2020年3月8日日曜日

レテルモビルの薬理作用と臨床効果

先日、レテルモビルを飲んでいる患者にアシクロビルでヘルペス予防する必要があるのか議論になり、せっかくなので根拠についても色々調べてみました。
結論を先に書くと「レテルモビルはHSV、VZVに効果がない」ということになります。


PMDAに提出されたMSD株式会社のレテルモビル基礎検討資料より
https://www.pmda.go.jp/drugs/2018/P20180402006/170050000_23000AMX00455_H100_1.pdf

概要


  • 既存の抗CMV薬(ガンシクロビル、バラガンシクロビル、ホスカルネット)はDNAポリメラーゼの阻害を介して作用するが、レテルモビルはウイルスのターミナーゼ複合体を阻害することで抗ウィルス作用を発揮する。
  • ターミナーゼ複合体は哺乳類には存在しないため、理論上は副作用が少ないと考えられる。
  • レテルモビルはCMV-DNAの複製を抑制できないが、感染性粒子の産生を抑制することで抗ウィルス作用を発揮する。


レテルモビルの抗ウィルス作用はCMV選択的である

各種ウィルスに感染した培養細胞を用いたin vitro実験で、VZV、HSV-1、HSV-2、マウスCMV、ラットCMV、HHV-6、EBV、ヒトアデノウィルス、HBV、HIV、HCV、インフルエンザA、いずれのウィルスにも抗ウィルス活性を持たず、ヒトCMVに選択的な抗ウィルス薬であることが示された。


レテルモビルと抗HIV薬はお互いの抗ウィルス効果に影響を与えない

HIV及びCMVに感染した培養細胞を用いたin vitro実験で、 レテルモビルと抗HIV薬を加えて培養すると、いずれもEC50の2.5倍を超える変動はなく、同時に使用した場合の相互の抗ウィルス作用には影響しないと考えられた。
(抗HIV薬は、FTC, TDF, EFV, ETR, NPV, RPV, ATV, DRV, LPV, RTV, RAL, ELVを使用)


レテルモビルの第3相試験

ついでなのでこれも読みました。

N Engl J Med. 2017 Dec 21;377(25):2433-2444
Letermovir Prophylaxis for Cytomegalovirus in Hematopoietic-Cell Transplantation


  • Design: double-blind RCT
  • P: 18才以上のAllo-HSCT予定でCMV-seropositiveの患者
  • I: レテルモビル 480mg/day (シクロスポリン投与中は240mgに減量) 移植後14週間投与
  • C: プラセボ (実薬:プラセボ=2:1)
  • O: 主要エンドポイントはCMV disease、またはpre-emptive治療が必要なCMV抗原血症

結果

  • 738名の組入患者のうち、495名がランダム化され解析対象となった。
  • 移植後24週までの主要エンドポイントは レテルモビル群122/325 (37.5%)、プラセボ群103/170 (60.6%)で、 レテルモビル群に有意に少なかった (P<0.001)
  • CMV diseaseはレテルモビル群の1.5%、プラセボ群の1.8%であり、主要エンドポイントは主にCMV抗原血症によって規定されていた
  • 有害事象の頻度と重症度は、両群でほぼ同じだった
  • 24週の全死亡率はレテルモビル群で有意に低かった (10.2% vs 15.9%, p=0.03) が、48週の全死亡率はレテルモビル群で低いものの有意ではなかった (20.9% vs 25.5%, p=0.12)
  • 移植高リスク群と低リスク群におけるpost-hoc解析では、レテルモビルによるCMV予防効果が同等にも関わらず、高リスク群のレテルモビル投与の死亡率減少効果が顕著であること、死亡率の上昇が臨床的に重度のCMV感染の存在と関連していることより、他のCMV治療薬(ガンシクロビル等)を回避することによるメリットが推定された。

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