2020年12月13日日曜日

COVID-19に対するバリシチニブのRCT

待ちに待ったバリシチニブのRCT結果がNEJMに掲載されました。

RECOVERY試験ほどのインパクトはありませんが、酸素が始まったタイミング、あるいは5L以上になるような場合に良い適応なのではないかと思われます。選択肢が増えるのは良いことですが、デカドロンとの使い分けや併用すべきなのかなど、実際に使う場合には色々と課題が残ります。


Baricitinib plus Remdesivir for Hospitalized Adults with Covid-19

N Engl J Med. Dec 11, 2020. 

DOI: 10.1056/NEJMoa2031994


  • Design: 国際共同多施設 double-blind RCT
  • P: 入院が必要な成人COVID-19
  • I: バリシチニブ(4mg/day, 14日間, eGFR<60は2mg/day)+レムデシビル(10日間or退院まで)
  • C: プラセボ+レムデシビル 1:1割付
    • 両群ともステロイドの併用はしていない
  • O: 主要エンドポイントは回復(カテゴリー3以下)までの日数(層別Log-rank test)

※ 重症度カテゴリーはACTT-1と同じ(下記参考)

 1=活動制限なし

 2=活動制限があるが入院不要

 3=酸素や医療ケアは不要だが入院が必要(感染管理のための入院)

 4=酸素は不要だがCOVID-19に関連した活動制限による医療ケアが必要

 5=酸素が必要

 6=NIPPVや高流量の酸素が必要

 7=機械的換気やECMOが必要

 8=死亡


結果

  • 1067人を登録、515人がバリシチニブ群、518人がプラセボ群に割り付けられた
  • 発症から登録までの日数の中央値は8日だった
  • バリシチニブ群、プラセボ群のベースライン重症度は、各々カテゴリ4が13.6%, 13.9%、カテゴリ5が55.9%, 53.3%、カテゴリ6が20.0%, 21.8%、カテゴリ7が10.5%, 11.0%
  • バリシチニブ群の回復までの日数は中央値7日で、プラセボ群の8日と比較して有意に短かった (RR 1.16, 95%CI: 1.01-1.32; P<0.03)
  • カテゴリ6 (N=216) における回復率比が1.51 (95%CI: 1.10-2.08) と最も大きく、改善までの日数を中央値で8日間短縮した
  • カテゴリ5 (N=564) における回復率比は1.17 (95%CI: 0.98-1.39) だった
  • カテゴリ7 (N=111) における回復率比は1.08 (95%CI: 0.59-1.97) だった
  • バリシチニブ群の28日死亡率はプラセボ群と比較して低い傾向だった(5.1% vs 7.8%, HR 0.65, 95%CI: 0.39-1.09)
  • 機械換気・ECMOへの移行はバリシチニブ群で有意に少なかった(10.0% vs 15.2%; リスク差 −5.2%; 95%CI: −9.5 ~ −0.9)
  • 重篤な有害事象はバリシチニブ群で40.7%、プラセボ群で46.8%、内訳は貧血、AKI、腎機能障害、高血糖などだが、両群における発生率に大きな差はない



感想

気になる点はEffect sizeが期待よりもかなり小さいことですが、比較的重症化したカテゴリ6(高流量酸素)の状態で最も効果が大きいにも関わらずACTT-1よりも軽症者が多く登録されてしまった影響が大きいように見えます。

軽症者が多いことや、ベースでレムデシビルが入っているせいなのか、死亡率も軒並み低いので、死亡率の評価も惜しい感じにとどまっているようです。死亡率や挿管率の低減効果も含めて、重症度を上げた適切な組入基準での追試が必要でしょうね。

サンプルサイズも、軽症者が多いため最重要であるカテゴリ6で100 vs 100であり、他の虹エンドポイントもUnder estimateされている可能性が十分残されています。挿管率では有意差が出ているので、死亡率もNを増やすことで有意差が出るかもしれないと期待させてくれるポテンシャルを感じます。

色々問題点を残しているとはいえ、臨床的有効性はあまり疑いようがなさそうに見えますので、今後レムデシビル+デカドロンで病勢が止まらなそうな症例には使っていきたいですね。


2020年10月29日木曜日

重症COVID-19におけるautoreactivity

medRxivのPre-printに驚くべき論文が掲載されています。目から鱗が落ちるような内容だったので、僕なりの考察と共に共有します。


Broadly-targeted autoreactivity is common in severe SARS-CoV-2 Infection

medRxiv. Preprint. 2020 Oct 23.

https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.10.21.20216192v1.full.pdf

  • 自己免疫の既往歴がない重症COVID-19の31人から後方視的に自己抗体を測定した
  • 44%がANA80倍以上で、陽性者の81%が160倍以上の力価を示した
  • 自己反応性の存在はCRP上昇と相関し、CRP高値群ではANA(35% vs. 56%)とRF(0% vs. 38%)、両方の産生が増加していた



考察

重症COVID-19の免疫学的環境が、様々な自己抗原に対するde novo autoreactivityをDriveする可能性が示唆されています。著者らはSARS-CoV2 ssRNAによるTLR7活性化を介したものではないかと考察しています。

  • TLR-7依存性の濾胞外(EF)B cellは、T-betとCD11cを高発現し、マウスモデルのウイルスクリアランスに重要な役割を果たす。この経路は高度炎症、自己免疫モデルマウスで病原性である (J Clin Invest. 2017 Apr 3;127(4):1392-1404.)
  • 同様の経路の、加齢性の自己反応性B cellの出現は、IRF5の調節不全を介している (Nat Immunol. 2018 Apr;19(4):407-419.)
  • CXCR5とCD21を欠くDouble negative B cell (DN2-B cell)は、活動性SLEで疾患活動性と相関して増加し、TLR7依存的にIFN-γ–IL-21を介して誘導される (Immunity. 2018 Oct 16;49(4):725-739.e6.)
  • 重症COVID-19ではSLEと同様のEF-B cell応答、すなわちDN2-B cellの増加を示し、これはクラススイッチ抗体産生細胞の増加、高力価SARS-CoV-2中和抗体、臨床転帰不良と強く相関した (Nat Immunol. 2020 Oct 7. doi: 10.1038/s41590-020-00814-z.)


胚中心を介さない抗体産生では免疫寛容が破綻し、高力価の抗体産生と同時に自己抗体の産生を許してしまうと理解できます。

この経路は通常TLR-7やIRF5によって制御されているはずですが、実際にTLR-7の機能喪失型変異はI型IFN反応の抑制を介してCOVID-19を重症化させるという報告があります(JAMA. 2020 Jul 24;324(7):1–11.)。COVID-19のGWASでリスクアリルとして抽出された3番染色体のCCR9もTLRを介した自己免疫反応に関連が深いようです(Nature. 2020 Sep 30. doi: 10.1038/s41586-020-2818-3.)


COVID-19の自己免疫反応の本態にかなり迫ってきた感がありますね。

そして何となくこれはSARS-CoV-2に特異的な現象ではなく、他のウィルス感染でも普遍的に起きていることなのだろうと感じています。自己免疫性疾患の季節性や、感染後の原因不明の間質性肺炎など、今になると思い当たることがたくさんあります。


2020年10月28日水曜日

COVID-19に対するトシリズマブのRCT

NEJMに載った話題のトシリズマブRCTの結果です。


Efficacy of Tocilizumab in Patients Hospitalized with Covid-19.

NEJM October 21, 2020

DOI: 10.1056/NEJMoa2028836


  • Design: double-blind RCT
  • P: 38度以上、肺浸潤影、酸素投与のうち2つ以上、かつCRP>5、Ferritin>500、D-dimer>1のうち1つ以上を満たすCOVID-19
  • I: トシリズマブ8mg/kg (Max 800mg) 単回投与+標準治療
  • C: プラセボ(2:1)+標準治療
  • O: 挿管もしくは死亡までの時間
  • ※標準治療はレムデシビルを一部含むが、デキサメサゾンを投与された患者はいなかった
  • ※標準治療によるイベント発生を30%と想定し、トシリズマブによるリスク軽減が15%の仮定で、検出力80%におけるサンプル数は243と試算された


結果

  • 243人の患者が登録され、161人がトシリズマブ群、81人がプラセボ群に割り付けられた
  • プラセボと比較したトシリズマブ群の挿管・死亡までのHRは0.83 (95%CI 0.38-1.81)で有意差なし


  • 年齢、性別、人種、糖尿病の状態、ベースラインIL-6で調整したHRは0.66 (95%CI 0.28-1.52)で有意差なし。調整前及び調整後HRの差異は、主に年齢の違いに起因していた
  • プラセボ群ではGrade3以上の感染症が有意に多く、トシリズマブ群ではGrade3以上の好中球減少が多かった


感想

かなり頑強なデザインのRCTでサンプル数が十分であったにも関わらず、主要エンドポイントだけでなく代替エンドポイントもことごとく有意差がなく、トシリズマブの有効性はかなり否定的になってしまったと考えざるを得ません。サンプル計算の想定よりもイベント数がかなり少ないので検出力不足の可能性は残るものの、あまりに厳しい差なのでNを増やしても結果が変わるとは思い難いです。

JAMA姉妹誌のEditorialにトシリズマブRCTの素晴らしい比較が出ていました。観察研究では高い有効性の報告が多いが、RCTでは結果が出せていないと考察されています。いずれのRCTもハードエンドポイントでの有効性が示せていないか、もしくはEffect sizeがかなり小さくなっており、なかなか厳しい展開に感じます。

JAMA Intern Med. October 20, 2020. doi:10.1001/jamainternmed.2020.6557


重症COVID-19の濾胞外B cellのprofileがSLEと類似しており、Long haul COVID-19における自己免疫現象と、SLEを関連付けている報告が話題になっているようです。  

Nat Immunol (2020). doi.org/10.1038/s41590-020-00814-z

なんとなくJAK阻害薬の方が効きそうな気がしてきます。ルキソリチニブのRCTが近いうちに結果が出ると思いますので楽しみですね。


2020年10月21日水曜日

ウパダシチニブvsアバタセプト(SELECT-CHOICE試験)

 RAに対するウパダシチニブとアバタセプトのHead to Head試験が、NEJMに掲載されました。色々問題を含みながらも価値のあるデータだと思います。



Trial of Upadacitinib or Abatacept in Rheumatoid Arthritis.

N Engl J Med 2020; 383:1511-1521

  • Design: Double blind RCT, global, 非劣性試験
  • P: TJC6以上、SJC6以上、CRP0.3以上のRAで、1つ以上のbDMARDが無効or忍容性がない
    • 除外基準:アバタセプトやJAK阻害薬の投与歴がある
  • I: ウパダシチニブ15mg 1日1回
  • C: アバタセプト静注(日本の添付文書と同じ用量)
  • O: 12週の⊿DAS28-CRP(非劣性マージンは+0.6、検出力90%)


結果

  • 613名がランダム化、303名がウパダシチニブ群、309名がアバタセプト群に割り付けられた
  • 両群およそ90%が24週までのプロトコルを完遂した
  • ⊿DAS28-CRPはウパダシチニブ群-2.52、アバタセプト群-2.00で、ウパダシチニブの優越性が証明された(差-0.52, 95%CI: -0.69~-0.35)
  • SJCの推移、CDAIについては両群で有意な差がなかった
  • ウパダシチニブ群は、全てのAE、SAE、AEによる治療中止が多い傾向で、肝障害は有意に多かった(ウパダシチニブ群7.6%, 95%CI 4.8-11.4、アバタセプト群1.6%, 95%CI 0.6-3.8)


感想

ADACTA試験から伝統の「CRPマジック」が活用された非常にコマーシャルなデザインで、正直見るに堪えないFigureも多いです。敢えてTNFを選ばず、最も立ち上がりが遅そうなアバタセプトを対照群にしているのも恣意的ですね。

ただ立ち上がりが早いことは真実のような気がするので、副作用に耐えられそうで、Rapid ragiological progressionが予想されるようなAgressiveなRAではJAKを選択するのが良いかもしれないと感じさせてくれるデータです。そういった意味では1年後、2年後の骨破壊を含めたデータに期待したいです。


あとTJCで差が出る理由は立ち上がりだけで説明できない気がするのですが、実臨床でも腫れが引かないのに痛みだけなぜか良くなって継続している人を経験しているので、なかなか面白い特徴だなと思いました。(もしCRPがブラインドされていなかったら、プラセボ効果かもしれないですが)



2020年10月3日土曜日

ループス腎炎に対するベリムマブの併用(BLISS-LN study)

ALMS study以来のループス腎炎のプラクティスが変わりえる論文がNEJMに掲載されました。


Two-Year, Randomized, Controlled Trial of Belimumab in Lupus Nephritis

N Engl J Med 2020; 383:1117-1128

DOI: 10.1056/NEJMoa2001180


  • Design:Double blind RCT
  • P: ANA80倍以上or抗ds-DNA抗体陽性のSLE (尿蛋白>1g/gCr、ISN/RPS III or IV or V)
    • 除外基準:1年以内の透析歴、eGFR<30、CY及びMMF両剤での寛解導入失敗歴、1年以内のB細胞標的治療
  • I: 標準治療+ベリムマブ(10mg/kg静注day1,15,29, 以後4w毎100週まで)
    • 標準治療:IVCY 500mg/body/2w 6回 or MMF3g/day+PSL0.5-1mg/kg/day(±パルス)+HCQ+ARB/ACE-I
    • CYではAZA2mg/kg/dayで維持、MMFでは1-3g/dayで維持
  • C: プラセボ(1:1)
  • O: 主要評価項目は104週の腎反応率(尿蛋白≦0.7g/gCr、かつeGFRがBaselineより20%以上悪化しない、かつ追加治療を要しない)
    • 副次評価項目は104週の完全腎反応率(尿蛋白≦0.5g/gCr、かつeGFRがBaselineより10%以上悪化しない、かつ追加治療を要しない)


結果

  • 104週の腎反応率はベリムマブ群43%、対照群32% (絶対差+11%, OR 1.6, 95%CI 1.0-2.3)
  • 104週の完全腎反応率はベリムマブ群30%、対照群20% (絶対差+10%, OR 1.7, 95%CI 1.1-2.7)
  • 両群の有害事象に大きな差はなかった
  • サブ解析で、ベリムマブの併用はMMF使用者でのみ有意に腎反応率を改善した。ベリムマブ群46.3%、対照群34.1% (絶対差+12.20%, OR 1.58(95%CI: 1.00-2.51)





感想

ベリムマブを併用することによる2年後の寛解導入・維持上乗せ効果のNNTは9と相当なインパクトがあり、MMFでの寛解導入、維持療法にベリムマブを足したほうが良さそうなのは間違いないですが、CYにもベリムマブを併用すべきか、CY単独とMMF+ベリムマブのどちらが優れているか、CNIの併用の位置づけをどうすべきか、等、また新たな疑問が生まれてきますね。

本試験でMMFとCYのいずれを使用するかは主治医に委ねられていたので、重症例にはCYが入っていしまっているのではないか、という考察がEditorialでも触れられていました。

色々と選択肢が出てきたことで、相対的にエビデンスレベルが低くなってしまったCNIの出番は、今後やや少なくなっていくような気がします。

個人的には、軽症・中等症にはMMF+ベリムマブ、重症例はCY(+ベリムマブ)、妊娠希望者の維持療法にはCNI(+AZA)、という使い分けができそうでしょうか。


2020年9月26日土曜日

BCGワクチン投与による高齢者の感染症に対する影響

半年ほど前から主に後期研修医の先生を対象に、Journal clubを始めています。論文の読み方を教えながら、僕も論文をたくさん読むことができるというWin-Winな企画です。
今回の論文は後期研修医の高崎先生がサマライズしてくれた、CellのBCG論文です。


Activate: Randomized Clinical Trial of BCG Vaccination against Infection in the Elderly.
Cell. 2020 Sep 1
doi: 10.1016/j.cell.2020.08.051 [Epub ahead of print]
  • Design: Phase III,  double-blind RCT
  • P: 患者背景は、80歳の高齢者で7割に高血圧症があり、約3割に糖尿病、慢性心不全、AFがある。
  • 除外項目
    • 5年以内に固形悪性腫瘍やリンパ腫と診断された患者
    • 直近の3ヶ月より前から10mgのPSLを毎日投与されている患者
    • HIV-1感染や500/mm3以下の好中球減少や臓器・骨髄移植後、化学療法中、先天性免疫不全、リンパ球数が400/mm3以下、サイトカインを抑制する治療を受けているなどの免疫抑制患者
    • IGRAが陽性の患者
  • I: 退院前にBCGワクチンを投与(N=72)
  • C: プラセボ群(N=78)
  • O: Primary endpoint 退院後12ヶ月間での新規感染症の発症を評価した。

結果

  • 新規感染までの期間はプラセボ群が11週であったのに対して、BCGワクチン投与群では16週であった。
  • 新規感染の発症率はプラセボ群が33人と42.3%(95%信頼区間:31.9-53.4%)であったのに対して、BCG投与群では18人と25.0%(95%信頼区間:16.4-36.16%)であった(p値 0.039)。
  • 最も予防効果があったのは、恐らくウイルス感染によると思われる呼吸器感染症であり、プラセボ群が14人と17.9%であったのに対して、BCG投与群では3人と4.2%であった(ハザード比 0.21, p値 0.013)。
  • 呼吸器感染症全体ではプラセボ群が24人と30.1%であるのに対して、BCG投与群が6人と8.3%であった(p値 0.002)。
  • 100人年での感染症全体ではプラセボ群で45人と57.7%であるのに対して、BCG投与群では24人と33.3%である(p値 0.003)。
  • 有害事象に関しては差異は認められなかった。

解釈

  • IGRA陰性の高齢者にBCGワクチンを投与することでウイルス性呼吸器感染症の発症を低下させることができる可能性がある。
  • BCGワクチンが定期接種となっている地域でCOVID-19感染症の蔓延が抑えられていることと関係があるかはこの研究だけでは分からず、COVID-19感染症蔓延地域で同様の研究を行い、COVID-19感染症の発症率が低下するかどうかを調べる必要がある。

感想&補足コメント

このRCTには少なくとも2つ大きな問題点があります。
1つはイベント数に比してサンプルサイズが小さすぎること、もう1つは解析対象の時点で2割以上の脱落が生じていることです。99人のプラセボ群は78人、103人のBCG群は72人しか解析対象になっていません。
もともとサンプルサイズが小さいにも関わらず、脱落がイベント数と同じくらい起きているので、Main figureの信頼性に致命的な疑いが生じていると言わざるを得ません。

この試験での適切なサンプルサイズを試しに計算してみると、各群N=300くらい必要のようです(1:1割付、プラセボ群のイベント30%、BCG群のイベント20%、検出力80%、有意水準5%)。

ということで内的妥当性に致命的な欠陥があるように見える試験なので、当然ながら外的妥当性は吟味するまでもありません。言い換えれば現時点で高齢者にBCGを打つようなことは、たとえ患者の強い希望でもしないでしょう

では、なぜこの論文が基礎系のトップジャーナルであるCellに載ったのか、それは後半のBCG接種者の単球系プロファイルに価値がある、と理解できます。
BCGを接種すると3ヶ月後の単球系は、エピゲノム修飾を受けてIL-6、TNFα、IFN signatureが活性化し、ウィルス免疫や自然免疫の誘導が起きている、という事実そのものに大きな意味があるのでしょう。

考えてみればワクチンのように単一の病原体ではなく、広範囲のウィルス性呼吸器感染症をターゲットとした一次予防アプローチというのは予防医学の全く新しい概念であり、ワクチンや抗菌薬に次ぐ医学史上の大発見の可能性がありそうです。
今後BCGに限らず別の抗原や薬剤での検証で、同様もしくはこれ以上に効果が得られる方法を探索していくための第一歩となる論文、その将来性と発展性が、この論文がCellに掲載された理由なのだろうと思います。

2020年9月20日日曜日

リウマチ性疾患におけるCOVID-19罹患率

 コロナ第二波に追われてしばらく論文のまとめをサボっていましたが、少し余裕が出てきたので再開します。

リウマチ性疾患におけるCOVID-19リスクが、少し高いかもしれないという報告です。

年齢に大分引っ張られていそうなデータですが、Bio/JAKのリスク上昇はそれだけでは説明がつかない気がします。


Prevalence of hospital PCR-confirmed COVID-19 cases in patients with chronic inflammatory and autoimmune rheumatic diseases

Ann Rheum Dis. 2020 Sep;79(9):1170-1173.


  • デザイン:後ろ向き観察研究
  • スペインの7施設のデータベースからPCR診断されたCOVID-19を登録
  • 参加施設における患者数290万人中のCOVID-19罹患率は0.58%で、リウマチ疾患26131人の罹患率は0.76% (OR 1.3, 95%CI 1.15-1.52)と有意に高かった
  • PCR陰性の年齢情報欠損のため年齢調整率は算出できなかったが、COVID-19基準集団の代表サンプル(n=3800)はリウマチ疾患症例と比較して年齢が低かった (中央値55 vs 65歳, p<0.0001)
  • 年齢補正できていないデータながら、SLEは有意なリスクではなく(OR 1.07, 95%CI 0.63-1.80)、SpA(OR 1.54, 95%CI 1.11-2.13)、Bio/tsDMARD使用者(OR 1.60, 95%CI 1.23-2.10)は有意なリスクだった



2020年7月16日木曜日

免疫正常者のIPDで、二次予防としてPCVを打つべきか

肺炎球菌による髄膜炎を発症した免疫正常な方の二次予防について、ワクチンをどう打てば良いか疑問を持ちました。個人的に勉強したことを共有させていただきます。

ACIPの記載

MMWR, September 3, 2010, Vol 59, #34
免疫正常の19-64才でPPSV23を打つ適応があるのは、
慢性心不全(高血圧を含む)、肺疾患(COPD、肺気腫、喘息)、喫煙、糖尿病、髄液漏、人工内耳、アルコール多飲、慢性肝疾患(肝硬変)
となっており、IPDの既往は含まれません。なおPCV13については記載がありません。

UpToDate

"Pneumococcal vaccination in adults" の Initial vaccination の項にある
History of invasive pneumococcal disease に以下の記載があります。

"We vaccinate individuals who have a history of invasive pneumococcal disease (eg, meningitis, bacteremia) with both PCV13 and PPSV23 because they have proven to be susceptible to pneumococcal infection and because infection with one serotype does not provide protection against other serotypes. However, the ACIP has not issued a statement on vaccination for this population."
ACIP推奨はないが著者のエキスパートオピニオンでPCV13とPPSV23を打つのが良い。
しかしこれを支持するエビデンスやガイドラインはないようです。


IPD二次予防としてのPCVのRCT

ACIPでHIV患者にPCV13とPPSV23を推奨する記載(MMWR, October 12, 2012, Vol 61, #40)の根拠論文の一つを読んでみたところ、IPDになった健常人のデータが、以下のように少しだけ含まれていました。

J Infect Dis. 2010 Oct 1;202(7):1114-25.
Design:
Double blind RCT
P: 2003~2007年にマラウイのQueen Elizabeth Central HospitalでIPDを生き延びた患者
I: PCV7接種
C: プラセボ(1:1割付)
O: ワクチン血清型または血清型6AによるIPD発生率

結果:
  • 496名(うち88%がHIV陽性)を登録
  • 798人年の観察期間中、52人の患者に67のIPDイベントが発生
  • IPDイベントの全てがHIV患者に発生した
  • IPDイベントのうち19がワクチン血清型、5が血清型6Aだった
  • この24イベントの各群の内訳はPCV7群5件、プラセボ群19件で、
  • ワクチン有効性は74% (95%CI 30〜90) と評価された

ということで、HIVでもNNTは60程度です。基礎疾患なしでIPDになった人は、HIVのように再罹患率が高いわけではないので、PCVで得られるメリットは相当少ないと予想されます。

結論

免疫正常者のPCVによるIPD二次予防は、得られるメリットが相当限定的であるため、少なくとも積極的な推奨はされない。PPSVもデータはないが同様と考えるのが自然ではある。


2020年7月12日日曜日

狂犬病ワクチンスケジュールの厳密性

狂犬病ワクチンのスケジュールは厳密に運用されていることが多いと思います。
しかしRAの生物学的製剤であれば、患者さんの都合で治験のAllowance程度のアレンジした投与は個人的には許容しています。
そこで狂犬病ワクチンではどうなのか調べてみました。

Vaccine. 2000 Dec 8;19(9-10):1055-60.
少し古い論文ですがRabipurの曝露前予防の臨床試験です。Methodを細かく見ていくと、
"Each subject received three doses of vaccine, one on day 0, one on day 7 (+-1), and one on day 28 (+-2)."
ということで、Allowanceが設定されていました。

Rabipurの曝露後予防、Zagreb、タイ赤十字方式などを検証した論文のMethodをいくつか見てみましたが、明確にAllowanceが記載されたものを見つけることはできませんでした。
J Commun Dis. 1995 Mar;27(1):36-43.
Vaccine. 2006 May 8;24(19):4116-21.
Int J Infect Dis. 2002 Sep;6(3):210-4.
Vaccine. 2009 Dec 10;28(1):148-51.

ところで自分が担当していたRAの国内治験の論文を見てみると、実際の現場ではAllowanceが設定されていたにもかかわらず、論文にはAllowanceが記載されていないことに気づきました。詳しい倫理規定についてはよくわからないのですが、論文化する際にAllowanceの詳細まで書く必要はないということだと思われます。
実際のところ狂犬病の臨床試験でもAllowanceが設定されていた可能性はあるかもしれません。ないかもしれませんが。


UpToDateでは、以下のように2,3日のズレに関しては許容する記載があります。
Deviations of a few days from the immunization schedule do not require complete reinitiation of vaccination [51]
この根拠論文[51]を読んでみます。


N Engl J Med. 2004 Dec 16;351(25):2626-35.
"Deviations of a few days are unimportant, but the effect of lapses lasting weeks or months is unknown.
Most deviations will not require complete reinitiation of vaccination."
2,3日の接種のずれは重要ではないが、週単位以上でずれると影響はわからない。
この箇所の根拠として更にACIPの推奨が引用されていましたので読んでみます。


MMWR Recomm Rep. 2002 Feb 8;51(RR-2):1-35.
この論文の Spacing of Multiple Doses of the Same Antigen という章に以下の記載がありました。
"ACIP recommends that vaccine doses administered <4 days before the minimum interval or age be counted as valid. However, because of its unique schedule, this recommendation does not apply to rabies vaccine."
複数回打つワクチンは3日以内で前後してもよいが、狂犬病ではそれを適用しないで下さい、とのこと。
この箇所も更に過去のACIPの引用が根拠になっていますので読んでみます。


MMWR Recomm Rep. 1999 Jan 8;48(RR-1):1-21.
"... failures have occurred abroad when some deviation was made from the recommended postexposure treatment protocol
 or when less than the currently recommended amount of antirabies sera was administered."
米国では狂犬病曝露後予防での失敗例はないが、他の国では決められたプロトコルから逸脱があった例で、曝露後予防の失敗例が報告されている(のでプロトコルから逸脱しないようにしましょう)。
ここでは治療失敗例の症例報告が3例引用されていましたので、更に読んでみます。


N Engl J Med. 1987 May 14;316(20):1257-8.
  • 使用ワクチン:ヒト二倍体細胞狂犬病ワクチン(恐らくRabivac)
  • 創部洗浄あり。咬傷18時間後から処置開始
  • day0,3,7,14に接種したが臀部筋注の逸脱があった。
  • RIGはプロトコル通り20IU/kg創部浸潤+筋注
  • day21に狂犬病発症
  • Discussionできちんと三角筋に打ちましょうと提唱されている。


Vaccine. 1989 Feb;7(1):49-52.
  • Case1:
    • 使用ワクチン:精製ニワトリ胚細胞ワクチン(恐らくRabipur)
    • 噛まれた飼い犬が死んだので、咬傷2日後から処置開始
    • RIGは創部浸潤せず両腕に筋注するという逸脱があった
    • day0, 3, 7, 14に接種したが臀部に筋注の逸脱があった
    • day19に狂犬病発症

  • Case2:
    • 使用ワクチン:精製ベロ細胞由来ワクチン(恐らくVerorab)
    • 創部洗浄あり。噛まれた飼い犬が死んだので、咬傷5日後から処置開始
    • RIGは創部浸潤せず両腕に筋注するという逸脱があった
    • day0, 3, 10, 13と逸脱した日程で接種した(注射部位は不明)
    • day14に狂犬病発症

米国イリノイ州の曝露後予防で、臀部にワクチンを打っていた患者の狂犬病中和抗体価が低かったという後ろ向き観察研究も、上記のACIP推奨内で引用されていました。
N Engl J Med. 1988 Jan 14;318(2):124-5.

上記の症例報告を見るに、暴露後予防の失敗は接種日逸脱の問題ではないような気がしますが、少しでも逸脱があると失敗したときに途轍もなく後悔しそうですし、エビデンスはなくとも、きちんとやったほうがいいのでしょう。


結論:

狂犬病ワクチンのスケジュールは2,3日のズレは許容されているが、目的が死亡リスクの回避であり、根拠のあるアレンジは存在しないので、可能な限り厳密に運用する。

2020年7月6日月曜日

COVID-19における抗リン脂質抗体プロファイル

A&RとmedRxivのpre-printにCOVID-19におけるaPLの話題がありました。

活動極期に一過性CAPSのようなことが起きているのかと思いましたが、時系列的には先に血栓ができて、その後aPLが検出され、疾患の沈静化とともに陰性化しているように見えます。血栓素因というより、血栓の結果としてaPLができていると考えるのが自然でしょうか。


medRxiv. Posted June 17, 2020. [Pre-print]
Prothrombotic antiphospholipid antibodies in COVID-19.
  • COVID-19の入院患者172人の血清で8種類のaPLを測定した (aCL IgG/IgM/IgA, aβ2GPI IgG/IgM/IgA, aPS/PT IgG/IgM)
  • いずれかのaPLが52%に認められ、内訳はaCL-IgM 23%、aPS/PT-IgG 24%、aPS/PT-IgM 18%だった
  • 高力価aPLは、NETsを含む好中球過活動、血小板増多、重篤な呼吸器症状、GFRの低下と関連していた
  • COVID-19患者由来のaPLは、既知のAPS患者と同様に、NETs放出を促進し、マウスへの投与で静脈血栓の形成を増強させた


Arthritis Rheumatol. 2020 Jun 30. doi: 10.1002/art.41425.
Brief Report: Anti‐phospholipid antibodies in critically ill patients with Coronavirus Disease 2019 (COVID‐19)
  • COVID-19確定患者の重症66名と非重症13名の血清で以下のaPLを測定した
    • aCL (IgG, IgM, IgA) (CIA)  
    • aβ2GP1 (IgG, IgM, IgA) (CIA)
    • IgG aβ2GP1‐D1 (CIA)
    • aPS/PT (IgG, IgM) (ELISA, INOVA)
    • LA (dRVVT)
  • 重症の47.0% (31/66)でaPLが検出されたが、非重症では検出されなかった
  • aPLの内訳は多い順に、IgA aβ2GP1 (28.8%,19/66)、IgA aCL (25.8%, 17/66)、IgG aβ2GP1 (18.2%, 12/66)だった

  • 複数のPLを有する患者ではaPL陰性者と比較して脳梗塞の発生率が有意に高かった (5件 vs. 0件, p=0.01)
  • 時系列でaPLを確認できた6名の抗体価の変動の傾向は、30~40日目にピークとなり、その後60日目頃までに陰性化していた

2020年7月5日日曜日

オラネキシジン皮膚消毒によるSSI予防

慶応大からオラネキシジンのSSI予防に関するポピドンヨードへの優位性を示した報告が出ています。
有害事象が若干多い感じもしますが、少なくとも腹腔鏡手術に関してはオラネキシジンに移行していく可能性がありそうです。


Lancet Infect Dis. 2020 Jun 15;S1473-3099(20)30225-5.
Aqueous Olanexidine Versus Aqueous Povidone-Iodine for Surgical Skin Antisepsis on the Incidence of Surgical Site Infections After Clean-Contaminated Surgery: A Multicentre, Prospective, Blinded-Endpoint, Randomised Controlled Trial.

  • Design: RCT、評価者と参加者は盲検で、担当医は非盲検
  • P: 準清潔(CDC-classII, clean-contaminate)の予定手術患者
  • I: 1.5%オラネキシジンでの皮膚消毒
  • C: 10%ポピドンヨードでの皮膚消毒
  • O: 30日以内のSSI発生率
  • 補足:術前抗菌薬は通常通り使用。SSIかどうかは担当医の情報から評価者が判断

結果

  • 883名が適格性スクリーニングを受け、計597名がランダム化され、オラネキシジン群の294名、ポピドンヨード群の293名が解析対象となった
  • 組入時の除外の内訳は146名が活動性感染あり、66名が緊急手術、など
  • 患者背景は年齢中央値69歳、腹腔鏡手術が434件(74%)で、内訳は上部消化管手術161例(27%)、下部消化管手術165例(28%)、肝胆膵手術252例(43%)、その他の手術が9例(2%)だった
  • 30日以内のSSIはオラネキシジン群で19件(7%)発生し、ポピドンヨード群の39件(13%)と比較して有意に少なかった
  • SSIの内訳は表層SSI 4件(1%) vs.13件(4%)、深部SSI 1件(<1%) vs. 1件(<1%)、臓器体腔SSI 14件(5%) vs. 25件(9%)であり、表層SSIと臓器体腔SSIは有意にオラネキシジン群に少なかった
  • 有害事象はオラネキシジン群で皮膚紅斑(4件vs.1件)、皮膚炎 (2件vs.1件)が多かったが、有意ではなかった


解釈


評価者が盲検化されているにしても、担当医の情報にバイアスが入る可能性は高そうです。表層SSIの診断・定義は大分適当なので(MethodにはCDCガイドラインの定義としか書いていない)、発生件数に若干のバイアスは生じうると読みました。


とはいえEffect sizeに見合った十分なNがあり、臓器体腔SSIでも有意差がついており、多少非盲検部分によるバイアスが入ったところで結果が変わるほどの影響は出なそうです。基本的には信頼できそうな結果だと思いました。


相対リスク減少は52%、NNTは14なので実臨床のプラクティスを変えるほどのインパクトがありそうです。しかし試験の大半の手術が腹腔鏡であり、サブ解析でもSSIの減少効果は開腹では差がつかず、ベネフィットは腹腔鏡で大きいようです。

開腹手術での効果を評価するにはNが不足している可能性が高いので、今後の展開が期待されますが、現時点のデータではオラネキシジンの優位性は腹腔鏡のみと考えるのが妥当と思われます。


最後に非常に重要な点として、COI開示によると1st authorとLast authorが大塚製薬(オラネキシジンの販売元)のグラントを受けて行った研究のようです。


2020年6月29日月曜日

COVID-19に対するデキサメサゾンのOpen-label RCT

プレスリリースされていた英国のRECOVERY試験のPre-print論文が、medRxivにありました。

medRxiv. Posted June 22, 2020. [pre-print]
Effect of Dexamethasone in Hospitalized Patients with COVID-19: Preliminary Report.

  • Design: Open-label RCT
  • P: COVID-19で入院した患者
  • I: デキサメサゾン6mg/day 最大10日間(退院まで)
  • C: プラセボ 1:2割付(プラセボが2)
  • O: 28日全死亡率

統計

  • COX比例ハザードモデル
  • ITT解析
  • 検出力90%、有意水準は両側1%で、28日死亡率20%に対して4%の絶対リスク軽減(相対20%減少)を想定して、実薬群2000人のエントリーで試験を終了

結果

  • 11320名がエントリーし、デキサメタゾン群に2104人、プラセボ群に4321人が割り付けられた
  • 平均年齢は66.9歳で、56%に1つ以上の基礎疾患があり(DM 24%、心疾患27%、肺疾患27%)、重症度は酸素投与が3884名(61%)、機械換気・ECMOが1007名(16%)だった
  • 28日死亡率は、デキサメタゾン群が454/2104人(21.6%)で、プラセボ群1065/4321(24.6%)と比較し有意に少なかった (RR 0.83, 95%CI: 0.74-0.92, p<0.001)
  • サブ解析では重症度が高いほどリスク減少率が顕著であった (機械換気orECMOではRR 0.65, 95%CI: 0.51-0.82, p<0.001、酸素投与者ではRR 0.80, 95%CI: 0.70-0.92, p=0.002)
  • 酸素投与のない患者群でデキサメサゾンの死亡率改善効果は有意ではなかった(RR 1.22, 95%CI: 0.93-1.61, p=0.14)
  • デキサメタゾン群はプラセボ群より入院期間が短く(中央値12日vs.13日)、28日以内の退院率が高く (RR 1.11, 95%CI: 1.04-1.19, p=0.002)、この効果は機械換気の患者で最も大きかった (p=0.002)
  • ベースライン時に機械換気ではない患者が、機械換気に移行または死亡するリスクはデキサメタゾン群で有意に低く (RR 0.91, 95%CI: 0.82-1.00, p=0.049)、この効果はベースラインで酸素投与を受けている患者で有意に大きかった (p=0.008)
  • デキサメサゾン群に特定の死因(COVID-19を除く感染症死を含む)の増加は観察されなかった

感想

Viral loadや炎症マーカーと相関しているかなど、予備的なデータも色々気になるところではありますが、Open-labelであることを除けば、Nも大きく信頼できるデータだと思います。
今後は酸素投与が必要になった段階で、レムデシビル+デキサメサゾンというのが標準レジメンになりそうな気がします(併用が相殺的な影響を与えないかは不明ですが)


2020年6月26日金曜日

日本におけるCOVID-19のクラスター解析

日本のクラスター対策班の素晴らしい成果が、米国CDCのオープンジャーナルであるEIDに掲載されました。どれも非常に見応えのあるFigureで印象的です。本邦オリジナルのクラスター対策がWorld wideにも評価されることを願っています。

アウトブレイクの初期段階で日本の発信力が問題視されましたが、先日NEJMに載ったダイヤモンド・プリンセスの無症候者の短報など(N Engl J Med. 2020 Jun 12. Natural History of Asymptomatic SARS-CoV-2 Infection)、日本からも次々と素晴らしい論文が出始めていますね。


Emerg Infect Dis. 2020 Jun 10;26(9).
Clusters of Coronavirus Disease in Communities, Japan, January–April 2020.

  • 日本における3184例のCOVID-19の症例から「クラスター」を解析した
  • クラスターの定義は、共通のイベントや会場で一次曝露が報告された、家庭内感染を除く5例以上の症例群
  • 61のクラスターが確認され、その内訳は医療施設18(30%)、介護施設10(16%)、飲食店10(16%)、職場8(13%)、音楽イベント7(11%)、トレーニングジム5(8%)、冠婚葬祭2(3%)、飛行機内1(1%)だった
  • クラスター発端者22名のほとんどが20〜30歳代で、感染伝播時は発症前または無症候性だった

2020年6月24日水曜日

偽痛風の罹患関節とエコー感度

CTで石灰化が見えないのにエコーで診断できた左股関節の偽痛風症例がありました。
股関節の偽痛風はレアだと思っていましたが、調べてみたら意外と多いようです。勉強になる論文だったので共有します。レントゲンとエコーは案外一致しないものなので注意が必要ですね。


Arthritis Care Res (Hoboken). 2019 Dec;71(12):1671-1677.
関節液でCPPD結晶を証明した偽痛風において、エコー、レントゲンの検査特性を比較(N=50)

罹患関節の分布

  • Knee 47 (94.0%)
  • Hip joint 14 (28.0%)
  • Radiocarpal joint 6 (12.0%)
  • Ankle 5 (10.0%)
  • Shoulder 4 (8.0%)
  • Elbow 2 (4.0%)

股関節におけるUSとXPの感度・特異度

  • US 感度90% (95%CI: 78-97%) 特異度85% (95%CI: 70-94%)  
  • XP 感度86% (95%CI: 73-94%) 特異度90% (95%CI: 76-97%)

Disease control (N=40) を含むXPとUSの石灰化検出の一致率

  • US(+) XP(+) 32.8%
  • US(+) XP(-) 12.2%
  • US(-) XP(+) 10.0%
  • US(-) XP(-) 45.0%

2020年6月18日木曜日

ANCAでみるEGPA神経障害の特徴

グローブ&ストッキング分布の痺れを訴えたEGPA疑いの症例を経験しました。
EGPAの末梢神経障害は原則Mononeuritis multiplexであり、Polyneuropathyはないと理解していたのですが、MPO-ANCA陽性例では3.7%、陰性例では12.7%にPolyneuropathyを認めたという、名古屋大学神経内科の論文を発見しました(この論文の主要な論点はそこではないのですが)。


Neurology. 2020 Apr 21;94(16):e1726-e1737.
Differential Clinicopathologic Features of EGPA-associated Neuropathy With and Without ANCA.

Design

  • 後ろ向き観察研究

対象

  • 腓腹神経生検とANCA測定を行われた神経障害を伴うEGPA

方法

  • MPO-ANCA陽性群と陰性群における臨床像、病理像を比較

結果

  • 上肢の神経症状はMPO-ANCA陽性群で有意に多かった (44.4% vs 14.6%, p<0.01)
  • CRPはMPO-ANCA陽性群で有意に高かった (6.5±5.6 vs. 4.1±4.6, p=0.018)
  • CMAPはMPO-ANCA陽性群で有意に低下していたが (4.4±2.9mV vs. 6.4±4.0mV, p=0.031)、これは正中神経の軸索障害によるもので、他の神経については両群同様だった
  • MPO-ANCA陽性群では神経上皮の血管炎が有意に多かったが (p<0.0001)、陰性群では血管内腔の好酸球数(p<0.01)と、これにより閉塞された血管(p<0.05)が有意に高頻度だった

結論

MPO-ANCA陽性EGPAは血管炎による虚血・炎症、MPO-ANCA陰性EGPAは好酸球による組織障害・血管閉塞が特徴と考えられます。

感想

いずれのサブタイプも好酸球を抑制するアプローチが有効だろうことには疑問の余地がないですが、血管炎に至っていないサブタイプであるANCA陰性EGPAでは、病理像からみても純粋に好酸球をdepleteするだけで良くなるのではないか、という気がしてきます。
すなわちメポリズマブ(±数日のステロイド)だけで寛解導入が可能で、Additionalな抗炎症・免疫抑制(ステロイド・IVCY・リツキシマブ)が省略できるのではないかと妄想しました。

2020年6月14日日曜日

ステロイド治療中の帯状疱疹二次予防としてのシングリックス接種について

下記のような症例を経験し、シングリックスについて調べました。

CQ.
2ヶ月前からPSL50mg+TACで治療開始した間質性肺炎合併皮膚筋炎の80歳女性が、PSL20mgに減量した段階で汎発性帯状疱疹を発症した。
この患者に組み換え型帯状疱疹サブユニットワクチン(RZV)を接種すべきか?
また、接種する場合はどのタイミングが適切か?

僕は帯状疱疹が治ったらすぐ接種したらいいのではと、あまり根拠なく思ったのですが、
科内では帯状疱疹発症でVZVの免疫誘導が起きたことを考慮すると、
当分は(2,3年は)接種の必要はないのではないかという意見も出ていました。
以下、僕なりの考察です。


RZVによる二次予防の妥当性


RZVの治験を振り返ると、対象者は免疫抑制状態ではない50歳以上、70歳以上であり、水痘ワクチン未接種者の「一次予防」としてデザインされています。
免疫抑制状態ではない定義として、PSL<20mg/dayのステロイドは許容されていますが、実際ステロイド投与者がどれだけ治験に組み込まれたかは、supplementにも記載がありません。
N Engl J Med. 2015 May 28;372(22):2087-96. (ZOE-50)
N Engl J Med. 2016 Sep 15;375(11):1019-32. (ZOE-70)

ACIP推奨では帯状疱疹既往者に対するRZV(二次予防)は、急性期は避けるようにという文言はあるものの、接種を検討して良いとの記載です。適切な時期や推奨の根拠となる文献は示されていません。
PSL20mg以上や、その他の免疫抑制剤を使用中のRZVについてはデータがないため、今後議論されるべき事項とされています。
MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2018 Jan 26; 67(3): 103–108.

ちなみに帯状疱疹生ワクチンでは、二次予防目的でのACIP推奨は以下の記載です。
・帯状疱疹既往者のワクチン有効性・安全性は未検証
・既往者の発症リスクは未既往者と同レベルと見積もられるため、接種を推奨
MMWR Recomm Rep. 2008 Jun 6;57(RR-5):1-30

CDCのWeb siteには、「帯状疱疹生ワクチンの二次予防としての接種時期を急性期からどの程度空けたらよいかについては不明だが、接種する前に発疹が消えていることを確認する」と記載されています。

健常高齢者以外のRZVについても、HSCT、固形腫瘍化学療法、腎移植、いずれも主要RCTのアウトカムはすべて一次予防となっており、厳密な意味では未検証と考えて良さそうです。
 HSCT:Lancet. 2018 May 26;391(10135):2116-2127.
 HSCT:Lancet Infect Dis. 2019 Sep;19(9):988-1000.
 固形腫瘍:Cancer. 2019 Apr 15;125(8):1301-1312.
 腎移植:Clin Infect Dis. 2020 Jan 2;70(2):181-190.


Opne label One-armですが、RZVの二次予防を検証した論文を一つだけ見つけました。

Hum Vaccin Immunother. 2017 May 4;13(5):1051-1058.
表2を見ると、4年以内の帯状疱疹歴ではそれ以降の帯状疱疹歴と比較すると、ベースラインの中和抗体価は2倍程度ですが、ワクチン接種後は両群とも15倍以上に上昇しており、抗体価としては横並びになっています。
T細胞応答は不明ですが、帯状疱疹発症によって得られる中和抗体価よりも、RZVによって得られる免疫応答が極めて高いことが示唆される貴重なデータです

なお96名中6名(6.3%)に、接種後中央値178日で、9回の再発疑い例が発生しており、発症頻度がやや高く、ワクチン効果があまり得られていないように見えますが、帯状疱疹の診断はプロトコル上は主治医や患者の申告で良かったため(3例は自己申告)、Discussionではワクチン過小評価の可能性について触れられていました。


比較的強い免疫抑制治療下にRZVで免疫原性が得られるか


自己免疫疾患におけるRZV免疫原性の検証は、検索した範囲でめぼしい論文はありませんでしたが、腎移植後4~18ヶ月の安定して免疫抑制療法を受けている患者におけるRZVの免疫原性を評価したRCTがありました。中和抗体価、CD4-T細胞応答のいずれも十分なレベルに達しています。
殆どの患者にステロイド+カルシニューリン阻害薬+MMFが投与されていますが、ステロイド投与量については記載がありませんでした(恐らくPSL<10mgでしょう)。
除外基準に、1年以内の水痘・帯状疱疹の既往歴が含まれています。自己免疫疾患による腎移植者も除外されていました。
Clin Infect Dis. 2020 Jan 15; 70(2): 181–190.


帯状疱疹の再発率


帯状疱疹の再発率ICD-10コードを用いた韓国のデータベース研究で、登録された39441名の最初の帯状疱疹のうち、中央値4.4年の観察で12.0人/1000人年の再発エピソードが観察されており、割と再発率は高いようです。
自己免疫疾患ではHR 1.466 (95%CI: 1.252–1.715, p<0.001) とのことです。
J Korean Med Sci. 2019 Jan 14; 34(2): e1.

この研究では帯状疱疹の再発の定義を、発症から半年以降に限定しています。データベース研究は、投薬内容から治療が続いているのか再発かを判断するのが難しいため、6ヶ月以降で再発を判断するというデザインだったようです。
他の類似研究でも同様に半年以降に限定して再発率を見ているようでした。
J Infect Dis. 2012 Jul 15;206(2):190-6.


RZVの免疫期間(おまけ)


RZVの臨床試験初期段階でワクチン接種を受けた70名の解析で、9年目でも十分な免疫応答が維持されていたようで、数理モデルでは15年以上は維持されると予想されています。
Hum Vaccin Immunother. 2018;14(6):1370.


考察のまとめ

  • 低用量の免疫抑制剤投与者の一次予防としてはRZV接種を推奨
  • 中等量以上の免疫抑制剤投与者や、二次予防でのデータはない
  • 腎移植RCTからは、免疫抑制剤投与下でも健常者と同レベルで効果が期待できそうに見える
  • 4年以内に帯状疱疹歴があっても中和抗体価はRZV接種者ほど高くない
  • 免疫抑制者では帯状疱疹の再発率はより高いが、半年以内の再発を検証したデータはない

結論

  • 状況的には再発率が高いため、RZV接種はエビデンスがないものの積極的に検討すべきと考えます。
  • 免疫原性は他疾患のデータから判断するに、高い蓋然性で担保されそうです。
  • 中和抗体価は4年以内にRZV接種者以下のレベルに低下するため、4年以内には打ったほうが良さそうです。
  • 半年以内まで早めて接種すべきかは、再発率上昇や中和抗体価のデータが不明瞭なので議論が分かれると思います。
  • 個人的には免疫抑制剤が減量されて免疫原性が強まることも見越して、発症後半年の時点で打つのが良いのではないかと思いました。

2020年5月25日月曜日

COVID-19に対するレムデシビルのRCT(ACCT-1試験)

待ちに待った米国主導のレムデシビルRCTの結果です。
回復までの期間を4日縮めるという効果をどう解釈するのかがポイントでしょうね(回復率の改善は、回復が早まった効果による短期的なアウトカム改善に見える)。
このデータからは、酸素が始まったときが最も適切な開始時期で、それ以降は効果が期待しにくいという理解になりそうです。


N Engl J Med. May 22, 2020
Remdesivir for the Treatment of Covid-19 — Preliminary Report.
  • Design: 国際共同多施設 double-blind RCT
  • P: 入院が必要な成人COVID-19
  • I: レムデシビル(day1: 200mg iv、day2-10: 100mg iv)
  • C: プラセボ10日間 1:1割付
  • O: 主要エンドポイントは回復(カテゴリー3以下)までの日数(層別Log-rank test)
※ カテゴリー
  •  1=活動制限なし
  •  2=活動制限があるが入院不要
  •  3=酸素や医療ケアは不要だが入院が必要(感染管理のための入院)
  •  4=酸素は不要だがCOVID-19に関連した活動制限による医療ケアが必要
  •  5=酸素が必要
  •  6=NIPPVや高流量の酸素が必要
  •  7=機械的換気やECMOが必要
  •  8=死亡

結果

  • 1107人を登録、541人がレムデシビル群、522人がプラセボ群に割り付けられた
  • 発症から登録までの日数の中央値は9日だった
  • レムデシビル群、プラセボ群のベースライン重症度は、各々カテゴリ4が12.5%, 11.4%、カテゴリ5が41.0%, 38.1%、カテゴリ6が18.1%, 19.0%、カテゴリ7が23.1%, 28.2%
  • レムデシビル群の回復までの日数は中央値11日で、プラセボ群の15日と比較して有意に短かった (RR 1.32, 95%CI: 1.12-1.55; P<0.001)
  • カテゴリ5 (N=421) における回復率が1.47 (95%CI: 1.17-1.84) と最も大きかった
  • カテゴリ7 (N=272) におけるの回復率は0.95 (95%CI: 0.64-1.42) だった
  • レムデシビル群の14日時点の死亡率は7.1%で、プラセボ群の11.9%と比較して低い傾向 (HR 0.70, 95%CI: 0.47-1.04)
  • 重篤な有害事象はレムデシビル群で28.8%、プラセボ群で33.0%、内訳は貧血、AKI、腎機能障害、高血糖、LFT上昇などだが、両群における発生率に大きな差はない


感想

COVID-19のエビデンスのある初の治療薬として確立したことは、疾患の認知からわずか半年という点も含め、素晴らしい成果を上げた歴史的臨床試験だと思います。

主にLimitationについて考察します。
まず解釈するに当たり極めて重要なCOIですが、資金提供がNIAID、NIHからあるようです。ギリアドからは薬剤提供のみとのことですが、社員がプロトコル開発と毎週のチームコールに参画しています。米国の威信をかけたプロジェクトであり、結果が発表されたタイミングも含めて、biasに少なからず注意して解釈する必要がありそうです。

αエラー5%、検出率80%として10%程度の改善率の検出に必要な症例数は、多めに見積もって両群350ずつくらいではないかと試算します。ごく小さな差を多めの症例数によって有意に検出した可能性はあるかもしれません。

死亡率は14日で比較されており、ほぼ肺を限局的に障害するCOVID-19の場合は、少し長めの日数で評価する必要があったと思います(Under estimateしたかもしれません)。
最も注目すべきアウトカムの一つである、機械的換気への移行率が抑えられたか、このデータからは読み取れないのは残念な点でした(Supplement S1を見ると一見差がありそうなんですが・・・)。

また1ヶ月程度の短期的な回復率を見ているだけなので(重傷者が回復する時期ではない)、線維化によるダメージなどに変化があるのか、3ヶ月後くらいの予後も気になりますね。


2020年5月19日火曜日

ACR痛風ガイドライン2020

ACRの痛風ガイドラインが改定されています。
以前ほど生活習慣の影響は強くないと考えて良さそうで、プリン体摂取もそれほどアウトカムに影響しないようです。体重と飲酒は弱くフレアと関連がありそうですが、基本は薬物療法であると解釈できそうです。

フェブキソスタットがアロプリノールと比較して、心血管死がわずかに増加するかもしれないという話題や、
N Engl J Med. 2018 Mar 29;378(13):1200-1210. 
Circulation. 2018 Sep 11;138(11):1116-1126.
ロサルタンの尿酸減少効果については知らなかったので、非常に勉強になりました。
Hypertension. 2011 Jul;58(1):2-7.


Arthritis Care Res (Hoboken). 2020 May 11.
2020 American College of Rheumatology Guideline for the Management of Gout.

尿酸降下治療の適応

  • 1個以上の皮下痛風結節、痛風性X線変化、年2回以上の痛風発作では尿酸降下治療を強く推奨する
  • 低頻度(年2回未満)の繰り返す痛風発作に対する尿酸降下治療を弱く推奨する
  • 初回痛風発作では尿酸降下治療を一般に推奨しないが、CKD stage3以上、尿酸>9mg/dL、尿路結石を合併する場合は検討して良い
  • 無症候性高尿酸血症に対する尿酸降下治療は推奨しない

尿酸降下治療の薬剤選択

  • CKD stage3以上も含めて、1st line治療にはアロプリノールを強く推奨する
  • CKD stage3以上ではプロベネシドよりアロプリノールかフェブキソスタットを強く推奨する
  • Pegloticase(尿酸オキシダーゼ)は1st line治療として使用しないことを強く推奨する
  • アロプリノールとフェブキソスタットは低用量から漸増することを強く推奨する
  • プロベネシドは低用量から漸増することを弱く推奨する 
  • 抗炎症薬(コルヒチン、NSAID、ステロイド)の予防的併用を強く推奨する(最低3~6ヶ月)

尿酸降下治療の開始時期

  • 痛風発作中ではなく発作が軽快した後に尿酸降下治療を開始することを強く推奨する
  • 尿酸値をガイドにして目標尿酸値を目指す "Treat to target” 戦略を強く推奨する
  • 尿酸6mg/dL以下に維持することを強く推奨する
  • T2T strategy最適化のため、患者教育やshared decision‐makingを含む非医師による尿酸降下治療の拡張プロトコルの提供を強く推奨する

尿酸降下治療の期間

  • 無期限に継続することを弱く推奨する

アロプリノールに関する推奨

  • 東南アジア民族(漢民族、韓国、タイ等)及びアフリカ系アメリカ人では、開始前にHLA–B*5801 alleleを検査することを弱く推奨する(HLA–B*5801はアロプリノール過敏症のリスク)
  • 上記以外の民族にHLA–B*5801を検査しないことを弱く推奨する
  • アロプリノールは100mg/day以下(CKDでは更に低用量)から開始することを強く推奨する
  • アロプリノール脱感作は他の尿酸降下治療で代用できない場合に弱く推奨する

フェブキソスタットに関する推奨

  • 心血管の新規イベントまたは既往患者では、他の推奨に反しない限り、可能な場合は他の尿酸降下治療への切り替えを弱く推奨する

尿酸排泄促進薬に関する推奨

  • 投与前及び投与中に尿中尿酸の測定を行わないことを弱く推奨する(食事の影響を受けるため)
  • 尿酸排泄促進薬投与中の尿のアルカリ化は行わないことを弱く推奨する(有用性の証拠なし)

いつ尿酸降下治療の変更を検討すべきか

  • 最初のキサンチンオキシダーゼ阻害薬(XOI)を最大容量で投与しているにも関わらず、尿酸>6mg/dLが持続し、かつ皮下痛風結節や年2回以上の痛風発作が軽快しない場合には、尿酸排泄促進薬の追加ではなく別のXOIに切り替えることを弱く推奨する
  • XOI、尿酸排泄促進薬、他の治療介入によっても目標の尿酸値に到達せず、かつ皮下痛風結節や年2回以上の痛風発作が改善しない場合に、Pegloticaseの使用を強く推奨する
  • 皮下痛風結節がなく、年2回未満の痛風発作の場合は、尿酸値が目標に達しなくともPegloticaseは使用しないことを強く推奨する

痛風発作の管理

  • IL-1阻害薬やACTHよりも、コルヒチン、NSAID、ステロイド(経口、関注、筋注)を1st line治療とすることを強く推奨する
  • コルヒチンは有効性が同等で低リスクであることから、低用量での使用を強く推奨する
  • 局所冷却を補助療法として弱く推奨する
  • 上記の抗炎症治療が全て無効か忍容性がないか禁忌の場合、IL-1阻害薬の使用を弱く推奨する
  • 内服不能の場合はIL-1阻害薬やACTHではなく、ステロイド静注・筋注・関注で治療することを強く推奨する

生活習慣の管理

  • 疾患活動性に関わらず、アルコール、プリン体、高果糖コーンシロップを制限することを弱く推奨する
  • 疾患活動性に関わらず、過体重の患者では減量プログラムを弱く推奨する
  • ビタミンCサプリメントは推奨しない(有効性の証拠なし)

併用薬の管理

  • ヒドロクロロチアジドを別の降圧薬に切り替えることを弱く推奨する
  • 降圧薬としてロサルタンを優先的に選択することを弱く推奨する(尿酸の減少効果がある)
  • 適切な適応で低用量アスピリンを内服している場合、(尿酸降下を期待しての)アスピリン中止を行わないことを弱く推奨する
  • コレステロール降下薬を(尿酸降下を期待して)フェノフィブラートに変更または併用することは行わないことを弱く推奨する

2020年5月17日日曜日

COVID-19曝露日・発症日からのPCR偽陰性率の推移

偽陰性をなるべく低下させる観点からは、発症3日目にPCRを行うのが良いようです。

Ann Intern Med. May 13, 2020.
Variation in False-Negative Rate of Reverse Transcriptase Polymerase Chain Reaction–Based SARS-CoV-2 Tests by Time Since Exposure.

Design

  • Pubmed、BioRxiv、MedRxivの文献レビューによる臨床試験のプール解析

対象:

  • 鼻咽頭または咽頭スワブでSARS-CoV2-PCR検査された患者
  • 発症及び曝露からの日数が不明な患者は除外した

方法:

  • ベイジアン階層ロジスティック回帰モデルを用いて、曝露日からの偽陽性率・偽陰性率を推定した
  • 曝露から発症までは5日間、RT-PCRの特異性は100%を仮定した

結果:

  • 7つの臨床試験から1330のPCRサンプルを解析対象とした
  • 発症4日前(すなわち曝露直後~約1日目)の偽陰性率は100% (95%CI: 100-100%)
  • 発症日の偽陰性率は38% (95%CI: 18-65%)
  • 偽陰性率は発症3日目に20% (95%CI: 12-30%) と最低となる
  • 発症16日目の偽陰性率は66% (95%CI: 54-77%)
  • 潜伏期間を短く設定すると、偽陰性率の低下はより早期に起きたが、推定曲線の形状は類似していた

2020年5月10日日曜日

COVID-19の新規治療(可溶性ACE2とモノクローナル中和抗体)

可溶性ACE2と、モノクローナル中和抗体(VHH-72)の臨床応用が注目されているようで、少し古い基礎論文ですが紹介します。
ACE2は早くも治験が始まるようです。

 
Cell. 2020 Apr 17;S0092-8674(20)30399-8.
Inhibition of SARS-CoV-2 Infections in Engineered Human Tissues Using Clinical-Grade Soluble Human ACE2.
  • ヒト-リコンビナント可溶性ACE2 (hrsACE2) は用量依存的にSARS-CoV-2のVero-E6細胞への感染を阻害した
  • hrsACE2はiPS細胞から作られたヒト毛細血管及び腎オルガノイドへの感染も阻害した


Cell. 2020 Apr 29;S0092-8674(20)30494-3.
Structural Basis for Potent Neutralization of Betacoronaviruses by Single-Domain Camelid Antibodies.
  • SARS-CoVとMERS-CoVで免疫されたラマから得られた抗体からファージディスプレイ法で獲得した中和抗体 VHH-72は、SARS-CoV2と交差反応を示した
  • VHH-72はSARS-CoV2のS蛋白上のRBDドメイン(ACE2との結合部位)に親和性を示す
  • 2つのVHH-72を結合した2価VHHにIgG1-Fcドメインを結合した融合蛋白であるVHH-72-Fcは、SARS-CoV2の中和活性が見いだされた
  • VHH-72-FcはExpiCHO細胞による大量精製が可能で、ルシフェラーゼアッセイによる中和能力はIC50値で0.2μg/mLだった

2020年5月9日土曜日

COVID-19に対するアナキンラの治療成績

Lancet Rheumatologyにアナキンラのパイロット的なデータが掲載されました。
アナキンラ群のほうが重症例が多いにも関わらず、治療成績が良いです。死亡率が改善するにも関わらず挿管率が有意に改善していないので、好意的に見ればもう少し早期に使うべき薬剤ということを意味するかもしれません(アナキンラ群は挿管までで済んだ)。
とはいえ後ろ向きなので色々なバイアスがありそうで、RCTでひっくり返る可能性は十分ありそうです。


Lancet Rheumatology. May 07, 2020.
Interleukin-1 blockade with high-dose anakinra in patients with COVID-19, acute respiratory distress syndrome, and hyperinflammation: a retrospective cohort study.

Design

  • 後ろ向き観察研究

対象

  • 中等症~重症のARDSで、高炎症を伴うCOVID-19
  • 重症の定義:P/F<200、かつPEEP>5
  • 高炎症の定義:CRP>10mg/dL and/or Ferritin>600ng/mL
  • ステロイド投与者は除外

方法

  • 後ろ向きに収集したデータからアナキンラの臨床効果を評価
  • 全患者に標準治療としてHCQ (200mg1日2回)とカレトラ(LPV/r 400/100mg 1日2回)が投与された
  • アナキンラ低用量は100mg1日2回 sc、高用量は5mg/kg 1日2回 ivが、標準治療に加えて、臨床的改善が得られるまで投与された
  • 改善の定義:CRP 75%減少、P/F>200が2日間維持できる

結果

  • 29名が高用量アナキンラ、16名が標準治療、7名が低用量アナキンラを投与された(全例NIV)
  • 低用量プロトコルはCRPの低下や臨床的改善と関連しなかったため7人目以降中止された
  • 21日生存率は、高用量アナキンラ群で90%、標準治療群で56%だった(HR 0.20, 95%CI: 0.04-0.63, p=0.009)
  • 機械換気に移行しなかった率は、高用量アナキンラ群72%、標準治療群50%だった(HR 0.5, 95%CI:0.16-1.30, p=0.15)

  • 菌血症が高用量アナキンラ群の4/29(14%)、標準治療群で2/16(13%)で発生した
  • 高用量アナキンラ群の死因は、肺血栓塞栓症(n=1)、呼吸不全(n=1)、多臓器不全(n=1)
  • 標準治療群の死因は、呼吸不全(n=3)、多臓器不全(n=3)、肺血栓塞栓症(n=1)


2020年5月8日金曜日

COVID-19と抗リン脂質抗体

COVID-19における抗リン脂質抗体の続報が出ています。
思ったよりも高頻度で認められるようで、病的意義があるかはまだ明らかではないですが、凝固カスケードと関連している可能性はありそうなので、個人的には非常に興味深いです。

N Engl J Med. May 5, 2020
Lupus Anticoagulant and Abnormal Coagulation Tests in Patients with Covid-19.
  • SARS-CoV2-PCR陽性の216名の患者で凝固アッセイをスクリーニングした
  • 44名(20%)にAPTT延長が認められ、うち34名(91%)がLAC陽性だった(dRVVT単独7名、LA-aPTT単独6名、両方18名)
  • LAC陽性のうち28検体はヘパリンが含まれる血漿だったが、dRVVT Assayではheparinaseが添加されていた
  • 第8・第9因子欠損症は含まれていなかった
  • 第12因子低下(50IU/dL以下)が16名に認められた

2020年5月4日月曜日

運動負荷心エコーは強皮症におけるPH進展を予測する

手間がかかりそうな検査ですが、症例を選べば役に立つかもしれません。


J Rheumatol. 2020 May 1;47(5):708-713.
Exercise Echocardiography Predicts Future Development of Pulmonary Hypertension in a High-risk Cohort of Patients With Systemic Sclerosis.

Design

  • 前向き観察研究

対象

  • 強皮症でPHではないがPHハイリスクの患者
  • PHハイリスクの定義:労作時呼吸苦、DLCO<60%, FVC%<60%, FVC%/DLCO% >1.6, 安静時RVSP>30mmHgかつ<50mmHg
  • 除外基準:冠動脈疾患、LVEF<50%、Grade2以上の拡張障害、トレッドミル施行不能者、安静時RVSP>50mmHg

方法

  • 全例に運動負荷心エコー(EE)を行い、RVSP≥ +20mmHgを陽性とした
  • 陽性者は全例右心カテーテルでの評価を行った
  •  EEの評価は、トレッドミルでBruceプロトコルを実施し、予測最大心拍数の85%を達成後、1分以内にRVSPを測定した

結果

  • 85名が登録され、罹病期間は平均7.7±6.6年で、うち13名が中央値3.5年(IQR 1.5~5年)でPHを発症した
  • PH発症はEE陽性群10/43(23%)、EE陰性群3/42(7%)で、有意にEE陽性群に多かった (p=0.04)
  • EE陽性群のPHを発症しなかった残り33人のうち22人(67%)が、平均5年間の追跡期間で持続的陽性を示した

結論

  • EE陽性はPHへの進展を予測し、EE陰性はPH低リスクを予測するかもしれない
  • EE陽性の大部分はPHに進展しないものの、持続陽性を示す

感想

手動で計算してみるとEEの感度76.9%、特異度54.2%、PPV 30.3%、陽性尤度比1.68、となりますので、陽性の場合のPHリスクは1.7倍程度と見積もられ、凄くリスクが高いわけではないが警戒度は少し上がる、と解釈しました。
偽陽性が問題になるので実臨床での運用としては、右心カテをするか迷う場合の最後のひと押しの評価といったくらいの位置づけになるでしょうか。

2020年5月3日日曜日

早期強皮症に対するリオシグアトのRCT

早期強皮症に対するリオシグアトのRCT結果がARDに掲載されています。
レイノーや指尖部潰瘍にはある程度効きそうですが、残念ながら皮膚硬化には極めて微弱な効果に留まるようですね。


Ann Rheum Dis. 2020 May;79(5):618-625.
Riociguat in Patients With Early Diffuse Cutaneous Systemic Sclerosis (RISE-SSc): Randomised, Double-Blind, Placebo-Controlled Multicentre Trial.

  • Design: Phase IIb, double-blind RCT
  • P: 発症18ヶ月未満のmRSS 10-22のdiffuse SSc
  • I: リオシグアト0.5 mg〜2.5 mg 1日3回経口投与
  • C: Placebo 1:1割付
  • O: 主要評価項目は0-52週の⊿mRSS

結果

  • リオシグアトに群60名、プラセボ群に61名が登録された
  • 0-52週の⊿mRSSの両群の差は–2.34 (95%CI –4.99~0.30; p=0.08)で有意差はなかった

  • post-hoc解析で、ILD患者におけるFVC%の変化はリオシグアト群で-2.7%(N=12)、 プラセボ群で-7.6%(N=13)であった
  • 新規の指尖部潰瘍はリオシグアト群とプラセボ群で各々、14週では4個vs.26個、52週では12個vs.72個であった
  • 50%以上のRaynaud condition scoreの改善率はリオシグアト群で19/46 (41.3%)、 プラセボ群で13/50 (26.0%)だった
  • SAEはリオシグアト群で9例(15.0%)、プラセボ群で15例(24.6%)で、両群に大きな差は認められなかった


2020年5月1日金曜日

COVID-19におけるPulmonary intravascular coagulopathyと抗凝固療法

抗ウィルス療法という本質から外れるため治療効果に期待できるとも思えず、あまり積極的に情報収集していなかった抗凝固療法ですが、思った以上に様々な検証がされていることを最近知りました。

RNAウィルスはワクチン開発の難易度が高いようで(HCVもHIVもRSVもいまだにワクチンがありません)恐らく少なくとも数年は抗ウィルス療法に期待せねばなりませんが、レムデシビルやアビガンの現状を見る限り、HIV・HCVレベルの劇的な抗ウィルス療法が確立するのはまだまだ先と思われます。

今手元にある武器で戦うという意味で、抗凝固療法・免疫制御による(僅かでも期待する)時間稼ぎ治療というのは、奇想天外な発想に見えて、実は非常に現実的な選択肢のように思えてきます。
雑多ですが重要と思われた、いくつかの凝固線溶系の論文を共有します。
COVID-19における肺局所の血栓傾向は、Pulmonary intravascular coagulopathy (PIC)という概念が提唱されているようです。


J Thromb Haemost. 2020 Apr 19.
・COVID-19院内死亡率を予測するD-dimerの最適Cut-offは2.0µg/mlで、感度92.3%、特異度83.3%だった。
・入院時D-dimer >2.0µg/mlの患者は死亡率が高かった(12/67 vs. 1/267, HR 51.5, 95%CI 12.9-206.7)


Radiology. 2020 Apr 23:201561.
・後方視的に肺動脈相を含む胸部CTを行っていたCOVID-19の患者を解析。
・撮像理由は67/106(63%)が肺塞栓症の疑い、39/106(37%)はその他の理由。
・32/106(30%)に急性肺塞栓が認められた。


J Thrombin Haemostasis. 22 April 2020.
・フランスICUの後方視的観察研究
・ICU入室したCOVID-19患者26名中18名にVTEが見つかった
・予防的抗凝固が行われていた患者では、治療的抗凝固が行われていた患者よりVTEが多かった(100% vs. 56%, p=0.03)


medRxiv. Posted April 10, 2020. [pre-print]
Pulmonary and Cardiac Pathology in Covid-19: The First Autopsy Series from New Orleans
・ニューオーリンズの4剖検例
・全例でびまん性肺胞障害に一致して微小血管のフィブリン血栓、周囲の著しいCD4+の単核球浸潤が認められた
・肺に限局した血栓性微小血管症や、異常NETs形成が疑われる剖検例も含まれた
・すべての症例で二次感染の所見はなかった。


J Thromb Haemost. 2020 May;18(5):1094-1099.
(個人的に最重要な論文です。D-dimer>6でヘパリンが予後改善させる可能性を示しています)
・COVID-19患者449名のヘパリン使用者(N=99)と非使用者(N=350)を比較した
・両群全体で28日死亡率の差は認められなかったが(30.3% vs. 29.7%, p=0.910)、SIC高スコア群(40.0% vs. 64.2%, p=0.029)や、D-dimer高値群(32.8% vs. 52.4%, p=0.017)では死亡率改善が認められた



Br J Thromb Haematol. published:24 April 2020.
・COVID-19の重症度はD-dimer上昇、PT延長など凝固障害と関連しているが、全身性のDICは伴わない
・しかし肺局所ではフィブリン血栓が多発しており、両肺の炎症に伴う肺局所の血栓傾向は、pulmonary intravascular coagulopathy (PIC)と表現すべきDICとは異なる肺特異的血管障害であることが示唆される


bioRxiv. Posted April 23, 2020. [pre-print]
The anticoagulant nafamostat potently inhibits SARS-CoV-2 infection in vitro: an existing drug with multiple possible therapeutic effects.
・セリンプロテアーゼであるTMPRSS2によるSARS-CoV2ウィルス蛋白スパイクの開裂はACE2を介した細胞内侵入に関与する
・このウィルス細胞内侵入はメシル酸ナファモスタットによりin vitroで抑制された
・この効果はメシル酸カモスタットの約10倍で、他の抗血栓薬には認められなかった(エドキサバン、アピキサバン、リバロキサバン、ダビガトラン、アルガトロバン、ダレキサバン)


J Exp Med. 2020 Jun 1;217(6):e20200652
・ARDS患者のBALFや血漿中でNETs(好中球細胞外トラップ)形成が亢進しており、重症度や死亡率と相関する。
・高レベルのNETsは微小血栓を引き起こし、過度の血栓症とも相関する。敗血症モデルマウスでは血管内NETが微小血栓を形成し、肺、肝、等に血栓形成による臓器障害を引き起こした。
・NETとIL-1βの互いに増強するループ形成により、COVID-19の呼吸不全、微小血栓形成、異常免疫反応が加速する可能性がある
・IL-1βがIL-6を誘導することからIL-6 axis Blockadeが有望な治療ターゲットとして注目される
・NETs阻害アプローチとしては好中球エラスターゼ, PAD4,、gasdermin Dの阻害やDNase Iが候補となる


2020年4月18日土曜日

抗CarP抗体:RA-ILDにおける新規自己抗体

実用化されそうなレベルで差が出ている、RA-ILDの新規バイオマーカーの論文です。


Ann Rheum Dis. 2020 May;79(5):587-594. 
Anti-carbamylated Proteins Antibody Repertoire in Rheumatoid Arthritis: Evidence of a New Autoantibody Linked to Interstitial Lung Disease

目的

  • RAにおける抗carbamylated protein抗体(Anti-Carp)とILDの関連を分析する

デザイン

  • 横断研究

対象

  • 2010ACR/EULAR基準を満たすRA

方法

  • HRCTでILDと診断された群(RA-ILD)と、そうでない群(non-RA-ILD)を比較
  • 3つのAnti-CarP-IgG (Anti-FCS、Anti-Fib、Anti-CFFHP)、1つのAnti-CarP-IgA (Anti-FCS-IgA)がELISA法で測定された

結果

  • 179人の患者を登録し、37人(21%)がRA-ILDと診断
  • Anti-CarP抗体陽性はnon-RA-ILDと比較してRA-ILDに有意に多かった
    • Anti-FCS: 92% vs 48%, p<0.005
    • Anti-Fib: 76% vs 58%, p=0.12
    • Anti-CFFHP: 36% vs 18%, p=0.08

  • この差はロジスティック回帰分析を用いて、年齢、罹病期間、ACPA、RF、性別、累積喫煙量で補正しても有意であった
    • Anti-FCS: OR 3.42, 95%CI 1.13-10.40
    • Anti-CFFHP: OR 3.12, 95%CI 1.06-9.14
    • Anti-FCS-IgA: OR 4.30, 95%CI 1.41-13.04

2020年4月11日土曜日

COVID-19に対するレムデシビルの治療成績

日本の施設も参加しているレムデシビルのCompassionate useのまとめがNEJMに掲載されています。
従来治療と比較してとりわけ成績が良いようにも見えませんが貴重なデータです。


N Engl J Med. April 10, 2020
Compassionate Use of Remdesivir for Patients with Severe Covid-19.

  • Background: レムデシビルはSARS-CoV2ウィルスに対するin vitro活性が示されている
  • Design: Opne labelの前向き観察研究(compassionate use)
  • P: 室内気SpO2≤94%または酸素療法が必要なCOVID-19 
  • E: レムデシビル(初日200mg、その後の9日間100mg、計10日間静注)
  • C: なし
  • O: Endpoint設定なし。酸素サポート要件、有害事象、血液検査値、臨床的改善率などを評価

結果

  • 61人を登録、53人のデータを解析可能だった(7名がデータ不足、1名が投与エラーで除外)
  • 40人(75%)が10日間、10人(19%)が5〜9日、3人(6%)が5日未満のレムデシビル投与を受けた
  • 発症からレムデシビル投与までの期間は中央値12日(IQR: 9-15)
  • ベースラインでは30人 (57%)が人工呼吸器、4人(8%)がECMOだった
  • 観察期間中央値は18日(IQR: 12-23)
  • 36/53(68%)が酸素サポートが改善、8/53(15%)が悪化
  • IPPVでは17/30(57%)が抜管、ECMOでは3/4(75%)が離脱した
  • 最終観察時に25/53(47%)が退院、7/53(13%)が死亡
  • 死亡はIPPV患者で16/34(18%)、非IPPV患者では1/19(5%)だった
  • 28日後における臨床的改善(6段階尺度の2以上改善または生存退院)は84%(95%CI 70-99%)
    ※6段階尺度 1:非入院, 2:室内気, 3:酸素あり, 4:NHF or NIPPV, 5:IPPV or ECMO, 6:死亡
  • 有害事象は肝酵素上昇、下痢、発疹、腎障害、低血圧が多かった
  • 重篤な有害事象は12人(23%)に発生し、内訳は多臓器不全症、敗血症性ショック、AKI、低血圧だった

2020年4月5日日曜日

SARS-CoV2の経時的Viability

SARS-CoV2の経時的Viabilityを検討した論文が出ています。
COVID-19を真面目に診療している病院のベッドはもう限界に達しており、早急に新たな退院基準を検討する時期に来ています。退院基準の根拠となりうる非常に重要な論文です。

Nature. 01 April 2020
Virological assessment of hospitalized patients with COVID-2019.
  • 9症例のCOVID-19患者の各検体におけるウィルス学的解析
  • 発症1~5日目の咽頭・鼻咽頭PCRは100%陽性で、平均ウィルス量は6.76x10^5  copies
  • 発症5日目以降の咽頭・鼻咽頭PCRは39.93%陽性で、平均ウィルス量は 3.44x10^5 copies
  • 尿と血清サンプルで陽性のものはなかった
  • 発症1週間以内の咽頭・鼻咽頭の16.66%、痰の83.33%でウィルス培養が陽性だった
  • 発症8日目以降の咽頭・鼻咽頭では高ウィルス量にも関わらず、ウィルス培養は陰性だった
  • Probitモデルによる推定で、発症から培養陰性化までの期間は9.78日 (95%CI: 8.45~21.78)

  • 同様の推定で培養陰性化に相当するウィルス量は、6.51 Log10 (95%CI:-4.11~5.40)
  • 全ての便でウィルス培養は陰性だった(発症6~12日に採取)
  • ウィルスの活発な複製を意味するsgRNAは、咽頭は4/5日目で高く、6/7日目以降は検出されなかった
  • 痰のsgRNAは10/11日目まで持続的に減少しつつも検出され続けた


感想:

ウィルス量と臨床症状、ウィルスのViabilityの相関はかなり悪そうです。Probitモデルの推定でも95%CIは0を跨いでおり、使い物にならない印象です。
想像していたとおりPCR陰性化まで隔離を続ける意味は低そうで、鼻咽頭スワブのウィルス培養が陰性化すると考えられる発症10日目がベッドを有効活用するための退院の目安の一つだと思いますが、痰のウィルス複製がそれを超えてかなり長期間持続している点は気になりました。

2020年3月31日火曜日

AAVに対するRTXメンテナンス BSR: Expert consensus guidelines

BSRからAAVに対するRTXメンテナンスのガイドラインが出ました。Expert consensusということですが、割と強固なエビデンスに基づいた記載もあって勉強になりました。


Rheumatology (Oxford). 2020 Apr 1;59(4):e24-e32.
Rituximab for maintenance of remission in ANCA-associated vasculitis: expert consensus guidelines


1. 維持療法としてRTXをいつ使用すべきか

1.1 新規及び再発GPA/MPA

  • RTXで寛解導入したGPA/MPAで、RTXによる維持療法を推奨する (Level 2b, grade B, vote100%)
  • CYで寛解導入したGPA/MPAで、RTXによる維持療法を推奨する (Level 1b, grade A, vote100%)

1.2 EGPA

  • 維持療法のRTXのエビデンスは不足しているが、GPA/MPAと同様のアプローチを勧める (Level 4, grade C, vote83%)
  • EGPAにおけるRTXの治療反応はGPA/MPAとは異なり、ステロイドの離脱は困難かもしれない

2. AAVにどのRTXメンテナンスレジメンを使用するか

2.1 用量と投与間隔

  • 固定間隔投与で、500mg or 1000mg /body /6 months 2年間使用 (Level 1b, grade B, vote100%)
  • RTX終了後も再発リスクは継続するためモニタリングは継続する必要がある。

2.2 RTXメンテナンスで再発する場合

  • 再発時の治療変更は疾患活動性と臓器病変により決定する (Level 4, grade C, vote100%)
  • 再発時は以下を検討せよ
    • 症状はActivity由来かDamage由来か
    • 代替診断、併存症の有無
    • Disease driver(感染、コカイン使用の有無)
    • 不完全なB細胞除去
  • 可能な治療選択肢
    • 寛解導入の反復(薬剤を変更しても良い)
    • RTX投与間隔の短縮
    • 併用療法(AZA、MMF、MTX等)
    • 臨床研究エントリーを考慮

2.3 RTXメンテナンスの延長

  • 2年の維持療法後も再発リスクの高い患者では維持療法の延長も検討する (Level 5, grade D, vote94.4%)
  • 初回維持療法での再発、ANCAの持続的上昇、再発により臓器・生命の危機が予測される場合が該当する。

2.4 RTXメンテナンスにおけるバイオマーカーの役割

  • AAVにおけるRTX維持療法のガイドとなるバイオマーカー(ANCA、B細胞リターン等)の役割はさらなる研究が必要 (Level 2a, grade B, vote100%)

3. 併用療法

3.1 免疫抑制剤、DMARD

  • 維持療法で免疫抑制剤(AZA, MTX, MMF等)を既に使用している患者にRTXを開始する場合、これらの中止を提案する (Level 4, grade C, vote83.3%)

3.2 ステロイド

  • ステロイドの漸減は、RTX開始後6~12ヶ月での中止を目指すべきである (Level 5, grade D, vote94.4%)

4. 予防

4.1 PCP

  • RTXメンテナンスを行う全ての患者でPCP予防を提案する (Level 4, grade C, vote88.9%)

4.2 ワクチン

  • インフルエンザと肺炎球菌ワクチンは全ての患者に推奨する。生ワクチンは避けるべきである
  • ワクチンはRTX 1ヶ月前の接種が理想だが、タイミング設定が接種を妨げるべきではない (Level 5, grade D, vote100%)

5. 有害事象

5.1 低ガンマグロブリン血症

  • (i) RTXメンテナンスにおいて
    • a. 免疫グロブリンはすべての患者でモニタリングすべきである (Level 2a, grade B, vote100%)
    • b. 非定型感染や感染を繰り返す場合、IgG<300mg/dL (小児では年齢補正する)の場合は精査を推奨する (Level 5, grade C, vote100%)
  • (ii) 低ガンマグロブリン血症でRTXが臨床的に有効な患者では、免疫グロブリン補充の併用を考慮する (Level 5, grade C, vote100%)

5.2 遅発性好中球減少症

  • 臨床医と患者は、RTXによる遅発性好中球減少症の可能性に注意する
  • 合併症のない遅発性好中球減少症の既往でRTX使用を断念する必要はない (Level 4, grade C, vote88.9%)

補足

推奨内容は主にMAINRITSAN試験で得られたエビデンスに基づいています。
  • MAINRITSAN試験でRTXによる維持療法はAZAと比較して有意に優れていることが示された。
  • 28ヶ月後の主要再発率 5% vs 29% (HR 6.61, 95%CI:1.56-27.96, p=0.002)
  • RTXによる維持療法の効果はNNT 4
  • この優位性は60ヶ月後のフォローアップでも持続した

2020年3月28日土曜日

SScに対するACE阻害薬の投与はSRC発症リスクである

個人的にACEiの使用頻度が低いとはいえ、相当驚きの論文です。
RASが著増するいわゆる狭義のSRCだけが含まれているわけではないでしょうし、薬剤そのもの作用とも思えず、因果関係があるようには思えません。恐らく何か交絡因子が複数関与していると思うのですが、よくわかりませんでした。
とはいえ大変重要な知見と思いますので、結果をまとめました。


Arthritis Res Ther. 2020 Mar 24;22(1):59.
ACE inhibitors in SSc patients display a risk factor for scleroderma renal crisis—a EUSTAR analysis

  • Design: EUSTARの前向きコホート
  • Patient: 最低1回の受診歴があり、SRCの既往がないSSc
  • Method: SRC、(動脈性)高血圧、降圧薬、糖質コルチコイド(GC)に関して分析


結果


  • 14524名のSScのうち7648人の患者を解析した
  • 27450人年で102人の患者がSRCを発症し、発症率は3.72/1000人年(95%CI 3.06-4.51)だった
  • SRC初発までの期間の中央値は1.7年(IQR 0.5-4.2)
  • 単変量で有意なSRCリスクは男性(24 vs 14%, p<0.001)、発症初期(3.1 vs 5.2y, p<0.001)、Scl70抗体陽性(46 vs 33%, p=0.001)、びまん型皮膚病変(49 vs 29%, p<0.001)、高血圧(38 vs 20%, p<0.001)、腱摩擦音(17 vs 8%, p<0.001)
  • SRC患者の5年死亡率は18.6%(95%CI: 13.0-26.3%)、non-SRC-SScの5年死亡率は9.5%(95%CI: 8.8-10.3%)
  • ACEiはSRC発症者で有意に多く投与されており(35 vs 18%, p<0.001)、ステロイド、CCB、ARBで有意差は見られなかった
  • このACEiの効果は、Propensity score matching及び確率重み付けを使用して調整したモデルでも同様だった
  • 多変量COX回帰分析で6083人、78人のSRCを解析したところ、有意なリスク因子はびまん性皮膚病変(HR 1.79, 95%CI 1.06-3.02)、高血圧(HR 2.22, 95%CI 1.34-3.66)、ACEi(HR 2.07, 95%CI 1.28-3.36)であった
  •  このACEiのリスクはPropensity score matchingやInverse probability weightingによる調整後も同様だった
  • 2つの最重要リスク要因である高血圧とACEiに相互作用は認められなかった(HR of interaction term 0.83, 95%CI 0.32–2.13, p = 0.69)


結論


  • ACEiはSRC治療の中心的存在だが、発症前の投与は SRC発症の独立した危険因子である
  • ARBはSRC発症リスクの点で、SSc患者の高血圧治療における安全な選択肢かもしれない

2020年3月25日水曜日

COVID-19における嗅覚障害

無臭症を呈したCOVID-19の症例を経験しました。
全くこれまで気にしていませんでしたが、嗅覚障害や味覚障害などの神経症状は5~7%程度に見られる比較的common presentationのようです。
嗅神経に発現したACE2受容体を介したCNSへの侵入が示唆されており、これにより呼吸停止などの延髄障害が起きるのではないかとの意見もあるようで大変興味深いです。
せっかくなので関連論文をまとめてみました。


medRxiv. Posted February 25, 2020.
Neurological Manifestations of Hospitalized Patients with COVID-19 in Wuhan, China: a retrospective case series study.
  • PCRで診断したCOVID-19患者214名(うち重症88名)を解析
  • 神経筋症状が78名(36.4%)に認められた
  • 内訳は、めまい16.8%、頭痛13.1%、筋障害10.7%、意識障害7.5%、味覚障害5.6%、嗅覚障害5.1%
  • 重症例で神経筋症状の合併が多く (45.5% vs 30.2%, p<0.05)、特に筋障害(19.3% vs 4.8%)、意識障害(14.8% vs 2.4%)、脳卒中(5.7% vs 0.8%)が多かった



J Virol. 2008 Aug; 82(15): 7264–7275.
Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus Infection Causes Neuronal Death in the Absence of Encephalitis in Mice Transgenic for Human ACE2
※「SARS-CoV2」ではなく「SARS-CoV」の in vivo データです
  • SARS-CoVを鼻腔内感染させたマウスで、ウイルス抗原は60〜66時間まで検出されないが、この時点で嗅球および嗅球に接続した脳領域にウィルスが検出された
  • さらに6〜12時間後、ウイルス抗原が脳全体に検出された
  • 主に嗅覚神経を介して脳にウィルスが入ったことが示唆された
  • 鼻腔内感染させたマウスでは4日目までに瀕死となり、組織学的に誤嚥性肺炎が観察された
  • 4日目を超えて生存したマウスでは、ウイルスが除去された領域にニューロンの喪失が伴っていた



ACS Chem Neurosci. 2020 Mar 13. [Epub ahead of print]
Evidence of the COVID-19 Virus Targeting the CNS: Tissue Distribution, Host-Virus Interaction, and Proposed Neurotropic Mechanisms.
  • SARS-CoV2ウィルスはACE2受容体を介して体内へ侵入する
  • ヒトのグリア細胞とニューロンにはACE2受容体が発現している
  • 急性期COVID-19患者の脳脊髄液中にウィルスが存在することが示されている
  • COVID-19における神経症状が、嗅球を介したウィルスのCNS侵入による可能性を示唆している



J Med Virol. 2020 Feb 27.
The neuroinvasive potential of SARS-CoV2 may play a role in the respiratory failure of COVID-19 patients.
  • 感染の初期段階で感染した脳領域の非神経細胞でウイルスがほとんど検出されないため、血行性やリンパ行性の侵入は否定的と考えられている
  • SARS-CoV2が最初に末梢神経終末に侵入し、次にシナプス接続ルートを介してCNSにアクセスする可能性を示す証拠が増えている
  • ウイルス抗原は疑核・孤束核を含む脳幹で検出される
  • 孤束核は肺・気道の感覚性求心線維の入力、疑核・孤束核からの遠心性線維は気道平滑筋、腺、血管の神経支配に関与していることから、死因の一つに脳幹の心肺機能不全が考えられている(文献は見つけられませんでしたが、突然の呼吸停止などが見られることがあるようです)

2020年3月23日月曜日

COVID-19に対するファビピラビルの有効性

Retrospectiveではありますが、ついにアビガン(R)のまとまったデータが中国から報告されました。
ただし相当に濃厚なSelection biasが入っていると考えます。解釈は慎重になる必要がありそうですが、有効手がない現状で最も期待が持てる薬剤の一つであるとは言えそうです。


Engineering. 2020 March 18
Experimental Treatment with Favipiravir for COVID-19: An Open-Label Control Study.


  • Design: Open-label, One arm の症例対照研究
  • P: 16-75歳の発症7日以内のCOVID-19(除外基準:RR>30/min、SpO2<93%、P/F<300、ICU入室等の重症例)
  • I: ファビピラビル(初日1600mg 2回、600mg 2回 14日間)
  • C: ロピナビル/リトナビル(400mg/100mg、1日2回 14日間) Historicalに登録
  • O: 胸部CT所見の変化、ウィルス除去までの期間、安全性
  • ※ 両群ともインターフェロンα吸入(500万単位1日2回)が併用された


結果


  • 56症例からファビピラビル群に35例、 91症例からロピナビル/リトナビル群に45例が登録された
  • ファビピラビル群のウイルス排泄期間は、対照群と比較して有意に短かった (中央値4日 IQR 2.5–9 v.s. 11日 IQR 8–13, p<0.001)
  • ファビピラビル群のCT所見は、day4, 8では有意差無し、day14では有意に改善した(改善率91.43% vs 62.22%, p=0.004)
  • 多変量ロジスティック回帰分析で胸部CTの改善と関連する因子は、ファビピラビル投与 (OR 3.190, 95%CI: 1.041–9.78)、発熱 (OR 3.622, 95%CI: 1.054–12.442)だった
  • 多変量COX比例ハザードモデルでviral clearanceと関連する因子は、T細胞数 (HR 1.002, 95%CI: 1.000–1.005)、ファビピラビル投与 (HR 3.434, 95%CI: 1.162–10.148)だった
  • 有害事象はファビピラビル群で有意に少なかった (11.43% vs 55.56%, p<0.001)

2020年3月22日日曜日

COVID-19に対するロピナビル/リトナビルの有効性

COVID-19に対するカレトラ(R)のRCT結果がPublishされました。
ネガティブデータですが重要な示唆であり、しっかりとした試験デザインで有効性がほぼ否定的になったと考えてよいと思われます。現時点では治療選択肢からは外れるか、もしくはかなり順位が下がったと考えるのが妥当でしょう。


N Engl J Med. 2020 March 18
A Trial of Lopinavir–Ritonavir in Adults Hospitalized with Severe Covid-19.


  • Design: Open-label RCT
  • P: SaO2≤94% or P/F<300を満たすCOVID-19
  • I:  標準治療+ロピナビル/リトナビル(1~14日目:400mg/100mg1日2回)
  • C: 標準治療のみ 1:1割付
  • O: 0-7点尺度で2ポイントの改善または退院(いずれか早い方)


結果


  • 199名がエントリーし、99名がロピナビル/リトナビル群、100名が対照群に割り付けられた
  • 臨床的改善率は、ロピナビル/リトナビル群と対照群で明確な差はなかった (HR 1.24、95%CI: 0.90-1.72)
  • 28日死亡率は両群同等だった(19.2% vs 25.0%; 差−5.8% 95%CI: -17.3~+5.7)
  • ICU入室期間中央値はロピナビル/リトナビル群で短かった (6日 vs 11日、差5日、95%CI: -9~0日)  
  • 投薬から退院まではロピナビル/リトナビル群で短かった (12日 vs 14日、差1日、95%CI: 0~3日)
  • day14における臨床的改善率はロピナビル/リトナビル群で高かった (45.5% vs 30.0%; 差15.5% 95%CI: 2.2-28.8)
  • 両群の咽頭スワブのviral loadは経過中に一貫して差がなかった
  • 有害事象は、ロピナビル/リトナビル群で消化器症状が多く、標準治療群ではARDS、AKI、二次感染などのSAEが多かった

2020年3月18日水曜日

SARS-CoV2のエアロゾル・環境表面における安定性

結構環境で安定しているようですので、やはりエアロゾル対策、接触感染対策が重要です。
Figureがキレイでわかりやすいので、ぜひ御覧ください。


N Engl J Med. 2020 March 17
Aerosol and Surface Stability of SARS-CoV-2 as Compared with SARS-CoV-1
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2004973

  • エアロゾル中や環境表面上のSARS-CoV-2の安定性を評価し、ベイジアン回帰モデルでその減衰率を推定した
  • エアロゾル中のSARS-CoV-2は、実験中の3時間を通じてviableな状態が保たれ、感染力価も保持した
  • SARS-CoV-2は銅や段ボールより、プラスチックやステンレス鋼でより安定していた
  • viableなウィルスが検出されなくなるのは、銅では4時間後、ダンボールでは24時間後、ステンレス・プラスチックでは72時間後だった
  • SARS-CoV-2のエアロゾル中の半減期は中央値で1.1〜1.2時間(95%CI 0.64〜2.64)
  • これらの結果はSARS-CoV-2が、エアロゾル感染及び接触感染することが十分ありえることを示す

2020年3月15日日曜日

ANCA関連血管炎に対するC5a受容体阻害薬アバコパンの効果

アバコパンのPSL freeを検討したPilot studyを今更ながら読んでみたので、ご存じの方が多いかもしれませんが備忘録的に共有します。
この結果を受けてPhase3 (N=300)が始まったようで、Study自体は2018年に既に終了しており、まもなく結果も発表されるようです(JMIR Res Protoc. 2020 Feb 3. doi: 10.2196/16664. [Epub ahead of print] )。
2020年第1四半期までに結果がリリースされるのではないか、と書いてあります。


J Am Soc Nephrol. 2017 Sep;28(9):2756-2767.
Randomized Trial of C5a Receptor Inhibitor Avacopan in ANCA-Associated Vasculitis.


  • Design: Double blind RCT
  • P: ANCA陽性MPA/GPA(RPGN、低酸素のある肺胞出血、急性多発単神経炎、CNS病変は除外)
  • I: アバコパン(30mg 1日2回)+PSL20mg/day、またはアバコパン(30mg 1日2回) 単独
  • C: プラセボ+PSL60mg/day(1:1:1の3群比較)
  • O: 12週時のBVAS 50%減少かつ新規病変なしの達成率
  • 補足:すべての患者にCYまたはRTXが併用された


結果


  • 67名が登録され、高用量群23名、減量群22名、PSL free群22名に割り付けられた
  • 主要エンドポイントは、高用量群14/20 (70.0%)で達成された
  • 減量群では19/22 (86.4%)で達成され、対照との差は16.4%だった(90%CI −4.3% - +37.1%; 非劣性の場合P=0.002)
  • PSL free群では17/21 (81.0%)で達成され、対照との差は11.0%だった(90%CI -11.0% - +32.9%; 非劣性の場合P=0.01)
  • 有害事象の発生率は、 高用量群21/23 (91%)、減量群19/22人 (86%)、 PSL free群21/22 (96%)


補足


  • 重症例が除外されており、腎炎の患者がほとんどです
  • Table3がAEですが、アバコパン投与群には血管炎(元病増悪?)、白血球減少、高血圧が多く見えます

2020年3月14日土曜日

重症ANCA関連血管炎に対する血漿交換の意義(PEXIVAS trial)

全身性血管炎の寛解導入戦略における極めて重要なRCTの結果が論文化されました。
金字塔的studyになると思われますので、真面目に隅々まで読んでみました。


N Engl J Med. 2020 Feb 13;382(7):622-631.
Plasma Exchange and Glucocorticoids in Severe ANCA-Associated Vasculitis.


  • デザイン:Open-label RCT
  • 対象:ANCA陽性のGPA/MPAで、肺胞出血またはeGFR<50の腎病変を伴う患者
  • 介入:血漿交換あり・なし、ステロイド標準用量群・低用量群、2x2の4群を比較
  • 主要エンドポイント:1年時点の全死亡及び腎死
  • 二次エンドポイント:全死亡、腎死、持続的寛解、SAE、重篤な感染


統計解析


  • 164イベントにおける血漿交換のHR 0.64を想定し、両側α=0.05、検出力80%を設定
  • ステロイド用量による解析は、非劣性マージン11%、片側α=0.05、検出力80%を設定
  • 血漿交換はITT解析、ステロイド用量はPer-protocol解析された


治療プロトコル


  • ランダム化の前にIVCY、POCY、RTXの選択を主治医の裁量で行った
  • 全例mPSL pulse 1g 1~3日で治療開始
  • ステロイド標準容量群は、いわゆるBSRの減量プロトコルやRAVE試験と同じ
  • 減量群は2週目以降の投与量が標準用量群の半分(15週で5mgまで減量される)
  • 血漿交換は60ml/kg(実体重)のアルブミン置換で、隔日にて14日間施行
  • 出血リスクが高い場合は血漿交換終了後にFFP投与を行った


結果


  • 16か国、95センターで704人を登録、フォローアップ期間中央値は2.9年
  • 血漿交換352人、血漿交換なし352人、ステロイド減量群353人、標準用量群351人に割り付けられた
  • 死亡または腎死は、血漿交換群100/352 (28.4%)、対照群109/352 (31.0%)で有意差なし(HR 0.86; 95%CI 0.65-1.13, P=0.27)
  • 死亡または腎死は、減量群92/330 (27.9%)、標準用量群83/325 (25.5%)で非劣性を証明(絶対リスク差 -2.3%; 95%CI -4.5〜9.1)
  • 重篤な感染は1年間で、減量群96人(27.2%)142回、標準用量群116人(33.0%)180回と、減量群に有意に少なかった(IRR 0.69; 95%CI 0.52-0.93)

感想

残念な結果ですが、血漿交換のKaplan-Meier曲線を見ると少し差があるようにも見えます。

アルブミン置換なので肺胞出血の出血傾向に悪影響を与えたかもしれないことや、ただでさえ厳しいエンドポイント設定の中で、血漿交換のHRを0.64とかなり厳しめ目標を想定したデザインにより十分な検出力を担保できず、有意差が出なかったのではという懸念が残るように思います。

また二次エンドポイントも含めて寛解導入のスピードは検討されていません。もし早く寛解導入する効果があればCr doubling timeが延長することも期待できるので、Cr 2倍などを加えたソフトエンドポイントを検証しても良かったのでは、と思いました。

そもそも血漿交換に腎死・全死亡を4割も改善する効果があるとは思えないので、もう少し現実的な研究デザインでも良かったような印象を受けます。血漿交換は費用対効果や人的コストがイマイチなので、できれば省略したいという意図なのかもしれませんが。

個人的には「血漿交換は重症例全てに使用する断定的な根拠はなくなったが、少しでもadditive effectが欲しい勝負どころの症例では引き続き使用を検討してもよいのではないか」と解釈しました。

ステロイドはこれまで減量群と標準群の中間くらいのスピードで減量していたのですが、もっと早く減らすこともできるのでしょうね。

2020年3月8日日曜日

レテルモビルの薬理作用と臨床効果

先日、レテルモビルを飲んでいる患者にアシクロビルでヘルペス予防する必要があるのか議論になり、せっかくなので根拠についても色々調べてみました。
結論を先に書くと「レテルモビルはHSV、VZVに効果がない」ということになります。


PMDAに提出されたMSD株式会社のレテルモビル基礎検討資料より
https://www.pmda.go.jp/drugs/2018/P20180402006/170050000_23000AMX00455_H100_1.pdf

概要


  • 既存の抗CMV薬(ガンシクロビル、バラガンシクロビル、ホスカルネット)はDNAポリメラーゼの阻害を介して作用するが、レテルモビルはウイルスのターミナーゼ複合体を阻害することで抗ウィルス作用を発揮する。
  • ターミナーゼ複合体は哺乳類には存在しないため、理論上は副作用が少ないと考えられる。
  • レテルモビルはCMV-DNAの複製を抑制できないが、感染性粒子の産生を抑制することで抗ウィルス作用を発揮する。


レテルモビルの抗ウィルス作用はCMV選択的である

各種ウィルスに感染した培養細胞を用いたin vitro実験で、VZV、HSV-1、HSV-2、マウスCMV、ラットCMV、HHV-6、EBV、ヒトアデノウィルス、HBV、HIV、HCV、インフルエンザA、いずれのウィルスにも抗ウィルス活性を持たず、ヒトCMVに選択的な抗ウィルス薬であることが示された。


レテルモビルと抗HIV薬はお互いの抗ウィルス効果に影響を与えない

HIV及びCMVに感染した培養細胞を用いたin vitro実験で、 レテルモビルと抗HIV薬を加えて培養すると、いずれもEC50の2.5倍を超える変動はなく、同時に使用した場合の相互の抗ウィルス作用には影響しないと考えられた。
(抗HIV薬は、FTC, TDF, EFV, ETR, NPV, RPV, ATV, DRV, LPV, RTV, RAL, ELVを使用)


レテルモビルの第3相試験

ついでなのでこれも読みました。

N Engl J Med. 2017 Dec 21;377(25):2433-2444
Letermovir Prophylaxis for Cytomegalovirus in Hematopoietic-Cell Transplantation


  • Design: double-blind RCT
  • P: 18才以上のAllo-HSCT予定でCMV-seropositiveの患者
  • I: レテルモビル 480mg/day (シクロスポリン投与中は240mgに減量) 移植後14週間投与
  • C: プラセボ (実薬:プラセボ=2:1)
  • O: 主要エンドポイントはCMV disease、またはpre-emptive治療が必要なCMV抗原血症

結果

  • 738名の組入患者のうち、495名がランダム化され解析対象となった。
  • 移植後24週までの主要エンドポイントは レテルモビル群122/325 (37.5%)、プラセボ群103/170 (60.6%)で、 レテルモビル群に有意に少なかった (P<0.001)
  • CMV diseaseはレテルモビル群の1.5%、プラセボ群の1.8%であり、主要エンドポイントは主にCMV抗原血症によって規定されていた
  • 有害事象の頻度と重症度は、両群でほぼ同じだった
  • 24週の全死亡率はレテルモビル群で有意に低かった (10.2% vs 15.9%, p=0.03) が、48週の全死亡率はレテルモビル群で低いものの有意ではなかった (20.9% vs 25.5%, p=0.12)
  • 移植高リスク群と低リスク群におけるpost-hoc解析では、レテルモビルによるCMV予防効果が同等にも関わらず、高リスク群のレテルモビル投与の死亡率減少効果が顕著であること、死亡率の上昇が臨床的に重度のCMV感染の存在と関連していることより、他のCMV治療薬(ガンシクロビル等)を回避することによるメリットが推定された。

2020年3月7日土曜日

COVID-19患者の病室内環境汚染

シンガポールからの短報です。Primitiveなデータであり、Table2だけ見ればOKかと思います。
これまで散々推測されている通り、COVID-19は接触感染がかなり重要な感染経路と考えられ、インフルエンザ以上に接触感染対策、環境清掃、手指衛生が重要になりますね。


JAMA. 2020 Mar 4.
Air, Surface Environmental, and Personal Protective Equipment Contamination by Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 (SARS-CoV-2) From a Symptomatic Patient


方法


  • SARS-CoV-2アウトブレイクセンターで、控え室と浴室を備えた空中感染隔離室の3人の患者で26箇所の表面環境サンプルを採取し、SARS-CoV2のRT-PCRを行った


結果


  • ルーチン清掃後に採取された患者A,Bの環境サンプルは全て陰性だった
  • ルーチン清掃前に採取された患者Cのサンプルは、病室内の15箇所中13箇所、トイレの5箇所中3箇所(ドアノブ、便器を含む)でSARS-CoV2が検出された
  • 環境汚染の程度に関わらず、空気サンプルは陰性だったが、患者Cの排気口は陽性だった

Limitation

  • ウィルス培養を施行しておらずViabilityは不明
  • 採取プロトコルが一定でなく、サンプルサイズも小さかった(特に空気は希釈されている可能性が高い)

2020年3月6日金曜日

性と生殖に関するACRガイドライン2020

リウマチ性疾患(RMD: Rheumatic and Musculoskeletal Diseases)における、性と生殖に関するACRガイドライン2020が出ました。

MMFはホルモン避妊薬の有効性を低下させる、体外受精は卵巣刺激中のエストロゲン濃度上昇により血栓リスクが高度に懸念される、など、知らないことが多かったので、とても勉強になりました。
例によって時間のない方はFigure1,2だけ見れば良いかもしれません。


Arthritis Rheumatol. 2020 Feb 23.
2020 American College of Rheumatology Guideline for the Management of Reproductive Health in Rheumatic and Musculoskeletal Diseases
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/art.41191

避妊法

  • Non-SLEのRMDでは、効果の低い避妊薬や避妊なしより、ホルモン避妊薬やIUDの使用を推奨する
  • aPL(-)の低活動性SLEでは、避妊なしよりも効果的な避妊薬(ホルモン避妊薬やIUD)の使用を強く推奨する
  • SLEでは経皮エストロゲン-プロゲスチンパッチを使用しないことを推奨する
  • 腎炎を含む中~重度活動性のSLEでは、エストロゲン含有避妊薬の臨床データが乏しいため、プロゲステロン避妊薬かIUDの使用を強く推奨する
  • aPL陽性者は合併症の有無に関わらず、エストロゲンを含む避妊薬は血栓リスク増大のため禁忌
  • aPL陽性者ではDMPAを除くプロゲステロン避妊薬は使用できるが、避妊効果は劣る
  • ステロイドや基礎疾患に伴う骨粗鬆症リスクが高い場合、DMPAを避けることを検討する
  • MMFは血清エストロゲン及びプロゲステロンレベルを下げる可能性があるため、ホルモン避妊薬の有効性が妨げられる懸念がある
  • MMF服用者は、IUD単独または他の2つの避妊方法の併用を検討する

生殖補助療法(ART)  

  • 妊娠適応薬を服用下に疾患活動性が安定した、aPL(-)で合併症のないRMDでは、必要に応じてARTを行って良い
  • 中~重度活動性のSLEでは、妊娠リスクが高い懸念からARTを延期することを推奨する
  • ART処置中のSLEでは、経験的なステロイド増量を検討しても良い
  • ART処置中の無症候性aPL陽性者では、ヘパリンまたは低分子量ヘパリンによる予防的抗凝固療法を検討する
  • 状態が安定しているRMDで卵母細胞または胚の凍結保存の際、免疫抑制剤・生物学的製剤の継続を強く推奨する(シクロフォスファミドは除く。MTXは継続して良い)

妊孕性

  • IVCYを行う閉経前RMDの卵巣機能不全予防のため、毎月のGnRHアゴニスト療法を検討してよい
  • 男性の健児を妊娠する生殖能力保全のため、CY治療前の凍結精子保存を希望する場合は行うことを強く推奨する

閉経後ホルモン療法(HRT)

  • aPL(-)のSLE患者では、重度の血管運動症状に対するHRTの希望がある場合、考慮しても良い(ループスフレアのリスクがわずかに増加するため条件付き推奨となっている)
  • 無症候性aPL陽性者では、HRTを行わないほうが良い
  • obstetric and/or thrombotic APSでは、HRTを行わないことを強く推奨する
  • 抗凝固療法中のAPSやaPLが陰性化しているAPSも、HRTを行わないほうが良い
  • aPL陽性の既往がある、現在は陰性化している無症候性陽性者は、HRTの希望がある場合、検討しても良い

2020年3月4日水曜日

免疫チェックポイント阻害剤による炎症性関節炎

免疫チェックポイント阻害剤(ICI)による炎症性関節炎の前向き観察研究です。
腫瘍内科医、リウマチ医、いずれにとっても好ましい結果が得られていると思われ(それがバイアスの可能性がありますが)、とりあえず治療のプラクティスは変える必要がなさそうですね。


Immune checkpoint inhibitor-induced inflammatory arthritis persists after immunotherapy cessation.
Ann Rheum Dis. 2020 Mar;79(3):332-338.

デザイン


  • 前向き観察研究


方法


  • 対象はICI関連炎症性関節炎で、元々リウマチ性自己免疫疾患がある患者は除外
  • 関節炎持続に関する因子をCOX比例ハザードモデルを用いて解析
  • 関節炎治療の腫瘍反応性に対する影響をロジスティック回帰分析で解析


結果


  • 60人の患者を登録し、ICI中止後の追跡期間中央値は9ヶ月だった
  • 血清反応陰性関節炎が大半だった(RF 1.8%, CCP 5.5%, ANA 14.3%)
  • 最終観察時点において53.3%の患者で活動性関節炎が持続していた
  • 関節炎の持続は、複数のICIで治療していること、他のirAEの存在、腫瘍反応性が良好であることと関連していた
  • 関節炎治療薬の選択(ステロイド、csDMARD、Biologics、NSAIDs)による腫瘍反応性の低下との関連は見いだせなかった

2020年3月1日日曜日

COVID-19の死亡予測スコアリング

Preprintながら興味深い論文です。
多変量解析から作成した死亡予測スコアリングです。


ACP risk grade: a simple mortality index for patients with confirmed or suspected severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 disease (COVID-19) during the early stage of outbreak in Wuhan, China
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.02.20.20025510v1

方法

  • 2020年1月21日~2月5日まで、COVID-19が疑われた武漢市漢口医院の入院患者を後ろ向きに解析(N=577)
  • 多変量解析を用いて死亡予測インデックスを作成

結果

  • 60歳以上、CRP ≥ 3.4mg/dL 33.2%(95%CI: 19.8-44.3)
  • 60歳以上、CRP < 3.4mg/dL 5.6%(95%CI: 0-11.3)
  • 60歳未満、CRP < 3.4mg/dL 0%

感想

単変量で有意だった基礎疾患やリンパ球減少などが軒並み多変量で消えてしまい、残念ながら疾患非特異的パラメータだけになってしまっていますが、CRPが上がらない人は安心ということは言えそうです。

2020年2月29日土曜日

COVID-19のARDSと死亡例の解析

ARDS 53例の検討と、死亡例82例の検討がmedRxivに投稿されています。
大変有用な内容ですが、いずれも査読前のreprintですのでご注意ください。


Clinical features and progression of acute respiratory distress syndrome in coronavirus disease 2019
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.02.17.20024166v3

  • 2020年1月2日~2月1日に武漢中央病院に入院したCOVID-19患者109人を後方視的に解析
  • 53人(48.6%)がARDSに進展
  • ARDS群ではnon-ARDS郡と比較し、高齢(61歳 vs 49歳)、糖尿病(20.8% vs 1.8%)、脳血管疾患(11.3% vs 0%)、CKD(15.1% vs 3.6%)が有意に多かった
  • リバビリン、ウミフェノビル、オセルタミビル、ステロイド、IVIGの有無は生存率に寄与しなかった

補足:単変量ですが治療はKaplan-Meier曲線があるので、ぜひ原文Figureを御覧ください


Clinical characteristics of 82 death cases with COVID-19
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.02.26.20028191v1

  • 中国人民大学病院の単施設におけるCOVID-19の死亡者82例を解析
  • 全例武漢の住民で、入院時にほとんどが重症だった
  • 男性65.9%で、60歳以上が80.5%、年齢中央値は72.5歳
  • 合併症は高血圧56.1%、心疾患20.7%、糖尿病18.3%、脳血管疾患12.2%、癌7.3%
  • 死因は呼吸不全69.5%、敗血症/多臓器不全20.8%、心不全14.6%、
  • 入院時の所見として、リンパ球減少89.2%、好中球増多74.3%、血小板減少24.3%、好中球/リンパ球比率が5以上 94.5%、CRP上昇100%、LDH上昇93.2%、D-ダイマー上昇97.1%、IL-6上昇(>10pg/ml) 100% であった
  • 症状出現から死亡までの期間の中央値は15日(IQR 11-20日)だった
  • 症状出現から死亡までの期間と有意な関連があった項目は、AST・ALTだった


2020年2月24日月曜日

COVID-19に対するロピナビル/リトナビルとアビドールの有効性について

中国の医学雑誌にカレトラのレトロスペクティブの検証結果が出たようですのでご紹介します。
残念ながら思ったほど効果が出ていないようです。

中华传染病杂志, 2020,38(00) : E008-E008.
洛匹那韦利托那韦和阿比多尔用于治疗新型冠状病毒肺炎的有效性研究
http://rs.yiigle.com/yufabiao/1182592.htm

方法

  • 2020/1/20~2/6に上海Public Health Clinical Centerで治療を受けた134人の臨床データを後方視的に収集し解析した
  • 全ての患者はIFN-α2b吸入と対症療法を受けた
  • 52例がロピナビル/リトナビル、34例がアビドール、48例が抗ウイルス薬なし
  • 7日目の有効性を、Kruskal -Wallis検定またはカイ2乗検定で比較

結果

  • 134人の患者を解析し、男性69人、女性65人、年齢平均は48歳(35~62歳)
  • アビドールまたはロピナビル/リトナビル群の解熱までの期間の中央値は入院後6日で、対照群は4日と有意差は認めなかった(χ2= 2.37、P=0.31)
  • 呼吸器検体PCR陰性化までの時間の中央値は3群全て入院7日後で、ロピナビル/リトナビル、アビドール、対照群の入院7日後のPCR陰性率は、各々71.8% (28/39)、82.6% (19/23)、77.1% (27/35)で有意差なし(χ2= 0.46、P=0.79)
  • 7日目におけるX線悪化は3群に同等の割合で観察され、各々42.3% (n=22)、35.3% (n=12)、52.1% (n=25)(χ2= 2.38、P=0.30)
  • 有害事象発生率は3群で各々17.3% (n=9)、8.8% (n=3)、8.3% (n=4)(χ2= 2.33、P=0.33)

結論

この研究においてロピナビル/リトナビル及びアビドールは、症状緩和やウイルス除去促進に効果を示さなかった。


2020年2月21日金曜日

中国のCOVID-19大規模コホート

中国CDCによるCOVID-19の大規模なレポートが出ています。
N=72314と、これまでのレポートとは桁違いの大規模コホートです。
Main figureはTable1ですので、時間のない方はそこだけどうぞ。


Vital Surveillances: The Epidemiological Characteristics of an Outbreak of 2019 Novel Coronavirus Diseases (COVID-19) — China, 2020
China CDC Weekly

方法

  • 2020年2月11日までにCOVID-19と診断された中国の全症例を解析
  • 重症度は以下の定義
    • 軽症:肺炎がないか軽度
    • 重症:呼吸困難、呼吸数≥30回/分、SpO2≤93%、P/F比<300、24-48時間以内に>50%の肺浸潤影
    • 重篤:呼吸不全、敗血症性ショック、多臓器機能不全

結果

  • 72314患者が登録され、44672名(61.8%)の確定症例、16186名(22.4%)の疑い症例、10567名(14.6%)の臨床診断(湖北省のみ)、889件の無症状病原体保有者(1.2%)が含まれた
  • 確定症例の殆どは30~79歳(86.6%)で、軽症が80.9%、死亡率は2.3%
  • 流行曲線は1月23~26日頃にピークに達し、その後2月11日まで減少した
  • 1716人の医療従事者が感染し、5人が死亡した(0.3%)


補足:

60代以降で致死率が跳ね上がることと、検査が確立していくにつれて軽症例も診断されるようになったため、最終的な死亡率は1%を切っているということろがポイントかと思います。

それにしても中国CDCの実力は恐ろしく、混乱のさなかにこれだけのレポートを上げて、論文も大量に出して、複数のRCTまで走らせており、日本も見習わなければならないと思います。

2020年2月16日日曜日

COVID19の診断と治療

COVID19の臨床像と対処法がわかりやすくまとめられた、中国のガイドラインがとても参考になったので紹介します。
CT画像がたくさん掲載されているので、時間がない方はリンク先の写真だけでも見ると参考になるかと思います。


Mil Med Res. 2020 Feb 6;7(1):4.
https://mmrjournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/s40779-020-0233-6

疫学

  • ヒトーヒト感染するウィルスで、主な伝播経路は飛沫による呼吸器感染
  • 潜伏期間は3〜7日で最大14日、SARSと異なり潜伏期間中にも感染性を有する
  • ほとんどは予後良好で少数が重篤化するが、小児の症状は比較的軽度
  • 死亡例は高齢や慢性疾患(糖尿病、高血圧、心疾患)を有する者で多く認められる

症状・診断

  • 主な症状は発熱、疲労、乾性咳嗽、呼吸困難で、鼻汁・鼻閉等の上気道症状が見られることもある
  • 典型的なCT画像は、両肺の 区域性・亜区域性分布する多発性・斑状すりガラス陰影
  • 白血球数はやや減少、リンパ球数が減少、単球はやや増加することが多い
  • ほとんどの重症患者でD-dimerが著増し、凝固障害と末梢血管の微小血栓形成を伴っていた

治療

  • 薬物治療でエビデンスのあるものはない
  • IFN-α吸入(500万単位 1日2回)は弱い推奨
  • SARS/MERSで重症化抑制効果のあったロピナビル+リトナビルはRCTで検証中
  • ステロイドはcontroversial


2020年2月15日土曜日

HAV/HBVワクチンの互換性


Clinical question:海外でAvaxim、Engerixを打った方の続きの接種をどのように行うべきか


タイでHAVワクチンを1回、HBVワクチンを2回接種した方が、HAVの2回目とHBVの3回目を打ちたいと小生の外来を受診されました。
HAVはAvaxim、HBVはEngerixを使用していましたが、いずれも当院で扱っていないのでワクチン間の互換性について調べてみました。

Engerixとヘプタバックス(海外名:Recombivax HB)は互換性あり、とPinkbookにも記載されておりますので、ヘプタバックスに切り替えて良いと思うのですが、Avaximは米国で承認されていないため、Pinkbookには記載がないようです。
なお国産のエイムゲンは勿論、互換性の検証はされていません。

英国のGreenbookに、AvaximとHavrixとVaqtaは互換性があるという記載を見つけました。
http://media.dh.gov.uk/network/211/files/2012/07/chap-17.pdf
"Four monovalent vaccines are currently available, ...These vaccines can be used interchangeably."

この記載の根拠論文は以下の2つのようでした。
Vaccine. 2000 Nov 22;19(7-8):743-50.
Vaccine. 2001 Aug 14;19(31):4429-33.

上がHavrixとVaqtaのRCTで、下がAvaximとVaqtaのRCTです。
いずれのStudyも2回目でそれぞれ別の製剤に切り替える群と比較していますが、上は4週後、下は26週後にどの群も抗体獲得率が100%になっています。
HavrixとVaqtaはinterchangable、AvaximとVaqtaはinterchangableということになりますが、HavrixとAvaximを互換性ありと判断してよいのでしょうか? 少し疑問です。

interchangableの interchangableは 厳密にはinterchangableではないと思いますが、恐らく interchangableであろうという推測はできるので、事実上はinterchangableとみなして記載されているのだと思われます(ゲシュタルト崩壊)。


最後におまけの考察です。
ご存知のようにHavrixとTwinrixとEngerixはいずれもGSKが販売元で、含まれている抗原は同じであり、A型の抗原量だけが異なるとのことでした。
(Havrix Adult 1440EI.U、Engerix 20μg、Twinrix = Havrix 720EI.U+Engerix 20μg)

この患者さんの最後の接種としてTwinrixは普通は使わないと思いますが、一応興味で互換性があるのか調べてみたところ、以下のRCTを見つけました。

Vaccine. 2000 Aug 15;19(1):16-22.
1(1+2)回目をHavrix+Engerixで接種し、2(3)回目をTwinrixに切り替えても、7ヶ月後のHAV/HBVの抗体獲得率はいずれも100%だったとのことです。
2回目はBoostなので抗原量が少なくてもあまり問題ないということでしょうか。


Answer:ヘプタバックスとHavrixで続きの接種を行って良い(エイムゲンはダメ)。


2020年2月3日月曜日

チクングニア関節炎のメカニズム

先日、チクングニア熱の症例を経験しました。
後輩にチクングニア関節炎のメカニズムについて質問を受けましたが、あまり深く考えたことはなく、いい機会なので調べてみました。


ウィルスによる関節炎は広義の反応性関節炎と理解できます。
関節炎のメカニズムは、主に3つあるとのこと(UpToDate:"Viruses that cause arthritis"

  1.  ウィルスの直接侵入による炎症
  2.  ウィルス関連抗原との免疫複合体形成
  3.  ウィルスの持続感染による炎症(動物モデルのレンチウィルス感染のみのようです)

1はパルボウイルス、エンテロウイルス、アルファウイルス、
2はHBV、HCV、アルファウィルス、パルボウィルス、とのことです。
チクングニアはアルファウィルス属なので両方あり得るようです。

実際、チクングニア慢性関節炎患者の滑膜マクロファージから、チクングニアウィルスのRNAや蛋白発現が確認できるそうです。
・J Immunol. 2010 May 15;184(10):5914-27.
・PLoS ONE. 2007;2:e527.


チクングニア関節炎のメカニズムに関する論文をいくつか読んでみました。以下、ショートサマリーです。

Sci Transl Med. 2017;9(375)
チクングニア関節炎はCD4+T細胞を介して関節炎を起こすことを示した論文

  • ウィルス抗原の提示を受けるためのT細胞受容体(TCR)を欠損したTCRノックアウトマウスは、チクングニアウィルスに感染しても関節炎は起こさない
  • チクングニアに感染した野生型マウスのCD4+T細胞を輸注することで、TCRノックアウトマウスにも関節炎が起きる


J Virol. 2015;89(1):581. Epub 2014 Oct 22.
チクングニア関節炎の骨破壊の病態を患者サイトカインレベルと動物モデルで検証した論文

  • チクングニア患者の血清では破骨細胞活性のマーカーとなるRANKL/OPG比が増加している
  • チクングニア感染マウスではMCPの発現が高度に上昇し、骨量減少と相関した
  • さらにこの骨破壊はMCP阻害剤であるbindaritにより有意に減少した


Diseases. 2018;6(4) Epub 2018 Oct 20.
慢性関節炎に至ったチクングニアと早期に回復した患者を比較した症例対照研究

  • 慢性化例(n=121)と20か月以内に回復した症例(n=121)で年齢、性別を一致させて比較した
  • 急性感染時のサイトカイン応答の強度が慢性関節痛の発生率の低下と相関した
  • 急性感染時のTNFα、IL-13、IL-2、IL-4の低値は慢性関節痛の予測因子であった
  • 強力なサイトカイン応答がウイルス除去に必要であり、また免疫寛容に関連するサイトカインは、慢性関節炎への進展に抑制的に働く可能性が示唆された