないSSc
  • Method: SRC、(動脈性)高血圧、降圧薬、糖質コルチコイド(GC)に関して分析


結果


  • 14524名のSScのうち7648人の患者を解析した
  • 27450人年で102人の患者がSRCを発症し、発症率は3.72/1000人年(95%CI 3.06-4.51)だった
  • SRC初発までの期間の中央値は1.7年(IQR 0.5-4.2)
  • 単変量で有意なSRCリスクは男性(24 vs 14%, p<0.001)、発症初期(3.1 vs 5.2y, p<0.001)、Scl70抗体陽性(46 vs 33%, p=0.001)、びまん型皮膚病変(49 vs 29%, p<0.001)、高血圧(38 vs 20%, p<0.001)、腱摩擦音(17 vs 8%, p<0.001)
  • SRC患者の5年死亡率は18.6%(95%CI: 13.0-26.3%)、non-SRC-SScの5年死亡率は9.5%(95%CI: 8.8-10.3%)
  • ACEiはSRC発症者で有意に多く投与されており(35 vs 18%, p<0.001)、ステロイド、CCB、ARBで有意差は見られなかった
  • このACEiの効果は、Propensity score matching及び確率重み付けを使用して調整したモデルでも同様だった
  • 多変量COX回帰分析で6083人、78人のSRCを解析したところ、有意なリスク因子はびまん性皮膚病変(HR 1.79, 95%CI 1.06-3.02)、高血圧(HR 2.22, 95%CI 1.34-3.66)、ACEi(HR 2.07, 95%CI 1.28-3.36)であった
  •  このACEiのリスクはPropensity score matchingやInverse probability weightingによる調整後も同様だった
  • 2つの最重要リスク要因である高血圧とACEiに相互作用は認められなかった(HR of interaction term 0.83, 95%CI 0.32–2.13, p = 0.69)


結論


  • ACEiはSRC治療の中心的存在だが、発症前の投与は SRC発症の独立した危険因子である
  • ARBはSRC発症リスクの点で、SSc患者の高血圧治療における安全な選択肢かもしれない

2020年3月25日水曜日

COVID-19における嗅覚障害

無臭症を呈したCOVID-19の症例を経験しました。
全くこれまで気にしていませんでしたが、嗅覚障害や味覚障害などの神経症状は5~7%程度に見られる比較的common presentationのようです。
嗅神経に発現したACE2受容体を介したCNSへの侵入が示唆されており、これにより呼吸停止などの延髄障害が起きるのではないかとの意見もあるようで大変興味深いです。
せっかくなので関連論文をまとめてみました。


medRxiv. Posted February 25, 2020.
Neurological Manifestations of Hospitalized Patients with COVID-19 in Wuhan, China: a retrospective case series study.
  • PCRで診断したCOVID-19患者214名(うち重症88名)を解析
  • 神経筋症状が78名(36.4%)に認められた
  • 内訳は、めまい16.8%、頭痛13.1%、筋障害10.7%、意識障害7.5%、味覚障害5.6%、嗅覚障害5.1%
  • 重症例で神経筋症状の合併が多く (45.5% vs 30.2%, p<0.05)、特に筋障害(19.3% vs 4.8%)、意識障害(14.8% vs 2.4%)、脳卒中(5.7% vs 0.8%)が多かった



J Virol. 2008 Aug; 82(15): 7264–7275.
Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus Infection Causes Neuronal Death in the Absence of Encephalitis in Mice Transgenic for Human ACE2
※「SARS-CoV2」ではなく「SARS-CoV」の in vivo データです
  • SARS-CoVを鼻腔内感染させたマウスで、ウイルス抗原は60〜66時間まで検出されないが、この時点で嗅球および嗅球に接続した脳領域にウィルスが検出された
  • さらに6〜12時間後、ウイルス抗原が脳全体に検出された
  • 主に嗅覚神経を介して脳にウィルスが入ったことが示唆された
  • 鼻腔内感染させたマウスでは4日目までに瀕死となり、組織学的に誤嚥性肺炎が観察された
  • 4日目を超えて生存したマウスでは、ウイルスが除去された領域にニューロンの喪失が伴っていた



ACS Chem Neurosci. 2020 Mar 13. [Epub ahead of print]
Evidence of the COVID-19 Virus Targeting the CNS: Tissue Distribution, Host-Virus Interaction, and Proposed Neurotropic Mechanisms.
  • SARS-CoV2ウィルスはACE2受容体を介して体内へ侵入する
  • ヒトのグリア細胞とニューロンにはACE2受容体が発現している
  • 急性期COVID-19患者の脳脊髄液中にウィルスが存在することが示されている
  • COVID-19における神経症状が、嗅球を介したウィルスのCNS侵入による可能性を示唆している



J Med Virol. 2020 Feb 27.
The neuroinvasive potential of SARS-CoV2 may play a role in the respiratory failure of COVID-19 patients.
  • 感染の初期段階で感染した脳領域の非神経細胞でウイルスがほとんど検出されないため、血行性やリンパ行性の侵入は否定的と考えられている
  • SARS-CoV2が最初に末梢神経終末に侵入し、次にシナプス接続ルートを介してCNSにアクセスする可能性を示す証拠が増えている
  • ウイルス抗原は疑核・孤束核を含む脳幹で検出される
  • 孤束核は肺・気道の感覚性求心線維の入力、疑核・孤束核からの遠心性線維は気道平滑筋、腺、血管の神経支配に関与していることから、死因の一つに脳幹の心肺機能不全が考えられている(文献は見つけられませんでしたが、突然の呼吸停止などが見られることがあるようです)

2020年3月23日月曜日

COVID-19に対するファビピラビルの有効性

Retrospectiveではありますが、ついにアビガン(R)のまとまったデータが中国から報告されました。
ただし相当に濃厚なSelection biasが入っていると考えます。解釈は慎重になる必要がありそうですが、有効手がない現状で最も期待が持てる薬剤の一つであるとは言えそうです。


Engineering. 2020 March 18
Experimental Treatment with Favipiravir for COVID-19: An Open-Label Control Study.


  • Design: Open-label, One arm の症例対照研究
  • P: 16-75歳の発症7日以内のCOVID-19(除外基準:RR>30/min、SpO2<93%、P/F<300、ICU入室等の重症例)
  • I: ファビピラビル(初日1600mg 2回、600mg 2回 14日間)
  • C: ロピナビル/リトナビル(400mg/100mg、1日2回 14日間) Historicalに登録
  • O: 胸部CT所見の変化、ウィルス除去までの期間、安全性
  • ※ 両群ともインターフェロンα吸入(500万単位1日2回)が併用された


結果


  • 56症例からファビピラビル群に35例、 91症例からロピナビル/リトナビル群に45例が登録された
  • ファビピラビル群のウイルス排泄期間は、対照群と比較して有意に短かった (中央値4日 IQR 2.5–9 v.s. 11日 IQR 8–13, p<0.001)
  • ファビピラビル群のCT所見は、day4, 8では有意差無し、day14では有意に改善した(改善率91.43% vs 62.22%, p=0.004)
  • 多変量ロジスティック回帰分析で胸部CTの改善と関連する因子は、ファビピラビル投与 (OR 3.190, 95%CI: 1.041–9.78)、発熱 (OR 3.622, 95%CI: 1.054–12.442)だった
  • 多変量COX比例ハザードモデルでviral clearanceと関連する因子は、T細胞数 (HR 1.002, 95%CI: 1.000–1.005)、ファビピラビル投与 (HR 3.434, 95%CI: 1.162–10.148)だった
  • 有害事象はファビピラビル群で有意に少なかった (11.43% vs 55.56%, p<0.001)

2020年3月22日日曜日

COVID-19に対するロピナビル/リトナビルの有効性

COVID-19に対するカレトラ(R)のRCT結果がPublishされました。
ネガティブデータですが重要な示唆であり、しっかりとした試験デザインで有効性がほぼ否定的になったと考えてよいと思われます。現時点では治療選択肢からは外れるか、もしくはかなり順位が下がったと考えるのが妥当でしょう。


N Engl J Med. 2020 March 18
A Trial of Lopinavir–Ritonavir in Adults Hospitalized with Severe Covid-19.


  • Design: Open-label RCT
  • P: SaO2≤94% or P/F<300を満たすCOVID-19
  • I:  標準治療+ロピナビル/リトナビル(1~14日目:400mg/100mg1日2回)
  • C: 標準治療のみ 1:1割付
  • O: 0-7点尺度で2ポイントの改善または退院(いずれか早い方)


結果


  • 199名がエントリーし、99名がロピナビル/リトナビル群、100名が対照群に割り付けられた
  • 臨床的改善率は、ロピナビル/リトナビル群と対照群で明確な差はなかった (HR 1.24、95%CI: 0.90-1.72)
  • 28日死亡率は両群同等だった(19.2% vs 25.0%; 差−5.8% 95%CI: -17.3~+5.7)
  • ICU入室期間中央値はロピナビル/リトナビル群で短かった (6日 vs 11日、差5日、95%CI: -9~0日)  
  • 投薬から退院まではロピナビル/リトナビル群で短かった (12日 vs 14日、差1日、95%CI: 0~3日)
  • day14における臨床的改善率はロピナビル/リトナビル群で高かった (45.5% vs 30.0%; 差15.5% 95%CI: 2.2-28.8)
  • 両群の咽頭スワブのviral loadは経過中に一貫して差がなかった
  • 有害事象は、ロピナビル/リトナビル群で消化器症状が多く、標準治療群ではARDS、AKI、二次感染などのSAEが多かった

2020年3月18日水曜日

SARS-CoV2のエアロゾル・環境表面における安定性

結構環境で安定しているようですので、やはりエアロゾル対策、接触感染対策が重要です。
Figureがキレイでわかりやすいので、ぜひ御覧ください。


N Engl J Med. 2020 March 17
Aerosol and Surface Stability of SARS-CoV-2 as Compared with SARS-CoV-1
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2004973

  • エアロゾル中や環境表面上のSARS-CoV-2の安定性を評価し、ベイジアン回帰モデルでその減衰率を推定した
  • エアロゾル中のSARS-CoV-2は、実験中の3時間を通じてviableな状態が保たれ、感染力価も保持した
  • SARS-CoV-2は銅や段ボールより、プラスチックやステンレス鋼でより安定していた
  • viableなウィルスが検出されなくなるのは、銅では4時間後、ダンボールでは24時間後、ステンレス・プラスチックでは72時間後だった
  • SARS-CoV-2のエアロゾル中の半減期は中央値で1.1〜1.2時間(95%CI 0.64〜2.64)
  • これらの結果はSARS-CoV-2が、エアロゾル感染及び接触感染することが十分ありえることを示す

2020年3月15日日曜日

ANCA関連血管炎に対するC5a受容体阻害薬アバコパンの効果

アバコパンのPSL freeを検討したPilot studyを今更ながら読んでみたので、ご存じの方が多いかもしれませんが備忘録的に共有します。
この結果を受けてPhase3 (N=300)が始まったようで、Study自体は2018年に既に終了しており、まもなく結果も発表されるようです(JMIR Res Protoc. 2020 Feb 3. doi: 10.2196/16664. [Epub ahead of print] )。
2020年第1四半期までに結果がリリースされるのではないか、と書いてあります。


J Am Soc Nephrol. 2017 Sep;28(9):2756-2767.
Randomized Trial of C5a Receptor Inhibitor Avacopan in ANCA-Associated Vasculitis.


  • Design: Double blind RCT
  • P: ANCA陽性MPA/GPA(RPGN、低酸素のある肺胞出血、急性多発単神経炎、CNS病変は除外)
  • I: アバコパン(30mg 1日2回)+PSL20mg/day、またはアバコパン(30mg 1日2回) 単独
  • C: プラセボ+PSL60mg/day(1:1:1の3群比較)
  • O: 12週時のBVAS 50%減少かつ新規病変なしの達成率
  • 補足:すべての患者にCYまたはRTXが併用された


結果


  • 67名が登録され、高用量群23名、減量群22名、PSL free群22名に割り付けられた
  • 主要エンドポイントは、高用量群14/20 (70.0%)で達成された
  • 減量群では19/22 (86.4%)で達成され、対照との差は16.4%だった(90%CI −4.3% - +37.1%; 非劣性の場合P=0.002)
  • PSL free群では17/21 (81.0%)で達成され、対照との差は11.0%だった(90%CI -11.0% - +32.9%; 非劣性の場合P=0.01)
  • 有害事象の発生率は、 高用量群21/23 (91%)、減量群19/22人 (86%)、 PSL free群21/22 (96%)


補足


  • 重症例が除外されており、腎炎の患者がほとんどです
  • Table3がAEですが、アバコパン投与群には血管炎(元病増悪?)、白血球減少、高血圧が多く見えます

2020年3月14日土曜日

重症ANCA関連血管炎に対する血漿交換の意義(PEXIVAS trial)

全身性血管炎の寛解導入戦略における極めて重要なRCTの結果が論文化されました。
金字塔的studyになると思われますので、真面目に隅々まで読んでみました。


N Engl J Med. 2020 Feb 13;382(7):622-631.
Plasma Exchange and Glucocorticoids in Severe ANCA-Associated Vasculitis.


  • デザイン:Open-label RCT
  • 対象:ANCA陽性のGPA/MPAで、肺胞出血またはeGFR<50の腎病変を伴う患者
  • 介入:血漿交換あり・なし、ステロイド標準用量群・低用量群、2x2の4群を比較
  • 主要エンドポイント:1年時点の全死亡及び腎死
  • 二次エンドポイント:全死亡、腎死、持続的寛解、SAE、重篤な感染


統計解析


  • 164イベントにおける血漿交換のHR 0.64を想定し、両側α=0.05、検出力80%を設定
  • ステロイド用量による解析は、非劣性マージン11%、片側α=0.05、検出力80%を設定
  • 血漿交換はITT解析、ステロイド用量はPer-protocol解析された


治療プロトコル


  • ランダム化の前にIVCY、POCY、RTXの選択を主治医の裁量で行った
  • 全例mPSL pulse 1g 1~3日で治療開始
  • ステロイド標準容量群は、いわゆるBSRの減量プロトコルやRAVE試験と同じ
  • 減量群は2週目以降の投与量が標準用量群の半分(15週で5mgまで減量される)
  • 血漿交換は60ml/kg(実体重)のアルブミン置換で、隔日にて14日間施行
  • 出血リスクが高い場合は血漿交換終了後にFFP投与を行った


結果


  • 16か国、95センターで704人を登録、フォローアップ期間中央値は2.9年
  • 血漿交換352人、血漿交換なし352人、ステロイド減量群353人、標準用量群351人に割り付けられた
  • 死亡または腎死は、血漿交換群100/352 (28.4%)、対照群109/352 (31.0%)で有意差なし(HR 0.86; 95%CI 0.65-1.13, P=0.27)
  • 死亡または腎死は、減量群92/330 (27.9%)、標準用量群83/325 (25.5%)で非劣性を証明(絶対リスク差 -2.3%; 95%CI -4.5〜9.1)
  • 重篤な感染は1年間で、減量群96人(27.2%)142回、標準用量群116人(33.0%)180回と、減量群に有意に少なかった(IRR 0.69; 95%CI 0.52-0.93)

感想

残念な結果ですが、血漿交換のKaplan-Meier曲線を見ると少し差があるようにも見えます。

アルブミン置換なので肺胞出血の出血傾向に悪影響を与えたかもしれないことや、ただでさえ厳しいエンドポイント設定の中で、血漿交換のHRを0.64とかなり厳しめ目標を想定したデザインにより十分な検出力を担保できず、有意差が出なかったのではという懸念が残るように思います。

また二次エンドポイントも含めて寛解導入のスピードは検討されていません。もし早く寛解導入する効果があればCr doubling timeが延長することも期待できるので、Cr 2倍などを加えたソフトエンドポイントを検証しても良かったのでは、と思いました。

そもそも血漿交換に腎死・全死亡を4割も改善する効果があるとは思えないので、もう少し現実的な研究デザインでも良かったような印象を受けます。血漿交換は費用対効果や人的コストがイマイチなので、できれば省略したいという意図なのかもしれませんが。

個人的には「血漿交換は重症例全てに使用する断定的な根拠はなくなったが、少しでもadditive effectが欲しい勝負どころの症例では引き続き使用を検討してもよいのではないか」と解釈しました。

ステロイドはこれまで減量群と標準群の中間くらいのスピードで減量していたのですが、もっと早く減らすこともできるのでしょうね。

2020年3月8日日曜日

レテルモビルの薬理作用と臨床効果

先日、レテルモビルを飲んでいる患者にアシクロビルでヘルペス予防する必要があるのか議論になり、せっかくなので根拠についても色々調べてみました。
結論を先に書くと「レテルモビルはHSV、VZVに効果がない」ということになります。


PMDAに提出されたMSD株式会社のレテルモビル基礎検討資料より
https://www.pmda.go.jp/drugs/2018/P20180402006/170050000_23000AMX00455_H100_1.pdf

概要


  • 既存の抗CMV薬(ガンシクロビル、バラガンシクロビル、ホスカルネット)はDNAポリメラーゼの阻害を介して作用するが、レテルモビルはウイルスのターミナーゼ複合体を阻害することで抗ウィルス作用を発揮する。
  • ターミナーゼ複合体は哺乳類には存在しないため、理論上は副作用が少ないと考えられる。
  • レテルモビルはCMV-DNAの複製を抑制できないが、感染性粒子の産生を抑制することで抗ウィルス作用を発揮する。


レテルモビルの抗ウィルス作用はCMV選択的である

各種ウィルスに感染した培養細胞を用いたin vitro実験で、VZV、HSV-1、HSV-2、マウスCMV、ラットCMV、HHV-6、EBV、ヒトアデノウィルス、HBV、HIV、HCV、インフルエンザA、いずれのウィルスにも抗ウィルス活性を持たず、ヒトCMVに選択的な抗ウィルス薬であることが示された。


レテルモビルと抗HIV薬はお互いの抗ウィルス効果に影響を与えない

HIV及びCMVに感染した培養細胞を用いたin vitro実験で、 レテルモビルと抗HIV薬を加えて培養すると、いずれもEC50の2.5倍を超える変動はなく、同時に使用した場合の相互の抗ウィルス作用には影響しないと考えられた。
(抗HIV薬は、FTC, TDF, EFV, ETR, NPV, RPV, ATV, DRV, LPV, RTV, RAL, ELVを使用)


レテルモビルの第3相試験

ついでなのでこれも読みました。

N Engl J Med. 2017 Dec 21;377(25):2433-2444
Letermovir Prophylaxis for Cytomegalovirus in Hematopoietic-Cell Transplantation


  • Design: double-blind RCT
  • P: 18才以上のAllo-HSCT予定でCMV-seropositiveの患者
  • I: レテルモビル 480mg/day (シクロスポリン投与中は240mgに減量) 移植後14週間投与
  • C: プラセボ (実薬:プラセボ=2:1)
  • O: 主要エンドポイントはCMV disease、またはpre-emptive治療が必要なCMV抗原血症

結果

  • 738名の組入患者のうち、495名がランダム化され解析対象となった。
  • 移植後24週までの主要エンドポイントは レテルモビル群122/325 (37.5%)、プラセボ群103/170 (60.6%)で、 レテルモビル群に有意に少なかった (P<0.001)
  • CMV diseaseはレテルモビル群の1.5%、プラセボ群の1.8%であり、主要エンドポイントは主にCMV抗原血症によって規定されていた
  • 有害事象の頻度と重症度は、両群でほぼ同じだった
  • 24週の全死亡率はレテルモビル群で有意に低かった (10.2% vs 15.9%, p=0.03) が、48週の全死亡率はレテルモビル群で低いものの有意ではなかった (20.9% vs 25.5%, p=0.12)
  • 移植高リスク群と低リスク群におけるpost-hoc解析では、レテルモビルによるCMV予防効果が同等にも関わらず、高リスク群のレテルモビル投与の死亡率減少効果が顕著であること、死亡率の上昇が臨床的に重度のCMV感染の存在と関連していることより、他のCMV治療薬(ガンシクロビル等)を回避することによるメリットが推定された。

2020年3月7日土曜日

COVID-19患者の病室内環境汚染

シンガポールからの短報です。Primitiveなデータであり、Table2だけ見ればOKかと思います。
これまで散々推測されている通り、COVID-19は接触感染がかなり重要な感染経路と考えられ、インフルエンザ以上に接触感染対策、環境清掃、手指衛生が重要になりますね。


JAMA. 2020 Mar 4.
Air, Surface Environmental, and Personal Protective Equipment Contamination by Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 (SARS-CoV-2) From a Symptomatic Patient


方法


  • SARS-CoV-2アウトブレイクセンターで、控え室と浴室を備えた空中感染隔離室の3人の患者で26箇所の表面環境サンプルを採取し、SARS-CoV2のRT-PCRを行った


結果


  • ルーチン清掃後に採取された患者A,Bの環境サンプルは全て陰性だった
  • ルーチン清掃前に採取された患者Cのサンプルは、病室内の15箇所中13箇所、トイレの5箇所中3箇所(ドアノブ、便器を含む)でSARS-CoV2が検出された
  • 環境汚染の程度に関わらず、空気サンプルは陰性だったが、患者Cの排気口は陽性だった

Limitation

  • ウィルス培養を施行しておらずViabilityは不明
  • 採取プロトコルが一定でなく、サンプルサイズも小さかった(特に空気は希釈されている可能性が高い)

2020年3月6日金曜日

性と生殖に関するACRガイドライン2020

リウマチ性疾患(RMD: Rheumatic and Musculoskeletal Diseases)における、性と生殖に関するACRガイドライン2020が出ました。

MMFはホルモン避妊薬の有効性を低下させる、体外受精は卵巣刺激中のエストロゲン濃度上昇により血栓リスクが高度に懸念される、など、知らないことが多かったので、とても勉強になりました。
例によって時間のない方はFigure1,2だけ見れば良いかもしれません。


Arthritis Rheumatol. 2020 Feb 23.
2020 American College of Rheumatology Guideline for the Management of Reproductive Health in Rheumatic and Musculoskeletal Diseases
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/art.41191

避妊法

  • Non-SLEのRMDでは、効果の低い避妊薬や避妊なしより、ホルモン避妊薬やIUDの使用を推奨する
  • aPL(-)の低活動性SLEでは、避妊なしよりも効果的な避妊薬(ホルモン避妊薬やIUD)の使用を強く推奨する
  • SLEでは経皮エストロゲン-プロゲスチンパッチを使用しないことを推奨する
  • 腎炎を含む中~重度活動性のSLEでは、エストロゲン含有避妊薬の臨床データが乏しいため、プロゲステロン避妊薬かIUDの使用を強く推奨する
  • aPL陽性者は合併症の有無に関わらず、エストロゲンを含む避妊薬は血栓リスク増大のため禁忌
  • aPL陽性者ではDMPAを除くプロゲステロン避妊薬は使用できるが、避妊効果は劣る
  • ステロイドや基礎疾患に伴う骨粗鬆症リスクが高い場合、DMPAを避けることを検討する
  • MMFは血清エストロゲン及びプロゲステロンレベルを下げる可能性があるため、ホルモン避妊薬の有効性が妨げられる懸念がある
  • MMF服用者は、IUD単独または他の2つの避妊方法の併用を検討する

生殖補助療法(ART)  

  • 妊娠適応薬を服用下に疾患活動性が安定した、aPL(-)で合併症のないRMDでは、必要に応じてARTを行って良い
  • 中~重度活動性のSLEでは、妊娠リスクが高い懸念からARTを延期することを推奨する
  • ART処置中のSLEでは、経験的なステロイド増量を検討しても良い
  • ART処置中の無症候性aPL陽性者では、ヘパリンまたは低分子量ヘパリンによる予防的抗凝固療法を検討する
  • 状態が安定しているRMDで卵母細胞または胚の凍結保存の際、免疫抑制剤・生物学的製剤の継続を強く推奨する(シクロフォスファミドは除く。MTXは継続して良い)

妊孕性

  • IVCYを行う閉経前RMDの卵巣機能不全予防のため、毎月のGnRHアゴニスト療法を検討してよい
  • 男性の健児を妊娠する生殖能力保全のため、CY治療前の凍結精子保存を希望する場合は行うことを強く推奨する

閉経後ホルモン療法(HRT)

  • aPL(-)のSLE患者では、重度の血管運動症状に対するHRTの希望がある場合、考慮しても良い(ループスフレアのリスクがわずかに増加するため条件付き推奨となっている)
  • 無症候性aPL陽性者では、HRTを行わないほうが良い
  • obstetric and/or thrombotic APSでは、HRTを行わないことを強く推奨する
  • 抗凝固療法中のAPSやaPLが陰性化しているAPSも、HRTを行わないほうが良い
  • aPL陽性の既往がある、現在は陰性化している無症候性陽性者は、HRTの希望がある場合、検討しても良い

2020年3月4日水曜日

免疫チェックポイント阻害剤による炎症性関節炎

免疫チェックポイント阻害剤(ICI)による炎症性関節炎の前向き観察研究です。
腫瘍内科医、リウマチ医、いずれにとっても好ましい結果が得られていると思われ(それがバイアスの可能性がありますが)、とりあえず治療のプラクティスは変える必要がなさそうですね。


Immune checkpoint inhibitor-induced inflammatory arthritis persists after immunotherapy cessation.
Ann Rheum Dis. 2020 Mar;79(3):332-338.

デザイン


  • 前向き観察研究


方法


  • 対象はICI関連炎症性関節炎で、元々リウマチ性自己免疫疾患がある患者は除外
  • 関節炎持続に関する因子をCOX比例ハザードモデルを用いて解析
  • 関節炎治療の腫瘍反応性に対する影響をロジスティック回帰分析で解析


結果


  • 60人の患者を登録し、ICI中止後の追跡期間中央値は9ヶ月だった
  • 血清反応陰性関節炎が大半だった(RF 1.8%, CCP 5.5%, ANA 14.3%)
  • 最終観察時点において53.3%の患者で活動性関節炎が持続していた
  • 関節炎の持続は、複数のICIで治療していること、他のirAEの存在、腫瘍反応性が良好であることと関連していた
  • 関節炎治療薬の選択(ステロイド、csDMARD、Biologics、NSAIDs)による腫瘍反応性の低下との関連は見いだせなかった

2020年3月1日日曜日

COVID-19の死亡予測スコアリング

Preprintながら興味深い論文です。
多変量解析から作成した死亡予測スコアリングです。


ACP risk grade: a simple mortality index for patients with confirmed or suspected severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 disease (COVID-19) during the early stage of outbreak in Wuhan, China
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.02.20.20025510v1

方法

  • 2020年1月21日~2月5日まで、COVID-19が疑われた武漢市漢口医院の入院患者を後ろ向きに解析(N=577)
  • 多変量解析を用いて死亡予測インデックスを作成

結果

  • 60歳以上、CRP ≥ 3.4mg/dL 33.2%(95%CI: 19.8-44.3)
  • 60歳以上、CRP < 3.4mg/dL 5.6%(95%CI: 0-11.3)
  • 60歳未満、CRP < 3.4mg/dL 0%

感想

単変量で有意だった基礎疾患やリンパ球減少などが軒並み多変量で消えてしまい、残念ながら疾患非特異的パラメータだけになってしまっていますが、CRPが上がらない人は安心ということは言えそうです。