2020年3月14日土曜日

重症ANCA関連血管炎に対する血漿交換の意義(PEXIVAS trial)

全身性血管炎の寛解導入戦略における極めて重要なRCTの結果が論文化されました。
金字塔的studyになると思われますので、真面目に隅々まで読んでみました。


N Engl J Med. 2020 Feb 13;382(7):622-631.
Plasma Exchange and Glucocorticoids in Severe ANCA-Associated Vasculitis.


  • デザイン:Open-label RCT
  • 対象:ANCA陽性のGPA/MPAで、肺胞出血またはeGFR<50の腎病変を伴う患者
  • 介入:血漿交換あり・なし、ステロイド標準用量群・低用量群、2x2の4群を比較
  • 主要エンドポイント:1年時点の全死亡及び腎死
  • 二次エンドポイント:全死亡、腎死、持続的寛解、SAE、重篤な感染


統計解析


  • 164イベントにおける血漿交換のHR 0.64を想定し、両側α=0.05、検出力80%を設定
  • ステロイド用量による解析は、非劣性マージン11%、片側α=0.05、検出力80%を設定
  • 血漿交換はITT解析、ステロイド用量はPer-protocol解析された


治療プロトコル


  • ランダム化の前にIVCY、POCY、RTXの選択を主治医の裁量で行った
  • 全例mPSL pulse 1g 1~3日で治療開始
  • ステロイド標準容量群は、いわゆるBSRの減量プロトコルやRAVE試験と同じ
  • 減量群は2週目以降の投与量が標準用量群の半分(15週で5mgまで減量される)
  • 血漿交換は60ml/kg(実体重)のアルブミン置換で、隔日にて14日間施行
  • 出血リスクが高い場合は血漿交換終了後にFFP投与を行った


結果


  • 16か国、95センターで704人を登録、フォローアップ期間中央値は2.9年
  • 血漿交換352人、血漿交換なし352人、ステロイド減量群353人、標準用量群351人に割り付けられた
  • 死亡または腎死は、血漿交換群100/352 (28.4%)、対照群109/352 (31.0%)で有意差なし(HR 0.86; 95%CI 0.65-1.13, P=0.27)
  • 死亡または腎死は、減量群92/330 (27.9%)、標準用量群83/325 (25.5%)で非劣性を証明(絶対リスク差 -2.3%; 95%CI -4.5〜9.1)
  • 重篤な感染は1年間で、減量群96人(27.2%)142回、標準用量群116人(33.0%)180回と、減量群に有意に少なかった(IRR 0.69; 95%CI 0.52-0.93)

感想

残念な結果ですが、血漿交換のKaplan-Meier曲線を見ると少し差があるようにも見えます。

アルブミン置換なので肺胞出血の出血傾向に悪影響を与えたかもしれないことや、ただでさえ厳しいエンドポイント設定の中で、血漿交換のHRを0.64とかなり厳しめ目標を想定したデザインにより十分な検出力を担保できず、有意差が出なかったのではという懸念が残るように思います。

また二次エンドポイントも含めて寛解導入のスピードは検討されていません。もし早く寛解導入する効果があればCr doubling timeが延長することも期待できるので、Cr 2倍などを加えたソフトエンドポイントを検証しても良かったのでは、と思いました。

そもそも血漿交換に腎死・全死亡を4割も改善する効果があるとは思えないので、もう少し現実的な研究デザインでも良かったような印象を受けます。血漿交換は費用対効果や人的コストがイマイチなので、できれば省略したいという意図なのかもしれませんが。

個人的には「血漿交換は重症例全てに使用する断定的な根拠はなくなったが、少しでもadditive effectが欲しい勝負どころの症例では引き続き使用を検討してもよいのではないか」と解釈しました。

ステロイドはこれまで減量群と標準群の中間くらいのスピードで減量していたのですが、もっと早く減らすこともできるのでしょうね。

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